第6章 中外共同運営国家ハイテクパークの現状
トップ  > 産学連携>  中国におけるサイエンスパーク・ハイテクパークの現状と動向調査 >  第6章 中外共同運営国家ハイテクパークの現状 >  第2節 中国・シンガポール蘇州工業パーク

第2節 中国・シンガポール蘇州工業パーク

第1項 概要

 1994年2月26日、中国、シンガポール両国政府は、蘇州工業パークを共同で開発する協定書に調印し、同年5月12日、中国・シンガポール蘇州工業パーク(略称「蘇州工業パーク」)を設立した。これは中国とシンガポールによるそれまでで最大の政府間協力プロジェクトである。生態保護やイノベーションを重視し、近代化と情報化の実現を通じて、中国で最も発展のスピードが速く、国際的な競争力を持つハイテク工業パークになることを目標としている。

 蘇州工業パークの運営は「中新聯合協調理事会機構」(中国・シンガポール連合調整理事会機構)の下で展開されている。同機構の構成は、中国・シンガポール両国の副総理をはじめとし、中国側は商務部、外交部、国家発展改革委員会、科学技術部、財政部などから、シンガポール側は外交部、貿易工業部、国家発展部、環境部、水源部、経済発展局などから選出されている。その他にも、同パークの所在地である江蘇省政府、蘇州市政府から要人が出されている。この機構の下で設立された同パーク管理委員会は、国際的な運営方式に沿って「投資家に親しく、投資家を豊かにさせる」と言う理念を持って企業サービスを堅持することをモットーとし、公開性、透明性、効率性の高い業務を行っている。

 蘇州工業パークはその特別な位置づけに基づき、①大型のプロジェクトに関する独自の認可権限を持ち、②国家経済技術開発区及び国家ハイテク産業開発区双方の優遇政策を享受することが可能であり、③全国初の総合保税区の実証地域、④中国サービス・アウトソーシング・モデル基地であり、⑤対外貿易などの関連権限などを有するのに加え、⑥独立した税関及び輸出入通関機能を備え、物流通関の効率がよく、国際水準を達成している。

 蘇州工業パークの開発主体である「中新蘇州工業園区開発股份有限公司」(中国シンガポール蘇州工業パーク開発株式会社、略称「CSSD」)の登録資本金は1.25億ドルで、株主数は全部で5社である。中国財団が52%、シンガポール財団が28%、港華ガスが10%、新工集団と蘇州国家ハイテク産業開発区の2社がそれぞれ5%の株を持っている。

 蘇州工業パークは、上海から80kmに位置し、面積が約260平方kmの工業パークである。1994年に開園して以来、14年間で3200社余り(内、日系330社)の外資系企業と1万社以上の中国国内企業が進出した。2005年には、富士フィルム株式会社が4400万ドルを投じて、富士フィルム印版(蘇州)有限公司を設立した。この他にも、海外からの大手企業の進出も数多い。蘇州市の東郊外にて長い歴史を持つ旧市街地と調和する近代的な新しい街としてゼロから建設された同パークは、内外から高く評価されている。


[1] 本節の執筆に当たっては、蘇州工業園区管理委員会『蘇州工業園区投資指南』(2008年版)、蘇州工業園区管理委員会『蘇州工業園区服務業投資手冊』(2008年版)、蘇州工業園区管理委員会『蘇州工業園区服務外包発展手冊』(2008年版)、蘇州工業園区管理委員会『中新生態科技城』(2008年版)、人民網「蘇州工業パークが急成長」2001年6月4日、新華社「蘇州が最大のデジカメ生産拠点に 富士フィルム」2005年12月11日及び劉鋒、徐積明「蘇州工業園創建科技創新先導型示範区」(科技日報、2006年8月23日) 等関連記事、及び同パーク公式HP http://www.sipac.gov.cn/, http://www.sipac.gov.cn/japanese/ を参照した。

第2項 工業パークの主要施設/サブパーク等

 蘇州工業パークは、①「国際科技園」(国際サイエンスパーク)、②「生物納米園」(バイオ&テクノロジーパーク)、③「綜合保税区」(総合保税区)、④「中新生態科技城」(SIP Ecological Science Hub)、⑤蘇州独墅湖高等教育区、などのサブパークや施設から構成されている。

 これらの概要は以下の通りである。

①国際サイエンスパーク

 蘇州工業パークにおける科学技術イノベーション、知識イノベーションの重要な施設であると同時に、科学技術のプラットフォームの実現、国家級の技術型インキュベータ、国家級のソフトウェアパーク、国家級のアニメーション産業基地、そして欧米向けのソフトウェア輸出プロジェクトの実証基地ともなっている。更に、中国帰国留学人員蘇州起業センターなどにもなっている。

②バイオ&テクノロジーパーク

 New York Cold Spring Harborアジア会議センターを代表とする「遺伝子研究クラスター」と、中国科学院ナノテクノロジー技術とナノバイオ研究所を代表とする「ナノテクノロジークラスター」の育成に全力を上げている。中国初のICT融合情報サービス・プラットフォーム、公共実験プラットフォーム、GLP認証を満たす動物実験プラットフォーム、 GMP認証を満たす医薬品試験製造プラットフォーム、新薬臨床実験と登録審査プラットフォームなどを有している。

③総合保税区

 2006年12月、国務院より承認を得て設立されたものである。対外貿易や保税物流、保税加工、港湾作業、などの機能を一体化したものである。同保税区は、中国における有数の総合保税区の一つとなり、自由貿易地域に相当する特別な地域となっている。

④中国・シンガポールSIP ECOLOGICAL SCIENCE HUB

 南側に上海・南京高速道路が走り、同高速道路の陽澄湖インターチェンジまで約1.5kmの位置にある。北側は陽澄湖観光レジャー区と隣接し、交通アクセスが便利な優れた立地を特徴としている。同SIP ECOLOGICAL SCIENCE HUBはサービス・アウトソーシング、研究開発センター、測定認証センター、地域センター本部、及びハイテク製造基地を設け、研究開発、製造、居住、商業などの機能を一体化させたハイテク新興地域である。

⑤蘇州独墅湖高等教育区(Suzhou Dushu Lake Higher Education Town)

 国内外の有名大学や研究機関を誘致し、蘇州地区におけるハイレベルの人材育成や人材集積の重要基地として設立されている。ハイレベルのイノべーション人材の育成モデルの開発や、産学官連携の新体制の確立などの他、ソフトウェア、ICマイクロエレクトロニクス、バイオテクノロジー、MBAなどをメインの専門領域とし、産業界に必要な複合型の人材を育成するとしている。

 2008年6月現在、蘇州独墅湖高等教育区は、中国科学技術大学蘇州大学院、南京大学蘇州大学院、蘇州大学西安交通大学蘇州大学院、人民大学国際学院、東南大学蘇州大学院、蘇州HKUスペースグローバル学院などといった8校の大学・大学院を誘致、新設した。蘇州独墅湖高等教育区に在籍している学生数は1.9万人を超え、この内、博士課程には約300人、修士課程には約5000人、学部生は約1万人である。

第3項 科学技術関連の実績

 蘇州工業パークの近年における科学技術関連の実績として、①科学技術イノベーションクラスターの推進、②国際協力とその発展の促進が挙げられる。

 まず、①科学技術イノベーションクラスターの推進についてであるが、2008年6月末までに、パークには国内外の技術者が起業した技術型ベンチャー企業が700社余り、多国籍企業と国家研究開発機関が100社・機関余り、省レベル以上のハイテク企業が350社集積しており、集積回路、ソフトウェア、ゲーム、アニメーション、バイオ製薬、新素材といった分野に取り組んでいる。

 2008年6月時点で、同パーク内の企業のソフトウェア売上高は中国全体の18%を占めた。また、パーク内にある300社の内、「中国ソフトウェア輸出企業ベスト20社」に選ばれた企業は2社、「江蘇省ソフトウェア・アウトソーシング企業ベスト10」に選ばれた企業は5社である。また、ゲーム、アニメーション企業は40社余りあり、その内、ゲーム企業は20社弱で、アニメーション企業は30社弱である。半数以上の企業が原作の作品を制作・販売し、毎年生産した原作アニメーションの作品は、時間にして5000分を超える。

 パーク内には製薬企業50社余りが集積し、その年間生産高は80億元に達する。また、パーク内の新素材の生産高は45億元に達する(2008年6月時点)。新素材産業は主に電子情報材料、ナノ系材料、新エネルギー材料、新型複合材料、生態環境材料、生物医薬品材料などの分野を含んでおり、ナノ系材料領域では、中国科学院と江蘇省・蘇州市人民政府が共同で設立した中国科学院蘇州ナノテク及びナノ生体工学研究所が、ナノ電子・機器、ナノ生物、ナノ医学、ナノ生体工学技術を中心とする研究を展開している。

 次に、「②国際協力とその発展の促進」については、蘇州工業パークは、一貫して国際的な科学技術協力の促進を重視し、広範な国際協力ネットワークの拡大と、多元的で多チャンネルの協力モデルを通じて、アメリカ、シンガポール、イスラエル、フィンランド、日本などと、国際影響力を有する10カ所の国際協力交流プラットフォームを設立した。国際イノベーションパーク、連合実験室、国際プロジェクトを結びつけ、ハイレベルの国際フォーラムなどの開催を通じて、より多くのイノベーション資源をパークに集積させている。

 例えば、国家ナノテク国際イノベーションパークは、中国科学院所轄の蘇州ナノテク及びナノ生体工学研究所、蘇州工業パーク・バイオ・ナノテク科学技術パーク、及び中国科学院ナノテク産業化基地をベースにして設立されたものである。同パークは蘇州独墅湖高等教育区を技術の研究開発と人材の育成推進の基盤とし、同パークに進出した各ナノテク研究機関と企業が連携し、世界中のナノテク資源の融合を進めている。国内外のナノテク企業とナノテク領域の専門人材を誘致し、国際水準の研究機関、イノベーション研究開発企業、ナノテク産業サービス機関、ナノテクの応用を通じた産業化を実現する企業などを育成している。

 また、イスラエル技術移転プラットフォームは、イスラエル半導体産業協会、設計・製造及びパッケージング・テスティング企業、イスラエル系ファンドなどとの協力を通じて、多くの技術協力パートナーシップを募り、同パークへの移転が可能でポテンシャルを有する優秀技術を見出し、同パーク半導体工業の技術進歩と産業発展を促進している。蘇州工業パークはデジタルチャイナ・ホールディングスと戦略協力の覚書に調印し、蘇州工業パーク、デジタルチャイナ、華億ファンド、イスラエルのハイテク企業のそれぞれの優位性を生かしながら、同工業パークの中で「デジタルチャイナ中国イスラエル・ハイテク産業パーク」を共同建設し、広範な用途開発が可能な中国市場へ参入する、としている。

 1995年5月12日、江沢民国家主席は蘇州を視察し、蘇州工業パークに対し「パークの建設を加速し、国内外の経済・技術の発展や、互いに利益ある協力のために、新しい経験を取り込もう」と言う激励の言葉を贈った。それ以来、蘇州工業パークは高成長を続けている。

 蘇州工業パークの近年における目標としては、近代化された国際競争力のあるハイテク工業パーク、公園のような美しい都市、国際的な新しい都市を造ることである。「蘇州市都市全体計画要綱(2006~2020)」によって、「ハイテクの基地、住み心地のいい都市」と位置付けられる蘇州工業パークは、同市の都市建設における最も重要な発展方向にあり、IT産業、精密機械、バイオ医薬品、新素材などのハイテク産業に注力するだけでなく、住宅、商店、スーパー、学校、スポーツ施設、公園の整備も進めている現代の新都市である。