第92回CRCC研究会(シンポジウム)「現代のシルクロード構想と中国の発展戦略」開催報告

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開催概要

日 時: 2016年02月22日(月)13:30 - 17:00(13:00開場・受付開始)

会 場: 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講演資料:下記プログラム欄に掲載

講演詳報:「現代のシルクロード構想と中国の発展戦略」 ( PDFファイル 5.29MB )

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中国の「一帯一路」構想の本質について論議

中国総合研究交流センター

 陸と海からアジアと欧州をつなぐ中国の壮大な「一帯一路」構想をテーマとした日中研究シンポジウム「現代のシルクロード構想と中国の発展戦略」が2月22日午後、東京・千代田区の科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホールで開催された。JST中国総合研究交流センター(CRCC)が主催したもので、東京大学大学院法学政治学研究科の高原明生教授と新潟県立大学大学院国際地域学研究科の山本吉宣教授が基調講演を行い、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の瀬口清之氏、立命館大学政策科学部の周瑋生教授、上智大学総合グローバル学部の渡辺紫乃准教授、津上工作室代表の津上俊哉氏、法政大学経営学部/大学院経営学研究科の李瑞雪氏らがパネルディスカッションに参加し、日本でも関心の高い「一帯一路」構想の本質などについて意見を交わした。

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李 瑞雪氏

 シンポジウムはこの日午後1時半にスタートし、高原教授がまず、「中国政治と一帯一路構想」と題して基調講演を行った。同教授はこの中で、同構想を打ち出した習近平政権について「強い危機感と使命感をもって腐敗運動を展開し、党内の引き締めを図っているが、官僚が萎縮するといった問題もでており、地方政府などの抵抗に遭っている」と指摘。また、経済についても「経済の減速が深刻化しており、閉塞感が中国の人たちの中に広がっている」と報告した。同教授はその上で「一帯一路」構想の動因について言及し、中国の過剰な生産や建設能力の解消や「国力の発展方向としては西に向かった方がいい」との考えがあると指摘。しかし、同構想に対する内外の期待が大きい半面、プロジェクトの採算性に対する懸念などもでてきており「概念そのものは数年で衰退する可能性がある」との見通しを明らかにした。

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高原 明生氏

 一方、山本教授は、政治学者としての立場から、「一帯一路構想とアジアの国際秩序」と題して基調講演を行い、中国側の狙いについて「欧州がアジア大陸の先の単なる半島となり、(中略)米国は遠くの島国という地位に追いやられ、大西洋と太平洋の波間に漂う存在となる」ことだとするフランスの研究者の見解を紹介しながらも、同構想には「マーシャル・プラン」的な要素があり、国際秩序をめぐっては相互作用も存在していると強調。ただ、「バラマキの政治には限界がある」とし、同構想が今後、「どうなっていくか注意深く観察し、対応していく必要がある」と語った。

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山本 吉宣氏

 シンポジウムはこのあと、パネルディスカッションに移り、瀬口氏が司会を務め、4人のパネリストから基調報告者に対する質問が行われ、感想も表明された。また、4人は与えられた10分間で「一帯一路」構想について発言。周教授はこの中で、文化的多様性や孔子学院の役割を強調した。渡辺准教授は同構想について「中身は過去の政策の延長である」と指摘し、「(この構想の中で)中国が日本をどう位置づけようとしているか、注目しておく必要がある」と表明した。また、津上氏は特にアジアインフラ投資銀行(AIIB)問題に触れ、「57カ国の参加は中国にとってうれしい誤算だったが、それと同時に、手前勝手な運営ができなくなった」などと述べ、最後に登壇した李教授は中国と欧州を結ぶ定期貨物列車の現状について報告し、「クロスボーダーのネット通販の急成長が同列車の追い風となっていると語った。シンポジウムには約120人が集まり、午後5時10分に終了した。

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瀬口 清之氏

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周 瑋生氏

変わるシルクロード構想 日本の積極的関与求める声も

 シンポジウムのパネルディスカッションでは、日中の専門家から「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)に対する評価と見通しについて、さまざまな意見が飛び交った。

 渡辺准教授は、「一帯一路」構想は従来からの政策の延長との見方を示した。1990年代以降、20年以上の実績を持つ対外援助の要素が強く、外資導入と海外への投資拡大を重視する「走出去政策」や、「西部大開発」に重なるところも多いという。

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渡辺 紫乃氏

 津上氏はまた、昨年暮れに発足したAIIBについて、そもそも一帯一路構想のためにつくられものではなく、さらに当初の触れ込みからだいぶ変わっている、との見方を示した。中国が半分以上出資するといった当初言われていたことは、中国の色が強すぎて疑問だったと述べながら、中国が自分勝手な運用はできなくなっている、と指摘した。同氏によると、AIIB設立の背景には、世界銀行や国際通貨基金(IMF)の改革案が米国の都合でつぶされるなど、米国に対する各国の不満がある。日本のマスメディアはこうした米国に対する不満を報じず、AIIBには厳しい目を注いでいるばかりかAIIBが変わったことも認識していない、と批判した。

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津上 俊哉氏

 津上氏はさらに、「AIIBは国際貢献に目的を切り替えざるを得なくなる」との見方を示し、「参加国が57にも増えたのは、中国にとっても想定外のうれしい誤算だった」とし、「自分勝手な運用はできず、資金不足に悩む世界銀行やアジア開発銀行との協調融資が半分以上になる可能性もある」と述べた。同氏はこのほか、一帯一路構想のため2014年末につくられたシルクロード基金も意外に手堅い運用になると予測。「大判振る舞いはいい加減にしてほしいとする国内投資家や納税者の不満の声がある」からで、AIIBもシルクロード基金も「角が取れて収まるところに収まる」とみる。

 一方、中国が「運命共同体」というナラティブ(物語)をうまく周辺国などに説明しているかについては、懐疑的な発言もあった。高原教授は、「一帯一路構想に対する海外の期待が盛り上がっているときに、針で風船を割るようなことをすると失望させる。上手な説明が必要だ。次の指導者が現れると前のスローガンは言われなくなるというこれまでのパターンが繰り返される可能性もある」と厳しい見方を示した。

 司会役の瀬口氏も「国際的によいことをしようということがナラティブとしてうまく伝わっていない」とパネルディスカッションの最後に語った。

 高原教授と共にパネルディスカッションにも加わった山本教授は、中国の進むべき方向として中国だけが独占的に使うのではなく、皆が使える公共財という側面を強く示すことを提案。海上と同様に、陸上でも通行の自由というルールを作っていくことを求めた。

 日本はどのように対応すべきか。津上氏は、アジア開発銀行や国際協力銀行、国際協力機構(JICA)が、AIIBと協力事業を実施し、2~3年後にAIIBについてあらためて判断することも考えてよい、と提言した。「一帯一路」構想を説明した地図には日本列島につながるルートは書かれていない。しかし、周教授は古代シルクロードの東の終点が平城京だったことを指摘した上で、かつてのように日本、韓国がこれから強力なパートナーとなる、との見通しを示した。また、「一帯一路」構想の根底に持続可能性と環境との調和があることを強調し、「東アジア低炭素共同体の構築」というエネルギー・環境分野を「重要でやりやすい協力テーマ」のひとつとして挙げた。

プログラム

13:30 - 13:40  主催者あいさつ

広瀬 研吉 中国総合研究交流センター副センター長

13:40 - 14:20  基調講演1「中国政治と一帯一路構想」

高原 明生 東京大学大学院法学政治学研究科教授
講演資料:「中国政治と一帯一路構想」( PDFファイル 188KB )

14:20 - 15:00  基調講演2「一帯一路構想とアジアの国際秩序」

山本 吉宣 新潟県立大学大学院国際地域学研究科教授
講演資料:「一帯一路構想とアジアの国際秩序」( PDFファイル 2.49MB )

15:00 - 15:20  休 憩

15:20 - 17:00  パネルディスカッション「現代のシルクロード構想と中国の発展戦略」

モデレータ:
瀬口 清之 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

パネリスト:
周 瑋生  立命館大学政策科学部教授
講演資料:「『一帯一路』と道」( PDFファイル 3.01MB )
渡辺 紫乃 上智大学総合グローバル学部准教授
講演資料:「『一帯一路』構想と 国際秩序への影響」( PDFファイル 105KB )
津上 俊哉 津上工作室代表
講演資料:「『現代のシルクロード構想と中国の発展戦略』へのコメント」( PDFファイル 188KB )
李 瑞雪  法政大学経営学部/大学院経営学研究科教授
講演資料:「現代版のシルクロード『中欧班列』の実態と意義」( PDFファイル 1.75MB )

登壇者紹介

 ■講演者

高原 明生 氏

高原 明生(たかはら あきお):
東京大学大学院法学政治学研究科教授

略 歴

 1981年東京大学法学部卒、英国サセックス大学にて博士号取得。立教大学教授等を経て2005年より現職。在中国日本大使館専門調査員、英国開発問題研究所理事、ハーバード大学訪問学者、ア ジア政経学会理事長、新日中友好21世紀委員会委員(日本側秘書長)、北京大学訪問学者、メルカトール中国研究所上級訪問学者などを歴任。東京財団上席研究員、日本国際問題研究所客員研究員、日 本国際フォーラム上席研究員などを兼任。

主な著書

『シリーズ中国近現代史⑤ 開発主義の時代へ1972-2014』(共著、岩波新書)、『東大塾 社会人のための現代中国講義』(共編、東京大学出版会)ほか。


山本 吉宣 氏

山本 吉宣(やまもと よしのぶ):
新潟県立大学大学院国際地域学研究科教授

略 歴

 1943年横浜市生まれ。1966年東京大学教養学部(国際関係論)卒業。1968年、同修士課程修了。1974年米国ミシガン大学政治学部博士課程修了(Ph.D. 政治学)。1 975年~89年埼玉大学教養学部(専任講師、助教授、教授)、89年~2004年東京大学教養学部教授、2004年~2011年青山学院大学国際政治経済学部教授、2011年~現在 政策研究大学院大学客員教授、2013年~現在 新潟県立大学教授。東京大学名誉教授、青山学院大学名誉教授、PHP総研・研究顧問

主な著書

「中国の台頭と国際秩序の観点から見た「一帯一路」」 PHP Policy Review vol.9-No.70 (2015年)、『国際地域学の展開』(共著、明石書店、2015年)、『日本の大戦略』(共著 PHP、2012年)、『国際政治から考える東アジア共同体』(共著、ミ ネルヴァ書房、2012年)、『国際レジームとガバナンス』(単著、有斐閣、2008年)、『「帝国」の国際政治学――冷戦後の国際システムとアメリカ』(単著、東信堂、2006年、第8回読売・吉野作造賞)、『 国際的相互依存』(単著、東京大学出版会、1989年)

 

 ■モデレータ

瀬口 清之 氏

瀬口 清之(せぐち きよゆき): 
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

略 歴

 1959年12月4日生まれ。1982年東京大学経済学部卒業後、日本銀行入行。1991年4月より在中国日本国大使館経済部書記官、帰国後1995年6月より約9年間、経済界渉外を担当、2004年9月、 米国ランド研究所にてInternational Visiting Fellowとして日米中3国間の政治・外交・経済関係について研究。2006年3月より北京事務所長。2009年3月末日本銀行退職後、同 年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹、杉並師範館塾長補佐(2011年3月閉塾)。2010年11月、アジアブリッジ(株)を設立。

 

 ■パネリスト

周 瑋生氏

周 瑋生(しゅう いせい): 
立命館大学政策科学部教授/立命館孔子学院名誉学院長/
一般社団法人国際3E研究院長

略 歴

 1960年生まれ。82年浙江大学工学部卒業、95年京都大学博士後期課程修了、工学博士号取得。専門はエネルギー環境政策学、政策工学。95年新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員、98年(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)主任研究員を経て、99年立命館大学法学部准教授,02年政策科学部教授に。これまでRITE研究顧問、立命館孔子学院初代学院長(現在名誉院長),立命館サステナビリティ学研究センター初代センター長、大阪大学サステナビリティ・サイエンス研究機構特任教授、東京大学大学院原子力国際専攻客員研究員、浙江大学等複数大学の客員教授等を歴任。

主な著書

「地球を救うシナリオ―CO2削減戦略」(共著 日刊工業新聞社)、「現代政策科学」(共著 岩波出版社)、「地球温暖化防止の課題と展望」(共著 法律文化社)、「都市・農村連携と低炭素社会のエコデザイン」(共著 技報堂出版)、「サステナビリティ学入門」(編著 法律文化出版社)、ほか多数


渡辺 紫乃氏

渡辺 紫乃(わたなべ しの): 
上智大学総合グローバル学部准教授

略 歴

 1994年東京大学経済学部卒業、2000年タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修了(M.A. in Law and Diplomacy取得)、2007年ヴァージニア大学大学院修了(Ph.D. in Foreign Affairs取得)。財団法人日本国際問題研究所研究員、埼玉大学教養学部准教授を経て2014年より現職。

主な著書(共著)・論文

『中国の対外援助』(日本経済評論社、2013年)、『中国の対韓半島政策』(御茶の水書房、2013年)、A Study of China’s Foreign Aid: An Asian Perspective (Palgrave Macmillan, 2013)、Foreign Aid Competition in Northeast Asia (Kumarian Press, 2012)、「中国の対外援助外交―国際開発援助レジームにとっての機会と挑戦―」『国際政治』172号、2013年、100-113頁、「中国のシルクロード経済圏構想の実態と背景」『東亜』573巻、2015年3月、30-38頁など。


津上 俊哉氏

津上 俊哉(つがみ としや): 
現代中国研究家/津上工作室代表

略 歴

 1957年生まれ、1980年東京大学卒業後、通商産業省に入省、在中国日本大使館参事官、北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員を歴任。2012年2月から現職。

主な著書

「中国台頭」、「中国台頭の終焉」、「「巨龍の苦闘」等


李春利 氏

李 瑞雪(り ずいせつ): 
法政大学経営学部/大学院経営学研究科教授

略 歴

 中国安徽省生まれ。1992年中国南京大学外国語学部日本語学科卒業、2004年名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了、学術博士学位取得。2004年富山大学経済学部講師、准教授を経て、2012年より法政大学経営学部教授、現在に至る。中国復旦大学現代物流研究センター 客員研究員、新潟産業大学大学院経済学研究科 非常勤講師、中国西南交通大学客員教授、米国ミズーリ大学セントルイス校 ビジネススクール客員研究員、中国瀋陽建築大学客員教授を歴任。

主な著書・共著

2001年『中国経済ハンドブック』全日出版(共著 李瑞雪 ・史念・袁小航)、2003年『中国経済ハンドブック2004』全日出版(共著 李瑞雪 ・史念・兪嶸)、『変る中国変らない中国』全日出版(共編著 櫻井龍彦・李瑞雪)、2014年『中国物流産業論-高度化の軌跡とメカニズム-』白桃書房、2015年『中国製造業の基盤形成-金型産業の発展メカニズム-』(共著 李瑞雪・天野倫文・金容度・行本勢基)白桃書房など多数。


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