第60回CRCC研究会「どのような企業が中国から離れるのか?中小企業の視点から」/講師:袁堂軍(2013年5月16日開催)

演題:「どのような企業が中国から離れるのか?中小企業の視点から」

開催日時・場所

2013年 5月16日(木)15:00-17:00

独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講演資料

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どのような企業が中国から離れるのか?中小企業の視点から」( PDFファイル 1.33MB )

詳報

第60回研究会速報」( PDFファイル 6.58MB )

袁堂軍

袁堂軍(ゆぁん たんじゅん)氏 :
復旦大学アジア経済研究センター主任/国際金融報研究院学術院長

略歴

2004年一橋大学経済学研究科博士課程修了、一橋大学経済学研究科助手、日本学術振興会外国人特別研究員、一橋大学経済研究所特任准教授、復旦大学経済学院准教授を経て、2011 年9月より現職。 著書に『中国経済の発展と資源配分1860-2004』(日本語、東京大学出版会/2010年、第5回樫山純三賞受賞)、『制約を突破-アジアの未来』(中国語、主編/2013年、復旦大学出版社)、論文に「 中国企業の生産性水準研究」(中国社会科学院『経済研究』)、「製造業のアップグレードには苗を手で引って助長するな」(解放日報「新論」)など多数。

第60回研究会概要「どのような企業が中国から離れるのか?―中小企業の視点から―」

 今こそ日本の中堅・中小企業は中国へさらに参入し、同時に国内の構造改革を!

科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター主催の第60回研究会が、2013年5月16日、東京都千代田区のJST東京本部別館ホールで開かれ、袁堂軍(ゆぁん たんじゅん)復旦大学アジア経済研究センター主任/国際金融報研究院学術院長が、「どのような企業が中国から離れるのか?―中小企業の視点から―」と題する講演を行った。

 袁氏は、「外資企業の中国離れ」が最近よく日本のマスコミで取り上げられている中で、実態と背景を解説し、むしろ日本の中小企業が中国との協力を強めることが大きなチャンスになる可能性を指摘した。会場には実際に中国との協力で苦い経験のある経営者もおり、講演後も活発な質疑応答が交わされた。

 袁氏の講演の概要は次の通り。

中国におけるビジネス上のリスク

 2005年以来、元はドルに対し30%高くなった結果、決済コストが上昇した。さらに2007年3月16日以降に新規参入した外資企業には、減免税がない。それまで優遇措置を受けてきた外資企業に対しても、5年かけて中国企業と同じ法人税がかけられることになった結果、今年から全ての外資企業に対する税制上の優遇措置はなくなる。

 また、特に非製造業については、中国市場への進出が審査を通らなければならないという制度上のリスクがある。実際にGOOGL、DHLがインターネット関連の情報規制や(郵政法改正による)非市場競争などによって撤退を余儀なくされた。日本企業にとってはこのほかに、両国の政治摩擦にも影響されるリスクがある。

 日本企業にとって、リスク分散のための手段の一つは、中国を主たる投資・運営先としつつ、もう一つの拠点を東南アジアに設ける「チャイナ・プラス・ワン」だ。この選択は一部、正当化できる。他方、完全に中国から撤退する選択もある。しかし、これはすでに支出済みで回収の見込みがないコストを負担せざるを得ない上に、中国経済にも打撃となるので検討が必要だ。

 第3の道が今日の講演の趣旨である。「中堅・中小企業はさらに参入すべきだ」ということだ。グローバル・バリュー・チェーンという視点から、それを説明したい。

国際分業の深化―グローバル・バリュー・チェーン

 商品・サービスの付加価値を最大にするため生産工程を国際化するグローバル・バリュー・チェーンが、2001年以降、深化しつつある。それは、中間財貿易が拡大していることからも見て取れる。1995年以降の日本の輸出拡大は、電機、金属、化学、輸送機械など中間財が中心で、最終財・サービスで増えたのは、ほぼ輸送機械だけだった。

 中国との貿易で見ると、電機、化学、金属などを中心とする中間財・サービス輸出の拡大と電機、繊維、食品などの輸入拡大が顕著である。一方、対米国では、2005年ごろから中間財・サービスだけでなく最終財・サービスともに純輸出が激減している。

 これらを世界のグローバル・バリュー・チェーンの構造変化と比較してみるとどうか。世界の構造変化は、日本からの中間財・サービス輸出を大きく減らすように働いた。その理由は、中間財生産の海外移転や、途上国における日系企業を含めた現地調達が拡大したことと、部材供給国として中国、ASEAN(東南アジア諸国連合)が台頭したこと、加えて日本の製造業の生産性が低迷し、競争力を失ったことなどが考えられる。

 さらに日本がFTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)で大きく出遅れたことも、生産の海外移転や、海外における日本からの調達低迷の原因とみられる。

 こうした構造変化によってもたらされたことは、日本国内の生産性の高い工場が閉鎖され、生産性の低い工場が残ったことだ。日本経済の新陳代謝機能が停滞していることを意味しており、日本企業の円高への耐性を弱めた可能性が高い。米国と比べた日本製造業の国際競争力は、1991年時点から10%程度落ちた。一方、ドル換算した製造業の労働コストは米国に比べ10%割安になっており、これは賃金を抑えることで日本が競争力を一部回復しているということを意味する。

 日本企業の海外直接投資を見ると、日本の中堅・中小企業が国際化に立ち遅れていることが分かる。日本企業の海外直接投資残高は、2001年から2011年までに3.5倍に拡大した。2011年以降、円高や高い法人税率のため中・大企業を中心とした製造業の海外直接投資の動きが加速している。

 しかし、「中小企業白書2012年版」によると、日本の中小企業で輸出している企業は2.8%、海外直接投資を行う企業は1.0%にすぎない。

中国でのビジネスチャンス

 IMF(国際通貨基金)が4月に公表した経済見通しによっても、相対的には中国がアジア太平洋地域における経済のけん引役である構図に変わりはない。中国の裾野産業は充実しており、グローバル・バリュー・チェーンにおいて調達もしやすい。30年間の対外開放政策、加工貿易の発展に伴って、各産業に適応できる熟練労働者が増えている。この10年間で、物流や電力などのインフラも比較的整備されている。

 他が代替できないさまざまな技術を持つ日本の中堅・中小企業が中国と組めば、グローバル・バリュー・チェーンの利益をともに享受できるはずだ。

 中国はWTO(世界貿易機関)加盟以後、労働力の優位を発揮し、グローバル・バリュー・チェーンの一環として、中間財生産を拡大してきた。輸出は5割以上が外資企業によるものであるが、雇用機会の確保、専業化、学習効果などによって産業をアップグレードした効果は大きい。消費者としても、中国人の「日本製品」に対する評価は高い。中国国民は「合理的な消費者」に変化しつつある。中所得層の形成によって消費パターンも量から質へと変化している。

 JETRO(日本貿易振興機構)の調査でも、労働集約型日系企業の投資は労働コストの安い東南アジアへと移っており、中国市場に狙いを定めた日本企業は、第二次産業から金融やコンサルティング、研究開発なども含めた第三次産業へと移っている。日本にとって中国は依然として最大の貿易パートナーであり、アジアの主要な投資対象国だ。

 グローバル・バリュー・チェーンの拡大と、中間財・サービス貿易拡大という構造変化のプラス効果を享受するため、日本の中堅・中小企業は中国へさらに参入し、同時に国内の構造改革を行うべきだ。

中国総合研究交流センター 小岩井忠道)

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