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書籍紹介:『躍進する中国の原子力産業と世界覇権戦略―アメリカ凋落の中で市場支配に照準―』(テピア総合研究所、2018年1月)

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書籍名:躍進する中国の原子力産業と世界覇権戦略―アメリカ凋落の中で市場支配に照準―

  • 編 集: テピア総合研究所
  • 発 行: 日本テピア株式会社
  • 定 価: 248,400円(税込)
  • 頁 数: 844
  • 判 型: A4判
  • 発行日: 2018年1月

書評:『躍進する中国の原子力産業と世界覇権戦略―アメリカ凋落の中で市場支配に照準―』

小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 認定された運転期間切れ前に閉鎖したり、建設・運転認可申請を撤回する原発が相次いでいる米国の現状を明らかにした上で、原子力推進で突き進む中国の現状が詳述されている。数少ない例外ともいえるボーグル原子力発電所の建設続行の背景には、破綻したウェスチングハウス(WH)社の親会社である東芝が債務保証に応じたからといった米国の最近の状況も紹介されている。

 中国の積極的な動きに米国では、危機意識が高まっているとの指摘も興味深い。2017年9月には、ペリー・エネルギー長官が原子力発電をはじめとするベースロード電源の早期閉鎖が電力システムの強靱性に脅威を及ぼしているとの認識を表明した。同長官の指示でエネルギー省事務局がまとめた報告書(2017年8月)は、石炭火力や原子力発電といったベースロード電源の閉鎖が、低コストの天然ガスと再生エネルギーの躍進によって加速されていると指摘している。そもそもトランプ政権初めてとなる2018会計年度予算教書では原子力予算が大幅に削減され、削減幅は前年の3割近い。減額されたプログラムは、「軽水炉の持続可能性」や「先進的な原子炉技術」から、「先進的な燃料」、「使用済み燃料の処分研究開発」、「総合廃棄物管理システム」など燃料サイクルの研究開発に及ぶ。

 米エネルギー省傘下のエネルギー情報局は、2032年までに原子力発電量で中国が米国を追い抜き、世界最大の原子力発電国になるとの予測を2017年11月に公表した。同じ時期に国際エネルギー機関(IEA)が公表した「ワールド・エネルギー・アウトルック2017」も中国が米国を追い抜く時期を「2030年まで」と予測している。

 当然、米原子力業界の不満は大きい。業界団体の米原子力エネルギー協会は、この予算では米国の原子力産業界が繁栄するために必要な活動を行えないとした上で、「戦略上の競争相手であるロシアや中国の後塵を拝することは間違いない」と危機感をあらわにした。同協会の理事長は、モジュール型の小型炉など革新的な原子力技術の開発に政府の支援がなければ、ロシアや中国などの国有企業と対抗できない、としている。

 こうした米国の減速ぶりと対照的な中国の姿に加え、米国との協力関係など多くの日本人には意外と感じられそうな記述も少なくない。現在の軽水炉より安全性などに優れるとされる第3世代原子力発電所を米ウェスチングハウス(WH)社の協力で開発する動きは、2003年の国務院常務会議の決定にまでさかのぼる。2006年の中米両国政府による了解覚書調印、2007年7月のWH社と3中国原子力企業との原子炉部分設備調達・技術移転契約を経て、現在4基の第3世代原発「AP1000」の建設が進行中だ。

 さらに2017年9月には、中国核工業集団有限公司と米テラパワー社が共同開発合弁企業(JV)「環球創新核能技術有限公司」を設立した。テラパワー社はマイクロソフト社の創業者、ビル・ゲイツ氏が出資したベンチャーで、進行波炉(TWR)という新型原子炉を開発している。TWRは、第3世代炉の先の第4世代炉に分類される小型の炉だ。少量の低濃縮ウランで起動した後は、現在使い道のない劣化ウランを用いて40~50年間燃料交換なしで運転が可能とされている。新たに設立されたJVはTWRの設計を完成させ、商業化を目指す。ここに至るまでに、ゲイツ氏は何度も中国を訪れ、李克強首相をはじめ、中国の要人たちと会談を重ねてきた。

 こうした状況について紹介した上で報告書は、「米中の共存が鮮明になってきた」との見方を示している。WH社は、2017年3月に、ニューヨーク州連邦破産裁判所に対して、米連邦破産法に基づく再生手続きを申し立てた。しかし、中国企業とWH社の間では、初号機の運転開始に向けて双方が全力を傾注することを確認済みとしている。

 読者は、日本や米国で全く開発が進んでいない、あるいは細々としか進んでいない小型軽水炉(SMR)、トリウム溶融塩炉、高速増殖炉、高温ガス炉などの開発状況にも多くのページが割かれているのにも、目を引かれるのではないだろうか。現在主流の軽水炉にはないさまざまな長所を持つとされる高温ガス炉は、むしろ日本が早くから取り組んできた多目的炉だ。しかし、日本が試験研究炉の段階で足踏みを余儀なくされているのと対照的に、着々と研究開発を進め2018年にも実証炉の送電開始が見込まれている中国の状況が紹介されている。

 日本では原型炉「もんじゅ」が、ほとんど運連実績がないまま廃炉が決まっている高速増殖炉も、似たような状況となっている。報告書によると、2017年12月29日、福建省霞浦県で国産の高速炉実証炉「CFR600」(電気出力60万キロワット)の土木・建築工事が始まった。2023年に完成予定で、同年には4基の「CFR600」と電気出力100万キロワットの「CFR1000」1基の建設が新たに始まる予定という。

 軽水炉建設だけでなく、次世代炉の開発にもこれほど力が注げるには、当然、相応の人材が不可欠だ。報告書は、その点について裏付けとなるデータを紹介している。選ばれた工学者(院士)からなる中国工程院は、2020年の原子力発電設備容量を6,000万キロワットと見込み、どれだけの原子力専門人材が必要かを試算した。ウラン資源の探査・採掘、核燃料製造(ウラン転換、濃縮を含む)、原発の設計、エンジニアリング管理、原発の調整試運転・管理、使用済み燃料の再処理、原子力施設の廃止措置・放射性廃棄物の処理処分、基礎科学研究・基幹技術の研究、教育・訓練、放射線防護・原子力安全・原子力緊急事態・原子力規制それぞれの分野ごとに必要人員を試算、合計で1万4,200人が必要という数を示した。

 一方、現在、原子力専門人材の養成を行っている高等教育機関は44ある。学部に原子力専攻を設置している大学が37校で、大学院で原子力専攻を有する大学が23校だ。現在の人材供給能力から判断すると、原子力産業チェーンの需要は十分賄える、という中国工程院の見通しを報告書は伝えている。

 中国政府にとって、一帯一路戦略を進める中で、原子力輸出は柱の一つになっていることも報告書は指摘している。李克強首相は、2015年1月に招集した国務院常務会議で原子力発電や鉄道など中国製設備の海外進出を加速するため、政府として強力にバックアップすることを決めた。李首相は、2017年5月にも第3世代炉「華龍一号」を世界一流の原子力ブランドに築き上げ、国際市場に積極的に参入するよう指示した。「華龍一号」は、フランスの原子力技術をベースに開発された炉。米WH社の協力で建設が進む同じ第3世代炉「AP1000」との競争が激しくなるという見通しが示されている。

 一方、報告書は、中国で原子力発電がベースロード電源として十分に利用されていないという意外な現実も紹介している。電力供給過剰により、送電網や系統連携の問題が生じ、風力、太陽光、水力発電所だけでなく、原子力発電所までも稼働が制限される事態が生じてきたという。2016年には出力調整運転のため、発電できなかった原子力発電所の電力量は462億キロワット時に上った。これは7基の原子力発電所の発電量に相当する量だ。こうした数字からも、中国の特異な状況、日本の現状との大きな違いに驚く読者が多いのではないだろうか。

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