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第104回CRCC研究会「外国人留学生の受け入れと日本経済・日本企業に対する貢献に関する調査報告」(2017年5月31日開催)

「外国人留学生の受け入れと日本経済・日本企業に対する貢献に関する調査報告」

開催日時:2017年5月31日(水)15:00~17:00

言  語:日本語

会  場:科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師:柯 隆(か りゅう)氏: 富士通総研経済研究所 主席研究員

講演資料:「 外国人留学生の受け入れと日本経済・日 本企業に対する貢献に関する調査報告」( PDFファイル 596KB )

講演詳報:「 第104回CRCC研究会講演詳報」( PDFファイル 3.98MB )

高度人材育成のためアジアの教育ハブに

中国総合研究交流センター 小岩井忠道

 柯隆 富士通総研経済研究所主席研究員は5月31日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、海外の高度人材を引きつけることが日本の将来にとって重要と指摘し、アジアの教育ハブになるための国際教育戦略が必要だ、と提言した。

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 柯氏はJST中国総合研究交流センターの委託で、「外国人留学生の受け入れと日本経済・日本企業に対する貢献に関する調査」を行い、最近、報告書をまとめたばかり。講演は、この調査結果の詳しい説明とともに、日本の進むべき道を示した。

 日本国内では、主要大学のグローバル化が遅れ、優秀な留学生を米国など他の主要先進国にとられてしまっている、という声がよく聞かれる。柯氏が中国総合研究交流センターから委託されて行った調査結果によると、2015年に中国に帰国した中国人留学生の留学先として日本の占める割合は、学部卒で7.97%、修士号取得者で3.04%と少ない。ただし、博士号取得者では12.90%とトップの米国28.95%に次ぐ多さだ。また、中国に帰国した留学生全体でみると博士号取得者は2004年から2014年までの10年間で、倍以上に増えている。特に増加が著しい工学系では3倍近い増加だ。

 さらに、帰国しない留学生を含む中国人留学生全体の2015年の留学先をみると、日本は9.1%。米国の18.6%、英国の14.4%に次ぐ位置にある(フランス、オーストラリアも同じく9.1%)。こうした数字を挙げて氏は、「日本の大学に留学すると博士号は取りにくい、という指摘は誤解。日本の大学もそこそこ頑張っている」と、評価した。

 中国から留学する際に必要となる費用はどうか。2015年の概算で米国は年間20~35万元(約340~600万円)、英国、オーストラリア22~45万元(約374~765万円)、カナダ17~20万元(約289~340万円)に対し、日本は3~8万元(約51~136万円)。「米国や欧州に比べ、日本の大学への留学のコストパフォーマンスはよい」と、留学先として日本の大学が不利な状況にないことも、柯氏は指摘した。

 一方、日本の産業競争力を強化するには外国から高度人材を積極的に受け入れる必要があることは、日本政府や産業界も気づいている。2016年6月に閣議決定された「日本再興戦略2016年」では、2020年末までに高度人材を1万人受け入れるという目標が示された。しかし、柯氏によるとこの目標数は小さすぎる。「もっと増やす必要がある」と、高度人材受け入れの持つ重要性を強調した。

 柯氏が、日本にとって大いに参考になる例として挙げたのが、米国が積極的に留学生を受け入れている理由。経済的なメリットとして、「経済のグローバル化における米国主導地位の維持」「米国の競争力維持のための高度人材の獲得」を挙げた。さらに「国際社会におけるプレゼンスの確保」「米国価値観の輸出」「米国との友好関係の架け橋の育成」という政治的メリットと、「多様性のある社会の強化」「国際交流と相互理解の向上」「人的ネットワークの形成」「国際協力、発展途上国支援の一環」という社会的メリットも加えた。

 柯氏は、太平洋戦争前に魯迅、孫文、周恩来など中国から日本に留学した著名人の名を挙げ、「高度人材を留学生として受け入れることが日本のプレゼンスを高めた」という見方を示した。その上で、「米国は常に世界のリーダーシップを取るため戦略的に考えている。米国の価値観の輸出はソフトパワーを高めることだ。多様性のある社会の強化は、個性のある人材育成が求められている日本にも重要で、米国の戦略はいずれも、日本にとって参考になる」と指摘した。

 最後に具体的な提言として、「アジアの教育ハブになるための国際教育戦略」「大学・教育機関・研究機関のブランド化」「教育機関と企業の連携強化」「国際教育に関わる情報発信の強化」「教育研究に対する公的支援の強化と企業の研究拠点の開放」「教育に関する規制の緩和と大学教育機関の国際化」の六つを挙げ、講演を締めくくった。

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(写真 CRCC編集部)

柯 隆氏

柯 隆(か りゅう)氏: 富士通総研経済研究所 主席研究員

略歴

 1963 年中国南京市生まれ。
1988 年来日、愛知大学入学。1992 年愛知大学卒業、1994 年名古屋大学大学院修士課程修了(経済学)。長銀総合研究所研究員を経て、1998 年富士通総研経済研究所主任研究員。2 006 年から現職。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授と広島経済大学特別客員教授を兼務。科学技術振興機構中国研究交流センターステアリングコミッティ委員。国際経済交流財団Japan Spotlight編集委員。専門は中国経済論、開発金融。
著書に、『爆買いと反日-中国人の不可解な行動原理』(時事通信社、2016 年)、『日系自動車メーカーの中国戦略』(東洋経済新報社、2015 年)、『暴走する中国経済-腐敗、格差、バ ブルという「時限爆弾」の正体』(ビジネス社、2014 年)、『中国が普通の大国になる日』(日本実業出版社、2012 年)など多数。また、多様なメディアで積極的に中国情勢について発信されている。 

スタッフ紹介
趙 瑋琳(ちょう いーりん)氏: 富士通総研 経済研究所 上級研究員

略歴

 1979年中国遼寧省生まれ。
2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了(博士(学術))、早稲田大学商学学術院総合研究所を経て、2012年9月より現職。
現在、University of Jyväskylä(在フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、麗澤大学オープンカレッジ講師を兼任。
イノベーション、都市化問題、地域などのフィールドから中国経済・社会を研究。
「中国イノベーション事情」に関する連載(日刊工業新聞電子版)や、「イノベーションの重要性が高まる中国の動向と課題」、「中国の「双創」ブームを考える」、「中国の都市化―加速、変容と期待」、「 イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ」、「ソーシャル・イノベーションの仕組みづくりと企業の役割への模索」など論文多数ある。