【15-09】日中両国の科学研究評価システムの比較

2015年10月30日

朱新林

朱新林(ZHU Xinlin):山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

中國山東省聊城市生まれ。
2003.09—2006.06 山東大学文史哲研究院 修士
2007.09—2010.09 浙江大学古籍研究所 博士
2009.09—2010.09 早稻田大学大学院文学研究科 特別研究員
2010.11—2013.03 浙江大学哲学学部 補助研究員
2011.11—2013.03 浙江大学ポストドクター聯誼会 副理事長
2013.03—現在 山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

 2015年10月6日、スウェーデン王立科学アカデミーは、2015年度のノーベル物理学賞を日本人研究者の梶田隆章氏とカナダ人研究者のアーサー・マクドナルド氏に授与すると発表した。ニュートリノ振動の発見における貢献が認められたのである。日本の科学研究評価体系はこれまでも数多くのノーベル賞受賞者を輩出し、その自然科学と人文科学の研究力は世界的に認められ、世界の科学研究の最先端を進んでいる。日本の科学研究プロジェクトへの援助と研究成果の産出との間にはどのような関係があるのか。中国は近代化を進める過程で、日本の科学研究プロジェクト援助の管理方法を学ぶことが求められている。

 日本の科学研究プロジェクト援助は、「補助金」から「助成事業」への転換をたどり、経費の援助先と出所は規範化され続けてきた。統計によると、2006年から2008年までに日本人研究者が発表した論文の47%とTop10%補正論文の62%の産出はいずれも科学研究経費の援助と関係している。日本は、専門家による審議という従来の方法を引き継いだ上で、各国の科学研究制度の現状と注目の集まる問題を調査し、国際共同研究の発展という方針を打ち出した。

 2015年4月に日本が新たに導入した科学研究経費管理制度は、人文科学と自然科学の2大分野をカバーし、独創的な科学研究を支援するものだった。革新的な研究の芽を育み、日本の国力の向上を知識面から支えることが目的とされ、この政策には「国力の源泉」としての役割が期待された。

 改革は指導的な性質を多分に備えたもので、挑戦性・総合性・融合性・国際性が強調された。研究者の研究の原動力を高めるため、日本はプロジェクトを「指定研究」「戦略研究」「学術研究」の3つに分け、多様な需要者と研究者の違いに配慮した。これと同時に、東日本大震災などの特殊なケースの対応研究も立ち上げられた。

 日本は研究をその性質によって「基礎研究」「応用研究」「開発研究」の3つに分類している。具体的な支援においては、プロジェクト援助金は「競争的資金」と「基盤的資金」に分けられる。研究者はプロジェクト援助の申請の際、自らの専門と政府または社会の需要に応じて、プロジェクトの類別を自由に選択できる。日本は1996年から、プロジェクトを援助しない理由を公表している。この措置は中国では現在も実現されていない。

 また日本の科学研究経費管理は2011年から「基金化」の時代に入った。「基金化」されたプロジェクト援助においては若手の学者が優先され、39歳以下の研究者のプロジェクト援助枠が特別に設けられ、海外の研究者との競争や協力も強調された。例えば日本学術振興会の援助の下、400人の若手学者が海外での協力研究に派遣され、新たな取り組みが進む学術分野は40分野に達している。日本の科学研究管理費は5カ年計画の形式で増加され続け、2015年までにその科学研究経費予算は2318億円に達し、援助率は26%前後を維持している。上述の科学研究経費を土台に、日本ではさらに、研究者の所属団体が公平・公正を前提として一定額の経費援助を提供する「間接経費」が提唱されている。現場への配慮が行き届いた専門的な援助管理方法には、中国が学ぶべきものが多くあると言える。

 翻って中国を眺めると、一群の若い学術関係者も同じように生活と研究との二重のプレッシャーの中でもがいている。若い学術関係者は中国で新たに「ピーマン」(中国語:青椒 Qingjiao)という名前で呼ばれており、これは同音の青年教師(中国語:青教Qingjiao)にひっかけた呼称だ。中国共産主義青年団北京市委員会が行った調査の結果をみると、調査対象となった大学の若い教員のうち、48.0%がプレッシャーは大きいと答え、このうち10.1%は非常に大きいと答えた。これ以外の38.0%は適度なプレッシャーを感じると答え、プレッシャーはないと答えた人は4.3%、プレッシャーが小さいと答えた人は9.7%にとどまった。ニュースサイト「澎湃新聞」が北京の「ピーマン」を対象に行った調査によると、「ピーマン」はポストのレベルアップが難しく、仕事の負担が大きいといったプレッシャーに直面するが、これと同時に、仕事の満足度をはかったところ、若い教員は仕事の安定性を最も高く評価していることもわかった。調査対象となった若い教員のうち、79.0%が北京出身の非農村戸籍だ。明らかに、この事実は若い教員達が北京で働き、生活する上での安定性や彼らの子育てのために、しっかりした土台づくりをしているといえる。

 (中国科学院ソフトウエア研究所副所長の)李磊氏は「中国青年報」(2011年11月4日2面)において、「中国青年報の記者が全国の複数の大学を取材してわかったことは、大学教授の生き方が多様化しつつあることで、基本給のほか、研究課題への助成金から一定の割合で引き出す報酬、兼業での収入などがあり、年収が数百万元(1元は約19.4円)に達する人がたくさんいる。一方、貧乏な教授は大学から支給される給与以外の収入は微々たるもので、家族を養い、家を買うという生活面の巨大なプレッシャーを背負わなければならない」と指摘した。

 また李氏は、「ポストドクターとなり、南京大学で働く若い人の場合、年間の所得をすべて合わせても5万元にしかならない」と指摘。李氏の説明によると、南京の重点大学の若い教員の多くは、気の毒なほど少ない給料しかもらっていないのが一般的だ。それでもなお、大学の体制の中に入りたいと願う若者は増えており、仕事が見つからない博士が毎年大量に生み出され、待遇のよくない指導員の仕事ですら、数百人がこれを争うという有様だ。

 中国人事科学研究院の研究員によると、現在はポストの評価審査のために発表された論文が学術誌に掲載された論文の3分の2の割合を占めるが、その質は低い。「ポストの要求と中核的な業績をはっきりさせることが重要だ。ポストのために論文が必要なら、論文を保留にする。ポストの中には論文を必要としないものもあり、その場合、論文は不要だ。本末転倒になってはならず、論文の数を欲しがって論文を書いてはいけない」という。

 中国社会科学網が行った調査研究によると、教員の多くが、優れた教員はたくさんいるが、ポストの定員が非常に少ないと答えたという。一連の教員は条件に合致し、ポストにつけるのを今か今かと待っているが、1年経ってもポストがやって来るとは限らない。ポストの評定において、年度ごとの審査、優秀者の選抜、中核的教員と学科の長による認定などが、いずれもハイレベルのポストにつくための業績面での条件であり、こうした栄えある認定では、中レベル以上の幹部教員と比較して、一般の教員が劣勢にあるのが普通だ。人民網の報道によると、ポストがレベルアップした人の40%以上が早くから代講(若手研究者が上級ポストに就く研究者などに代わりに行う授業)を行っていない、または代講をする必要がなくなっており、この中には学長、センター長、会計責任者、監督者、後方勤務担当者などになった人がいる。ほかの人の一部は第一線の中レベル・ハイレベルのポストの教員を続け、圧倒的多数の人が評価した学科の教育の仕事を以降は担当することがない。

 またポストと給料は密接に関連する。一部の教員たちは、高いポストについた教員と高いポストにつけなかった教員とでは給与の開きがどんどん拡大していくと話す。高いポストにつけなかった教員は、教育の第一線で働いていることが多く、一番つらい思いをしているが、ポストと給料は密接につながっているため、たくさんの給料はもらえない。このことによって第一線の教員達の積極性が損なわれている。

 こうしたことからわかるのは、中国と日本には科学研究評価システムの制定において、いずれも非科学的で不完全な点があるということだ。私個人が思うに、これは日中両国の政府だけが直面する問題であるだけでなく、全世界の政府と科学研究機関が普遍的に直面する問題にほかならない。科学研究経費と科学研究システムの制定は、一種の基本的な契約の精神に基づくべきだ。このような契約の精神を一方が、あるいはどちらか一方が遵守しない場合、科学研究経費の管理と科学研究評価システムは破綻の危機に直面する。日中両国に暮らす若い教員と研究者のすべての人の心には学術研究の思い描く理想があり、政府と科学研究管理機関も研究者にたくさんの希望を寄せる。両者の関係をどのようによりよく処理するかは、早急に検討が必要な課題だといえる。


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