第111回CRCC研究会「習近平新時代の内政・外交」(2017年12月8日開催)

「習近平新時代の内政・外交」

開催日時:2017年12月8日(金)15:00~17:00

言  語:日本語

会  場:科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師:朱 建栄 氏:東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部教授

講演資料:「 習近平新時代の内政・外交」( PDFファイル 272KB )

講演詳報:「 第111回CRCC研究会講演詳報」( PDFファイル 668KB )

社会主義現代化強国に向け目標明確に 朱建榮教授が習近平体制解説

中国総合研究交流センター 小岩井忠道

 中国の内情に詳しい朱建榮東洋学園大学教授が12月8日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、1 0月下旬に開かれた第19回党大会で習近平氏の指導力がより強化され、「社会主義現代化強国」を目指す動きが明確になったとの見方を示した。

 第19回党大会で習体制が強固になったことを説明するために朱教授がまず指摘したのは、1978年12月の第11期三中全会との近似性。この会議で、文化大革命の否定と、社 会主義近代化建設を目指す改革開放路線が決定された。立役者は、鄧小平氏。いったん失脚したものの前年に党副主席、国務院常務副首相、中央軍事委員会副主席に復帰していた。今 回の第19回党大会とその直後に開かれた第19回中央委員会第一次全体会議(一中全会)について、朱教授は「第11期三中全会と同じくらいの重みを持つ」と評価した。

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 具体的に示されたのは、新たに決まった党中央政治局の人事と党規約の改正。国家主席は2期10年までという不文律に従えば、中央政治局常務委員には5年後に国家主席になり得る後継者候補が入る。慣 例では中央政治局常務委員になった時点の年齢が57歳以下でないと、5年後に国家主席になるのは難しい。ところが結局、後継者と目される人物は選ばれなかった。習氏側近で、後 継者とみる人が多かった陳敏爾重慶市党委員会書記について、リーダーシップなど能力はまだ十分証明されていないという反対の声が長老の中に強かったという事実を朱教授は明らかにした。同時に、習 氏にとって陳敏爾氏が中央政治局常務委員にならなかったことで得た利点もある、との見方も示している。「後継者が決まると自身がレームダックになり得るという心配がなくなり、今後5年間、引 き続き改革に全力で集中することができる」。さらに、中央政治局常務委員7人を含む25人から成る中央政治局委員の半数に陳敏爾氏をはじめ習氏に近いとみられる人たちが選ばれたことを挙げ、「 後継者に誰を選ぶか選択の幅が広がったという面もある」と指摘した。

 習氏と李克強氏以外の5人が交代した中央政治局常務委員体制については、経済全般に責任を持っていた李氏の役割が低下したことと、習氏の指導力が強まったことを「習近平責任内閣になった」と いう表現で強調した。既得権者に対する厳しい対応をとり続けたこれまでの5年間の中で最も目立つ習氏の実績として挙げたのが、軍に対する厳しい措置。実力者を反腐敗活動で次々に排除し、党、政に加え、軍 も名実ともに支配下に置いたことを高く評価した。

 では、習氏の国家主席三選はあるか。日本のマスコミなどでも話題になっている関心事についても、朱教授は踏み込んだ見方を示した。三選どころか、四選さらには五選もうかがう指導者像を「 プーチン(ロシア大統領)モデル」と呼び、会場の笑いをとった後、披瀝したのが「国家主席」だけを他人に譲るという選択。毛沢東が党の指導に専念することを理由に、国家主席を劉少奇に譲った例を挙げて、党総書記( もしかすると途中で「党主席」に改名)三選の可能性は十分があるとみていることをうかがわせた。

 人事に加え、習体制強化を裏付ける具体的な動きとして朱教授が詳しく解説したのは、党大会で明示された新時代の新しい三段階発展戦略。現在の発展戦略の目標となっている「小康社会実現」の 全面的完成時期を第一段階(2020年まで)とし、その後、「社会主義現代化の基本的実現」(2035年まで)を果たす第二段階、「社会主義現代化強国の建設」(2050年まで)を 実現する第三段階と設定している。第二段階については、2035年の時点で先進国の仲間入りを裏付ける「国民一人当たりのGDP(国内総生産)を3万ドル」という目標値が掲げられたことなどを示し、「 世界一の経済強国になる」という別の表現で、第二段階が目指す目標の意味を説明した。

 最終の第三段階で建設するとされた「社会主義現代化強国」の具体像について、氏は次のように解説した。「富強」、「民主」、「文明」、「調和」、「美麗」という「社会主義現代化強国」を 表す五つの修飾語について、「富強」が「経済」で、「民主」は「政治」、「文明」は「モラル」、「調和」は「社会」、「美麗」は「環境」にそれぞれかかる言葉。「強国」は、軍事力ではなく人的資源、イ ノベーション、ソフトパワーといった総合的国力を表したもので、これら総合力で「世界の最前列」に入ることを意味する。その時点では、経済規模も全世界に占める割合が「29~37%」に達する、としている。 

 一方、今回の党大会で党規約に党の「指導思想」として明記された「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」の意味するところについては、これまで党規約に書かれた「毛沢東思想」や「鄧小平理論」p p p p p p p p ; > と違い、「限定的な思想」の段階にあることを指摘した。今後5年間は今なお強固な既得権益層への切り込みなど陣頭指揮を執り続け、5年後に真の「習近平思想」に なるかが問われている、と の見方を示した。 

 朱教授の明快な口調は質疑応答になっても続いた。「米中の新型大国関係」という言葉はすでに中国では使われなくなっており、党大会で唱えられたのは「新型国際関係」だったことを紹介し、米 国以外の国との関係も重視しているのが習政権の現状。また、対台湾、あるいは尖閣諸島などで軍事的な行動をとることは、それによって失われるものの大きさを考えれば、現実的には考えられない選択。こ うした見方を示し、「他国に脅威をもたれている現状をどうか解消するかことこそ、今、日中両国が力を入れるべきことだ」と提言して講演を終えた。

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(写真 CRCC編集部)

朱建栄

朱 建栄 (しゅ けんえい)氏:
東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部教授

略歴

1957年8月 中国・上海市に生まれる。
1982年1月  華東師範大学外国語学部卒業(日本語専攻)
1984年10月 上海国際問題研究所付属大学院で法学修士号を取得
その後,同研究所研究員
1986年11月 総合研究開発機構(NIRA)客員研究員(来日)
1992年3月 学習院大学で政治学博士号を取得
1992年4月 東洋女子短期大学助教授
1996年4月 現職、東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部教授
その間、2002年は米国ジョージ・ワシントン大学(GWU)客員研究員、2007年は英国ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)客員研究員を務める。

著訳書

  • 「中国・北朝鮮脅威論を超えて」(共著 耕文社,2017年10月))
  • 「中国と南沙諸島紛争」(翻訳 花伝社,2017年4月)
  • 「最後の天朝 毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮」(翻訳 岩波書店,2016年9月)
  • 「2020年に挑む中国:超大国の行方」(共著 文真堂,2016年4月)
  • 「中国外交 苦難と超克の100年」(PHP出版,2012年10月)
  • 「中国が変える世界秩序」   (共編著 日本経済評論社,2011年10月)
  • 「中国で尊敬される日本人たち」 (中経出版,2010年9月)
  • 「本当はどうなの?これからの中国」(中経文庫,2009年1月)
  • 「地球企業トヨタは中国で何を目指すか」(奥田碩と対談 角川出版,2007年9月)
  • 「チャイナシンドローム」   (上村幸治と対談 駿河台、2006年8月)
  • 「夏王朝は幻ではなかった――1200年遡った中国文明史の起源」(共訳 柏書房,2005年5月)
  • 「大中華圏 その実像と虚像」  (共編著 岩波書店,2004年10月)
  • 「毛沢東の朝鮮戦争」 (岩波書店現代文庫版,2004年7月)
  • 「記録と考証 日中国交正常化・日中平和友好条約締結交渉」(共編著 岩波書店,2003年8月)
  • 「中国 第三の革命」 (中央公論新社,2002年8月)
  • 「毛沢東のベトナム戦争」   (東京大学出版会,2001年6月)
  • 「中国2020年への道」 (日本放送出版協会,1998年6月)

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