【07-001】北京の雷雨で体験した中国の気象情報

2007年8月 9日〈JST北京事務所快報〉 File No.07-001


 7月30日~8月 1日の夜、北京は何回も激しい雷雨に襲われた。特に8月 1日の雷雨では、1時間に118ミリに達する豪雨になった地域もあったそうだ。年 間降水量が600~700ミリ程度しかない北京地方においては、1時間に100ミリを超える雨はとんでもない暴雨である。しかも、北京の市街地は大平原の一角にあるので、一部地域では排水が追いつかず、陸 橋をくぐる道路など周りより低くなっているところでは2mにも達する深さで道路が冠水し、車が水に沈んでしまったところもあった。

 北京で、夏の、ちょうど日本の梅雨が終わる今頃に雷を伴った豪雨が降るのは毎年のことだが、他の世界の都市と同様に、北京でも最近は雨の降り方が年々激しくなってきており、道 路などを作った時には想定していなかったような降り方の豪雨も起きるようになってきているようだ。

8月 1日、北京市気象局は暴雨警報、雷雨警報を出していたのだが、多くの人はそれを知らなかった。翌日の新聞を見て「あぁ、気象局は警報を出していたんだ。」と知ったのだ。このことについて、8月 3日付けの北京の大衆紙「新京報」は、これでいいのか、という観点からいくつかの記事を掲載している。

まず、時事評論のページの「北京論壇」という欄に、北京のある学者が自分の経験を書いている。

(参考1)「新京報」2007年8月 3日付け
「暴雨の中で人々はどのようにしたらよいのか」
http://comment.thebeijingnews.com/0733/2007/08-03/011@012248.htm

8月 1日(水)の夜、雷を伴った豪雨が降っていた頃、車に乗って移動中だった彼は、大渋滞に巻き込まれた。彼はこんな大雨になるとは知らなかった。彼は、大雨が来る1~2時間くらい前に「 不必要な人は外出を控えるように」といった注意が広く行き渡っていればよかったのに、と思った。車の中で、彼は「きっとどこかで生放送の情報を流しているだろう」と思ってラジオのダイヤルを回したが、「 ○○付近では道路が冠水しているので、ほかの道路を通るように」とか「あと1、2時間で雨は小やみになるので、しばらくはどこかで停車して待った方がよい」な どという彼が聞きたいと思う情報を流しているラジオ局はどこにもなかった。彼は「幸い今回は一人の死者も出なかったけれど、今回の大雨は、北 京には豪雨が降ると道路が冠水して相当な水深になるところがあることがわかった。そもそも都市の中で、大雨が降って交通の要所に水が溜まってしまうような状態になるのは、大雨の問題ではなく人災である。」と 指摘している。

一方、別の記事では、気象局が出した警報が一般市民にうまく伝わらなかったことについて、問題を提起している。

(参考2)「新京報」2007年8月 3日付け
「気象警報の提供は、完全に無料にすべき」
http://news.thebeijingnews.com/0554/2007/08-03/011@280827.htm

※このページの写真を見ると、陸橋をくぐる部分の道路の冠水の深さがいかに深いかがわかる。バスも沈んでしまうほどの深さである。

この記事の中では、気象局はちゃんとそれなりに正確な警報は出しているのに、それが市民に伝わらず、多くの市民は翌日の新聞で警報が出ていたことを知った、ということが指摘されている。私も8月 1日の夜、大雨が降っていた時間帯、ずっとパソコンに向かっていたが、少なくともインターネット上の人民日報や新華社のページでは、大雨の警報の類は流れていなかった。また、私 はそれほど多くの時間テレビを見る方ではないが、中国のテレビの画面に「北京に大雨警報発令中」といった臨時のテロップが流れているのを見たことはない。

なお、この記事のタイトルは、「いくつかの機関では、有料で気象情報を提供しているところもあるが、気象警報の類は無料にすべき、と気象局の予測防災局長は語った。」という記事の内容から来ている。気 象警報の類をテレビやラジオでリアルタイムに放送しないことの原因が、気象情報が有料で提供されていることにあるのかどうかは私は知らない。しかし、気 象局が出している警報がリアルタイムで一般庶民に届いていない、ということだけは事実のようだ。

中国のテレビや新聞に出る天気予報には、通常、低気圧、高気圧、等圧線、前線などが描かれた天気図が登場しないので、見ていても、今後、天気がどうなるのか自分では全く判断することができない。中 国のテレビや新聞の天気予報に天気図が登場しない理由は、「一般庶民には『低気圧』『高気圧』『前線』と言ってもわからないので、天気図を出しても意味がない」という考え方と「 気象情報は国家機密の一部なのでなるべく公表しないようにしているのだ」という考え方とがあるが、どちらが正しいのかはわからない。なお、気象情報の一部は国家秘密保護法の対象になりうる情報である、と いうことは、国家気象法の中に規定されているひとつの事実である。

※「中華人民共和国気象法」
第18条:基本気象観測資料以外の気象観測資料は秘密保持をする必要がある。その秘密の階級の確定、変更及び秘密解除と使用は「中華人民共和国国家秘密保護法」の規定に基づいて行う。

(参考3)中国国家気象局のホームページにある「中華人民共和国気象法」
http://www.cma.gov.cn/root7/auto13139/201612/t20161213_349478.html

なお、夏の雷雨のような短期的な集中豪雨に関しては、気象レーダー画面が非常に役に立つ。日本には国土交通省の防災情報提供センターのサイトにあるリアルタイムレーダーなど、い くつかの気象レーダーのサイトがある。

(参考4)日本の国道交通省の防災情報提供センター「リアルタイムレーダー」
http://www.jma.go.jp/jp/contents/index.html

中国の国家気象局にもレーダー画面が見られるサイトがある。

(参考5)中国気象局レーダー組み合わせ図
http://www.weather.com.cn/radar/
(このサイトの上にある「全国」「東北」「華北」「西北」「華南」という地区を選ぶとそれぞれのレーダー画面を見ることができる)

このサイトでは「基本反射率」「組み合わせ反射率」「液体水含量」「一時間降水量」「ドプラー速度」の各レーダー画面を見ることができるが、いつも全ての情報が見られるわけではなく、見 られる時と見られない時がある。欠けている時間帯もある。最近、雷雨の季節になって、見られる画面の種類と時間帯が多くなったように感じるが、以前は「基本反射率」の画面しか見られず、こ の図面の意味が私にはよくわからなかったので、あまり役には立たなかった。やはり私には「一時間降水量」が一番わかりやすい。「播放」というところをクリックすると、1 2時間くらい前の画面からアニメーションで見ることができる。

ただし、この中国気象局のレーダー画面は、必ずしも「リアルタイム」ではないようで、この文章を書いている今=北京時間8月 3日21時20分=現在見られる「華北地区」の「一時間降水量」の レーダー画面は8月 3日17:00のものが「最新」である。この4時間20分という時間差が、レーダーデータの解析に必要な時間なのかどうかは、私にはわからない。しかし、4 時間20分前のデータしかないのでは、一般市民が雷雨の予想に使う、という意味ではほとんど役に立たないと思う。

日本の国土交通省防災情報提供センターの「リアルタイムレーダー」は、10分ごとに更新される(日本時間8月 3日22:26分現在見えているレーダー画面は22:10現在のものである)。

インターネットで気象レーダー画面が見られるサイトは、私の経験では1999年の時点では、アメリカでは日常的に使っていたが、日本にはなかった。

(参考6)アメリカのレーダー画面サイトのひとつ
「ウェザー・チャンネル」のドプラーレーダーのサイト
http://www.weather.com/maps/maptype/dopplerradarusnational/index_large.html

日本の国土交通省防災情報提供センターが開設されたのは、このサイトのF&Qによると2003年6月12日だそうだ。中国のレーダー画面を見ればわかるように、中国は国土が広いので、ま だレーダーでカバーしきれていない地域がある。もし中国のインターネット上のレーダー画面に日本やアメリカのようなリアルタイム性がない理由が、まだ技術的にそこまで行っていないからなのだったとしても、中 国の広大な国土を考えると、やむを得ない部分があると思う。日本もアメリカよりは4年以上遅れていたわけだから。ただし、中国のレーダー画面が日本やアメリカほどのリアルタイム性がない理由が、リ アルタイムにレーダー画面を解析する技術がないからなのか、国家秘密保護上の観点からリアルタイム・データを出していないからのか、その辺はよくわからない。

技術的な理由なのか、別の理由なのかはわからないにせよ、現在、中 国の人民が雷雨が来そうな夏にインターネットで日本やアメリカの国民と同じレベルで気象レーダーの画面をリアルタイムで見ることはできていないし、テ レビやラジオでリアルタイムで雷雨に関する警報を受け取ることもできていない、というのは事実である。理由はともかく、今、北京で生活している私としては、雷雨による豪雨がいつ頃来そうなのか、といった情報は、で きるだけリアルタイムで欲しいものだ、と思っている(2007年8月 3日記す)。

(以下、2007年8月 7日追記)

上記の文章を書いた後、8月 6日午後、北京はまた集中豪雨に見舞われた。立体交差の陸橋の下をくぐる部分のある道路の一部では、また道路が冠水し、一時的に交通が遮断された。

(参考7)「新京報」2007年8月 7日付け記事
「暴雨来襲、安華橋で冠水」
http://news.thebeijingnews.com/0554/2007/08-07/018@281791.htm

上記の8月 7日付けの「新京報」の記事によると、北三環路の安華橋の交差点では、最大1.7mの深さに冠水し、排水作業に4時間掛かった、とのことである。ち ょうど夕方のラッシュ時間に当たったため、激しい交通渋滞が起こったが、今回はラジオやテレビなどで降雨の状況や交通情報などが流された。私も帰宅時に車の中でラジオの交通情報、気象情報を聞いた。ただ、多 くの人が注目していると考えたからなのか、いつもよりコマーシャルの数が多かったように思った。知りたい情報が伝えられるまで長々とCMを聞かされ続けたのにはかなりイライラした。

上記の記事によると、以前は安華橋の陸橋では集中豪雨でこれほどの冠水が起きたことはなかったとのことで、今 回水が溜まってしまったのは排水管の目詰まりなどあったからではないかと考えられることから、道路管理当局では、点検を行い、必要があれば排水設備の改造工事を実施する考えとのことである。

8月 6日の集中豪雨が降っていた時間帯には、インターネット上で中国気象局のレーダーサイトで約50分前に観測された「一時間降水量」のレーダー画面を見ることができた。「リアルタイム」と いうところまでは行っていないが、直近の周辺の降雨状況を見ることができるのは、防災上非常に重要だと私は思う。

以上、8月 6日午後の状況は交通渋滞という意味ではひどかったが、情報提供などの点では8月 1日夜の状況よりはかなり改善されていた印象を受けたので、追記させていただいた。
 

(注:タイトルの「快報」は中国語では「新聞号外」「速報」の意味)
(JST北京事務所長 渡辺格 記)
※この文章の感想・意見に係る部分は、渡辺個人のものである。

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