第97回CRCC研究会「アメリカから見た中国」/講師:泉 裕泰(2016年9月28日開催)

「アメリカから見た中国」

開催日時:2016年9月28日(水)15:00-17:00

会  場:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師:泉 裕泰 外務省研修所長

講演資料:「 現下の中国をどう見るか」( PDFファイル 60KB )

講演詳報:「 第97回CRCC研究会 詳報」( PDFファイル 665KB )

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日米の影響力行使が重要 中国の健全な発展に

中国総合研究交流センター 小岩井忠道

 中国の内政外交に詳しく、米国の中国研究者とも幅広い交流経験を持つ泉裕泰外務省研究所長が9月28日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、米国の中国観、対中政策が激しく変化する理由を解説するとともに、中国の健全な発展のために日米両国が影響力を行使する必要を強調した。

 泉氏は、外務省中国課長などを挟み、在中国日本大使館参事官、上海総領事として北京と上海で7年間の勤務経験がある。その後、2013年から昨年4月まで2年半、在米日本大使館公使としてワシントンに滞在した。「アメリカから見た中国」と題したこの日の講演は、2年半の間にワシントンで活動する米国人中国研究者約200人と個別に意見交換した経験がたっぷり盛り込まれている。

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 氏が、まず強調したのは、米国の中国研究熱の高さ。ワシントンだけで、中国研究者とみなされる人間は300~400人に上るといわれ、日本研究者の数より一桁多い。中国研究の対象となっている範囲も、対中戦略、内政、外交、経済、エネルギー、通信から安全保障と広い分野にわたる。なぜ、ワシントンでこれほど中国研究の需要が大きいのか。「ワシントンにはシンクタンクが密集している。米国は2大政党による政権交代が繰り返されている国。シンクタンクで政策研究を進め、ポリティカルアポインティ(政治任用)で政権入りを狙う専門家が多い」と、泉氏は米国特有の背景があることを指摘した。

 一方、活発な中国研究者たちの活動に問題がないわけではない。米大統領の任期である4年あるいはその倍の8年程度の時間軸で国際情勢を見る研究者が多い、と氏はみる。「政策提言に熱心で実践的なアイデアは山のように出てくるが、近視眼的でもある」というわけだ。もう一つ、米国の中国研究者の特徴として、外から中国を見ている傾向が強い。日本の研究者の場合、外で起きていることからうちの状況を推測する、つまり内に原因を求め、外の状況を見るのが普通。米国の中国研究者にこのような見方を示すと、「エビデンス(証拠)は何か。単なる推測でしかないのでは」という反論が返ってくる。泉氏はこうした経験を紹介し、「米国人がエビデンスと言うのは、誰がどう話したかなど実際に起きたことの積み重ねであることが多い」との見方を示した。

 氏はさらに、「シンクタンク間を流れる風の影響」というワシントン特有の興味深い実態を紹介した。政界、ビジネス界からメディアも含めた横のつながりが緊密なワシントンでは、シンクタンク間の情報交換もとりわけ活発。変わった主張がある、という程度に当初、感じていたことがいつの間にか大きな声になり、あるとき、「回り舞台が回転するように、ガラッと論調が変わってしまうことが往々にしてある」と氏は表現した。

 氏が具体的に挙げたのが、ロシアのクリミア侵攻によって、尖閣諸島に関する米の対中警戒感が高まった事例。ワシントンにおける政策の変化の予兆を、シンクタンク間に吹く風から読むことも、在米日本大使館の重要な仕事だ、と氏は明かした。

 シンクタンクを拠点に活動する中国専門家たちとの交流の積み重ねから分かったこととして、泉氏はさらに、米国の中国研究者たちに対する中国政府の予想以上の浸透ぶりを指摘した。氏がまず明らかにしたのは、2013年の11月に開かれた中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(三中全会)に、米国の著名な中国研究者たちが招待されていたという事実。帰国後にこれら何人もの研究者たちから、「習近平国家主席は最強のリーダーになった」との同じような見方や言葉を氏は聞かされた。ワシントンを訪ねる中国政府の人たちも米国の中国研究者たちへの情報提供に熱心で、こうした働きかけの結果、研究者たちは中国政府の統一されたメッセージを信じ切ってしまう傾向がある、と氏は注意喚起した。

 南シナ海で中国政府がとっている行動を「習主席の強さの表れ」と見る米国の中国研究者たちも多い。しかし、こうした見方をうのみにせず、むしろ習主席の立場がまだ弱いからこうした行動を取らざるを得ないという見方も成り立つのであり、中国については一つの考え方に決めつけるのではなく、複眼的に柔軟な見方を維持することも重要…と氏は語った。

 日本は、これまで米国の対中政策の変化に翻弄されてきたが、これに関し、米国の対中国観・主張には四つの大きな見方があり、米国の政策はこの四つの見方のバランスの上に成り立っている、という興味深い考え方も泉氏は示した。四つとは「宣教師」「軍人」「商業人」「リバタリアン(孤立主義者)」たちによるそれぞれ特徴ある見方だ。これら特徴ある主張が、その時々の条件に応じ、現れたり、消えたりするのを繰り返してきたとして、その例を氏は詳しく紹介した。

 この中で氏が「最も日本として警戒が必要」としたのは、「リバタリアン」の主張。モンロー主義とも呼ばれる米国の伝統的な考え方の所有者たちで、外国に対し幻想も期待も持たず、警戒もしない特徴を持つ。共和党の大統領候補、トランプ氏の「同盟国にもっと負担させろ」といった主張につながる、と氏は指摘した。

 「中国は一体どこに向かおうとしているのか」。氏によると、ワシントンの中国研究者たちも含めて誰も読み切れていない。中国は長期的に政治体制改革によって国民国家の形成にかじを切らざるを得ないものの、その過程で、ナショナリズムの強く出た対外強硬路線や、中華帝国の復活を目指す可能性もなお排除されない、という自身の見通しを示した上で、泉氏は次のように講演を締めくくった。

 「地域における覇権国家の出現を避けつつ、中国国内における自由な市場を形成するなど、中国が今後、健全な発展をするために影響力を行使できるのは日米だけ。日本としては対米協調を重視しつつ、同時に中国との決定的な対立を避けながら、常に関係改善に努めることが大切だ」

(文・写真 CRCC編集部)

泉 裕泰

泉 裕泰(いずみ ひろやす)氏: 外務省研修所長

略歴

昭和55年10月 外務公務員採用上級試験合格
56年 3月 東京大学法学部第二類卒業
56年 4月 外務省入省
60年 6月 米カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究修士課程卒業
62年 7月 経済局 課長補佐
平成元年7月 大臣官房領事移住部邦人保護課邦人特別対策室首席事務官
3年 7月 アジア局中国課 首席事務官
5年 7月 大蔵事務官 主計局法規課課長補佐 
6年 7月 主計局主計官補佐         
8年 7月 外務事務官 在連合王国日本国大使館 参事官
10年 8月 在中華人民共和国日本国大使館 参事官
13年 4月 総合外交政策局国際社会協力部人権人道課長
15年 4月 大臣官房在外公館課長
16年 4月 アジア大洋州局中国課長
18年 8月 在中華人民共和国日本国大使館 公使
22年 8月 在上海日本国総領事館 総領事
25年 9月 在米国日本国大使館 特命全権公使
28年 4月 外務省研修所長


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