第123回CRCC研究会「日中首脳会談前後の世界情勢の変化」(2018年12月21日開催)

「日中首脳会談前後の世界情勢の変化」

開催日時: 2018年12月21日(金)15:00~17:00

言  語: 日本語

会  場: 科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師: 富坂 聰 : 拓殖大学海外事情研究所 教授

講演詳報: 後日掲載予定

米中経済戦争は日本の好機にも 富坂聰氏が予測

小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 中国の政治、経済、社会情勢に明るい富坂聰拓殖大学海外事情研究所教授が2018年12月21日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター主催の研究会で講演し、米中の経済戦争は長引くとの見通しとともに、日本にとっては好ましい結果をもたらす可能性があるとの予測を示した。

日中関係改善の兆しは2015年から

 富坂氏は、まず2018年10月26日に北京で行われた安倍晋三首相と習近平国家主席との首脳会談で明白になった日中関係改善の動きは、2015年から始まったことを指摘した。反日活動家の言動の報道を抑え、日本メディアの政治報道、日本の政治家の発言を勝手に引用することを中国メディアに禁じるといった措置がとられたのがこの年。安倍・習会談の前後には、日本からの経済援助の累積が3兆6,500億円に上ることを指摘する記事を人民日報が掲載し、さらに日本に対する厳しい報道姿勢をとり続ける環球時報の編集局長が「中国にとって核心的利益は領土問題ではない」と発言するなど、明白な対日姿勢の変化を示す事例を氏は挙げた。

 鉄鋼、石炭など基幹産業の生産過剰が深刻になり、従業員への給料不払いなどの問題が顕在化したのもこの時期。さらに地方の政府職員や共産党員による汚職が明るみに出て、市民の怒りが高まったことを、いろいろな写真を示して、富坂氏は詳しく紹介した。習近平政権の5年間で規律違反で処分された官僚は、一日当たり880人にも上る。汚職の蔓延が共産党や政府の存続すら危うくしかねないという危機意識は、胡錦濤政権の時から高まっていたことに、氏は注意を促した。

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 習政権による国有企業や軍内部の腐敗摘発も、投資依存から消費依存に経済の有り様を大きく変えていく総仕上げとして行われ、この結果、労働者の賃金が増え、可処分所得が上昇したことも習政権の大きな実績、と氏は評価した。鉄鋼や石炭に代表される既存産業の経営難が依然、続いているのと並行して、新しい産業が急速に発展している中国の現状を次のような例を挙げて紹介している。

 スマホ決済システムが猛烈な勢いで普及した結果、「現金は受け取らない」と表示する店が増えている。商品の野菜に消費者がスマホをかざすと、野菜の安全性を示す検査データから流通過程や畑の状態まで分かる表示が出る一方で、農薬だらけの野菜が屋台で売られている。変化の激しさがもたらしたこうした中国社会の実態にも注意を促した上で、氏は日本の現状との違いと日本への懸念を次のように指摘した。

1日当たり16,000社が起業

 2017年に中国で新規に登録した企業の数は607万社。一日当たり16,000社が起業したことになる。これに対し日本の起業数は、1日当たり300社しかない。2017年9月に日中のジャーナリスト交流会で隣席の中国人ジャーナリストから「日本では一度起業に失敗すると再挑戦は無理と聞いているが、それで日本の未来はどうなるのか。中国は若く、頭の良い小さな集団がたくさんあり、最低3回は挑戦できる起業支援の体制がある」と言われた。日本が大企業偏重でやってきたツケは大きく、特に若者の元気の無さが心配だ。

 2018年12月に新しく造られた高速道路で、左端が実験線になっており、路面に太陽光パネルが敷き詰められている道路がある。中国をはじめ各国が導入を急ぐ電気自動車の大きな課題は充電に時間をとられることだが、この道路なら走行しながら充電が可能。一般の道路は無理だろうが高速道路ではうまくいけば相当早く普及するかもしれない。実は、このアイデアは日本が先だったが、結局、実現しなかった。もったいない。

 アリババ( 阿里巴巴集団)の創業者、馬雲氏は、「勉強ばかりしているような子供は30年後に仕事がないだろう。これから必要なのは知識ではなく、人工知能(AI)を使いこなす知恵」と言っている。アリババは、AIだけに5年間、1兆7,000億円の研究開発費を投じるという。

データは新しいエネルギー

 さらに富坂氏は、「データは新しいエネルギー」という馬氏の言葉を引用して、AIを動かすエネルギーの役割を果たすのがビッグデータであることを強調した。米中の争いでは、中興通訊(ZTE)や華為技術(ファーウェイ)といった通信機器企業が狙い撃ちされているように見えるが、これはほんの一部にすぎない。狙いは中国の経済政策で、具体的には製造業の高度化を目指す政策である「中国製造2025」をやめろということだ。「中国製造2025」は、ロボット、ハイテク、医療など10項目を重点分野に挙げているが、一番衝突するのはビッグデータ。中国が14億人のデータを持ち、スマホ決済で他のアジア諸国でも集めたデータをどう利用するか。ここでも米中は必ずぶつかる。氏は、こうした見通しを示した。

 米国は、カナダ、メキシコ、日本、欧州連合(EU)にも貿易関係での厳しい要求を突きつけている。しかし、中国への要求は特別に強硬なため簡単には解決しそうもない。ただし、中国も市場開放、国有企業優遇策の是正など公正さを求める要求には対処せざるを得ないだろう。安倍首相と習近平国家主席の会談によって、第三国市場での日中協力も合意された。この場合もビッグデータをどう活用するかが一つのポイント。日本の立ち位置は難しいが、中国の対応によっては日本も受益者になり得る、との見通しを示して、富坂氏は講演を締めた。

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(写真 CRCC編集部)

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富坂聰

富坂 聰(とみさか さとし)氏 : 拓殖大学海外事情研究所 教授

略歴

1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週間ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。

主な著書

  • 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
  • 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
  • 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数

 

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