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書籍紹介:『中国農村における持続可能な地域づくり―中国西部学術ネットワークからの報告』(今井出版、2017年03月)

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書籍名:中国農村における持続可能な地域づくり―中国西部学術ネットワークからの報告

  • 著 者: 島根大学・寧夏大学国際共同研究所
  • 出版社: 今井出版
  • ISBN : 978-4-8661-1071-4
  • 定 価: 2,500円+税
  • 頁 数: 300
  • 判 型: A5
  • 発行日: 2017年3月

書評:『中国農村における持続可能な地域づくり―中国西部学術ネットワークからの報告』

関 良基(拓殖大学政経学部 准教授)

 島根大学と中国の寧夏大学は1987年より長期にわたって交流を行い、2004年には両大学で国際共同研究所を設立して現在に至る。30年という長期にわたり共同研究を持続させてきた島根・寧夏両大学の関係各位に敬意を表したい。

 島根大学・寧夏大学国際共同研究所では、2008年に『中国農村の貧困克服と環境再生』という大著を上梓しており、本書はその続編になる。社会科学的研究が主だった前作に比べ、今作は植生の回復や水質の変化、農業による水質汚染、農業プラスチック廃棄物の処理問題と、自然科学分野の研究課題が拡充されてきている。

 本書の論点は、社会科学から自然科学の広範囲にわたるが、農民・農業と農村の持続可能な発展を追い求めているという点で、著者たちのまなざしは一貫している。農村・農業・農民のいわゆる「三農問題」が「現代中国のアキレス腱」とまで言われたこともある中で、寧夏を事例とした本書は貴重な実証データと提言にあふれており、今後の中国を展望する上で参考にする価値は高い。

 研究対象である寧夏回族自治区を含めた中国西部地域では、今世紀に入ってから退耕還林や封山禁牧といった、農業と放牧を制限して森林や草地の回復を試みる環境政策が大規模に試みられ、住民の生活と環境は大きく変貌してきた。2017年の現在は、それらの大規模プロジェクトの効果を検証するのに適切なタイミングであろう。

 植生に関してはこの間に著しい改善があったことが実証され(11章)、荒漠化地域も減少するなど(15章)、環境の悪化傾向には一定の歯止めがかかり、改善傾向へと反転した様子が明らかにされている。

 他方、退耕還林や禁牧政策は、農民や牧民の生活に深刻な影響も与えた。退耕還林で農業収入は減少したが、国の補助金が効果的に損失を補ってきたことが実証され(9章)、封山禁牧政策では、メンヨウの放牧が禁止され舎飼いによる飼育に転換されているが、肉質が落ちるといった問題点なども指摘されている(13章)。また、経済発展による現金収入の増加や農村の都市化にともなって、農村住民の信頼関係などの社会関係資本が弱まっているという報告も興味深い(1章)。

  他にも紹介しきれないが、出稼ぎからの帰郷者による起業活動の展開(4章)、ダム建設に伴う住民移転問題(5章)、都市と農村のエネルギー需給構造の変化(8章)、寧夏の大学生の日本への留学意欲の調査(10章)など、興味深い論点が盛りだくさんである。

 島根大学と寧夏大学の交流から始まり、島根と寧夏は自治体間や市民レベルでの交流も活発に行われるようになっている。なによりも、この共同研究は、国境を超えた社会関係資本の強化につながっていることが最大の成果であろう。