中国関連書籍書評
トップ  > 中国関連その他>  中国関連書籍書評 >  書籍紹介:『フィナンシャル・レビュー』平成26年(2014年)第3号(通巻第119号)

書籍紹介:『フィナンシャル・レビュー』平成26年(2014年)第3号(通巻第119号)

書籍イメージ

書籍名:『フィナンシャル・レビュー』平成26年(2014年)第3号(通巻第119号)

  • 出版社: 財務省財務総合政策研究所
  • ISBN: 978-4-905427-91-9
  • 定価: 2,350円+税
  • 種類・頁数: 四六、240ページ
  • 商品の寸法: 25.6 x 18.2 x 1.0 cm
  • 発行日: 2014/8/10 Printed in Japan

書評:『フィナンシャル・レビュー』特集「中国-新指導部における経済政策を中心に-」田中修財務総合政策研究所次長責任編集

和佐 健介(財務省大臣官房総合政策課国際経済室長)

 中国を語るとき、よく引き合いに出される諺に「群盲象を撫ず」というものがある。中国は極めて多様性に富んでおり、見る角度によってその姿は全く異なって見える。書店に「中国台頭論」と「中国崩壊論」が同時に並ぶのはそのためでもあろう。特に、5年に1回指導部が一斉に入れ替わった直後は、中国の政策は外部から非常に見えにくくなる。今必要なのは、客観的資料・データに基づく、冷静な分析である。

 本特集号は、そのような実体の見えにくい、習近平新指導部の政策を第一線の研究者が多角的に考察したものである。

 まず、最初の2論文(田中修・小嶋華津子)は総論とも言える部分であり、田中氏が習近平指導部の経済改革・経済政策を、小嶋氏が内政・外政の全体像をそれぞれ考察している。ここでは、党3中全会をはじめとする党中央・国務院の重要会議の論点が豊富に紹介されており、読者は、これで新指導部の政策の大枠を掴むことができるだろう。

 次の2論文(内藤二郎・関根栄一)は、中国のリスク問題について詳細に考察している。昨年来、中国経済危機説の大きな論拠となっているのは、地方政府の債務増大という財政リスクと理財商品・信託商品をはじめとするシャドーバンキングの急拡大という金融リスクである。これをどう見るかによって、中国経済の将来の印象は大きく変わってくることになる。内藤氏は中国財政、関根氏は中国金融の専門家であり、データを駆使して冷静な分析を展開している。

 残る4論文(大橋英夫・関志雄・柯隆・瀬口清之)は、中国経済の個別の論点にスポットをあてている。大橋氏は対外経済、関氏は「中所得の罠」「体制移行の罠」の問題、柯氏は社会保障制度と格差問題、瀬口氏は経済構造の変化と日中経済関係を考察している。

 以上で、中国が現在抱えている主要な論点はほぼ網羅されていると言えるのではないか。

 特別寄稿を執筆した国分良成氏をはじめ、各執筆者はいずれも一人で中国の解説書を執筆できる方々ばかりであり、このような専門家が財務省財務総合政策研究所主催の中国研究会に一同に会し、習近平指導部の政策について議論を行った結果を1冊の成果物にまとめたことは、中国研究にとって大変意義深いものと考えられる。

 本誌を、現代中国研究の必読文献として、大学・研究機関等に広くお勧めしたい。