【08-106】データから浮かび上がる中国の姿

寺岡 伸章(中国総合研究センター フェロー)  2008年5月20日

 手元に、財団法人日中経済協会が発行している「中国経済データハンドブック」(2007年版)がある。このハンドブックから各種データをピックアップしながら、中国の姿を大雑把に掴んでみようと思う。

1.建国

 1949年10月1日。

 中国は5000年の悠久の歴史を持っているとしばしば言われるが、それは中華文明の歴史であって、国としての長さは僅か59年しかない。まだ相当に若い 国に過ぎない。この単純な事実に気を止めるひとは少ないが、改めて強調しておきたい。人生の実質的な活躍の時期は60年と言われるように、国においても 60周年は一つの区切り目である。新中国の生誕を知らない人々が大多数を占めるようになれば、国のあり方も自然と再度見直しが行われるようになると想像し ても不思議ではない。どう変わるのか、あるいは変わらないのか興味津々である。

なお、中国人は黄帝の子孫であり、夏商殷から現代まで正統王朝が続くとされているが、その発想自体、万世一系の天皇制度を模したような気がしない訳では ない。日清戦争後に日本に送り込まれてきた中国人留学生が祖国再生のために日本からコピーして持ち帰ったという日本人学者もいる。

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2.人口

 13億1448万人。

 この数は正式な統計であるため、一人っ子政策に違反した、登録されていない人口は含まれていない。中国の穀物の消費量から換算すると、15億人以上いる と指摘する学者もいる。それが本当であれば、登録されていない人々が1億以上いることになる。日本国一つ分の人口が誤差の範囲であるという途方もない国が 中国ということになる。男女比は、51.5%対48.5%と男性が異常に高い。これも一人っ子政策の影響と考えられている。

 中国31省のうち、人口が多い順に、河南省9392万人、山東省9309万人、広東省9304万人、四川省8169万人と続く。四川省は直轄都市の重慶 市の人口を足すと、1億977万人となり、日本全体の人口と匹敵する。北京市と上海市は意外に少なく、それぞれ、1581万人、1815万人である。しか し、大都市には、農村地域から農民工と呼ばれる人々が総計で2億人も出稼ぎに来ている。北京に住んでいる人の数人に一人は農民工で、3Kと呼ばれる仕事に ついて北京人の生活を下支えしている。

 国全体の平均人口増加率は5.28%。北京市、上海市、天津市、重慶市等の大都市が平均人口増加率を下回っているのは理解できるが、東北三省はいずれも 平均を大きく下回っている。何故だか分からない。増加率は一人っ子政策の影響で低下してきているが、毎年700万人もの人々が増加している。ピークは15 億とも16億とも言われるが、いったい誰が食糧を供給するのであろうか。

3.民族

 56の民族。

 漢民族が92%を占めるが、少数民族は「漢化」され独自性を失いつつある。漢民族の定義は難しい。漢王朝は黄巾の乱で滅んだとされるが、国は乱れ、人口 は十分の1まで減少したとされる。遺伝子レベルでの漢民族はこの時滅んだのかもしれない。現在の漢民族は中華思想を信ずる文化としての漢民族である。

 世界の潮流をみると、民族の団結のために支払わされる代償は今後とも大きくなるはずである。

 なお、まだ発見されていない民族もいるかも知れない。こちらの方は若干ロマンティックだ。

4.党政治局常務委員

 中国を動かしているのは、党政治局常務委員の9名といっても誇張ではない。中国共産党は民主集中の原則を建前としているので、これら9名の民主的議論に よって、中国の重要な政策が決定される。現在のメンバー9名のうち、文科系出身者は李克強のみであるように、理工系出身者が大多数を占めている。発展途上 国では、開発段階に実用的な学問を修めた者が幹部になる傾向があると、中国人は分析している。先進国型社会になると、人文系出身者が増加すると予測する訳 であるが、そうなるかどうかはよく分からない。

 党員数7239万人。世界最大の政党だ。

5.国内総生産及び経済成長率

 2006年の国内総生産は、21兆元(315兆円)。一次産業は11.8%、二次産業は48.7%、三次産業は39.5%だ。国民の大多数が農民であることを考えると、一次産業の割合が極端に低い。生産性が低いのである。二次産業の高さは世界の工場を物語っている。

 経済成長率は11.1%(2006年)。依然過熱状態が続いている。政府のマクロコントロールは余り効いていない。外国人はバブル状態だと主張するが、 中国では政府も専門家も人民もバブルではないと信じている。日本のバブル期も似たような状態だったかも知れないが、人間は欲に眩むと正常な判断ができなく なるのはどこでも同じか。ただ、7%以下まで落ち込むと、分配の問題が浮上してくるので、政府は警戒してくる。

 06年の物価指数は1.5%の伸びであったが、07年の前年同月比では3%を超え、08年の最近の伸びは8%を超え、二桁の危険水域に近づいている。世界的な石油高騰、中南部での大雪、豚の病気等が原因と考えられる。

6.国防費

 3472億元(2007年予算案、前年比17.8%)。

 既に日本の国防費を上回っている。二桁成長が20年続いていると、日本を始め近隣諸国は警戒感を表しているが、中国は気にしていない。また、この金額に は、海外からの兵器購入費や研究開発費は含まれていないし、内訳も不透明である。米国国防省は実際の額は、公表の2〜3倍あるとみている。

 一方、中長期科学技術計画(2006年〜2020年)では、民生研究と軍事研究の連携を強調しているため、中国との共同研究の推進に当たり海外から警戒感が浮上している。

7.外貨準備及び通貨

 1兆3326億ドル(2007年6月末)。

 断トツの世界一。人民元安を武器に、中国製品を猛烈に輸出したためである。この資金で米国債を買ったり、シティーに融資したり、国家ファンドをしたりしている。経営力の弱く、技術力が高い日本の中小企業が狙われている。

 1ドル=7.5737人民元(2007年7月末)。

 じりじりと人民元高が進行し、現在では7.1人民元を切る直前まで来ている。1年半の間に、対ドルで10%切り上がったことになる。米国経済の先行き不安と五輪御祝儀から、人民元高の勢いは止まりそうもない。

8. 祝祭日と記念日

 27日もある。その中には、マルクス、レーニン、孫中山の生誕日と逝去日も含まれている。さすがに、革命の国である。また、日本人には辛い日が4日も入っ ている。7月7日の七七抗日記念日(盧溝橋事件)、9月3日の抗日戦争勝利記念日、9月18日の九・一八事変記念日(柳条湖事件)、12月13日の南京陥 落(南京虐殺)。これらの日には、日中間のめでたい式典や事業を避けるのが賢明である。中国人の目からみると、歴史は生きているのである。

9. 国際収支

 外貨準備高は1兆663億ドル(06年)で、前年比2475ドルも増加している。人為的な元安に起因するものだ。06年末の人民元対ドルレートは7.8であったが、最近の米国の金融不安を反映して7.1を切る水準にまで上がっている。10%近い切り上げである。

 2006年の輸出総額は9691億ドル(前年比27.2%増)、輸入総額は7916億ドル(前年比20.0%増)で、貿易黒字は1775億ドル(前年比755億ドル)。

 このような急激な伸びは、そのうち調整段階が来る。輸出のうち外資企業によるものは56.9%、輸入では58.4%。外資頼みの構造は変わらない。

 国地域別輸出額では、米国、EU、香港、日本の順である。米国経済の不況は即中国の輸出の減退につながる。毒餃子事件は日本への輸出の減少を招くであろ う。一方、国地域輸入額では、日本、EU、韓国、ASEAN、台湾、米国の順。日本にとって中国はお得意様である。日中貿易が切っても切れない関係に差し 掛かったとき、毒餃子事件が起こったことは偶然とは言え、日本にとって食の安全、食糧の自給率、国家安全保障を再考するいい機会である。

 日本の対中直接投資は統計上8.5%と少ないように見えるが、実質的には世界最大である。香港やタックスヘブンを迂回する中国資本の再投資にごまかされ てはならない。中国は商人国家である。投資されるほど得をしたと考える。日本の政府や企業には、8.5%は少なすぎるといつも文句を言う。ただ、直接投資 のピークは2005年でそれ以降下降線を辿っている。中国リスクの増大や投資一巡が背景にあると考えられる。

10.科学技術及び教育

 研究開発費(2006年)支出は2943億元でGDP比は1.41%。2010年と2020年の目標はそれぞれ2.0%、2.5%であるが、達成できるか どうか微妙である。また、これらの研究開発費が何に使用されているかも知りたいところである。サイエンスパークの建設ラッシュに多額の資金が投入されてい るという疑いもある。なお、基礎研究費は148億元で僅か5%。

 2005年の大学進学(専門学校等含む)率は21%、高校進学率は53%、中学進学率は95%と中進国並にまで成長。現在の大学生の数は2500万人で 2010年までに3000万人を目指すという。大学の大衆化は急速に実現するが、同時に就職率は70%程度しかない。「大学は出たけれど」というのが当た り前の状況だ。

 また、改革開放以来、海外に渡った留学生107万人のうち帰国したのは27万人で80万人もの人材が流出している。中国政府は帰国を奨励しているが、ハイテクのみでなく自由思想を身に着けたこれらの人材が一斉に帰国するのも問題であろう。

11.エネルギー及び水資源

 各国のエネルギー消費量は、米国、中国、ロシア、日本、インド、ドイツの順である。一方、中国の石油確認埋蔵量はメキシコよりは多いが、カナダよりも少な い。天然ガスはマレーシアよりも少ない埋蔵量である。石炭は、米国、ロシア、中国、インドの順である。エネルギー問題の解決には、石炭に頼らざるを得ない が、その分汚染がひどくなる。石油消費量の半分近くを輸入に頼らざるを得ないことから、資源外交を展開せざるを得なくなり、各国の警戒感を喚起している。

 年間水資源総量は2.55兆トンで前年比9.1%減。1人当たり水資源量は9.6%減。年間降雨量も604ミリで前年比6.2%減。大型ダム貯水量は1806億トンで前年比で13.6%もの減。

 北京の年間降水量は411ミリしかないが、上海は1060ミリ、それでも東京には遠く及ばない。最も多いのは広州1986ミリで、最も少ないのは寧夏回 族自治区の銀川75ミリ。大雑把に見ると、長江から南の沿海地域は1000ミリ以上降るが、北又は西に行くほど、降雨量は減少する。21世紀はエネルギー 及び食糧を巡る争奪戦が懸念されているが、乾燥化からくる水の争奪戦も厳しさを増すであろう。黄河は年間何ヶ月も水が海岸に届かない事態が続いている。中 国北部大都市の水不足を解消しようと,長江から大運河を建設して大量の水を引くプロジェクトが始まっている。ヒマラヤ水系も長期的には水量の減少へと向か い、長江でさえそのような余裕があるかどうか分からないのであるが。いっそのこと、首都を水源が豊かな地域に移転させたら如何であろうか。

 黄河の水が海まで届かないという現象は今や有名になっているが、長江の水位が150年ぶりという低位を記録したというニュースが最近BBCから届いた。 地球温暖化の影響で長江上流の乾燥化が著しいのである。「南水北調」(2002年着工)という長江の水を北京などの北方の都市に運ぼうという大プロジェク トが進展中であるが、長江もそんなに余裕がないのではないか。食糧生産や生活に不可欠な水の不足は中国経済に甚大な影響を及ぼす。

 また、国土の18%が既に砂漠化しており、毎年東京との1.6倍の面積が更に砂漠化している。水不足は「世界の工場」からの脱落を意味することになろう。

12.都市汚染

 二酸化炭素排出量は35億トンで日本の12億トンの約3倍。二酸化硫黄は2159万トンで日本の86万トンの25倍。煤塵は1012万トンで日本の6万ト ンの実に169倍。中国の面積は日本の20数倍であるので多少希釈されるが、このような汚染状況では駐在員が可哀想である。特別手当てを出すべきであろ う。

 世界汚染トップ5都市に中国は4つ入っている。五輪の選手が汚染を心配しているのはことの深刻度を示している。

13.携帯電話とインターネット

 2006年6月の携帯電話使用者数は4億 2000万人で、日本の5倍。農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者でさえ、携帯電話を所有しているのだ。彼らは職を探すために、食費を削ってでも携帯は手放さな い。インターネット利用者は1億1100万人で、数年で米国を抜くことは確実。

14.まとめ

  1. 鄧小平の改革開放路線は見事に成功し豊かになった反面、エネルギー不足、水不足、環境汚染は深刻になりつつある。これらの問題が経済成長の足かせとなってくる恐れは高い。特に水不足には注意を要する。
  2. 中国の国家目標である「中華の復興」を実現するためには、海外からの直接投資や技術移転が不可欠である。実質的に一番多い日本の直接投資は2005年をピークに下降線をたどり始めた。チャイナリスクが高まっていると投資家が考えているからである。
  3. 科学技術や教育への積極的投資は評価できるが、量的な拡大にのみ傾注されており、質の面での対策がおざなりにされている。自らシステムの改革ができなければ、海外から先端技術、科学的知見、製造管理などを積極的に学んでいくしかない。
  4. 中国が「21世紀の超大国」になるかどうかは、問題解決の糸口がないだけにかなり怪しそうだ。

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