第62回CRCC研究会「習近平政権下のエネルギー環境政策と日中協力の課題」/講師:周瑋生(2013年7月18日開催)

演題:「習近平政権下のエネルギー環境政策と日中協力の課題」

開催日時・場所

2013年 7月18日(木)15:00-17:00

独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講演資料

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習近平政権下のエネルギー環境政策と日中協力の課題」( PDFファイル 7.22MB )

詳報

第62回研究会速報」( PDFファイル 10.3MB )

周 瑋生

周 瑋生(しゅう いせい)氏 :
立命館大学政策科学部教授/立命館サステイナビリティ学研究センター長/立命館孔子学院学院長

略歴

 1960年生まれ。82年浙江大学工学部卒業、95年京都大学博士後期課程修了、工学博士号取得。専門はエネルギー環境政策学、政策工学。95年新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員、98年(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)主任研究員を経て、99年立命館大学法学部准教授,02年政策科学部教授に。これまでRITE研究顧問、立命館孔子学院初代学院長(現在名誉院長),立命館サステナビリティ学研究センター初代センター長、大阪大学サステナビリティ・サイエンス研究機構特任教授、東京大学大学院原子力国際専攻客員研究員、浙江大学等複数大学の客員教授等を歴任。著書に「地球を救うシナリオ―CO2削減戦略」(共著 日刊工業新聞社)、「現代政策科学」(共著 岩波出版社)、「地球温暖化防止の課題と展望」(共著 法律文化社)、「都市・農村連携と低炭素社会のエコデザイン」(共著 技報堂出版)、「サステナビリティ学入門」(編著 法律文化出版社)、ほか多数

「日中韓で東アジア低炭素共同体を」

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 周瑋生・立命館大学政策科学部教授が2013年7月18日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、東アジア低炭素共同体を目指し日中韓3国が協力することを提案した。

 中国が多くの国内外の問題を抱えながら、低炭素社会実現のため中央政府から一般市民、産業界までかなり力を入れている。こうした現実があるのに日本ではほとんど報道されていない―。周氏は、中国社会の一面だけを伝えがちな日本のマスメディアに苦言も呈した。

 習国家主席と李克強首相とも下放の経験を持つ。特に習国家主席は、下放時の農民生活や2年間の軍勤務を経験した後、村、県、市の長、さらに直轄市、省の長、大臣と出世の階段を上がってきた。李首相ともども典型的なボトムアップ型政治家だ。「改革開放」「共産党支配」という中国の特色を堅持しながら世界のルールにも合わせていく。それが習政権の施政方針の両輪となっている、と周氏は習政権の特徴を解説している。

 胡錦濤・前政権時代に公表された「18大」政治報告と「第12次5カ年計画」の作成責任者が、それぞれ習氏と李氏だったことも紹介し、「第12次5カ年計画」が現政権においても変わらない政策として継承されていることを強調した。同計画には、2015年までに「GDP(国民総生産)原単位当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を17%削減」「1次エネルギー消費量に占める非化石燃料の比率を11.4%に引き上げ」といった環境分野の数値目標が、盛り込まれている。これらの目標は、政府や行政部門が達成の義務を負う指標とされていることも明らかにした。

 さらに、継承するだけでなく、習政権が新たに取り組まなければならない「変える環境政策」の具体例として、北京スモッグとアスベスト問題を挙げている。これらは先進諸国が既に経験済みのことだから、中国のような後発者はその教訓を生かして「もっと賢い発展」をしてしかるべきだというのが、氏の主張。アスベストについては、1970年代米国が使用を禁止した後も、日本は1990年代まで大量に使用し続け、その後被害が顕在化した苦い経験を持つ。中国は今最大の使用国で、現あるいは次の政権の大きな災害になると警告を発しているのに誰も聞こうとしない、という悩みも明かした。

 中国が「賢い発展」をするには、「大気汚染防止」「生物多様性保護」「森林再生」「土壌回復」「廃棄物処理」「水質汚濁防止」などのローカル対策とともに、「地球温暖化防止」「酸性雨防止」『世界自然保全」「海洋汚染防止」といったグローバル対策を組み合わせた統合戦略が必要だ、と周氏は提言している。

 氏が前から提案している東アジア低炭素共同体については「日本だけが一生懸命CO2を削減しても限界があり、コストも高くつく。日本の技術を活用し、他国と連携して広範囲の低炭素社会を実現できれば、日本の技術の出口ともなり、受け皿である当事国にとっても経済の発展、公害の克服が可能といった一石多鳥の効果がある」と大きな期待をかけていた。

 日中協力については、質疑応答の中で「第二次世界大戦、日中戦争に勝る日中関係の山場はない」と明言し、領土問題などは、これに比較したら大きな問題とは言えないという考え方も示している。「戦後賠償や残留孤児問題。さらに多くの残留兵士を日本へ帰還させた。シベリアなどではなく…。これらは中国側が一番よくやったこと。これ以上の山場はもうないと思う」と語り、今のギクシャクした対立関係を解決するには、政治家とマスコミの責任が大きい、と指摘した。

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 周教授の講演「近平政権下のエネルギー環境政策と日中協力の課題」と質疑応答の概要は次の通り。

 習近平政権には、5つの潜在的な「内憂」と2つの潜在的な「外患」がある。「内憂」は腐敗問題、格差問題、民族問題、生態破壊、資源の制約だ。「外患」とは、外部紛争(周辺諸国と超大国との関係)と大規模な気候変化(異常気象、渇水、洪水など)である。

 腐敗問題は非常に深刻な状態で、高級幹部の腐敗は富の再分配に関わる問題だ。GDP成長は大きいが、これによる富はどこにいってしまったのか、ということになってしまう。

 都市農村による格差に加え、台湾、新疆ウイグル地区、チベットといった民族に関わるものなど、格差問題はいろいろある。

 今年1月に北京のスモッグが関心を集めたが、中国にとって一番深刻な問題は大気汚染ではない。本当に深刻な問題は生態破壊、すなわち土壌汚染、水質汚濁、砂漠化問題だ。これらは不可逆的で、解決するためには膨大な資金、時間と人力がかかる。中国の長期的発展を左右するくらい大きな問題だ。

 資源の制約には、水、森林、土地が含まれる。既知の国内資源を国土で換算すると人口6億人くらいが最も適しており、資源の制約は中国の宿命として今後さらに顕在化していく問題になるだろう。開発可能な土地はわれわれ世代だけのものではない。しかし今の制度では官僚の任期は5年間で、そこで実績を出さないと昇進できない。本来はゆっくり次世代に開発してもらう資源も土地を含めて現世代がどんどん開発してしまう。

 都市の大気汚染、生態系破壊、汚水土壌汚染、有害廃棄物、砂漠化という環境問題は最も生存に関わる緊急、かつ長期的な課題だ。

 これからの環境政策には、変わらないものと変わる(変える)ものの両方がある。既に公表した政策は変わらないだろう。2011年から2015年で省エネ率16%カット。二酸化炭素(CO2)17%削減。一次消費に占める非化石燃料の比率を11%までアップ。他の汚染物質の削減も含め、これらの数値目標は変わらない。例えば全国で16%の省エネ率カットを達成するためには、浙江省が何%、上海市が何%などと振り分け、この目標を達成しなかったらクビというような厳しい行政罰則をかけている。

 変わるもの、あるいは変えないといけないものは何か。先人が歩んだ道を低コストで避けていくのが求められている賢さだ。しかし、北京スモッグを見ると、先人と同じ道を中国は歩んでいる。政策を変え、賢く発展していかなければならない。複数の原因と結果を関連させ、複合的統合的な対策が必要だ。ローカル対策として、大気汚染防止、生物多様性保護、森林再生、土壌回復、食糧生産、リサイクル、廃棄物処理、水質汚濁防止、水資源管理などが求められている。一方の地球レベルでは、地球温暖化防止、酸性雨防止、エコ・ツーリズムの開発、世界自然保全、世界資源開発、世界資源のリサイクル、海洋汚染防止といった対策が必要だ。

 これらローカルとグローバルな対策をいかに統合して対応するか。中国の対応策は、途上国にとって賢い選択肢となると考えられる。中国の環境問題は、今までの政策を継承しながら、新たな問題に直面するたびに新たな政策を講じないといけない、という時代になると思う。

 専門外だが日中協力の課題について少し話をさせてもらう。私は習氏が浙江省長時代に交流があったが、環境面では北九州市やエコタウンに関心が高く、いろいろ聞かれた。生態環境、クリーンエネルギー、循環経済、低炭素経済など、浙江省時代にいろいろやろうとしていたが、日本が参考になると言っていた。日本と浙江省は環境面だけでなく、医療、文化、お茶などいろいろ協力できると見ており、静岡県との交流も熱心だった。

 日中関係の課題はいろいろあるが、基本的に互恵補完多元型協力がいいのではないかと思う。省エネ・環境はもちろん、例えば日本の医療システムは膨大なポテンシャルがある。

 日本では人口1,000人に対し、1人の歯科医師がいるが、中国では2万人に1人、それも口腔外科医で歯科医ではない。「この高度な医療技術を産業として中国でモデル歯科病院を造れば大きな事業になる」と、中国に帰るたびにある市長に言われる。「土地と建物は提供するから歯科医師と医療機械を持ってきてほしい」と。

 今、私たちがやろうとしているものの一つが養豚業だ。私の故郷の市長は高校時代の同級生だが、その町だけで700万頭の豚を生産、養殖しているという。「養豚場に関わる技術を一緒にやりたい」という提案が多くある。

 そしてわれわれ自身が提案しているのが、広域低炭素共同体構想だ。日本だけが一生懸命CO2を削減しても限界がありコストも高くつく。日本の技術を活用し、他国と連携して広範囲の低炭素社会を実現できれば、日本の技術の出口ともなり、受け皿である当事国にとっても経済の発展、公害の克服などといった「一石多鳥」の効果がある。

 そのモデル事業として中国の大連市旅順で構想しているのが、低炭素の国際モデルパークだ。日本の医療システム、日本の高度な建築ノウハウ、また自然エネルギーを導入した生活、生産地域と研究開発地域の機能を持つモデルパークである。

 原子力も日中間で協力可能な分野の一つだと思う。日本国内では原子力についていろいろな意見があるが、仮に日本が原子力発電所を廃止したとしても日本は安全になると言い切れない。韓国の原子力発電所の大半は日本海側にあり、中国も同様に沿岸部にあるからだ。原子力関係は一国の問題でなくなった。われわれ研究チームは少なくとも日本、韓国、中国のエリアで何らかの安全保障システムをつくるべきだと考えている。

 中国は現在7つの成長産業を抱えているが、新エネルギー、電子新材料など日本の新成長戦略とかなり重なっている部分がある。お互い新成長戦略を達成するためには他国との誠意ある協力が不可欠だ。日本と中国、韓国は一つの研究、協力のパートナーとなるべきだし、また責任と能力から考えると日本、米国、中国という私が名付けた“Amejaina(アメジャイナ)”という枠組みで、お互いに責任を持って協力すべきではないだろうか。エネルギーや農業など協力すべき問題はいろいろある。このポテンシャルは非常に大きいと思う。

 私は日本と中国の山場はもう越えたと理解している。最大の山場は領土問題ではない。第二次世界大戦、日中戦争が一番の山場だったのではないか。戦後賠償や残留孤児問題。さらに多くの残留兵士を日本へ帰還させた。シベリアなどではなく…。これらは中国側が一番よくやったこと。これ以上の山場はもうないと思う。

 今の領土問題を見ても、なぜこんなギクシャクした対立関係が起きているのだろうと思う。今の政治家は過去の政治家ほどの度胸がないのではないか。産業界、一般の草の根など民間はすごく努力している。問題は政治家とマスコミで、彼らはもっと社会的責任を持つべきだ。

 数年前に起きた毒ギョーザ事件も、国ぐるみの犯罪行為ではないことは最初から想像できたことだ。政府指導者を含め、日本のマスコミの対応には疑問を抱かざるを得ない。日本のマスコミは優れているが、このような報道は規制ではないが見事な統一報道だ。対中国については特にそうなのではないか。例えば低炭素社会を構築するため中国は中央から一般の市民まで、産業界も含めてかなり力を入れている。しかし日本のマスコミはそれをほとんど報道しない。真実も含めて報道することは、日本国民のためでもあるはずだ。

 中国も同様で、日本の真実を中国に伝えるべきだ。以前、孔子学院長だった時、NHKの番組「プロジェクトX」を翻訳したことがある。戦後、日本でどうやって新幹線が造られたかなどを中国国民に知ってもらうのが目的だった。中国では歴史教育という視点から抗日戦争のドラマなどやっているが、これはやりすぎると反日教育ではなく反中国教育になってしまうと思う。商業的なドラマにするのはよくない。もっと日本の戦後のことを紹介すべきだろう。

中国総合研究交流センター 小岩井忠道)


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