【07-005】中国の科学技術関連法律の最近の動向

2007年9月5日〈JST北京事務所快報〉 File No.07-005

 8月24日~8月30日に中国の第10期全国人民代表大会常務委員会第29回会議が開催されて、いくつかの重要法案が可決成立した。最近、中国の経済社会に大きな影響を及ぼす重要な法律が次々に成立して、> 中国の改革も法制度的にもだんだんに整備されてきつつあるとの印象を強く持つが、今回は特に科学技術に関連する可能性のある重要な法律の状況についてまとめてみた。なお、下記の文章は、あ くまで法律の概要を御紹介するためのものであり、法律の解釈はあくまで法律の規定そのものに依っていただく必要があることと、そ れぞれの法律に関する判断は読者の責任において行っていただく必要があることを申し添えておく。

(注)中国には立法機関として全国人民代表大会(中国語の略称は「全国人大」であるが、日本のマスコミでは通常「全人大」と略称される)がある。法律は、この全人大で決められるが、通常、毎 年3月に全体会議があるほか、少人数の委員からなる常務委員会が数か月に一度程度開かれ、審議・採決が行われる。中国は1院制なので、全人大での「可決」は即ち法律の「成立」を意味する。正式には、常 務委員会で採決された法律は、次の機会の全体会議で承認されることになるが、全体会議での承認手続きを経る前に施行される法律もあるので注意を要する。

【既に成立した法律】

  • 物件法

     第10期全国人民代表大会第5回大会(全体会議)(2007年3月)で可決成立。2007年10月 1日から施行。土地や建物などの不動産などに対する所有権等の権利について規定した法律。中 国は社会主義国なので、個人や法人による土地の所有は認められず、土地は国有または村などのような集団所有であるが、土地の「使用権」は賃貸、売買ができる。「物件法」は、そ ういったことも含めて所有権等の権利について法律上明確に規定した法律で、経済活動の根本に法律的根拠を与える重要な法律である。

     科学技術との関連では、特許権、著作権等の知的財産権を質権として設定できることが規定されたことが挙げられる(第223条)。

  • 労働契約法(中国語では「労働合同法」)

     第10期全国人民代表大会第28回常務委員会(2007年6月)で可決成立。2008年1月 1日から施行。労働者の権利を保障するための法律で、雇 用契約の締結または重大な変更は労働組合との協議を経て行わなければならないこと(第4条)、期 限付き契約で同じ労働者を繰り返し契約を更新して雇用する場合はその労働者が希望する場合には3回目の更新時には期限なしの契約に切り替えなければならないこと(第14条)、などが規定されている。この法律は、外 国系企業も含め企業の労働者管理のあり方を大きく変えることになる可能性がある。直接科学技術に関連する規定があるわけではないが、外資系企業の経営形態が変わることにより、中国に進出する企業のあり方を変え、ひ いては外資系企業から中国国内への技術移転のあり方に対しても間接的に影響を与える可能性がある。


     
  • 独占禁止法(中国語では「反壟断法」)

     第10期全国人民代表大会第29回常務委員会(2007年8月)で可決成立。2008年8月 1日から施行。

     社会主義の原則に基づくコントロールと市場の独占を禁止する市場経済の原則とのバランスをどう取るか、は難しい問題であるが、そのバランスの取り方に法律的基準を設けたのがこの「独占禁止法」である。資 本主義社会においても、知的財産権や知的ノウハウに基づいて市場をリードすることは、独占禁止法との間に微妙な緊張関係を生じさせることがある。

    (参考1)
    日本の公正取引委員会の所管法令・ガイドラインのページ
    http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/index.html


    の中にある「共同研究開発の独占禁止法上の指針」「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」など参照

     中国の独占禁止法が具体的にどのように運用されていくのかはまだよくわからないところもあるが、基本となる法律ができた、ということの意味は大きいと考えられる。チャイナ・デ ィリーの8月31日付け記事では、外国系企業が中国の国有企業を買収するような場合は、国家安全保護の観点から関係機関の許可を要するようになる、と指摘している。この記事では、有 名ブランドを持つ中国の国有企業を外国企業が買収することについての懸念が最近出てきている、と、その背景を説明している。そのようなこの法律ができた背景を踏まえて、独占禁止法が、優 良な知的財産権を持った中国国有企業が外国企業に買収されることを防ぐために適用されるのではないか、との懸念を持つ外国企業関係者もいる。

    (参考2)「チャイナ・ディリー」2007年8月31日付け記事
    “Landmark anti-monopoly law passed”
    http://www.chinadaily.com.cn/bizchina/2007-08/31/content_6071135.htm

【審議中の法律案】

  • 科学技術進歩法(改正草案)

     中国には現在1993年にできた「科学技術進歩法」があるが、経済社会の発展に伴い、これを大幅に改正しようという動きがあり、現在その「改正草案」が議論されている。この「改正草案」では、「 国の資金によって行われた研究開発で得られた知的財産権は、国防、国家安全及び重大な社会公共利益に関するもの以外のものは、研究開発が適法に行われたものである限り、研究開発実施者に与えられる」(「 中国版バイドール法」とも言うべき規定)といった規定や「海外にいる優れた研究者が帰国して研究に従事する場合は、戸籍制度の制限を受けないこととする(注:中国では、農村戸籍、非農村戸籍の区別があり、農 村戸籍を持つ者は原則として都市部で定職につくことができない)など、科学技術活動に大きな影響を与える可能性のある規定が盛り込まれている。ただし、この「改正法案」は、8 月30日に終了した第10期全国人民代表大会常務委員会第29回会議では、審議はされたが採決はされず、継続して審議が行われることになった。

(注:タイトルの「快報」は中国語では「新聞号外」「速報」の意味)
(JST北京事務所長 渡辺格 記)
※この文章の感想・意見に係る部分は、渡辺個人のものである。

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