【08-105】中国の有名大学“見聞録”(下)

寺岡 伸章(中国総合研究センター フェロー)  2008年4月20日

9.上海交通大学

 上海市郊外に位置する上海交通大学の新しいキャンパスの大学名の揮毫は、同大学卒業生の江沢民前主席によるものだ。整然と並んだ建物群をみると、そこで学ぶ学生がうらやましく感じる。

燃料電池研究所は、水素と酸素又は空気とが反応する際に発生する電気を取り出す、いわゆる燃料電池の研究開発を民間企業とも協力しつつ実施している。昼 間、太陽光を利用して水を酸素と水素に分解し、それを保存して、夜間燃料電池として電気を発生させるもので、太陽光から電気への変換率は30%という。こ の数字は確認していないので何とも評価できない。今後の研究開発テーマは、転換効率の向上と大型化という。広大で美しい新しいキャンパスに移転し、民間企 業と協力して実用化を目指す。

学長には中国科学院の40歳代の元局長が就任した。若さで新時代を築いてもらいたいものだ。

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10.南京理工大学

 07年3月、南京理工大学学術交流中心において、野依理研理事長の名誉博士授与式及び記念講話が行われ、200名以上の化学分野を中心とした教官及び学生が出席した。南京理工大学でノーベル賞学者の講演が開催されるのは最初である。

 講話の後で、熱心な質疑応答が展開された。野依教授のメッセージの一部をここに紹介する。

  1. 偉 大な科学者になるためには、優秀な頭脳を持っている必要はない。若者は自分が関心のあることをトコトン追究し、他の誰もやっていない独創的なことをやり遂 げて欲しい。オリンピックは他の者との競争であるが、科学は誰もやっていないオリジナリティーのあることをやるのが目的である。
  2. 中 国の文化を大切にして欲しい。真に独創的な研究は、伝統や文化を基層として花開くものである。中国の素晴しい芸術や絵画から知的な刺激を受けることによっ て、他の国の人々が発想できない科学を発展させてもらいたい。欧米人の発想は還元的である。東洋人は全体論を重視する傾向が強いが、これを強みとして欲し い。
  3. 人類は危機に瀕している。エネルギー、食糧、環境劣化など解決しなければならない問題は多い。所謂、持続的な社会を構築できるかどうかが人類の将来を決める。新しい発想や哲学に基づく科学が必要であり、そのために君たちは活躍して欲しい。
  4. 人間一人の能力は限られている。独創的な仕事を達成するためには、他の分野の研究者や産業界の技術者との交流が不可欠である。象牙の塔や実験室に閉じこもるのではなく、社会や世界の発展をリードする科学者になって欲しい。
  5. 中国の学生は日本の学生よりも活発であり、熱心である。君等には明るい未来があるので、一生懸命に努力し、人類のために有益な仕事をやってもらいたい。

 質疑応答が終わるや、学生達は手にノート等を持ち野依教授を取り囲みサイン攻めにした、教授は大変だ、大変だと言いながらも満足そうであった。日本ではこのような学生の純粋な熱気はもう見られなくなってしまった。

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11.西安交通大学

 鄭南寧学長は慶応大学で学位取得。日本語が非常に流暢なのには驚かされる。本大学は、1896年上海で設立され、1951年南洋工業大学に交通の名前が付けられた。1956年西安に移転した。1959年上海交通大学が設立。

 「西安交通大学の学生は教師よりも優秀」 と鄭学長は言い切る。

 中国の国立大学の経営システムは、日本の私立大学並みに経営が自由。西安交通大学の予算は、国、重点大学、研究プロジェクトと企業等からそれぞれ三分の一 来る。有名な教授は構内で授業をやらずに、外でばかり活躍するので困っている。この大学の卒業生は日本と欧州からが多く、米国留学組は意外に少ない。米国 の大学の目が届かない内陸の大学は、日本の大学にとって狙い目かもしれない。

 理工系志願の学生は2年前から減少。自己中心的な学生が増え、卒業後官吏や銀行員になる者が増えている。大学の20%以上の教員は女性。

大学の抱える問題点は、管理システム(任命権や教員の給与が異なる)、生活環境が異なるため、世界から優秀な人材が呼べない。

「二つの100を実行したい」と学長は意気込む。

 まず、外国人100人の招聘。40人が招聘済であるが、その中には中国人教員の10倍以上の給与をもらっている者もいるという。そして、100人の教官と 学生を海外の一流100研究機関に派遣。話は簡潔で分かりやすい。西安交通大学は重点9大学の一校として、内陸開発の拠点として期待されている。内陸の王 者になってもらいたい。

 数年前に2つの大学(医学系と経済系)を合併した際に、6500人であった学生入学定員数を3900人まで削除。学生数が少なくなると給与が下がると教員の反対にあったが、学長は実行したという。学生の高い質を確保するためには、定員減もやむをえないと決断。

 「自分は文革の影響を受けている。昔は、国家のために身をささげるのが当然であった。今は価値観がずいぶん変わったが、自分は世の中のために役に立ちたいと心底思っている」と学長は毅然と語った。

西安交通大学は、60人の優秀な高校生を高校からの推薦と独自試験で入学させている。OBの名前を借りて、そのクラスを“銭学森班”と呼んでいる。理系と文系に分けず、有名人の講演等独自のカリキュラムで教えているという。

 また、西安交通大学の大学院生の状況は次のとおり。授業料は免除、大学から月800元が支給され、年間の生活費は3000元あれば足りるのでアルバイト の必要性はない。博士学位の審査は厳しくなる傾向。5人の審査員のうち2人が反対するとその年に学位は取得できない。また、次の年に同様に審査にパスしな ければ退学。

 07年6月、理研受け入れの大学院生の面接に立ち会い、優秀な学生を射止めた。判断指針は、成績優秀、責任感、学者志向、農村出身の素朴な青年、日本に 対しての親近感等。一番辛かったことは、コメ食からパン食への切替という学生の発言に、好感を持った。あとで、長春の日本語学校でも、中国政府の国費留学 生の初年度で2名が病気になったと聞かされ、コメ食とパン食の違いは相当な違いだと納得。中国は広い。

 エネルギー能源・動力工程学院熱流中心の動力工程多相流国家重点実験室は、中国随一の熱力学の実験室。基礎研究はほとんどやらず、熱変換効率を上昇させ る応用研究が中心。松下電器からの委託費も受注。燃料電池の研究開発も行っているが、同じ研究を行っている上海交通大学燃料電池研究所との連携はない。社 会のニーズ(この場合は省エネと新エネ)に対応した応用研究を実施し、横の連携がないというのが中国の研究現場の特徴であると再認識。

 さらに、同日、能源・動力工程学院流体機械研究所も視察。レーザーを使った流速、流量の計測等応用研究を実施。特に、印象はない。

 金属材料強度国家重点実験室は、大型材料からナノレベルまでの材料の強度研究を実施。その中のナノ膜及び生物材料研究中心では、タングステンをコーティ ングし、骨との適合性の研究を実施。日本企業のリガクのX線回折装置が設置されていた。教授25人等スタッフ97人。ポスドク10人以内、大学院生400 人。研究分野は、機械特性(構造、機構等)、表面と界面(フィルム、コーティング等)、先進材料(セラミックス、ナノ材料、機能材料等)。基礎研究40% は973計画と国家自然科学基金委員会から、研究開発30%は863計画等の国家プロジェクトから、応用30%は企業や軍から研究費が来るという。SCI 登録論文数は年間100〜200報。

 また、図書館内に設置されている銭学森博物館を見学した。中国人なら近代科学の父とも呼べる三人の銭博士は誰でも知っている。ロケットの銭学森博士(西 安交通大学出身)、原爆の銭三強博士、力学の銭偉長博士。銭学森博士の米国からの召還について、米国政府が中国のロケット開発を遅らせようと、中国への帰 国を遅らせたのは有名。博物館の説明書きの中の“軟禁”という言葉が際立つ。

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12.重慶大学

 重慶大学は1920年設立、34年省立大学、43年国立大学、49年総合大学(理学、工学、法学、ビジネス、文学)に昇格。本流は法学。その後、学部(ス クール)は独立したが、78年総合大学に戻る。戦前は、重慶は四つの省に跨っており、四川省は成都が中心になったため、重慶の位置が低かった。重慶の収入 の8割が省都の成都に吸収されていたが、97年重慶市は政府直轄都市になり、長江上流の重要都市(都市と農村の同時発展)に位置つけられると、財政の自由 度も増したという。

 重慶大学のランキングは10位以内で、南西地域ではトップの一つ。特に、工学、経営管理の学院が強い。

 キャンパスのあちこちで、普通語を話そうという張り紙を見かけた。四川省は訛りが強い地域として中国では有名である。

 07年5月10日、重慶大学A区国際会議ホールにおいて、日本国重慶領事館、理研、JSPS、JST、NEDO、早稲田大学、北海道大学の中国駐在員に よる日本留学の手続き、研究助成の獲得方法、日本研究機関との共同研究方法等に関する説明会が開催された。主催は、重慶市科学技術委員会及び重慶大学。参 加者は、日本に関心を持つ学生等約80名。

 私は理研の概要説明に先立ち以下のように切り出した。

 「中国人大学生の7割は日本が嫌いである」笑いが起こった。「しかし、君らは違う。君らは日本の素晴らしい点をよく知っている。日本に留学し、日本をもっとよく知り、中国の友達にそれを伝えて欲しい。両国の架け橋となって欲しい」

 学生はしんみりと聞いていた。内陸の学生は、非常に真面目である。

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13.アモイ大学

 アモイ大学は、中国で一番美しいキャンパスを持つ大学である。

 固体表面物理化学国家重点実験室は、アモイ大学の論文の半分、一流論文の3分の2を生産しており、研究のレベルが高い。日本留学組も2、3人いる。国家 伝染病診断試剤及びワクチン製造技術研究センターは、ワクチンの製造技術に優れるが、比較的論文は少ない。論文書きが主な目的でないためである。優秀な研 究所長とアメリカNIH帰りの元所長が研究を率いる。E型肝炎ワクチン、トリインフルエンザワクチン研究は変わらない抗原に着目。ラピッドテストやモノク ロール抗体も研究している。予算は2003年以降の合計で463万ドルという。地方にも優れた研究があるものだ。

 大学専用のホテルはキャンパス内にあり、早朝の散歩は気分が最高。また行ってみたくなる大学である。

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14.天津大学

 07年7月、胡小唐副学長等と会見し、理研と天津大学の両機関の概要を説明するとともに、今後の協力の具体的なやり方について意見交換を行った。111プ ロジェクトによる大森主任研究員の天津大学訪問を契機に、天津大学の大学院生等の派遣、協定の締結等の方法を協議した。

 天津大学は1895年に設立された中国最初の大学で、設置時の理念は現代の大学と同じと胸を張る。高等教育、研究開発、人材育成に貢献。国内最初の航空 エンジンは天津大学で開発されているため、エンジン開発は強い。985計画の大学の一つ。大学ランキングはトップレベルであったが、合併を拒否したため、 大学の相対的規模が小さくなり、現在のランクは14位くらい。しかし、工学は4位。工学、管理、文学、農学を含む総合大学。地質大学、石油大学、郵電大 学、科技大学は、もとは天津大学の一部から発展。天津大学は政府幹部の訪問が一番多いという。

 伝統を守り、隣の南開大学との合併を拒否して、重点9大学入りを果たせずに苦しんでいるようにも見える。しかし、孤高の大学としてのプライドを維持してもらいたいものだ。

 内燃機燃焼学国家重点実験室は、燃焼の観測研究、メタノールエンジンの開発(エタノールエンジンの開発は食糧を奪うので禁止)、メタノールから一酸化炭素、水素に分離し、日産のエンジンでそれを燃焼する実験等を実施。

 電子信息工程学院は、美しいマルチメディアの画像の実験、三次元立体画像の実験等を実施。回路は自ら設計し、シンガポールの企業に製造させている。中国の企業の製造費は高いためという回答。

 85年設立の天津経済技術開発区(TEDA)を視察したが、5年前より企業進出が盛んになったという。三星、モトローラ、ヤマハ、矢崎、コーラ、富士 通、トヨタ、ネッスル、上海フォルクスワーゲン、京セラ等が進出。TEDAにある天津大学科技園は、ソフトウェア、健康食品、生命科学(ES細胞)、医薬 品、電気自動車の改良、快速成形、天津方園、電脳ウイルス応急措置等を有する。

 天津市微納製造技術工程中心(有限公司)は、天津大学精密儀器・光電子工程学院の房豊洲教授が技術顧問をする企業である。天津市から天津大学経由で 5000万元の補助金をもらい、超微細計測、加工技術の開発を促進。06年からの5年間の時限プロジェクト。光学部品の設計加工をし、金型加工するのが目 的。光学デザイン、光学素子の製造、球面や複雑系の計測加工を実施。ガラスや陶器や骨や歯などの脆性材料の製造も実施。成果は天津開発区の企業に還元を期 待。理研の研究室にもない高性能機械を欧米から輸入している。日本製はココムのため輸出制限されていると淡々と語る。4週間後には稼動開始と意気込んでい るが、朝6時過ぎから深夜11時までの激務は続く。

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15.北京航空航天大学

 北京航空航天大学は国防科学技術工業委員会の傘下の大学のため、一部は軍事研究を実施。アジアの大学で最大のビルがあるが、名前はまだないという。俗称は新主楼。お金持ちの大学だ。

ロボット開発及びバーチャル研究の研究室を視察。ロボットの方は、医療ロボット、水中ロボット、壁のぼりロボット、空飛ぶロボット等の開発を実施。ロボット開発は863計画の柱の一つである。

 バーチャル研究の方は国家重点実験室で行っている。北京オリンピックの開幕式の企画、修正のためのバーチャル化研究を実施。水や光や陰の反射まで即時に計算し、描写可能だ。

 なお、ソフトウェアの授業の一部を日本語で行うという面白い試みもやっている。日本語とソフトウェア技術の両方をマスターすれば、就職にも困らないはずである。最近、日本の大学への関心も高まっている。

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