第57回CRCC研究会(シンポジウム)「習近平政権の政策と課題」/講師:柯隆、川島真、津上俊哉、劉傑(2013年2月6日開催)

シンポジウム  「習近平政権の政策と課題」

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概 要

日 時: 2013年2月6日(水)14:00 – 16:40(13:30より開場・受付開始)

場 所: 独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール(下記参照)

参加費: 無料

講 演

柯 隆(富士通総研経済研究所主席研究員)

テーマ:「マクロ経済政策と日中関係」 ( 講演資料: PDFファイル 2.27MB )

川島 真(東京大学大学院総合文化研究科准教授)

テーマ:「中国政治の動向と外交政策」( 講演資料: PDFファイル 70KB )

津上 俊哉(津上工作室代表取締役)

テーマ:「中国経済の動向と日中ビジネス」( 講演資料: PDFファイル 1.48MB )

劉 傑(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)/p>

テーマ:「どうなる、新指導部の対日政策」( 講演資料: PDFファイル 388KB )

パネルディスカッション

パネリスト:  上記ご講演者

モデレーター: 角南 篤( 中国総合研究センター副センター長)

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シンポジウム概要 「習近平政権の主要課題と展望を議論」

 科学技術振興機構(JST)中国総合研究センター主催のシンポジウム「習近平政権の政策と課題」が2013年2月6日、東京都千代田区のJST東京本部別館ホールで開かれ、中国専門家4人が中国の新体制について政治、経済の視点から議論した。中国の習近平氏[1]は胡錦濤総書記[2]の後任として2012年11月に共産党トップに就任。3月に開かれる全国人民代表大会で国家主席に選出される予定で、新政権が正式に発足する。日本も2012年12月に政権交代したばかりで、議論は日中関係に及び、会場を埋めた聴衆が熱心に耳を傾けていた。

 シンポジウムの登壇者は、柯隆・富士通総研経済研究所主席研究員、川島真・東京大学大学院総合文化研究科准教授、津上俊哉・津上工作室代表取締役、劉傑・早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。モデレーターは角南篤・中国総合研究センター副センター長が務めた。

守られなかった胡錦濤政権の「調和社会」の公約

 柯隆氏は世界銀行レポート「China 2030」[3]が示した中国の労働力の伸び率について、「2016~20年のどこかでマイナスに転じるが、この推計が正しければ、あと数年は成長を続けられることが読み取れる」と指摘。2012年のGDP(国内総生産)成長率は7.6%で、目標の7.5%をわずかに上回っただけだが、「今は過度に悲観する必要はない。2013年の予測は8.5%で、2011年の9.2%には及ばないが、2012年より良くなるだろう」と述べた。

 習近平政権の課題として所得格差を挙げ、「ジニ係数[4]は中国国家統計局の数字でも0.47であり、社会の混乱を招く警戒水域をはるかに超えている。胡錦濤政権は和諧社会(調和の取れた社会)を提唱したが、この公約は守られなかった」と語った。

 日本企業の対中ビジネスについては、「多くの日本企業にとって中国を離れる選択肢はない。仮に他国に展開するとしても、市場、生産拠点としての中国の重要性は変わらない。知的財産権、司法、人件費、労務、税務といった中国リスクを管理するとともに、サービスと品質の一層の向上とブランド力の強化が必要だと思う」と話した。

「主権・安全」のため「経済」を犠牲にすることも

 川島氏は、中国の歴史を100年刻みで遡りながら中国の国家像を分析した。約100年前は辛亥革命から中華民国成立の時代。さらに約100年前は清朝の嘉慶帝、道光帝の時代で、清朝が傾き始めたころに当たる。その100年前、18世紀は乾隆帝の時代で、中国は人口が4億人に達し、英国の経済学者[5]によると、世界のGDPの3割以上を占めていた[6]

 川島氏によると、中国の首脳も乾隆帝時代の興隆に言及しており、「18世紀の中国」のような国威を回復してスーパーパワー(超大国)を目指そうとしている節もある。一方で、19世紀半ばから列強に踏み躙られてきたという「被害者意識」に長く縛られ、GDPで世界2位の大国になったという現実とうまく融合させられず、あるべき国家イメージを巡って対外強硬派と穏健派が対立している、と指摘した。

 改革開放後、経済成長を優先するため対外協調路線(韜光養晦=とうこうようかい[7])が採られてきたが、今後は「主権や安全を重視するため、時には経済を犠牲にする」方向に外交路線が転換したのではないかと指摘されている、と述べた。政治体制改革については、政権の「正統性」を確保するため、民衆の支持を客観的に示す手段として直接選挙が拡大していく可能性に言及した。

「中国のGDPが米国を抜く日は来ない」

 津上氏は「中国経済といえば悪くても7%、良ければ10%くらい成長するという思い込みが定着している」と前置きした上で、2008年のリーマンショック後、4兆元の投資によって人為的に成長率が嵩上げされ、高成長が戻ったような錯覚を与えた、と指摘した。

 次に中国の経済学者、蔡昉氏の警告を取り上げ、「人口ボーナスが消失し、中国経済は減速する。今後、過度な投資を続ければ、設備過剰、インフレ、環境破壊を招き、大変なことになる」との見方に賛意を示した。今後の成長エンジンと言われる「都市化の進展」「内陸部への産業移転」「技術立国」については、制度や立地条件、経営環境が障害となり、楽観できないと語った。また、「私の計算では、生産年齢人口(稼ぐ人)が減り始め、総人口は2020年に減少に転じる。国連のデータによると、人口のピークアウトは2032年と言われてきたが、この『通説』より10年以上早くなる」と分析した。

 さらに、「中国がGDPで米国を追い抜く日は来ない、という挑戦的な予測」を近著[8]で発表したことを紹介。中国は農村差別の解消、少子高齢化対策という国家的課題に直面しており、「周辺に脅威を与える余裕はない。空母の建造ではなく、国民のためにお金を使えと言いたい。日本も無闇に中国を恐れることはない、と言いたい」と付け加えた。

ポスト鄧小平時代として「習近平時代」が始まった

 劉傑氏は「正式な政権交代は3月の全国人民代表大会だが、事実上、習近平時代が始まっている、と考えていい」と述べた。習近平時代と呼ぶ理由として、①鄧小平路線に基づく成長モデル(平等より効率・収益を優先させる)を完全に転換しなければならなくなった②政治体制改革への期待が非常に高まり、何らかの対応が必要となっている点を挙げ、「鄧小平時代に想定されていなかった問題として、①貧富の格差②環境問題③共産党政権に対する不信(体制の危機)がいずれも極限状態に達している」と語った。

 政治体制改革への期待については、二つのメディアが2013年の新年号で立憲政治(憲政)の実現を掲げ、「大きな論争を呼んだ」と指摘した。劉氏の紹介によると、「炎黄春秋」誌は「憲法にはすでに言論の自由や私有財産保護に関する規定があり、それを規定通りやれば、それが立派な政治改革となる」と主張した。また、「南方週末」紙では共産党宣伝部門の手による記事改竄事件が発覚し、記者のスト、一般読者の抗議が起きたが、共産党の上級部門の介入でソフトランディングの形で収まったことになっている。

 劉氏はまた、中国社会の変化として、経済的な利害の対立によって、国民が分裂状態に陥っている、と分析。「左派は保守派(毛沢東派)とも呼ばれ、毛沢東が進めた計画経済や文化大革命に対する肯定的評価を主張している。右派は改革派で、普遍的価値や法治の確立を求めている。共産党の中枢で起きてきた問題(論争)が国民間の問題として広がっている。習近平氏は、毛沢東と鄧小平の考え方は本質のところ(共産党による社会主義建設)で一貫していると主張しており、社会の分裂を最小限に食い止めたいようだ」と述べた。

鈴木 暁彦(中国総合研究センター フェロー)


[1] 中国共産党中央委員会総書記、党中央軍事委員会主席、国家副主席、国家中央軍事委員会副主席。2013年3月の全国人民代表大会で、胡錦濤氏の後継として国家主席、国家中央軍事委主席に選出される見通し。英文表記はXi Jinping(シー・チンピン)。1953年6月生まれ、59歳。清華大学人文社会学院マルクス主義理論・思想政治教育専攻社会人コース修了(法学博士)。1969-75年陝西省延川県文安駅公社梁家河大隊の知識青年、党支部書記(文化大革命期)。75-79年清華大学化工系在籍。90-96年福建省福州市書記、福州軍分区第一書記。97年党中央候補委員。2000年福建省長、南京軍区国防動員委副主任。02年党中央委員。02-07年浙江省書記、浙江省軍区第一書記。07年上海市書記。07年10月の第17回党大会で最高指導部である政治局常務委員会入りを果たし、常務委員9人のうち序列6位に。08年に国家副主席、10年には中央軍事委員会副主席に就任し、後継者への地歩を固めてきた。父は中国革命を戦った習仲勲氏(1913~2002)。副首相、広東省書記、全人代副委員長などを歴任した。共産党エリートの子弟「紅二代」(ホン・アールタイ)、「太子党」の一員でもある。(中国語版)(英語版)

[2] 国家主席、国家中央軍事委員会主席。英文表記はHu Jintao(フー・チンタオ)。1942年12月生まれ。70歳。清華大学水利工程系河川発電所専攻卒業。68-69年劉家峡工程局勤務。1982-84年共産主義青年団(共青団)書記、84-85年共青団第一書記、85—88年貴州省書記、88-92年チベット自治区書記、92年政治局常務委員、98年国家副主席、99年党中央軍事委員会副主席、国家軍事委員会副主席、2002年総書記、03年国家主席、04年党中央軍事委員会主席、05年国家中央軍事委員会主席。12年11月総書記、党中央軍事委員会主席、政治局常務委員、中央委員をすべて退任。13年3月国家主席、国家中央軍事委員会主席を退任の見通し。http://news.xinhuanet.com/ziliao/2002-01/16/content_240483.htm

[3] 世界銀行レポート(英文資料)・
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[4] 所得分配の不平等さを測る指標で、係数の範囲は「0~1」で、「0」に近いほど格差が少なく、「1」に近いほど格差が大きいことを示す。意味する。0.4が警戒ライン。

[5] アンガス・マディソン氏(Angus Maddison、1926-2010)。フローニンゲン大学名誉教授。

[6] 参考データ(紀元1年~2030年のGDPシェアの推移を示したグラフ)http://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2011/07/articles/1107-04/1107-04_article.html
http://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2011/07/articles/1107-04/images/1107-04_fig_1.png

[7] 鄧小平氏が指導した対外戦略で、「冷静観察、穏住陣脚、沈着応付、韜光養晦、善于守拙、决不当頭、抓住機遇、有所作為」とまとめられている。論旨は、落ち着いて、出しゃばらず、自分たち自身の仕事を着実に実行する、ということである。

[8] 「中国台頭の終焉」(日本経済新聞出版社)


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