第100回CRCC研究会「中国経済の変化:起業を通じたイノベーション」/講師:木村 公一朗(2016年12月12日開催)

「中国経済の変化:起業を通じたイノベーション」

開催日時:2016年12月12日(月)15:00~17:00

言  語:日本語

会  場:科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師:木村 公一朗 ジェトロ・アジア経済研究所 副主任研究員

講演資料:「 中国経済の変化:起業を通じたイノベーション」( PDFファイル 4.0MB )

講演詳報:「 第100回CRCC研究会講演詳報」( PDFファイル 4.15MB )

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生まれながらのグローバル企業も 木村公一朗氏が中国の現況解説

中国総合研究交流センター 小岩井忠道

 グローバル化を目指す中国企業の最新動向に詳しい木村公一朗 ジェトロ・アジア経済研究所副主任研究員が12月12日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、深圳市で次々に誕生している新しい企業を例に、中国のイノベーションの動向と中国と世界の新しい関係について解説した。

 木村氏は、改革開放政策によって中国が科学技術面においても大きな変化が起こり、その象徴的、代表的な現れが深圳だったことを詳細に説明した。香港に隣接する深圳は1970年代末の改革開放政策により、1980年に経済特区に指定される。それまでは普通の農村だった。氏は、改革開放前に多くの中国国民が香港を訪れ、その繁栄をみることがないよう意図的に香港と隣接する地域である深圳の発展を抑制していた、との見方を紹介した。経済特区に指定されてからの発展は目覚ましく、現在は、北京、上海、広州と並ぶ四大都市のひとつとなっている。

 この3,4年間に深圳で起きている大きな動きとして氏が強調したのが、起業によるイノベーションだ。約1,100万人の人口のうち、深圳の戸籍を持つ人は30~40%で、全人口の半数以上は、他の地域からビジネスチャンスを求めてやってきた人たち。ベンチャー企業が起業し、発展することを可能にする効率的な条件がそろう都市となっている、ということだ。

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 中国政府も、2006年に公表した「国家中長期科学和技術発展規画」(2006~2020年)で「自主創新」(自主的イノベーション)の重要性を打ち出した。2015年には、全ての国民に起業家を目指すことを求めるスローガン「大衆創業、万衆創新」(双創)を、習近平国家主席や李克強首相が盛んに唱え出す。世界に目を転じると、インターネットの活用や多様な機能を持つ携帯端末の普及によって新市場の拡大という変化が現れた。こうした機会をいち早く捉え、目覚ましい成果を挙げている企業が深圳に次々に誕生していることを、木村氏は詳しく紹介した。

 その一つ大疆創新科技(DJI)は、2006年にできたばかりの企業だが、現在、商用ドローンで70%のシェアを持つ。香港科技大学を卒業した翌年に大疆創新科技(DJI)を創業した汪滔(フランク・ワン)氏は、大学在学中に友人とドローンの関連技術を開発した。フライトコントローラーの開発に加え、カメラそのものの小型化や、撮影時のぶれを防ぐジンバルをはじめとする撮影機能を向上させた。

 深圳矽遞科技(Seeed Technology)は、2008年に潘昊(エリック・パン)氏が、ハードウェア系起業メーカー向けの開発・製造・販売を支援する企業として創業した。サポートは製品の設計から製造、販売に至る領域に及んでいる。幅広い事業の中で、収益の柱となっているのは製品開発のためのキットの販売だ。

 創客工場科技(Makeblock)は、王建軍氏が2011年に創業した。ロボット作製プラットホームであるMakeblockの販売を主事業としている。同社が提供する各種部品やプログラミングシステムを利用することで、ロボットや3Dプリンターなどの組立・コントロールが可能となる。急速な拡大に伴って営業担当社員が増え、同社は現在、約250人の従業員を擁する企業に成長した。売り上げの約70%は欧米向けで、特に売れているのはSTEM(科学、技術、工学、数学)教育用のロボットキットmBot(74.99米ドル)。比較的安いことから、このキットにより子供たちがプログラミングや電子工学、ロボット工学の基本を学ぶことができる。

 HAXはベンチャーキャピタルSOSVの一部門で、Cyril Ebersweiler氏やBenjamin Joffe氏らが2011年に設立した。ハードウェア系の起業者に特化した投資を行っている。深圳のほかに米サンフランシスコにも拠点を持つ。投資のやりかたは、半年ごとに15チーム(1チーム3~5人の規模が多い)を選び、各チームに資金を提供するとともに、プロトタイピング(設計段階での実際に稼動する製品モデルの作成・検証)やサプライチェーン(製造した商品が、消費者に届くまでの一連の工程)管理、マーケティング(商品、サービスを生産者から消費者へ円滑に移転するための活動)など、事業を軌道に乗せるための各種アドバイスを111日間にわたって深圳とサンフランシスコで行う。見返りとしてHAXは、資金提供が10万米ドルなら9%の株式を取得する。最終的には起業時のIPO(新規株式公開)かM&A(合併・買収)で資金回収を目指す。資金を提供する相手の出身地と割合は、北米が約60%、欧州が約20%、アジアは約20%で中国が多い。創客工場科技(Makeblock)もHAXから資金提供を受けた。

 木村氏は、深圳でこうした新しい企業が次々に生まれ、急成長している様子を詳しく紹介した後、背景に次のような事情があることも指摘した。

 中国企業は改革開放政策によって一部の技術は身につけた。しかし、海外の技術を積極的に活用するやり方を続けた結果、自分たちはあまりリスクをとらない企業が多い。特に中小の企業の中には、研究開発を全くしないところもある。こうした製造業が抱える課題は90年代から指摘されていた。さらに2000年代半ばから賃金が高騰した結果、それまでのように廉価で豊富な労働力を活かした加工・組立が困難になった。

 一方、インターネットの影響がモノの領域にも及び(IoT)、さらにスマホが普及したことで新製品開発の余地が生まれた。また、プログラムなどが無償公開されたソフトウェアやハードウェア、3Dプリンターに加え、不特定多数の人がインターネット経由で財源の提供や協力などを行うクラウドファンディング、インターネットや専用ネットワークを介してITを提供するクラウド・コンピューティング・サービスの登場によって、事業を立ち上げるコストが低下した。こうした事業環境の世界的な変化によって、中国において新市場の誕生と生産システムの変化という新しいビジネスチャンスが到来した。

 こうしたチャンスを捉え、深圳では「中国生まれの生まれながらのグローバル企業」が続出するという新しい事態が起きている。国内で優良企業に成長してから海外進出という伝統的なパターンを飛び越えて、いきなり「走出去」(海外進出)する企業が生まれている。世界をつなぐ起業家と深圳をつなぐ組織や、深圳で活躍する外国人も増えた。

 木村氏は、講演の最後に今後の注目点を次のように述べた。

 製品開発のハードルが引き下げられた結果、開発をめぐる競争はますます激しさを増す。製品そのものの模倣は可能だが、ブランドや、事業全体が持つノウハウまではコピーできない。製品以外の領域で、いかに競争力の源泉を確保するか、あるいは製品そのものの競争力をどのようにして確保していくか、が深圳をはじめとする中国の企業家たちに問われている。

(文・写真 CRCC編集部)

木村 公一朗

木村 公一朗(きむら こういちろう)氏:
ジェトロ・アジア経済研究所 副主任研究員

略歴

1999年、早稲田大学政治経済学部卒業。2001年、早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。2001年からジェトロ・アジア経済研究所。2005~07年、中 国社会科学院工業経済研究所で客員研究員。2012年、早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。2014~15年、米国ブランダイス大学経済学部で客員研究員。2015~16年、香 港大学経済・経営学部で客員研究員。専門は国際経済学、中国経済論。主著に、The Growth of Chinese Electronics Firms: Globalization and Organizations(Palgrave Macmillan, 2014)、「中国経済の変化とグローバル経済への影響:ASEANのケース」『東亜』No. 589(2016年7月号)など。


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