第91回CRCC研究会「中国都市化の現状と挑戦」/講師:周 牧之(2016年1月18日開催)

「中国都市化の現状と挑戦」

開催日時: 2016年1月18日(月)15:00-17:00

会  場: 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師: 周 牧之(東京経済大学 教授)

講演資料: 「 第91回CRCC研究会 中国都市化の現状と挑戦」( PDFファイル 1.4MB )

講演詳報: 「 第91回CRCC研究会 詳報」( PDFファイル 1.45MB )

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中国都市化の現状と問題点をビジュアル化して紹介
-周牧之・東京経済大学教授

中国総合研究交流センター

 中国で大規模な都市計画造りに携わっている周牧之(しゅう・ぼくし)東京経済大学教授は1月18日午後、東京・千代田区の科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホールでの中国総合研究交流センター(CRCC)主催の第91回研究会で、中国の都市化の現状と問題点などをビジュアル化して分かりやすく紹介した。

 周教授はまず、「中国都市化の現状と挑戦」と題した講演の中で、都市化の背景に言及。「世界の都市人口は2008年に初めて農村人口を超え、国連の予測では、世界の人口が90億人となる2050年には世界人口は90億人に、都市人口が60億人に達する」と語り、急速に進む都市化が何も中国だけの問題ではないと指摘した。周教授はその上で、「中国のこれまでの驚異的な経済発展は都市化に支えられた成長だともいえ、今後もかなり続く」との考えを示した。

 中国は建国以来、都市開発用地の抑制と人口移動の抑制を用いた「アンチ都市化」政策をとってきた。21世紀に入ってから中国はようやく都市開発用地取得の緩和など都市化政策を取り入れた。とくに2006年から施行された第11次五カ年計画では「メガロポリス政策」を明確に打ち出し、都市に発展のチャンスを与えた。これまで抑制されていた都市化のエネルギーが大爆発し、世界経済低迷の中の大成長をもたらした。

 中国の都市化はその規模やスケールの大きさにおいて、21世紀世界の都市化の牽引役となる。億単位の人口が農村から都市に押し寄せ、既存都市の拡張とニューシティ建設の動きが全国規模で進んでいる。とくに上海・江蘇省・浙江省を中心とする長江デルタ(Yangtze River Delta) 、香港・広東省を中心とする珠江デルタ(Pearl River Delta) 、北京・天津・河北省を中心とする京津冀(Jingjinji) の三地域では巨大なメガロポリス(Megalopolis)が形成されている。三大メガロポリスにけん引された形で中国経済は爆走していると周教授は力説した。

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 しかし、これまでの中国の都市化は農民工を始めとする人口移動問題、急速なモータリゼーションによる交通問題、環境問題、エネルギー問題、土地の囲い込み問題、住宅バブルなど数多くの課題をもたらした。とくに自然破壊や大気汚染などの環境問題は日々深刻化している。PM2.5の大発生は環境に関する社会的な問題意識を引き起こした。大国ゆえに中国の環境問題は地球レベルの大課題になっている。

 周教授はまた、中国の都市化の現状を立体的に可視化した独自の「中国都市総合発展指標(CHINA INTEGRATED CITY INDEX)」を披露。中国の地級都市以上のすべての都市を網羅した289都市のうち、中国都市総合発展指標の総合ランキングにおいて、北京、上海、深圳、広州、蘇州が第一位から第五位までを占めた。深圳市は「環境」大項目でトップ、次いで廈門、海口、三亜、北京と続いた。「社会」大項目では第一位から第五位までが北京、上海、杭州、広州、南京の順となった。「経済」大項目では同様に、第一位から第五位が北京、上海、深圳、広州、蘇州の順となった。 

 周牧之教授は、「中国都市総合発展指標」が「立体的な視角で都市を分析」、「簡潔な構造で環境を可視化」、「価値判断指向、認知先導」という三つの特徴を持つと紹介。同指標は2年間にわたり日本人専門家を含む内外の専門家が幾度も研究討論を積み重ね、中国都市化問題の知見、国内外の経験と教訓及び新しい理念を整理した上で作り上げた。 

 中国都市化の物差しに、また都市評価の数値化バロメータともなる「中国都市総合発展指標」の意義について周牧之教授は、「都市空間構造と立体分析の枠組みを造り上げたところにある。中国の都市の集約化及び持続発展のために科学的な政策と計画手段たりうるものとなる」とし、「この指標が、中国都市化の“数値化バロメータ”として、同国の都市化おける“数値による管理”に、大きく貢献することを切実に期待している」と述べた。

 講演では「中国都市総合発展指標」を使い、輸出入を含めた中国の物流、農村地域からの人口移動、モータリゼーションによる交通渋滞と環境悪化、文化・教育サービスの状況などについてわかりやすく解説し、「北東アジアにおいて、21世紀は(中国の)京津冀、長江デルタ、珠江デルタと、(日本の)東海道の4つのメガロポリスが形作っていくことになろう」との見通しを明らかにした。

 最後に、周教授は近年実際に取り組んだ「江蘇省鎮江市ニューシティマスタープラン」について紹介した。同マスタープランの一大特徴として、都市計画における新たなコンセプトであり手法である「モジュールシティ」を開発し、スマートシティ、エコシティ、立体都市、コンパクトシティ、省エネ・創エネ都市、創造都市など、多くの理想の総括的な実現を目指したことにあると説明した。

 モジュールシティは以下三つの特徴を持つ。

  1. 第一の特徴は、マスタープランをデザインルールとし、個々の開発を半自律的に進める。これによって開発のエネルギーを吸収し、かつ、個性を保ちながら統一のとれた街並みや都市を作ることができる。
  2. 第二の特徴として、モジュールシティの基本単位である「都市モジュール」は、住宅、オフィス、商業、娯楽、学校、医療など職住商遊一体型の都市機能を兼ね備えながら、都市機能の濃淡により其々が空間としての個性を演出する。 
  3. 第三の特徴として、モジュールシティはいくつかの「中型都市」の都市連合体である。鎮江生態ニューシティは、まさに5つの中型都市を都市ネットワークで結んだ100万人口の「都市連合体」である。

 周教授はこのほか、都市建設における「連続性」の大切さを繰り返し強調し、「近年の中国の都市化は環境破壊などの課題が山積みのまま進められてきた」と言及。「(都市は)住む人の心を和ませる、お年寄りや子どもにも優しいものでなければならない」とし、「歴史の重みは大切であり、都市の記憶は消されてはならない」と述べて「都市の歴史を今に伝える建造物や史跡を保存しながらの発展が欠かせない」と訴えた。

(文・写真 CRCC編集部)

近藤 正幸

周 牧之(しゅう ぼくし)氏: 東京経済大学 教授

略歴

1963年中国湖南省長沙市生まれ。1985年中国湖南大学卒業、工学学士(オートメーション専攻)。1995年東京経済大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士号取得。 中国機械工業部(省) 、(財)日本開発構想研究所研究員、(財)国際開発センター主任研究員、東京経済大学助教授を経て、2007年より現職。財務省財務総合政策研究所客員研究員、ハーバード大学客員研究員、マサチューセッツ工科大学(MIT)客員教授、中国科学院特任教授を歴任。(中国)対外経済貿易大学客員教授、一般財団法人日本環境衛生センター客員研究員を兼任。

主な著書

『歩入雲時代 (Entering The Cloud Computing Era)』(人民出版社、2010年)、『中国経済論-崛起的机制与課題 (The Chinese Economy: Mechanism of its rapid growth)』(人民出版社、2008年)、『中国経済論-高度成長のメカニズムと課題』(日本経済評論社、2007年)、『メカトロニクス革命と新国際分業―現代世界経済におけるアジア工業化』(ミネルヴァ書房、1997年、第13回日本テレコム社会科学賞奨励賞を受賞)、『鼎―托起中国的大城市群(Megalopolis in China)』(世界知識出版社2004年)
主編『第三個三十年―再度大転型的中国(The Third Thirty Years: A New Direction for China)』(人民出版社、2010年)、『大転折―解読城市化与中国経済発展模式(The Transformation of Economic Development Model in China)』(世界知識出版社、2005年)、『城市化:中国現代化的主旋律 (Urbanization: Theme of China’s Modernization)』(湖南人民出版社、2001年)


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