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第23回CRCC研究会「中国における内需拡大について」/講師:劉徳強(2009年11月19日開催)

 科学技術振興機構(JST)中国総合研究センター(CRC)の主催により、11月19日(木)「中国における内需拡大について」を題とする第23回研究会がJSTにおいて開催されました。

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 CRCでは世界同時経済危機―グローバル不況のさなかに、中国経済の成長は世界経済が不況を脱するきっかけとなり得るかとの観点から、「中国経済の行方」と題してシリーズ研究会を開催いたしております。今回は、京都大学経済学研究科、京都大学経済学研究科付属上海センター長劉徳強教授(りゅう とくきょう)をお招きいたしました。

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 劉教授は1963年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科博士課程理論経済学専攻され、1991年に経済学博士を取得しました。その後、東京学芸大学教育学部講師、准教授、教授を経て、2008年4月京都大学経済学研究科教授として着任しました。

 主な著書には『中国のミクロ経済改革:企業と市場の数量分析』、『国有企業における経営者の能力・努力と経営効率:中国鉄鋼企業に関する実証研究』、『A Comparison of Management Incentives, Abilities, and Efficiency between SOEs and TVEs』、『経済改革の企業規模と生産性への影響:中国工作機械企業に関する実証分析」』などあります。

 劉教授の講演では、中国経済成長は外需主導型か、投資はなぜ多いか、消費はなぜ少ないか、また今後の内需拡大についてはなにか重要かについて細かく分析、議論、展望しました。分析結果から中国経済成長は外需主導型ではなく、輸出主導型でもない。基本的には「内需主導型成長」であると劉教授が主張します。中国の内需の中において、投資比率が高い要因として、重工業化の進展、インフラ整備および不動産投資の増加などを挙げられました。また、なぜ民間消費比率が低いかについては、所得分配の政府への傾き、社会保障制度の未整備、貧富の格差の拡大、子供のための貯蓄などに関係すると劉教授は指摘します。現在の中国経済の特徴は高すぎる貯蓄率と高すぎる投資比率、低い労働分配率と成長への技術貢献度が低いと言えるでしょう。

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 ただし、この特徴は中国固有なものではなく、近代経済成長の初期工業化局面における普遍的な局面であると劉教授は言います。中国の重工業化はすでに限界に来ており、これ以上急速に伸びることは考えにくいとのことです。そのほか、車社会の到来、都市化の加速の時期に、経済発展自身の論理から、中国経済は今後内需、とりわけ消費拡大を中心とする方向に発展して行くことは間違いないでしょう。社会保障制度の整備、所得分配政策や戸籍制度の改革などを優先的に行うべきではないかと劉教授が結論づけました。

 今回の研究会は、お足元の悪い中、多くの官公庁、企業、大学、研究機関、報道機関、及びJST関係者が参加されました。この場を借りて、謝意を述べると同時に、今後とも皆様のお役に立つ各種研究会を企画、開催してまいりたいと思いますので、引き続き皆様の温かいご支援、ご協力をお願い申し上げます。

 講演後の質疑応答では活発な議論がなされ、非常に有意義な意見交換会となりました。最後に中国総合研究センター・藤嶋センター長による挨拶により閉会いたしました。

(中国総合研究センター フェロー 米山春子 記)

講演資料