【17-04】世界に波及・中国人の大型連休

2017年11月21日

青樹 明子

青樹 明子(あおき あきこ)氏: ノンフィクション作家、
中国ラジオ番組プロデューサー、日中友好会館理事

略歴

早稲田大学第一文学部卒業。同大学院アジア太平洋研究科修了。
大学卒業後、テレビ構成作家、舞台等の脚本家を経て、ノンフィクション・ライターとして世界数十カ国を取材。
1998年より中国国際放送局にて北京向け日本語放送パーソナリティを務める。2005年より広東ラジオ「東京流行音楽」・2006年より北京人民ラジオ・外 国語チャンネルにて<東京音楽広場><日本語・Go!Go!塾>の番組制作・アンカー・パーソナリティー。
日経新聞・中文サイト エッセイ連載中
サンケイ・ビジネスアイ エッセイ連載中
近著に『中国人の頭の中』(新潮新書)

主な著作

「<小皇帝>世代の中国」(新潮新書)、「北京で学生生活をもう一度」(新潮社)、「日本の名前をください 北京放送の1000日」(新潮社)、「日中ビジネス摩擦」(新潮新書)、「中国人の財布の中身」(詩想社新書)、「中国人の頭の中」(新潮新書)、翻訳「上海、か たつむりの家」 

 10月初旬の昼下がり、中国の友人に買い物を頼まれて新宿のドラッグストアに行った。

 すでに珍しくない光景なのだろうが、それでもやっぱり驚いてしまう。

 店内にいた客はほとんどが中国人である。対応する店員も中国人で、レジを見ると10m以上、会計待ちの客が並んでいるが、使用言語からすると、ほとんどが中国人である。足元には商品が満載のカゴが二つ三つ置かれ、免税処理をすれば一人10分以上はかかるだろう。

 そして困ったことに、私が頼まれた商品のところだけ何故か空洞化していた。同じような商品は普通に並んでいるのに、目的の品だけがひとつとして残っていない。在庫なしである。店長さんいわく「何故だかわかりませんが、この品は中国の方が必ず買われるので」

 どうしよう…と悩む私に、店長さんが突然ひらめいた。

 「数日前にオープンしたばかりの店舗が近くにあります。まだホームページも出来てないので、お客様はあまりご存知ありません」

 「ということは、中国の方々も知らないってことですか」

 「ネットに上がってないので多分ご存知ないと思います」

 走ってたどり着いた新店舗、探していた商品をようやく入手することができた。

 中国の大型連休は年に二回ある。国慶節と春節・旧正月である。この時期、中国で人気の商品は品薄になるので、中国の方から頼まれた買い物は、避けた方が賢明である。

連休中何を見た?「人」
どんな山を見た?「人の山」
どんな海を見た?「人の海」

 ジョークのようだが、ジョークではない。中国人の連休とは、概ねこんなものだ。

 そして今年の国慶節休みは、もっと拍車がかかった。国慶節と中秋節が重なったため、10月1日から8日まで、休みが8日間という史上最長の“超大型連休”となったのである。

 休暇終了後、国家旅游局はじめ、各部門でこの“超大型連休”に関する各種データが発表された。その数字を概観していくと、現代中国人の断片が見えてくる。

 まずは、移動の規模である。

 国家旅游局が10月8日に発表した数字によると、連休中中国国内を旅行した人はのべで7億500万人、国内の観光収入は5836億元(約9兆8500億円)で、前年比それぞれ11.9%と13.9%の伸びである。1999年はのべ2800万人だったのに比べ、20年足らずで約25倍までに膨張した。

 では、その約7億人は、どういう手段で移動したのだろう。中央電視台・CCTVの特集番組によると、以下の通りである。(国家旅游局研究院より)

自家用車を使って運転した人 49.8%
飛行機を使った人 22.2%
公共交通で移動した人 12.3%
自転車 0.6%

 約半数が自家用車で旅行したというのも驚く数字だが、これには、3つの困難がつきまとう。駐車場が少ない・駐車料金が高い・道路の渋滞である。以前トップだったトイレの問題は、今ではほとんど解決されていると言う。

 そして国内旅行の人気先は北京・上海・深圳で、10月2日午後1時、北京の故宮博物館では、ネット予約チケット8万枚が完売になった。これはネット販売が始まって以来、初めてのことだったという。

 北京市旅游委員会によると、10月8日午後2時までの数値で、北京163か所の観光名所には、のべで1360万人が訪れ、観光収入は4.6億元(約77.7億円)に達したという。

 10月18日に開幕した党大会の影響もあり、いわゆる“紅色旅行”も人気を集めた。四川省の鄧小平寓居、朱徳の故郷、巴山遊撃隊記念館などでは、のべ104.43万人、革命聖地井岡山には約10万人が訪れた。北京の“愛国基地”などでは、国慶節前の一週間で、すでに80万人を突破していたという。

 驚愕の数字はまだまだ続く。

 旅行会社・同程旅游の調査によると、国内外問わず、買い物など旅行先で費やす金額は、一人当たり5000元(約8万4000円)を突破した。支出した額の多い地域の上位10位の平均値を見ると、一人当たり8000元(約13万5000円)を超えている。最も支出額の多いのは成都市なのだそうだ。

 大都市というより、地方都市の人々の消費額の高さが特徴的で、今後地方都市の人々が中国人の旅行市場の主力となっていく可能性が高い。

 国慶節連休中、いずれかに出かけた人の年齢層を見ると、26歳から35歳が主体である。彼らは、若いパパかママ、もしくは大人になった“子供”という役割で、中国人の連休は、家族旅行というのが主流である。(途牛旅游網《2017十一黄金周旅游消费报告》10月8日発表)

 中国版LINE・微信には「紅包」という機能がある。ラッキーマネーと訳されているようだが、祭日などに配るお小遣いのようなものである。

 連休中の中秋節の一日、微信紅包でやり取りされた額は63億元に達したという。(10月8日 微信《国庆假期微信大数据报告》)

 旅行の形態にも変化の兆しが見える。

 これまでは、住んでいる地域から遠出するのが“旅行”だった。その固定観念も取り除かれつつある。

 旅行会社などが発表したところによると、今回の連休で特に目立ったのが、国内旅行の伸びである。昨年の同時期に比べて101%の増加率で、しかも単なる観光ではなく、“異なる場所に行って、その土地の生活を体験してみる”というのが目的になっている。中国語で言うところの“度假”で、これまでの“時間を惜しんで、一箇所でも多くの場所を観光し、“買って買って買いまくる(买买买)ものから、心身ともにリラックスするのが目的の旅行へと、大きく変化しているようだ。

 文化・エンターテインメント方面への消費も増加している。今年は特に、観劇、美術展・芸術展へ出かける人々の多さが目立つ連休でもあった。

 中国は、ハリウッドが今最も意識する世界最大の映画市場でもある。中国の映画市場は、連休中に記録を塗り替えた。

 国慶節期間中、12作品が中国国内で公開されたが、興行収入は総額26.8億元(452.5億円)にのぼり、なかでも<羞羞的铁拳・英語名Never Say Die>は13.2億元を記録したという。

 国慶節、春節などの大型連休は、飲食業界で最大の繁忙期である。結婚式、親族・友人との食事会など、人気の店ともなると、これまでは席の確保が難しく、頭の痛い問題だった。

 それもこの連休で大きく変化する。

 何週間も前から予約しなくてもいい、また何時間も店先で並ばなくてもいい、新しい方式が完全に普及した。

 北京、上海などの大都市には、あらゆる有名どころのレストランが店舗展開しているが、スマホなど、ネットで注文するだけで、お店と同じ料理を自宅まで運んでくれる。大きなレストランにとって、席の予約云々はすでに過去の方式なのだそうだ。

 大手スーパーのデリカも同様である。某大手スーパーでは、国慶節期間中のデリバリー率は、休暇前に比べて20%増加したという。

 国内旅行が新たな潮流といっても、もちろん海外旅行熱が冷めたわけではない。連休中、海外に出かけた人はやはり多く、のべ600万人である。国内300の都市から出国し、88の国と地域へ向かい、1155の街を訪れた。人気の旅行先は、欧米、香港・マカオ、日本、シンガポール等である。

 中国版LINE・微信が発表したところによると、連休中、最も多く海外旅行に出かけたのは、上海・北京・深圳の人々である。

 また海外旅行に出かける人が、今回特に増えた都市は、広西壮族自治区の崇左市で、前年度比338%増。次いでタイ族自治州・西双版納で同277%増、徳宏タイ族チンポー族自治州255%増となっている。

 海外旅行熱は、中国の地方都市にまで広がり、今後訪日中国人旅行客も、地方都市からの人々が主流となる。

人気の海外旅行先を見てみると、年齢層で大きく変化している。
90年代生まれの若者たちが好む旅行先は、香港・アメリカ・日本である。
80年代生まれは、香港・タイ・日本。
70年代生まれは、香港・アメリカ・マカオとなっている。
(微信より)

 海外旅行の様式も変わってきた。

 これまで海外旅行といえば、やはり爆買いだった。それが今年は異変が起きている。“高級ホテルに泊まらず、最高級のものを買う”といった旅行形態が大きく変化し、アメリカでスポーツ観戦をして、フランスでは美術館めぐり、日本では温泉体験をする。学習して充電する旅行である。専門家はこれを「旅行が成熟した」とみなしている。

 爆買いは終わった、と日本のメディアが報じるが、それは中国経済が失速したためではない。中国人が海外旅行に対して冷静になったからだと言っていい。

 今や中国人の国慶節は、世界中の国々の国慶節と化した。10月4日、N.Yのインペリアルタワーでは、中秋節のライトアップがなされ、パリや東京でも国慶節を祝う中国語の看板が掲げられた。

 それだけではない。世界中の国々で、中国人向けにモバイル決済が推し進められていて、今年は世界30か国でアリペイが使用できるようになった。昨年は16か国だったのに比べ、約2倍である。

 このように、大型連休中のたびに、中国人の新たなデータが更新されていく。

 そして、中国の新しい流れは、そのまま世界にも波及し、色々な数字を塗り替えていることも、否めない事実である。変化する彼らの行動様式を理解し、対応していくことが大切なのは言うまでもない。


(人民元の円換算は11月20日のレート1円=16.883500円で計算)


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