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第73回CRCC研究会「China Today:その深層に迫る」/講師:毛里 和子(2014年7月17日開催)

演題:「China Today:その深層に迫る」

開催日時・場所: 2014年 7月17日(木)15:00-17:00
独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講演資料: 「第73回CRCC研究会詳報」(PDFファイル 748KB )

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日中抗争は長期を覚悟 和解の道探る努力を

小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

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 毛里和子・早稲田大学名誉教授は7月17日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、「日中両国の抗争状態は長期間続くことを覚悟しなければならない」との見通しを明らかにした。その上で、「和解の道を探り当て次世代に引き次ぐ」ことの大切さを強調した。

 毛里氏は、まず「習近平政権は『中国の夢』を語っているが、私は日中関係の夢を語れないままサヨナラするのではないか」と笑わせ、「40年中国研究を続けてきたが、最近の日中関係はだんだん難しくなっている」という厳しい認識を示した。氏は、中国が日本にとって特別に難しい国になっている理由として3つを挙げている。中国が「近代の被害者」という意識を強く持っていること、「不確か」で「不透明」な中国のイメージが、日本にとっては「脅威」と映ること、さらに日清戦争で多額の賠償を支払わされ、日中戦争では賠償請求を放棄したという「債権」を主張する中国に対し、いつまで「道徳的精算」を求め続けられるのかという日本側の思い...だ。

 近代の150年間、1等国であり得なかったことの屈辱と、サンフランシスコ講和条約で調印国になれなかったなど20世紀後半に受けた不当な扱いに対してリベンジ(仕返し)したいという思いが中国政権にある、と毛里氏は見る。サンフランシスコ講和条約は、第二次世界大戦以来の戦争状態を終結させるために日本と連合諸国との間で調印された平和条約だ。この時、条約に調印したのは台湾で、中国ははずされている。

 こうした被害者意識が、中国政権の新ナショナリズムを生み、他方「戦後民主主義」と「戦後平和主義」を見直したいとする安倍政権の新保守主義が登場して、日中両政府共に原理主義的対応をとり続ける今の状況を招いている、と毛里氏は指摘した。さらに 閻 学通清華大学当代国際関係研究院院長が、2012年12月に朝日新聞に載ったインタビュー記事の中で、中国と日本の関係を「対抗の関係」と表現していたことなどもあげ、「日中抗争は原理主義的に、そしてトータルに持続することを相当、覚悟しないとならない」との見通しを示した。

 「日中双方の政治家はこうした状態、紛争が軍事化しないための措置をまず講じなければならない」と述べる一方、「和解への道を探り、次世代に引き継ぐ努力をしたい」と研究者としての決意を披瀝した。

 毛里氏は昨年10月「新しい日中関係を考える研究者の会」発足の中心となり、代表幹事として活動を続けている。「日中の政府、国民、研究者の信頼構築を進め、ナショナリズムを乗り越えて、東アジアにおける国民間の和解への道を探る」ことは、同会が掲げる3つの課題の一つだ。活動の一環として、11月30日に科学技術振興機構中国総合研究交流センターと共催で「国際和解シンポジウム」を開くことも明らかにした。

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毛里 和子

毛里 和子(もうり かずこ) 氏:
早稲田大学栄誉フェロー・名誉教授

略歴

 お茶の水女子大学卒業、東京都立大学人文科学研究科修了、日本国際問題研究所研究員、静岡県立大学国際関係学部教授、横浜市立大学国際文化学部教授を経て早稲田大学政治経済学術院教授。2 010年3月定年退職。2013年10月から「新しい日中関係を考える研究者の会」代表幹事。
現代中国論・東アジア国際関係論が専門。中国から「国際中国学研究貢献奨」(2010年度)、日本では「石橋湛山賞」(2007年度)、「福岡アジア文化賞」(2010年度)など受賞。2 011年文化功労者。
代表作は、『現代中国政治第三版』(2012年)、『グローバル中国への道程―外交150年』(川島真と共著、2009年)、『日中関係―戦後から新時代へ』(2006年)、『周縁からの中国 民族問題と国家』(1998年)。