【07-107】中国の学術機関の基礎研究力ベスト20

寺岡 伸章(中国総合研究センター シニアフェロー)  2007年11月20日

 中国人は米国人に似て、ランキングが好きである。中国では大学ランキングが花盛りで、色々な機関が独自の基準で発表している。どれを見ても大きな違いはないが、上位に来るように“特別の配慮”を してもらっている大学もあるという噂も聞く。 

さて、私も自然科学分野での学術機関のベスト20を探ろうとしたのがこのリポートである。但し、公平性と透明性を明確にするために、評価基準を最初に明らかにしておく。

  1. 有名か無名かには一切とらわれない。
  2. 研究費の額、院士の人数、キャンパスの広さ、留学生の数、長江学者の数などは研究成果と関係がないので採点の対象からはずした。
  3. 世界レベルの基礎研究成果がどうかで判断する。具体的には、サイエンス、ネーチャー等への掲載論文数、基礎研究成果10大ニュースの選考、国家重点実験室 の評価等を点数化し、そ れを合計して上位20の学術機関を選ぼうという訳である。調査する時点では、どのような結果がでるか全く予想ができなかった。

1 基礎研究成果10大ニュース

 科学技術部主管の雑誌“中国基礎科学”は毎年、基礎研究成果10大ニュースを掲載している。2006年度は10件、2005年度は11件の成果が 選定されている。選 ばれた成果1件毎にそれを実施した学術機関に5点をつけることにする。但し、複数の機関に跨る場合は、1機関に2.5点をつける。但 し、2005年度の基礎研究成果に登場する、神 舟六号の有人飛行及びチョモランマ観測隊の成果については、学術機関を特定することができないため、配点し ないことにした。

2005年度
北京大学 7.5点
清華大学  5点
中国工程物理学院 5点
中科院脊椎動物古人類研究所 5点
中科院上海天文台 5点
中科院物理研究所 5点
中科院南京地質古生物研究所 5点
中国科学技術大学 2.5点
中科院国家天文台 2.5点
中科院神経科学研究所 2.5点
中科院研究生院 2.5点
北京生命科学研究所 2.5点
2006年度
中国科学技術大学  10点
上海交通大学 5点
南京大学  5点
中科院華南植物園 5点
中科院生物物理研究所 5点
中科院高能物理研究所 5点
中科院南京地質古生物研究所 5点
中科院神経科学研究所  5点
中科院プラズマ物理研究所 5点

 両年度の獲得点数の合計を出すと、以下のとおり。但し、5点以下は紙面の関係で掲載しない。

中国科学技術大学 12.5点
中科院南京地質古生物研究所 10点
北京大学   7.5点
中科院神経科学研究所 7.5点

2 基礎科学研究快報

 科学技術部基礎研究司は、世界の雑誌に掲載された国内外の学者の論文のなかで注目すべきものの概要を毎月“基礎科学研究快報”として取りまとめ て、幹部等関係者に配布している。直 近の3ヶ月の快報を対象にして、掲載された成果を出した学術機関に配点する。1件当たり3点とし、共同研究の場合はそ れぞれ1.5点を与えることとする。7月の快報の中国学術機関によるものは全部で13件、6 月号は14件、5月号は16件。但し、3点以下は掲載しない。

7月号快報
中科院神経科学研究所 9点
中科院大連化学物理研究所 7.5点
北京大学  4.5点
中科院化学研究所 4.5点
6月号快報
北京大学   4.5点
中医院腫瘤研究所 4.5点
中科院化学研究所  4.5点
5月号快報
中科院神経科学研究所   9点
中科院化学研究所 6点
中科院昆虫研究所 6点
中科院微生物研究所 4.5点
中科院物理研究所 4.5点

 以上3ヶ月分の配点を合計すると、以下のとおり。但し、3点以下は掲載しない。

中科院神経科学研究所 18点
中科院化学研究所 15点
中科院大連化学物理研究所 13.5点
中科院物理研究所 13.5点
北京大学  9点
中科院昆虫研究所 6点
中科院生物物理研究所  4.5点
中科院微生物研究所  4.5点
中医院腫瘤研究所 4.5点

3 一流雑誌掲載論文

1.科学雑誌Nature及びその系列雑誌

 学術機関が単独で論文を掲載した場合は4点、他の機関の共著論文の場合は2点、国際研究計画への単なる参加の場合は1点を与えることとする。対象としたのは、2 006年の中国大陸機関が関与している44報の論文である。但し、4点以下は掲載しないことにした。

中国科学技術大学  9点
中科院生物化学細胞生物学研究所  8点
中科院古脊椎動物古人類研究所 7点
北京大学  7点
北京生命科学研究所 6点

2.科学雑誌Science

 学術機関が単独で論文を掲載した場合は4点、他の機関の共著論文の場合は2点、国際研究計画への単なる参加の場合は1点を与えることとする。対象としたのは、2 006年の中国大陸機関が関与している23報の論文である。但し、2点以下は掲載しない。

南京大学  7点
中科院地質地球物理研究所  5点
中科院神経科学研究所 4点
中科院高能物理研究所  3点

3.米国科学アカデミー紀要(PNAS)

 学術機関が単独で論文を掲載した場合は2点、他の機関の共著論文の場合は1点、国際研究計画への単なる参加の場合は0.5点を与えることとする。対象としたのは、2 006年の中国大陸機関が関与している66報の論文である。但し、2点以下は掲載しない。

北京大学 8点
上海交通大学  6点
復旦大学 4.5点
清華大学  3点

4.物理学の一流雑誌(PRL)

 学術機関が単独で論文を掲載した場合は2点、他の機関の共著論文の場合は1点、国際研究計画への単なる参加の場合は0.5点を与えることとする。対象と したのは、2 006年の中国大陸機関が関与している144報の論文である。但し、4点以下は紙面の関係で掲載しないことにした。

中科院物理研究所  32.5点
中国科学技術大学 15点
復旦大学 13.5点
清華大学  11.5点
中科院理論物理研究所 9点
北京大学 5.5点
南京大学 5点

5.化学の一流雑誌(JACS)

 学術機関が単独で論文を掲載した場合は2点、他の機関の共著論文の場合は1点、国際研究計画への単なる参加の場合は0.5点を与えることとする。対象としたのは、2 005年の中国大陸機関が関与している130報の論文である。但し、6点以下は掲載しない。

北京大学 26点
中科院上海有機化学研究所  20点
中科院化学研究所 18点
南京大学  16点
吉林大学 8.5点
復旦大学 7.5点

6.生命科学の一流雑誌Cell及びその系列の雑誌

 学術機関が単独で論文を掲載した場合は4点、他の機関の共著論文の場合は2点、国際研究計画への単なる参加の場合は1点を与えることとする。対象としたのは、2 005年の中国大陸機関が関与している21報の論文である。但し、2点以下は掲載しない。

中科院神経科学研究所 6点
中科院生物化学細胞生物学研究所 5点
復旦大学  5点

4 国家重点実験室

 中国科学技術部が認定している国家重点実験室(中国のCOE)は200を超えている。しかしその水準は世界レベルとは言いがたいものが多い。但し、ここで は、国家重点実験室のなかで、“優秀実験室”と 評価された実験室を持つ学術機関にそれぞれ2点を献上する。共同設置の場合はそれぞれ1点。

1.情報科学分野(2007年)

赤外物理国家重点実験室 中科院上海技術物理研究所 2点
集積光電子学国家実験室 清華大学  1点
   吉林大学  1点
  中科院半導体研究所 1点
計算機ソフト新技術国家重点実験室 南京大学  2点
精密測定技術・機器国家重点実験室 天津大学  1点
  清華大学 1点
モデル識別国家重点実験室 中科院自動化研究所 2点

2.生命科学分野(2008年)

淡水生態・生物技術国家重点実験室 中科院水生生物研究所 2点
分子生物学国家重点実験室 中科院上海生命科学研究院 2点
分子細胞生物学実験室 中科院上海生命科学研究院 2点
脳・認知科学国家重点実験室 中科院生物物理研究所 2点
生物大分子国家重点実験室  中科院生物物理研究所  2点
水稲生物学国家重点実験室 中国水稲研究所 1点
  浙江大学 1点
細胞・分子進化実験室 中科院昆明動物研究所 2点
新薬研究国家重点実験室 上海薬物研究所 2点
医学分子生物学国家重点実験室 中医院基礎医学研究所 2点
医学ゲノム国家重点実験室 上海交通大学 2点
植物ゲノム国家重点実験室 中科院遺伝発育生物学研究所 1点
  中科院微生物研究所 1点
作物遺伝改良国家重点実験室 華中農業大学 2点

3.工学及び材料分野(2003年)

動力工学多層流国家重点実験室 西安交通大学 2点
電力システム・発電設備制御国家重点実験室 清華大学 2点
 牽引動力国家重点実験室  西南交通大学 2点
海洋工学国家重点実験室  上海交通大学 2点
火災科学研究国家重点実験室 中国科学技術大学 2点

 これら3分野を合計すると、以下のとおり。但し、2点以下は掲載しないこととした。

清華大学 5点
上海交通大学 4点
中科院上海生命科学研究院 4点
中科院生物物理研究所  4点

 配点を合計した最終的な総合得点の結果は以下のとおりである。20位以内を示す。

1位 北京大学 67点
2位 中科院物理研究所 58点
3位 中国科学技術大学 47.5点
4位 南京大学  39点
5位 中科院神経科学研究所 37.5点
6位 復旦大学 33.5点
7位 中科院化学研究所 33点
8位 清華大学 32.5点
9位 上海交通大学 27.5点
10位 中科院大連化学物理研究所 20.5点
11位 中科院生物物理研究所 20点
11位 中科院上海有機化学研究所 20点
13位 中科院生物化学細胞生物学研究所 16.5点
14位 アモイ大学 14点
14位 中科院南京地質古生物研究所 14点
16位 中科院脊椎動物古人類研究所 13.5点
17位 北京生命科学研究所 13点
18位 中科院研究生院 12.5点
18位 山東大学 12.5点
20位 南開大学 12点

 私のコメントは以下のとおり。

1. 清華大学は意外な不振

 北京大学のトップは妥当な線かも知れないが、清華大学の8位は意外であった。大学のみのランクでも5位に留まっている。2004年のSCI被引用回数で も、中国国内4位であるので、停 滞気味であることは間違いなさそうだ。戦後の大学改革で、自然科学分野の基礎分野は北京大学に、応用開発は清華大学に振り 分けたことがまだ影響しているのかも知れない。応用開発に強いといわれる清華大学だが、基 礎研究の充実も一層望まれよう。また、清華大学の不振は生命科学 の論文数が少ないことにも理由がある。北京大学は化学分野が強いことも判明し、また数年前の北京医科大学を合併させた効果も現れており、各 研究分野でバラ ンスが取れている。

2. 餅は餅屋

 物理は物理研究所と中国科学技術大学、生命科学は神経科学研 究所、化学は化学研究所と上海有機研究所が強い。伝統の力が発揮されている。他のデータでも、中国の化学分野の優位性は示されているが、こ の分野での健闘 が光っているのは、研究費が比較的安価ですむこと、合成、分析等人手に頼る部分が多いことが原因として考えられる。

3. 化石学、地質学で健闘

 南京地質古生物研究所及び脊椎動物古人類研究所が20位以内に入ったのは、恐竜等の化石研究のためである。地理的優位性のお陰である。

4. 地方の健闘

 20位以内はほとんどが北京、上海、南京、天津の学術機関であるが、大連化学物理研究所、アモイ大学、山東大学の4つがそのなかに割り込んでいる。国土のバランスある発展の観点からも、将 来が楽しみである。

5. 中国政府トップ9重点大学との差異

 トップ9重点大学は、清華大学北京大学、パルピン工業大学、復旦大学上海交通大学南京大学浙江大学中国科学技術大学西安交通大学であるが、今 回の調査の上位20位に入っていないのは、ハ ルピン工業大学、浙江大学西安交通大学である。ハルピン工業大学は国防科学技術委員会に所属しているため、 発表論文数自体が少ないと予想される。浙江大学は21位に入っているが、西 安交通大学は40位にも入っていないので、内陸発展のための重点拠点大学に指定 されていると予想される。

6. 特異な研究所

 北京生命科学研究所は、北京市と中央政府が共同で数年前に設立した、生命科学専門の研究所である。PIほとんど米国留学研究者で占められており、運営等は米国式を取り入れている。政 府のバイオ重視政策はうまくいっている実例と言えよう。

7. 評価の目的は順位付けではない

 以上のように分析していくと、今まで見えなかったものが見えてくる。何番に位置つけられたかは大きな問題ではない。中国学術機関がいい意味で競争し、切磋琢磨し、お互いに発展していくことを希求する。

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