【08-104】中国の有名大学“見聞録”(中)

寺岡 伸章(中国総合研究センター シニアフェロー)  2008年3月20日

3.中国農業大学

 生物学院は、1949年北京大学及び清華大学の農学系を統合して設立された大学で、キャンパスは北京市内に2カ所。農学に関係しては農業経済、MPAも含む総合的な農業大学。

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 発生学の教授は言う。 

 「競争的資金をとっていない人の方が多いが、とっている人は2本までという規則が学内にある。競争的資金の10%は収入として使用できるが課税される。 大学院生、学生に小遣いとして配っている。中 国では一部の研究者にのみ多くの競争的資金が集まっていて、もらったら研究をぜんぜんしなくなる人もいる。も らえない人は海外の学会にも行けず、才能が無駄になっている。これは制度のマイナス面だ」と憤慨する。< /p>

 なお、この訪問は、2005年4月の反日暴動の直後であったためか、その教授は20数名の学生を集めて、私の方を指しながら、

 「日本に対して反感を持つ若者がいるけれども、日本は中国にとって大切な国です。協力し合わなければどうやって中国は生きていけるのですか。あなたたちは日本人に会ったことがないでしょう。見なさい。日 本人が悪い人たちに見えますか」と言った。 

 私が中国語で挨拶すると、笑いが起こった。日本人は中国語が出来ないと思っているため、意外であったのであろう。一緒に日本製のデジカメで写真に納まった。学 長はSCI登録論文を書いた教授等をねぎらうために、北京郊外のホテルに招待したという。その学長はまだ40歳代。論文数が急増していることに満足だったという。

 生物学院の学院長は、973プロジェクトの予算を使って、耐塩、耐水のイネ作成研究を実施。中国農業大学は973プロジェクトのうち6つも実施してお り、中国では3番目の多さと自慢する。生物学院は、植 物生理学・生物化学国家重点実験室、農業生物技術国家重点実験室の二つの国家重点実験室を持つ。一つ の学院が二つの国家重点実験室を持つのは他の大学には例がないそうだ。前者は、2 002年から2006年までのプロジェクトで4年目に評価される。いい評 価が出ればさらに5年間延長だ。後者は、虫のつかないトウモロコシ、クローン牛などの成果が出ている。クローン牛の次は、ど んな動物のクローンが飛び出す か。楽しみでもあり、怖くもある。

 研究費を年間平均200万元もらっている学院長が言う。

 「優秀な学者は米国にいて、まだ帰国していない。研究費は多いが、競争は厳しい。優秀な研究者が絶対的に不足しているのが中国の最大の問題」

4.浙江大学

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 国内ランキング3位の大学と自己評価している。どこの大学を訪問しても、実際以上に高く見せようとする。面子を大切にする国柄のなせる技か。

 5つの大学が合併してできた大学で、年間予算24億元、うち科技研究費10.2億元。国家級重点実験室12ヵ所。重点9大学の一つ。民間企業からの寄付 は中国一。浙 江大学がある浙江省は地場と密着した中小企業が多いのが原因だ。上からの大学改革ではなく、当地に根ざした改革が進行中である。

 1、2年生を対象とした新キャンパスは杭州北西部に建設。広さは3000ムーで、さらに3000ムーを整備中。敷地内に学生宿舎、ミニスーパーなどを整備。副学長は中国で一番広いキャンパスと言っていた。< /p>

  医学院附属第二医院医学PET中心の主任は、日本留学経験者の張宏教授。人体診断用PETは浜松フォトニクスから寄付、ポジトロンの製造機は住友重工から 寄付、マ ウス用マイクロPETは米国の大学から寄付と説明する。PETは癌などの早期発見の全身診断に使用されている。診断は週3日。一日の診断患者数は 多いときで7、8人。患者は中国全国から来ており、保 険は効かない。診断費は8万円程度でかなり高価。

5.大連理工大学

 中国の大学ランキング16位だが、教員一人当たりのSCI登録論文数は中国でトップと言う。教授400人でその他を合わせると1200人の教員。その内日本での博士学位取得者40人、日 本滞在1年以上は200人。

 日本の大学や企業との関係は深い。東大、東北大学、東京工業大学、九州大学、広島大学、熊本大学、早稲田大学、立命館大学などとの交流がある。企業との 協力は、三菱化学、住友化学、日新、昭和電工、ジ ャストシステムなどと協力関係にある。訪問客の6割から7割は日本人。学院長16人のうち5人が日本留学 経験者。

 大学の運営資金は、政府、学費、企業からの委託費、銀行からの借入(図書館などの建物の建設)からなり、寄付は少ない。 

 国家重点実験室は4カ所。三束材料改性聯合国家重点実験室、工業装備メカニズム分析国家重点実験室、精細化工国家重点実験室、海岸・近海工程国家重点実験室。

 自然科学基金委員会の競争的資金を受けている教員は2割程度。学内全体の授受件数は106件(05年)。もらわないと教授昇進が困難。

 教員の評価基準は、発表論文、教育、雑誌の編集、国際会議開催などの社会活動の三つの方向から行なう。ただ、評価が目に見えるものに限定されているた め、学長(任期5年)のみならず、学 院長(任期3年)、教員も評価に耐えられる成果をあげようと近視眼的になっている。幹部はものすごく忙しく、土日もな いくらいだという。

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 日本語強化クラスが設置されている。5年間コース、1年目は日本語を集中的に勉強。2年目から5年までは通常のコースで、日本語で授業を受ける。就職率は100%、初任給も高く、人気がある。

 日本語学院の学生数は各学年150人。卒業後の進路は6割が国内の日系企業就職、2割が大学院進学、残り2割が日本の大学院に留学。一方、英語学院の各学年は300人。就職の条件は、日 系企業も欧米企業も大差ない。ちなみに初任給は3500元。

 アパートの市場価格は平米当たり3000元であるが、大学が建築したものは三分の一の価格で教員に払い下げてもらえるという。 

 中国の大学はその歴史的背景から、特定の外国との関係が深い。清華大学は米国と、同済大学はドイツと、武漢大学はフランスとの関係が深い。大連理工大学 は日本との関係を重視している。大 連は日本企業のコールセンターや経理部門のアウトソーシングでは、日系企業との関係が強く、地理的な優位性も利用して、 日本との連携を強化することで更なる成長を狙っている。日本の立場からも、大 切にしていきたい地域であり、大学である。 

 化工学院は、1914年に設立された旧大連南満州工業専門学校を使っているが、近年中に取り壊す予定という。日本人としては、残して欲しいかどうか複雑 な心境である。場所は大連市内の一等地にあり、正 面の建物は旧満鉄の研究所で今は大連化学物理研究所のオフィスになっている。

 985プロジェクトで、04年から07年のⅡ期4年間で1億150万元もらう。対象となった研究課題は、グリーンエネルギー、資源及びファインケミカル高技術。

 大学予算の7億元のうち1億元は、化工学院に配分される。7割を研究施設に使用し、3割は人材育成費に使う。博士号取得後、海外に留学するのは3割程度だ。

6.南京林業大学

 木材遺伝・基因工程系は教官20人、学生120人、実験室5000平方メートル。60年前から葉教授、王教授などの工程院院士が林木育種を実施している が、本格的な研究は70年代に開始。目 的は木材の利用促進で、耐虫害、耐病性、耐塩性の研究に重点。江蘇省、山東省、湖南省などに野外実験場を持つ。江蘇 省には400万ヘクタールの野外実験場があり、18万ヘクタールはポプラの人工林。海 外からの優良品種の導入、国内種の育種、さらに交雑で新しい品種の開 発をやってきており、既に南林859など15の新しい種を育種。90年代から分子レベルの遺伝研究を開始し、ポプラの遺伝子マップ、プ ロトプラスト(原生 質体)を手がけてきた。ポプラのプロモータ遺伝子の開発が今後の課題だ。

 フィールド実験は、苗木の小規模レベルは南林大キャンパスで実施、中規模と大規模レベルは国家林業局に申請し南林大の試験地(300ヘクタール、南林大からクルマで3,4時間)で実施。

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 理研植物科学センターと南京林業大学森林資源・環境学院は、07年3月14日、南京林業大学において、研究者の交流、シンポウムの開催、科学技術情報や研 究資材の交換等を含む研究協力協定を締結した。具 体的な研究課題は、南京林業大学若手研究者の理研植物科学センターでの植物分子育種技術の取得をスタート させ、その後、その技術を用いたポプラ細胞の分子育種実験を南京林業大学で実施するというものである。こ の実験に成功すれば、南京林業大学構内での野外実 験、さらには南京林業大学の圃場での大規模実験へと発展する可能性がある。研究成果は、中国の林業の発展や砂漠の緑化に貢献することが期待される。南京は 歴史上、日本人にとっては気が重い土地であるが、このような協力プロジェクトの成功により、中国の国民感情が好転することを切に望む。日本人は不戦の誓い を誓ったのであるからだ。

7.南京大学

 南京大学は、上海交通大学復旦大学などと並んで、中国3位にランクされる大学である。その実力は急上昇しつつある。 

 モデル動物研究所は、03年6月建物完成、04年4月稼動開始。プロジェクトの全予算は52百万元。世界の遺伝子導入マウスは6000種に対し、中国は 200種。ノ ックアウトマウスは世界が4000種に対し、中国は10種。高翔所長はアメリカ留学帰りで、中国人にしては冗談もよく飛ばす。

 07年6月28日、骨や関節の遺伝子研究で世界のトップを走る理研池川チームリーダーと南京大学医学院の将青教授が北京で面談し、今後の協力関係の深化 方法について意見交換を行った。マ ッチファンディングの獲得方法、南京大学の若手研究者の理研招聘方法等について意見交換を行ったのだ。池川チームリー ダーは蒋青教授等のグループと共著で、NatureやNature Genetics等の雑誌に既に投稿しており、今回の会談はそれを一層進めるためのもの。蒋青教授は週末でも研究室にこもる研究の鬼であり、高翔モデル動 物研究所長と仲のいい友達と聞いたときは驚いた。類 は類を呼ぶものだ。彼らのような研究者がいれば南京大学は中国随一の大学になるのも夢ではあるまい。

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 一方、于長隆北京大学運動医学研究所所長(将青教授のかつての指導教授)との面談において、池川チームリーダーに対して「四川省のある地域で多発している遺伝性関節病について共同研究したい」と の申し出を受けた。池川先生は前向きに検討する模様。 

 遺伝的に日本人と中国人は近いため、今後発展が期待される“遺伝治療”の基礎研究分野での両国の共同研究の意義は大きい。多くの人々の試料やデータを基 に遺伝病のメカニズムの解明や新しい治療法が開発されていくであろう。中国は世界の医療関係企業の勢力図を大きく変える可能性を持つ。

8.吉林大学

 吉林大学は6つの大学が合併してできた中国最大の面積と学生数(約7万人)を誇るマンモス大学である。「211工程」(約100大学)のみならず、 「985工程」(38大学)の 国家重点大学にも選ばれている。12人の科学院院士、4人の工程院院士、17の国家重点学科、5つの国家重点実験室(理論化 学計算国家重点実験室、無機合成調整化学国家重点実験室、自 動車動態シミュレーション国家重点実験室、超硬材料国家重点実験室、集成光電子学聯合国家重点 実験室)、19の国家級重点実験室を擁する。ド イツBrukerの600メガのNMR等の先端の研究機器類を整備している。

 吉林大学は東北地方の雄を誇る大学であるが、豪華な新キャンパス建設があだになり、大量の不良債務を抱えているという噂も聞いた。“親方日の丸”意識のまま法人化すると、このような事態を迎えがちになる。 

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 超分子構造材料教育部重点実験室は化学学院に属しており、超分子構造解析、計算シミュレーション、人工酵素、光電材料、表面科学等の基礎研究を行っている。 

 同じ長春市にある科学院長春応用化学研究所との連携も盛んで、両研究機関を兼務している教授も多い。


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