【16-09】威海伝統文化の転化・革新の方策について

2016年 7月19日

朱新林

朱新林(ZHU Xinlin):山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

中國山東省聊城市生まれ。
2003.09—2006.06 山東大学文史哲研究院 修士
2007.09—2010.09 浙江大学古籍研究所 博士
2009.09—2010.09 早稻田大学大学院文学研究科 特別研究員
2010.11—2013.03 浙江大学哲学学部 補助研究員
2011.11—2013.03 浙江大学ポストドクター聯誼会 副理事長
2013.03—現在 山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

 筆者は「威海の伝統文化の継承が直面する問題」 という文章の中で、威海の伝統文化の伝承と宣伝に関する問題について指摘した。本稿では、これらの問題への対策を提起する。

 2015年6月1日、中韓両国は自由貿易協定(FTA)に正式に署名、中韓自由貿易区の制度設計が完了し、まもなく実施段階に入ることとなった。中韓自由貿易協定は、地方経済協力に関する条項を画期的に取り入れ、中国の威海市と韓国の仁川(インチョン)自由経済区域を地方経済協力モデルエリアとし、模範・牽引の役割を発揮させることを明確に定めた。中韓自由貿易区は高水準の自由貿易区であり、「一帯一路」沿線の自由貿易区にモデルケースを示すと同時に、国家レベルで「自由貿易区戦略」を推進する重要な突破口ともなる。威海経済の「新常態」は、膠東半島の経済発展にチャンスをもたらす一方で、威海に多くの課題を突きつけた。文化面を見ると、このような経済的背景の中で、いかにして威海の物語を伝え、威海文化を示していくか、中国の優良な伝統的文化をいかにして伝承し、発揚していくかは、人文分野に携わる全ての人間が直面する課題である。

 学問的な立場から見ると、現代中国の価値観の世界的な広まりは、世界の諸民族のなかで中国が自立する上での「よりどころ」となると同時に、世界各国に積極的かつ深い影響を及ぼす。既存の研究と現実が示すように、現代中国の価値観に対する各国の人々の理解の現状を調査することは、国際的な伝播・普及を正確に行うための基本的前提となる。

 国際コミュニケーション学の視点から見ると、言葉は伝播の主体と受け手をつなぐ架け橋であり、伝播者の思想を受け手に理解させることができる。国際的な伝播の特殊な点は、伝播者と受け手の言語体系に大きな違いがあるところだ。現代中国の価値観を伝播させるには、西側諸国との間に言語の架け橋を築くと同時に、中国の特色を堅持し、中国の物語を語り、中国の声を伝え、中国の特色を詳しく説明しなければならない。現代中国の価値観を世界に伝えるための、中国の特色をもつ言語体系を構築し、これに時代性と民族性を持たせることは、現在、急務となっている。これはまさに、威海の伝統文化の転化・革新に向け、力を入れるべき点でもある。

 威海経済は主に日韓に向けられており、経済のグローバル化を背景に、小異を残して大同を求め、発展を共有することが必然的に求められている。この点で、威海地区で盛んな全真教の「三教合一」の教えを参考にすることができる。使用言語が違い、文化も異なるが、「三教合一」という調和的共存の考え方は、威海と日韓の経済協力を推進し、ウィンウィンを模索する上で重要な啓示となる。ゆえに、中韓自由貿易区を安定的に推進する一方で、威海の物語、威海の声をいかにして伝えていくかを模索することこそが、当面の急務である。勢いに乗ることができれば、威海の経済・文化という「一体両翼」の調和の取れた発展を実現することができるだろう。

 威海の伝統文化の実践的価値を実現するにはまず、その駆動要素を見つけなければならない。駆動要素は伝統文化の転化を実現する基礎となる。伝統文化の革新・転化は伝統文化のさらなる伝承と発展を促進し、両者は互いに補完し合う関係にある。全体的な枠組みから見ると、この課題は主に以下のいくつかの分野から展開される。

(一) 権威性があり、詳細で事実に基づく『威海通史』の編纂

 現在、『威海通史』編纂の条件はすでに整っている。考古学発掘と歴史文献は相互補完の関係にあり、同書の編纂の基礎となる資料を提供している。同書の内容には、先史時代から1978年までが含まれる。改革解放後の威海の歴史と発展に関しては、別の書籍を編纂することとなる。執筆においては、威海文化の主体性、鮮明性を強調し、写真と文章を豊富に取り入れ、学術性と普及性を一体化させる。同書の編纂完了の暁には、新書発表会の形で国内外に広く紹介する。同書の宣伝教育を小中学校の教学に取り入れれば、子供たちに威海の歴史を伝え、責任感と誇りを持ってもらうことができる。また、同書を海外からの客人に贈ることで、中韓自由貿易区経済の更なる発展に向け、自然な形で知識を伝えることができる。

(二) 大型叢書『威海郷邦文献集成』の編纂

 この叢書には、歴史文献に関する威海地区の学者の20世紀末までの研究成果が約80件収録される。威海籍学者の学術研究成果、威海地方志の2大カテゴリーに分かれる。掲載内容の選択においては綿密な校正と注釈が求められ、使用される版本の権威性と信頼性に注意しなければならない。整理の際には、全てに現代語の句読点を加え、必要な箇所には注釈をつける。また、威海の人々の精神を代表する文献資料については調査の上整理、別途編集し、下記の叢書『威海名人』に向けた基礎を固める。

(三) 叢書「威海名人」の計画

 「歴史巻」、「軍事巻」、「学術巻」、「宗教巻」、「宗族巻」などのテーマごとに、専門家による名人の伝記を集める。それぞれの巻で、代表的かつ典型的な威海の歴史的人物を取り上げ、彼らの優れた人柄を示す。たとえば清代ならば、著名な学者である卒亨(文登区出身)、宮卜万(牟平区出身)、于昌遂(文登区出身)など、現代であれば、著名な学者である湯炳正、張政烺などを取り上げることができる。権威性と信頼性を備え、内容は奥深いが表現はわかりやすくし、国内外に威海の人文精神と思想を伝える。

(四) アプリ「威海人文」の開発

 ニューメディアを駆使し、『威海郷邦文献集成』、『威海名人』などの書籍の基礎資源を十分に活用し、これらを面白く分かりやすい文章に転化させる。これは上述の紙媒体の文献を補充するものとなり、オフラインからオンラインへの閲覧形式の変化を実現することができ、威海の伝統文化の転化につながる。また、同時に日本語版と韓国語版をリリースし、対外交流において主導権を握る。

(五) シリーズ・ドキュメンタリー「威海人文」の撮影

 この作品は、威海の人々に流れる優秀な伝統文化をメインテーマとし、信頼できる出土文献と歴史文献を基に、正確かつ美しい言葉で五千年の歴史を持つ威海文化の精髄を説明する。遺産・時期・人物を切り口とし、斉魯文化の精髄を詳細に紹介し、完全な形で示す。同ドキュメンタリー作品は最終的に威海を宣伝する名刺となる。

 予想される効果は以下のとおりである。

一、国家レベルの効果

 本課題の研究成果は、斉魯の優秀な伝統文化の基礎文献資源をより一層充実させると共に、斉魯文化および中華文化の対外宣伝に向け、文献と信頼できる根拠を提供する。社会主義核心的価値観と威海の優秀な伝統文化間の架け橋を築くことで、威海地区が党中央の一連の活動を貫徹するための、より実情に合った方法を提供する。また、本課題の完成により、現代における中国伝統文化の転化の実現可能な手段を提供することができる。

二、社会レベルの効果

 威海の優秀な伝統文化を伝えることで、民主法治・公平正義・誠実友愛の、活力に満ち、安定的で秩序ある、人と自然の調和が取れた社会主義調和社会を構築する精神の泉を提供し、中国の特色ある社会主義社会秩序の貢献に向け実践プランを提供することができる。

三、国民レベルの効果

 『威海通史』、『威海名人』、ドキュメンタリーなど、一連の文献とメディアによる伝播を通じ、威海の人々の道徳感を強化し、人々の自己修養への追求を高め、威海の経済、文化の共同発展を助けることができる。


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