第102回CRCC研究会「飛躍的発展段階に入った中国の宇宙開発」/講師:辻野照久(2017年3月17日開催)

「飛躍的発展段階に入った中国の宇宙開発」

開催日時:2017年3月17日(金)15:00~17:00

言  語:日本語

会  場:科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師:辻野 照久 科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)特任フェロー

講演資料:「 飛躍的に発展する中国の宇宙開発」( PDFファイル 676KB )

講演資料・詳報:後日掲載予定

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世界最高レベルの宇宙活動展開体制に

中国総合研究交流センター 小岩井忠道

 辻野照久科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター特任フェローが3月17日、JST中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、「 あらゆる分野で世界最高レベルの宇宙活動を展開していく体制が整ってきた」と中国の宇宙開発の現状を詳しく紹介した。

 辻野氏によると、中国の宇宙政策の初期は「両弾一星」という言葉に示されていたように「核爆弾」とミサイルを意味する「導弾」の二つの「弾」と、衛星の開発を中心に据えていた。その後、中国は「 小康社会の実現」を掲げ、国民がある程度幸せに暮らせる社会を実現するために宇宙開発を社会インフラの一部として役立てようとしている。目的がより明確になったのが、2015年7月1日に公布された国家安全法。宇 宙資産は国家のインフラとして維持する、と明記し、宇宙を有効に活用することが安全保障に寄与するという位置づけを明確に示した。

 同時に民生用宇宙インフラ中長期発展計画を公表し、2025年までに打ち上げる通信放送衛星、地球観測衛星、航行測位衛星計画が盛り込まれた。4回目の宇宙白書となる「2016年 中国的航天」では、「 宇宙強国を全面的に達成する」などのビジョンの下、宇宙輸送システム、宇宙インフラ、有人宇宙飛行、深宇宙探査など幅広い分野で、今後2020年ごろまでをにらんだ挑戦的な計画を打ち出した。

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 辻野氏が詳しく紹介した一つが、宇宙インフラとしての衛星ナビゲーションシステム。既に「北斗2型」衛星14機で、アジア太平洋地域の利用者に対し、位置決め、広域測位補正、シ ョートメッセージ通信サービスなどを提供している。最終的な狙いは全地球をカバーするシステムに拡大することで、まず2018年には「一帯一路」政策が対象とする国々に基本サービスを広げることを目指す。さ らに2020年ごろには世界中の利用者に高精度でより信頼性の高いサービスを提供可能なシステムに強化する、としている。「世界中で最も優れたナビゲーションシステムとして一大ビジネスにしようとしている」と 氏は解説した。

 有人宇宙飛行では、2020年ごろに宇宙ステーションを軌道上で組み立て・建設・運用することを目指している。この準備として、新しいタイプのロケット「長征7型」2号機により、貨物輸送船「天舟1号」を 2017年4月に打ち上げる予定だ。「天舟1号」は、現在軌道上で運用中の宇宙実験室「天宮2号」とランデブー・ドッキング実験を行う。目的は宇宙ステーションの建設・運 用に備えた貨物輸送や補給などに必要な技術の掌握。こうした技術の検証を積み重ねて宇宙ステーションの建設・運用につなげ、さらにその先の月有人探査を狙うという計画になっている。

 深宇宙探査では、2017年末までに月探査機「嫦娥5号」を月面に軟着陸させ、さらに月面試料を地球に持ち帰る計画が目を引く。さらに挑戦的なのが、2018年ごろに打ち上げ予定の「嫦娥4号」。月 の裏側に軟着陸した着陸機による月面の探査と、さらに月と地球間の通信中継に挑む。この通信中継は「嫦娥4号」が、「月-地球系第2ラグランジュ点」(注)という無重力の位置に移動することで可能になる。「 どこもやったことがないので、欧米諸国も大きな関心を寄せている」と、辻野氏の期待も大きい。

 (注:地球と月を結ぶ線上の月から見て地球の反対側に存在する特異な地点。この地点に位置する探査機は地球と月に対し、常に同じ相対位置のまま回り続けることができる。月 の裏側をカバーする通信衛星の位置として都合が良い)

 月探査に続いて、火星探査計画も意欲的だ。2020年に最初の火星探査機を打ち上げ、火星を周回しながらの火星表面の探査・観測を行う。さらに火星から表面試料を持ち帰る計画や、小惑星探査、木星探査、さ らには惑星を越えた探測計画の検討と、必要な技術の研究を進めるとしている。「柔軟な発想で、できることはやろうということだ」と辻野氏は評した。

 「欧州、ロシア、インドなど、日本と米国以外の多くの国々と国際協力を進めている」と、中国が人事交流や訓練などを含む国際協力に熱心なことも紹介された。

JST研究開発戦略センターは、世界の宇宙技術力を比較した報告書をこれまで公表している。間もなく、辻野氏が2015年までの検討結果を踏まえて2016年の世界の動向を分析した「 2016年版宇宙技術力比較」がまとまる予定。そこでは、2016年度末までの実績による新しい各国の技術力が点数で示されるが、「中国は宇宙輸送、衛星通信、地球観測、宇宙科学、有 人宇宙活動分野などでいずれも大幅な加点が見込まれる」と氏は明かした。

講演終了後の質疑応答では、量子科学実験についてなど技術面の質問や、宇宙予算・軍事利用などに関して講師の見解を求める質問が相次ぎ、終了後もマスコミ関係者が列をなして個別の質問を行っていた。ロ シアや米国の宇宙開発活動が停滞している中で、中国が着実に宇宙開発強国への道を驀(ばく)進していると感じられた。

(写真 CRCC編集部)

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辻野氏

辻野 照久(つじの てるひさ)氏:
科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)特任フェロー

略歴

 1950年大阪府出身。大学教養課程で中国語を履修。1973年東北大学工学部卒業、日本国有鉄道入社。1986年より宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構:JAXA)。2 011年よりJST/CRDS特任フェローとして世界の宇宙技術力比較調査や中国の天体望遠鏡LAMOSTの現地調査、タイ及びブルネイの科学技術情勢の調査などを担当。2016年3月にJAXA勤務期間満了。現 在はJAXAによる世界の宇宙開発動向調査の一部業務を受託して自宅で現職当時とそう変わらない情報収集・発信環境を維持している。


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