中国研究サロン「中国はどこへゆく」/講師:國分 良成(2013年12月11日開催)

演題:「中国はどこへゆく

開催日時・場所

2013年12月11日(水)16:00-17:40

独立行政法人科学技術振興機構(JST)
東京本部別館1Fホール

配布資料

下記レジュメ参照

習政権の軍依存3中全会で明確に 國分良成氏分析

小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 中国研究者の國分良成氏(防衛大学校長)が12月11日に開かれたアジア平和貢献センターと科学技術振興機構中国総合研究交流センター共催の研究会で講演し、「改革の全面的深化」を 打ち出した習近平政権が実際には、軍を初めとする改革開放政策に抵抗する既得権益層の意向を重視せざるを得ない難しい状況にある現状を解説した。米国との新しい大国関係を構築しようとする動きを明確にする中で、米 中間の摩擦が漸増する傾向にあることにも注意を喚起している。

 國分氏は、ネットを通じ国際的に飛び交う情報も参考にした一つの見方という前提で、習近平政権の発足から11月に開かれたばかりの第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の結果、さ らにはその直後に突然公表された防空識別圏の設定の背景などについて語った。

 昨年11月に共産党中央委員会総書記に選出された習氏に対しては、強固な基盤を持っているわけではないという指摘が、これまでにも出されている。國分氏によると、胡錦濤・前政権の常務委員だった周永康、曽 慶紅氏とその背後にいる江沢民・元国家主席らが次のトップにしたかったのは習氏ではない。その後失脚して訴追され、有罪(無期懲役)が確定している薄熙来・重慶市党委書記(当時)だった。薄氏は、部 下の亡命未遂事件がきっかけで昨年3月に重慶市党委書記を解任され、党除名、公職追放、訴追・有罪確定という道をたどる。

 薄氏失脚は、有罪判決で示された単純な理由によるとは考えにくい。昨年3月に薄氏の次期トップ就任を阻止する一種のクーデターが起きた、と考えられる。一方、胡錦濤・前党総書記・国家主席も、党 内の権力闘争の末「昨年8月に一挙に敗退」、「戦略的互恵関係」を重視していた胡政権の対日政策も変化し、尖閣諸島の国有化を急に問題にし出した。「台湾は日本が侵略して取ったのだから、返 還するときに尖閣諸島も返すべきだった」という江沢民政権時代の主張が息を吹き返した…と國分氏は分析している。

 氏によると、11月に開かれた18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で、習近平政権に変化が起きたことが読み取れる。根拠として氏が挙げたのは、会議後に発表されたコミュニケと「 改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」全文に見られる違い。決定全文の方は、「改革を実行しないと中国はやっていけない」という李克強首相の合理的な考えが貫かれている。こ れだけの内容を持つ決定を書き上げるには半年くらいかけたはずで、3中全会までは、李首相が主役の役割を果たしていたことが伺える。ところが、会議後に公表されたコミュニケは短い。その上、前 半は改革を言っているが、後半は国有企業が重視されていて、足並みがそろっていない。3中全会の間に会議の雰囲気が変わり、李克強ラインは急にしぼんでしまい、コミュニケも書き換えられた、と 考えるとすっきりする…という見方を國分氏は示した。

 人民解放軍について氏は、国有企業との結びつきなど腐敗を露骨に批判する声を中国人から聞いた話を披露した上で、「胡錦濤政権は、軍に全く手を付けられなかった」と厳しい評価を下している。気 になる点として、習近平氏と軍との相互依存関係を挙げた。習氏は軍への出入りが多く、他方、軍の側も、習政権が今年2月に節約と経費の透明化を求める指令を出したことで危機感を募らせ、習 氏に近づいている現実を指摘している。コミュニケ後半で強く出ている国有企業を守る姿勢も「軍産複合体を重視したという感じがする」と語った。

 もう一つ3中全会の前後で大きく変化したこととして氏が挙げたのは、米中関係。防空識別圏の設定は「一言で言うと米国の防衛ラインに対するチャレンジ」と語り、イラン問題で中国、シ リア問題ではロシアが大きな役割を果たすなど、米国の動きがにぶっている現状をにらんでの行動、との見方を示した。その背景として、空軍が力をつけ、鄧 小平氏に始まる海軍重視から空軍も重視する新たな時代に中国が入っている現実も挙げた。

 結局、習政権は、政治的強健化を進める中で、本当に経済改革ができるか、という課題に直面している。腐敗の根源に踏み込まないと、内需拡大と所得の再分配という長期的課題は解決できない。日 中が昔のような友好関係に戻るのは難しくなっている。第1次安倍内閣当時、胡錦濤国家主席は安倍晋三首相と戦略的互恵関係重視で合意し、歴史問題を棚上げした。習近平氏もこの2、3 月までは戦略的互恵という言葉を使っていた。しかし、既得権益層からの圧力も相当あり、今揺れているのではないか…。國分氏は、このように語り、習政権が難しい状況にあることをさまざまな観点から指摘した。 

國分 良成

國分 良成(こくぶん りょうせい)氏:
防衛大学校長、法学博士

略歴

昭和51年 慶應義塾大学法学部政治学科卒業
昭和56年 慶應義塾大学大学院政治学専攻博士課程修了
昭和56年 慶應義塾大学法学部専任講師 
昭和57年 ハーバード大学フェアバンクセンター客員研究員
昭和58年 ミシガン大学中国研究センター客員研究員
昭和60年 慶應義塾大学法学部助教授
昭和62年 中国・復旦大学国際政治学部客員研究員
平成 4年 慶應義塾大学法学部教授
平成 9年 北京大学政治学行政管理学部客員研究員
平成10年 台湾大学法学院客員研究員
平成11年 慶應義塾大学地域研究センター(現 東アジア研究所)所長
平成15年  慶應義塾大学東アジア研究所所長(~19年9月)
平成19年 慶應義塾大学法学部長兼大学院法学研究科委員長(~23年9月)
平成24年 現 職

編著書に『中国は、いま』『現代中国の政治と官僚制』など。

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レジュメ(当日配布資料)

中国はどこへゆく

はじめに

  • 中国共産党第18期3中全会の意味(経済改革推進、政治的集権化、国家安全委員会・・・)
  • 政治/経済/外交のバランス
  • 内政と外交=日中関係
  • 防空識別圏(ADIZ)設定の意味と背景

中国の内政―権力構造と政治経済学

  • 薄熙来事件・裁判をめぐって
  • 薄熙来=周永康、李長春、劉雲山=江沢民・曽慶紅 × 汪洋=李源潮=李克強=胡錦濤
  • 習近平/李克強体制:権力的脆弱性(江沢民派の優位?)、曖昧な政策目標=「中国の夢」
  • 社会主義市場経済(1992年~)の限界:既得権益層(党=政府=軍=国有企業)の抵抗
  • 減速傾向:世界不況、輸出不振、バブル、不良債権、賃上げ、雇用圧力、環境汚染、政治腐敗
  • リコノミクス(李克強)の見方:金融引き締め策、上海自由貿易区・・・
  • 不可欠な内需拡大と所得再分配=税制改革+市場・資本の自由化・透明化=政治改革
  • 処方箋としての投資依存+ナショナリズム依存・・・「中華民族の偉大な復興」(江沢民時代~)
  • 党内保守派の台頭(宣伝・治安・軍・国有企業・・・・)
  • 政治的強権化/経済改革推進のバランスは可能か

中国の外交―「新型の大国関係」の検証

  • 「新型の大国関係」:対米のみの「韜光養晦」、実質的G2志向、鄧小平路線からの離脱
  • 米中摩擦の漸増傾向、相互不信の漸増、しかし当面は両国ともに経済再生が主要矛盾
  • 「中華民族の偉大な復興」・・・台湾問題との関連・・・馬英九政権の離反
  • 中朝関係の可変性と不変性、「議長国」としてのジレンマ
  • 周辺諸国との摩擦の増大(ASEAN、ロシア、インド、モンゴル・・)
  • 大国主義志向と対米偏重の課題:海洋進出+軍事近代化=「責任ある大国」は可能か?

日中関係―「戦略的互恵関係」はどうなるか

  • 胡錦濤指導部と習近平指導部との違い:明確な対日強硬=党内保守派の強烈な圧力?
  • 戦略的互恵関係(2006年~)の意味と現在的位相:歴史と台湾、尖閣の歴史問題化
  • 江沢民時代への逆戻り:連合国側論理の強調、対米協調、日清戦争=侵略=台湾の構図
  • 『人民日報』連載の琉球・沖縄関連記事の意味と限界
  • 日本の立場:領有権問題は存在せず=暴力容認せず、国による購入=現状変更でなく現状安定
  • 偶発事件の回避・極小化、首脳・安保・有識者対話、海上連絡メカニズム・・・長期化の可能性?
  • 政治/経済ヘッジの模索=日米同盟強化+α+法整備、経済重点の多角化・移動
  • 防空識別圏問題:新たなステージに入った日中関係―engagement or hedge

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