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書籍紹介:『問答有用 中国改革派19人に聞く』

書籍名:『問答有用 中国改革派19人に聞く

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  • 著者: 吉岡 桂子
  • 出版社: 岩波書店
  • ISBN: 978-4-00-025318-5 C0039
  • 定価:  2,205円(本体 2,100円 + 税)
  • 種類・頁数: 単行本(ソフトカバー)、256ページ
  • 商品の寸法: 18.8 x 13 x 2 cm
  • 発行日: 2013年11月26日

書評:吉岡桂子著「問答有用 中国改革派19人に聞く」(岩波書店)

馬場 錬成(中国総合研究交流センター 特任フェロー)

 中国の知識人、文化人、官僚、財界人、ジャーナリスら重層多岐にわたる19人にインタビューし、練達の筆致で活写した現代中国の実相を垣間見せた優れた本である。

 中国にはこのような人々がいることを知らせてくれたことで、13億の民を擁する大国への視点が広がったことは間違いない。中国の改革派と副題にあるが、19人の半分以上が共産党員であり体制の中で活動する人物である。

 たとえば原発大躍進に断固として反対する中国科学院の研究員は、原発の持っている危険性と福島原発の現状を指摘しながら「日本はもう新しい原発は作れないだろう」と言う。そして原子力は、今も昔も政治的であることを認めながら、この研究員は「中国政府に対して反対しているのではない。そこに意見を出している人々に反対している」のだという。このような科学者の真っ当な意見に対し「政府からの圧力はない」と語る。

 中国の急速な経済発展とそれがもたらすひずみについて、官僚も財界人も文化人もむろん認識してそれぞれの立場から課題を掲げ、解決策の提示も行っている。一党独裁の共産党政権運営は「課題先送りで政治の安定をはかってきた」との見解も主張するし、中国の金融システムのリスクファクターとしてあげられる「影の銀行」を支持する理由も述べられている。

 エール大学で教授をしている中国人は、中国の外交姿勢に対し「米国に対する不満や嫉妬が入り混じった複雑な感情を米国に直接言えない分、同盟国の日本にぶっつける面がある」との見解を語っているが、なるほどそういう見方もあることを知った。

 尖閣列島をめぐる日中の緊迫や反日デモについても、多くの人物に率直な質問を投げているが、インタビューに応じた中国人は総じて冷静であり跳ね上がった見方や考えは見られない。このような意見を披瀝されると、むしろ日本メディアの報道姿勢に危うさを感じさせられる。

 いま、中国に関する書籍や報道はおびただしく出ているが、どれもこれも一面的な現象報道が多く、巨大な中国社会を掘り下げては語っていない。時にはヒステリックに願望的に明日にも中国社会が崩壊するような中国のマイナーな面を強調する報道もある。

 そのような偏った中国観を正すインタビューにもなっており、中国人の奥深さを見せた本でもある。19人のインタビューの後に著者のコメントが語られているが、そこではこれらの人々の出自や活動の背景を解説しながら人物評に言及しており、この本の内容をいっそう厚くしている。