第105回CRCC研究会「中国一帯一路構想と中国政治」(2017年6月16日開催)

「中国一帯一路構想と中国政治」

開催日時:2017年6月16日(金)15:00~17:00

言  語:日本語

会  場:科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師:徐 静波(じょ せいは)氏:
株式会社アジア通信社(亜洲通訊社)代表取締役社長

講演資料:「 中国一帯一路構想と中国政治」( PDFファイル 2.14MB )

講演詳報:後日掲載予定

困難な経済状況下で進む巨大開発計画

中国総合研究交流センター 小岩井忠道

 日本を中心に幅広い活動を続ける中国人ジャーナリスト、徐静波アジア通信社社長が6月16日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究開発センター主催の研究会で講演、中国の政治状況から一帯一路構想をはじめとする経済情勢について、随所に独自の見通し、見解を盛り込みながら詳しく解説した。

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 氏は、この20年にわたり中国共産党全国代表大会(全人代)と全国人民代表大会の取材を続けてきた。中国政府から最も信頼される在日中国人ジャーナリストであることを裏付けている。3月に開かれた第12期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の第5回会議を取材した際に撮影してきた中国要人たちの写真を紹介しながら、今秋に予定されている中国共産党第19回全国代表大会で決まる新しい最高指導部の顔ぶれを大胆に予測した。

 中国共産党の最高意思決定機関である常務委員会は、現在、習近平党中央委員会総書記以下7人で構成されている。これを5人体制とする説が中国国内で流れていることを紹介し、習氏が党主席に就任、以下、国務院総理、全人代委員長、政治協商会議主席、総書記の肩書きも持つ5人の常務委員体制になる可能性を指摘した。去就が注目されている李克強総理が引き続き総理としてとどまり、王岐山も全人代委員長の肩書きで李氏同様、常務委員として残るという見通しを示した。

 最も注目されたのは、秋の党大会で党規約が改正され、党主席制が復活するという予測。党主席は1845年に毛沢東が就任して以来、事実上の国家の最高指導者として位置づけられた。しかし、1982年の党規約改正により廃止、新たに中国共産党中央委員会総書記が党の最高職として設置され、現在まで続いている経緯がある。現在、総書記である習氏が党規約改正により党主席に就任する狙いは、最高指導者としてさらに10年の任期が保証されるため、という見方を徐氏は示した。習氏が総書記のまま再任されると、任期は5年間しか認められない。

 経済については、国際経済の不安定、失業者の増加、国内市場の低迷という問題に直面し、楽観できない状況にあることを率直に認めた。鉄鋼、石炭の過剰生産能力削減によって生じる100万人あるいは200万人もの失業者の再就職が、地域によっては社会動乱の心配もあるという厳しい見方を明らかにした。配車アプリやネット通販という新しい業界が急成長する代わりにタクシー、デパート、スーパー、コンビニといった伝統的産業が急激に衰退していることの影響にも注意を促した。

 現状を冷静に見ているのは、国際的にも注目され、前向きなニュースばかりが目立つ「一帯一路」についても同様だった。「中国が世界の中心だった党の時代の再現を狙っている」という大きな狙いがあることを指摘する一方で、「3年間頑張っても予定通りのスピードでは進んでいない」との見方を示した。思惑通りに進まない理由の一つに、旧ソ連に属する中央アジア諸国がロシアの意向を無視して中国と積極的に協力しにくい事情があることを指摘している。

 とはいうものの海上ルートである「一路」の経由地であるアフリカ・ケニアのモンバサ港で中国主導の経済活動が着々と進んでいることを紹介し、日中企業の協力を提言した。モンバサ港には、中国、日本がそれぞれ資金を援助して造られた大きな埠頭がある。日本製の中古車がここで大量に積み降ろされている。モンバサ港から首都ナイロビには、かつて英国が建設した鉄道が通っていた。現在は、中国が再建した鉄道が5月に開通したばかり。埠頭と鉄道をつなぐ流通合弁会社を、ケニア、中国、日本で協力してつくったらどうか、というのが氏の提案である。ちなみにケニアで走っている車のほとんどは日本製の中古車。ところが日本の部品企業は全くないため、もっぱら中国企業が日本製自動車の部品を作って現地の修理需要に応えているという。

 積極的な経済活動として氏の説明が一段と熱を帯びたのが、北京一極集中の緩和を狙いとする新経済特区「雄安新区」建設プロジェクトと、上海の南、杭州、寧波の東の会場に点在する舟山群島に、シンガポールや香港に匹敵する自由貿易港区をつくろうとする「舟山新区」プロジェクトだ。前者は習国家主席、後者は習国家主席に加え李総理が力を入れている。

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 出身が舟山市で、3年前から舟山市政治協商会議(市議会)の議員を務める徐氏がとりわけ舟山新区に関心が高いのは当然。舟山市は造船業が伝統産業で、仏教聖地である普陀山などを抱えるため観光業も盛ん。舟山群島の大きな島は、すぐ西側にある副省級市の寧波市と50キロにも及ぶ海上大橋でつながっており、実際には半島のようになっている。徐氏は、舟山新区で三つの大きな国家プロジェクトが進んでいることを詳しく紹介した。

 習国家主席主導のプロジェクトとも言われているのが、米ボーイングの海外最初の工場を建設する計画。一昨年習氏が訪米した際、300機のボーイング旅客機を購入すると表明したが、その際、米側に要求したのが中国にボーイングの組み立て工場を建設することだった。「来年の12月には、ここでボーイング製航空機の1号機が製造される」と徐氏は語った。

 残る二つは、「李克強プロジェクト」ともいわれる。その一つは、「舟山緑色石油化工基地」の建設。面積40平方キロという長江河口の小さな島に、世界最大の石油化学基地を造ろうとする計画だ。「現在、日本と韓国から輸入している化学原料をここでつくることができる」と、徐氏はプロジェクトの意義を語った。一方、現地で安全性に対する不安があることも認め、「住民15人を川崎市の石油コンビナートに案内し、安全確保対策の現状をみてもらった」と、舟山市政治協商会議(市議会)議員としての自身の体験も紹介した。

 もう一つの「李克強プロジェクト」といわれるのが、「江海聯運センター」の建設計画。長江デルタ地域と呼ばれる長江流域の9都市の物流を太平洋とつなぐ国際物流センターとすることを狙っている。「寧波市と舟山市を合わせてシンガポールをしのぐ世界最大の港をつくり、海のシルクロードの新出発地にするのが中国政府の方針」と、徐氏は、プロジェクトの巨大さを表現した。

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(写真 CRCC編集部)

徐静波

徐 静波(じょ せいは)氏: 株式会社アジア通信社(亜洲通訊社)代表取締役社長

略歴

 1963年9月中国浙江省生まれ。中国の国家教育部、中国教育新聞社記者を経て、1992年4月私費留学で来日。東海大学大学院文学研究科専攻後、同大学研究員、在日中国語日刊紙の副編集長を経て独立。
2000年3月、株式会社アジア通信社を設立、代表取締役社長に就任。2001年8月、日本初の中国経済情報専門紙『中国経済新聞』創刊、編集長兼任。
2004年10月から、モバイル放送の番組『中国経済最前線』にも企画、出演。2008年10月、中国語日本ニュースサイト「日本新聞網」を開始。早稲田大学特別非常勤講師に。
1997年から連続20年、中国共産党全国代表大会および全国人民代表大会の取材を中国政府から認められたただ一人の在日中国人ジャーナリスト。中国政治、経済の最新動向に精通し、特に中国の最新政治事情、流通業、製造業については講演、執筆も多く、中国の指導者や大手企業の会長、総経理なども交流が深い。外資系企業の中国戦略、地方の投資誘致などにも詳しく、日本数社大手企業のアドバイザーとしても活躍している。
中国国家主席習近平、胡錦濤、江沢民(当時)、中国総理温家宝、朱鎔基(当時)、チベット仏教最高指導者ダライラマ及び日本元総理大臣中曽根康弘、村山冨市、橋本龍太郎、森喜朗、安倍晋三など中日両国政治要人、経団連会長御手洗冨士夫、トヨタ自動車社長豊田章男、ユニクロ社長柳井正など財界要人を取材。
日本演歌歌手長山洋子(2007年)、新垣勉(2008年)の中国初コンサートの企画、演出を担当。2009年、中国人民解放軍歌舞団の日本公演(団長:中国国家主席習近平氏の奥様である彭麗媛女史)の広報を担当。

著書

『株式会社中華人民共和国』(PHP)、『2023年の中国』(作品社)『日本経済の行方』(中国経済出版社)、『日本変天』(共著、中国世界出版社)など。

訳書

『不死鳥ーーヤオハン前会長和田一夫自述過去と現在』(百家出版社)、『一勝九敗』、『成功は一日で捨て去れ』(ユニクロ社長柳井正著、台湾・北京出版)など。

講演歴

日本経団連、日本商工会議所、日本新聞協会、日本小売業協会、日本経済新聞社、NEC、三井物産、ソニー、伊藤忠商事、北海道、秋田県、大分県など。


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