【08-004】中国企業の企業戦略の傾向

2008年4月25日〈JST北京事務所快報〉 File No.08-004


 最近、急成長する大手中国企業の本社・工場を見学したり、CEOのインタビュー記事を読んだりした中で垣間見えた中国企業の企業戦略について、筆者なりの感想を述べてみたい。

 最近筆者が見学した企業とは、大手の携帯電話等通信機器メーカーZTE(中興通訊、本社・工場は広東省深セン市)である。また、読んだCEOのインタビュー記事とは「日経ビジネス」(2008年2月4日号)に掲載されたインターネット検索サービスの中国におけるトップ企業・百度(バイドゥ)のCEO李彦宏(ロビン・リー)氏に対するインタビュー記事とそれに関連する記事である。

 また、中国企業の技術戦略を考える上では、東京大学教授の丸川知雄氏が書いた「現代中国の産業~勃興する中国企業の強さと脆さ~」(中公新書)が非常に参考になった。

 深セン市のZTE社の見学でまず驚いたのは、本社ビルの4階にショールームがあるのだが、そのショールームと本社ビルに隣接して建っている工場の生産ラインがつながっていて、見学客がショールームから電気自動車に乗ってそのまま工場の生産ラインの中を見学できるようになっていることであった。つまり、本社ビルと工場の建物の設計自体が、見学者が会社を見学し、併せて工場の生産ラインも見学できるようになっているのである。こういったショールームは、その企業の公開性や先進性をアピールするには非常に有効であると思った(なお、この種の企業の見学コースの常として、社内での写真撮影は禁止だった)。

 見学者は、ショールームで、まず携帯電話や通信関連機器など多種多様のZTE社の製品の展示を見学する。その後で防塵服を着て、見学者用の電気自動車に乗って工場の生産ラインへ行くのである。工場の生産ラインの現場は、建物のスペースの3割くらいが空きスペースになっているのがまず目に付く。生産用機器は床に固定されている様子がなく、いつでも生産ラインの組み替えができるような体制になっていることがわかる。空きスペースは、そういった生産ラインの組み替えの時に必要なので、いつも一定の広さは空けてあるのだそうだ。マーケットの状況を見ながら、素早く新しい製品を企画し設計し、生産ラインを組み替えて、できるだけ短いサイクルで製品を市場に送り出し、またそのマーケットでの反応を見る、という企業戦略が工場を見ただけでもわかった。

 ZTE社は、1985年に設立されたもともとは国有企業であったが、その後の中国の国有企業改革に則って株を公開し、現在は国が持っている株は約30%であり、現在の経営は完全に民間ベースで行われている、と会社側は説明していた。

 一方、「日経ビジネス」(2008年2月4日号)に掲載されていた中国のインターネット検索サービス会社の大手「百度」(バイドゥ)の記事及び百度の創業者でCEOの李彦宏(ロビン・リー)氏に対するインタビュー記事には、日本での市場展開を開始したばかりの百度(バイドゥ)の戦略が記載されている。百度は2000年に設立された会社だが、中国のインターネット検索サービスにおいて、先発のヤフーとグーグルをあっと言う間に追い抜き、現在では大きく引き離しているという(2007年7月~9月期現在で73.6%のシェアを占めている)。既に米ナスダックに上場しており、2008年1月23日現在の株式時価総額は約1兆円の大企業に成長している。またこのインタビュー記事によれば、百度は海外のベンチャーキャピタルから投資を受け、主な株主は中国以外だ、とのことである。

 百度は、2006年に日本法人である百度株式会社(陳海騰社長)を設立し、2007年3月に試験サービスを開始、2008年1月23日には本格的なサービスを開始した。百度が海外進出するのは日本が最初とのことである。最初の海外進出先として日本を選んだのは、同じ漢字圏であるので、中国において培ったノウハウが活かせると考えたから、とのことである。ただ、日本法人・百度(株)は、中国にある百度を日本に持ってくるのではなく、百度のノウハウを用いつつ、中国の百度とは異なる日本に適応した独自のサービスを提供し、ヤフーとグーグルの2社による寡占状態にある日本のインターネット検索サービス業界に食い込もうとしているのである。

 中国における百度の急速な成長について、インタビュー記事の中で李CEOはその企業戦略として「技術よりマーケット主導」を強調している。百度ももちろん技術的ベースは持っているが、それに頼ることなく、市場が何を求めるか、ユーザー・フレンドリーなサービスをするにはどうすればよいか、に重点を置くことを李CEOは強調している。

 高度な技術を自社で研究開発し、その自社で研究開発したコア技術を出発点として製品やサービスを企画してマーケットに売り出すのではなく、マーケットが何を求めているのかを最優先し、場合によっては必要な技術は外部(他社)から調達してでも新しい製品やサービスを企画してマーケットに投入していく、という手法は、丸川知雄氏が著書「現代中国の産業」の中で指摘している急成長する中国企業の特徴である。

 丸川氏はこの本の中で中国企業の特徴を「垂直分裂」という言葉で表現している。中国の企業では、基礎的研究開発から部品の製造、完成品の組み立てまでを1社(または系列会社グループ内)で行うのではなく、それぞれの段階を分解し、それぞれの段階で最も優れた最も価格の安い他社に依頼することによって完成品を製作しようという傾向があるため、1社生産あるいは系列会社グループ内で生産する傾向が強い日本の企業との違いを明確化するため、丸川氏は「垂直分裂」という言葉を使っているのである。

 丸川氏は、中国の企業は、コア技術を含めて、製品やサービスのパーツの基本を自社で研究開発することにこだわらず、高い技術を安い価格で提供してくれる他社からパーツを調達し、マーケットの動きに併せてそれをどう組み上げていくかに集中することにより、マーケットの動きに迅速に対応し、業績を伸ばしている企業が多い、と指摘している。丸川氏の上記の著書によれば、中国では、自動車メーカーにおいてはエンジンすら他社から調達している企業が6割近くに上るという。

 もちろん、中国の企業にも多くの種類があって、企業戦略は各社まちまちである。例えば、2007年11月、JST中国総合研究センターが開催した「日中R&D連携シンポジウム」に参加した中国の大手電機メーカー海爾(ハイアール)集団の陳広乾氏(海爾集団CEO特別補佐役・海爾集団CIO)によれば、海爾はマーケッティングと同時に技術的研究開発とイノベーションにも力を入れることによって成長を続けている、と説明していた。

 これらの中国で急成長する大手企業の動きを見ていると「まずはコアとなる技術の研究開発を行い、そのコア技術を中核とした製品・サービスを市場に送り出す」という日本企業に多く見られる考え方との違いを痛感する。中国企業では「まず市場ありき」なのである。上記に掲げた中国の大手企業の場合は、しっかりとした技術力を持っているが、中国の企業の中には「コア技術は自社で持つ」という「こだわり」があまりない、というのが筆者の感想である。中国政府は「自主創新」をスローガンに掲げ、「中国の企業の75%は研究開発能力を持っていない。これからは企業の研究開発力を向上させることが課題である。」との問題意識を持っているが、企業の側に研究開発に対する「こだわり」の感覚が薄いのであれば、中国政府の企業における研究開発促進政策もなかなか進まないのではないかと思われる。

 例えば、2007年12月に筆者が「JST北京事務所快報:浙江省・江蘇省の新しい技術移転基地」で紹介したように、中国科学院が日本ならば企業が行うような応用研究・産業化研究の部分まで行おうとしていることにも、そういった「研究開発を自社の中で行うことにこだわらない」という中国企業の一般的なマインドが影響しているものと思われる。

 こういった中国企業の「自社技術にこだわらない」という「マインド」は、急速に変化するマーケットの動向に迅速に対応するという意味では、ビジネス上の企業戦略の観点では有利に働く。上述の著書の中で丸川氏は、携帯電話業界においては、日本企業は自社技術に立脚して新製品を作ろうとして技術のバージョンアップとその機能確認に時間を要するため、新製品の企画から市場への投入まで14か月掛かるのに対し、コア技術を含めて優れた技術を他社から導入することに抵抗がない中国企業の場合、自社で新しい技術の研究開発と機能確認を行う時間が省けるので、新製品の企画から市場への投入まで7か月しかかからない、このスピーディーさが変化の激しい携帯電話のような製品市場で中国企業を有利に導いている、と指摘している。

 JSTをはじめ多くの日本の機関は「日本人や日本の研究機関・日本の企業が自ら研究開発を行い、それらの研究開発の中から日本発のコア技術が生まれ、そのコア技術が企業において産業化されて、経済的利益となって社会に貢献する」という基本的信念に基づいて科学技術の研究開発活動を支援している。ところが急成長する中国企業の例を見ていると「自らの技術を持つことは直に経済的利益とは結びつかない」どころか、「自ら技術を持つことにこだわると、かえってスピーディーな市場の動きに対応できず、ビジネスとしては遅れを取ることになる」という「現実」を突きつけられ、「自主技術が命」と思っている日本的価値観が崩壊するのを感じる。これも「異文化」に接した時のカルチャーショックのひとつだと思う。こういったカルチャーショックは、今後の進歩のためには必要なものだと筆者は考えている。

 ただ、中国企業の「自主技術にこだわらない」という「マインド」は、丸川氏が著書「現代中国の産業」のサブタイトルを「勃興する中国企業の強さと脆さ」としているように、一種の「脆(もろ)さ」をも内包している。多くの企業が自分で技術を持たず、他社から安くて優れたパーツを集めて組み上げることだけに集中してしまうと、各社の独自性を出すことができず、どの社の製品・サービスも「似たり寄ったり」のものとなってしまうからである。自主技術を持たないと、成長している間はいいが、その業界が停滞の時期に入った場合、その会社の独自性を発揮して「生き残り」を図ることが難しくなる。

 また、日本人的メンタリティかもしれないが「この技術ならば我が社は世界のどの会社にも負けない」といった誇れるものがないと、会社組織としての従業員に対する求心力が働かないと思う。もっとも、中国の人々の多く(特に若い人たち)は、ひとつの会社組織に一生所属していたいという気持ちは弱く、常によりよい待遇を求めて職場を移るので、中国におけるビジネスにおいては「会社組織としての従業員に対する求心力」はあまり必要ではないのかもしれないけれども。

 いずれにせよ、こういった中国企業における技術と企業戦略のビジネスモデルもひとつの「あり方」であり、日本もそういった道を歩むべきかどうかは別として、考慮すべきモデルのひとつであると思われる。また、日本と中国との関係を考えた場合、もし日本は研究開発が得意であり、中国は他社から技術を調達して変化するマーケットに迅速に適応するビジネスが得意なのであれば、日本の企業や大学・研究機関が中国の企業と連携して、日本がコア技術を開発して中国企業がそれをビジネス化する(日本は技術の知的財産権に見合ったロイヤリティを得る)、という形の協力関係も今後は有力になる可能性がある。前提として知的財産保護の観点で日中両国が共通の制度と共通の認識を持つことが必須であるが、長期的な観点に立てば、そういった形での日中間の「分業」もあり得るのではないかと思う。

 日中間の科学技術協力は、お互いにどういった分野でどういうやり方で協力するのか双方で必ずしも意識が一致しておらず、まだ「手探り状態」のところがあるが、上記のような中国企業の傾向も踏まえて、日本と中国の双方にとってプラスになる協力の仕方がきっとある、と筆者は考えている。

(参考資料、参考URL)
(注:タイトルの「快報」は中国語では「新聞号外」「速報」の意味)
(JST北京事務所長 渡辺格 記)
※この文章の感想・意見に係る部分は、渡辺個人のものである。

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