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書籍紹介:『中国「強国復権」の条件:「一帯一路」の大望とリスク』(慶應義塾大学出版会、2018年4月)

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書籍名:中国「強国復権」の条件:「一帯一路」の大望とリスク

  • 著 者: 柯隆
  • 発 行: 慶應義塾大学出版会
  • ISBN: 978-4766425093
  • 定 価: 2,000円+税
  • 頁 数: 408
  • 判 型: 四六
  • 発行日: 2018年4月

書評:『中国「強国復権」の条件:「一帯一路」の大望とリスク』

箕輪 大(中国総合研究・さくらサイエンスセンター フェロー)

 最近、いわゆる爆買いに関するニュースをあまり聞かなくなってきた。一時期は、中国人旅行者は一人当たり平均5つくらいの電気炊飯器を買って帰っていたそうだ。モノ消費からコト消費へという一面もあるが、中国からの越境電子商取引(越境EC)で海外製品も購入できるそうだ。政府の後押しもあるという。手土産品は空港で見過ごされることもあるが、電子商取引なら関税を全て課すことができる。電子商取引の利便性、経済牽引力、雇用創出力は中国経済への寄与度も大きい。中国政府は、一帯一路という巨大なユーラシア経済圏での展開も見据えて、強力に推進しているという。

 本書は、中国という複雑な国家を理解するための、明快な手引書である。重要なテーマごとに章立てにして、日本人には気がつきにくい視点から解説してくれる。著者いわく、個人的な感情論を全て取り除いて冷静に中国を観察し描写すること、客観的に被写体を捉えるということに気を付けて筆を進めたそうだ。だからといって単調で無味乾燥な説明文では決してなく、著者ならではのユーモアかつスパイシーな語り口に乗りながら読み進めることができる。

 また、中国の近現代史の基本的な流れを理解するための教科書としても適した内容である。辛亥革命から文化大革命、改革・開放を経て一帯一路まで、それぞれの時代の重要なテーマを取り上げている。例えば、中国人の世界観、経済発展の意味、市場経済の実態、国有企業の盛衰など、それぞれの背景や問題点を丁寧に解説している。俳優の高倉健さんが中国に与えた文化的影響など、随所に挿入された日中の文化交流に関する記載も興味深い。

 随所に見られる著者ならではの大胆な想定も面白い。例えば、北朝鮮問題と台湾をめぐって将来に米中のディール(取引)が取り交わされるかもしれないということ。一人っ子政策や経済発展による人間の「値段」の上昇が大きな戦争の防止に繋がっていること。諸外国から問題視されることが多い中国の経済統計についても、旧ソ連のシステムを学んで作られた仕組みが近年まで使われており、世界銀行やIMFへの加盟を機会として抜本的な改革を進めているが、調査では把握しづらい灰色収入や未観測経済があり把握は難しいということ。読者がより良く理解できるよう多面的な解説が試みられている。

 しかし、本書の神髄は後半にある。筆者は、中国で中々進まない制度改革に言及し、中国が強国として「名実ともに評価される国家」になるための条件について、様々な角度から定義と提言をしている。強国となるために必要な要素として、軍事力や経済力だけではなく、文化力、文明力の重要性を挙げている。世界の人々がアメリカンドリームに憧れるのは、単に米国が軍事的に強いからでは決してない。「文明力は文化の魅力をもって世界から友を引き付けるための力」という表現は名言だと思う。歴史を顧みれば、日本からの遣唐使や遣隋使は、まさに当時の中国の優れた文化や制度を学ぶために長安を訪れている。

 中国人は自らを「漢民族」と呼び、その言語を「漢字」と名付けている。漢王朝は400年間の存続中に、土地改革や租税制度の整備など、今の国家の基本的な形を作った。中国が「世界史的に見て偉大な強国」の座を取り戻すために必要なことは、大胆な制度改革や、文化力の向上であるという。著者は日本の明治維新を高く評価している。日本は当時、和魂洋才の考えのもとで海外の先進的な制度や仕組みを大胆かつ積極的に取り入れ、現在の日本の発展に繋げた。中国の現行制度や仕組みを変えていくことは非常に難しいかもしれないが、強国として復権するために重要であると強調している。

 私たちの身の回りには、中国に関する新しい情報が溢れている。書店に入れば、最近の緊迫化する米中関係も相まって、脅威論、陰謀論や崩壊論に至るまで、大胆なタイトルの書籍が目に付く。一体、中国はどのような状況なのだろうかと迷ってしまう。そのような時にこそ、本書で得られる客観的な知識は、そういった表層的な言説に惑わされることなく、中国の持つ未来の明るい側面と、まだ未成熟で多くの改革を要する側面とを、しっかり見極めるために、大変役に立つものである。少し読み応えのある分量だが、読み物として十分に楽しめる内容である。ぜひ手に取ってみてもらいたい。

 ここからは当センターの宣伝である。もしも本書を手に取ってみて、著者の分析の視点に興味を持たれたら、ぜひ当ウェブサイト「サイエンスポータルチャイナ」で連載中のコラム「柯隆が読み解く」もご覧いただきたい。「改革・開放の大きな成果は、中華料理の味の改善」「中国人との上手な飲み方」「中国はなぜサッカーが弱いか」など、本書とは少し違った一面を持つ著者の作品を楽しんでいただけると思う。

以上

関連リンク:コラム「柯隆が読み解く」index


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