【16-11】中国の伝統における冠礼と成人式との関係

2016年 8月18日

朱新林

朱新林(ZHU Xinlin):山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

中國山東省聊城市生まれ。
2003.09—2006.06 山東大学文史哲研究院 修士
2007.09—2010.09 浙江大学古籍研究所 博士
2009.09—2010.09 早稻田大学大学院文学研究科 特別研究員
2010.11—2013.03 浙江大学哲学学部 補助研究員
2011.11—2013.03 浙江大学ポストドクター聯誼会 副理事長
2013.03—現在 山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

冠礼と成人儀礼との関係

 冠礼(かんれい)は、中国古代の「華夏民族」が、まもなく成年となる男子のために行った成人の儀式であり、成人儀礼の高級な形式として、中国の古代社会において重要な役割を発揮した。『儀礼・士冠礼』は、冠礼の複雑な過程を隅々まで記載しているが、時代の発展に伴い、魏晋以降は、冠礼の儀式は次第に簡略化され、その伝承は日に日に廃れていった。宋代においては、政府と朱熹などの人物がこれを盛んにするよう大いに呼びかけたが、冠礼の衰退の傾向に歯止めをかけることはできなかった。元明の時代には、冠礼はほとんど途絶えるに至った。清代になって、礼学の大家とその関連研究成果の出現に伴い、冠礼の儀式はようやく全面的に回復されることとなった。近代に入ると、西洋の学問の到来と特殊な歴史的原因の影響を受け、冠礼研究はさびれたが、1970年代になって、冠礼研究は再び社会の重視を受けるようになった。

 冠礼の伝承には繰り返し断絶が出現し、すでに古いものとなっているため、冠礼に対する現在の認識には偏りが生じており、古代の冠礼の原始的な姿を回復し、再現させることが重要な課題となっている。冠礼の起源を探り、儀式の各部分を整理し、その背後にある文化的な内実を掘り起こすことは、中国の古代礼儀文化の研究にとって重要な意義を持つと同時に、中華文化のさらなる伝承と発揚を助けるものともなる。

 成人儀礼は、「成丁礼」とも呼ばれ、原始的な氏族部落が自らの部落のまもなく成年となる若い男女に向けられた、成人を宣告するための伝統的な儀式である。このような儀式は、原始社会の初期からすでに存在し、歴史発展の大河の中で進化を続けた。さらに成人儀礼という伝統の風俗習慣は、世界各民族の社会生活の中に幅広く存在している。中国では現在に至るまで、多くの少数民族が、自らの独特な成人の儀式を保持している。成人儀礼の起源については、6千年年から7千年前の新石器時代における「歯抜き」の風俗にまで遡る物的証拠がある。地理環境や政治文化、社会風俗などの多くの要素の影響から、世界的に見ると、成人儀礼の方式と類型が多様性という特徴を示していることがわかる。尹力奇「“成人礼”の起源と類型、意義」[1]によると、成人儀礼は、「指導型」「試練型」「マーク型」「装飾型」「象徴性」という5つの類型に分けられる。だが総じて、成人儀礼の方式と類型は主に、意識の要請、能力の鍛錬、外在的な改変という3つの方向に集中している。

 冠礼は、成人儀礼の高度な形式の一つであり、この形式は、古代の「華夏民族」に特有のものである。『儀礼・士冠礼』は、文献の形式で、冠礼によって行われる儀礼の各プロセスを詳細に記録している。論理が明晰で体系の整ったこれらの規則は、無から創造されて文献に記録されたものとは考えられず、この文字記録の源泉が現実生活に存在していたと考えられる。このことは、文字の記録が形成される以前に、成人する男子のための冠礼が、社会によって幅広く受け入れられた風俗習慣として存在していたことを示している。徐々に定着した儀式が後に、「礼」を重視する儒家の学者によって整理・加工され、文字となり、後世に伝わったものと考えられる。

冠礼に含まれる成人という意義

 『礼記・内則』は、「二十而冠,始学礼,可以衣裘帛,舞《大夏》,惇行孝弟,博学不教,内而不出」[2]としている。この節からは、未成年と成年以降とでは、生活の隅々で大きな変化が起こっていたことがわかる。加冠(かかん)される者に対する冠礼の最も直接的な作用は、その権利と義務とを改変することであった。

1.妻を娶る

 「娶必先冠,以夫婦之道,王教之本,不可以童子之道治之」[3]とあるように、成人儀礼の最も原始的な目的は、生殖の権利を獲得することであった。古代においては、加冠されて後に初めて、結婚する資格を得ることができた。これは成人以降の最も基本的な権利であり、義務であった。

2.徳行

 中国の古代社会において、とりわけ儒家においては、君子に対する徳行がかなりの程度求められた。冠礼は、成人の品徳の形成に対して重要な教育的意義を持っていた。この点については、冠礼の儀式を遂行する過程で読み上げられる礼の言葉からもわかる。「始加,祝曰‘令月吉日,始加元服。棄爾幼志,順爾成徳。寿考惟棋,介爾景福。’再加,曰‘吉月令辰,乃申爾服。敬爾威儀,淑慎爾徳。眉寿万年,永受胡福。’ 三加,日‘以歳之正,以月之令,咸加爾服。兄弟具在,以成厥徳黄考無彊,受天之慶」[4]。この3回にわたる礼の言葉は、加冠される者の個人の素養に対して次々と新たな要求を提出するものである。

 『礼記・冠義』においては、冠礼の意義として、「礼義之始,在于正容体,斉顔色,順辞令。容体正,顔色斉,辞令順,而后礼義備。以正君臣,親父子,和長幼。君臣正,父子親,長幼和,而后礼義立。故冠而后服備,服備而后容体正,顔色斉,辞令順」[5]との解釈が記されている。成年となる人に対して忠・孝・悌という3つの基本的な面について具体的な要求がなされるだけでなく、冠礼は、内心の修養についても手引きを行うものである。

 『説苑』は、「冠者所以別成人也,修徳束躬以自申飭,所以検其邪心,守其正意也。君子始冠,必祝成礼,加冠以属其心,故君子成人,必冠帯以行事,棄幼少嬉戯惰慢之心,而衎衎于進徳修業之志」[6]と記している。

3.継承

 宗法制社会においては、その核心は、嫡子による継承制にあった。嫡子は、冠礼を行った後にはじめて、家族の継承と宗廟の主祭の権利を持つことができた。『儀礼・士冠礼』は、「嫡子冠于阼,以著代也」としている。嫡子が加冠される「阼階」(広間の前の東の段)は主人の位置であり、ここでの加冠は、加冠される者が将来、父親の家中における地位を継承し、一家の主となる資格を持つことを意味している。庶子は、この場所で加冠される資格はなく、加冠は家の外でしか行われなかった(「冠于房外」)。これは、冠礼における厳格な宗法制の表れである。

4.受官

 古代においては、天子は、加冠して成年となった後に初めて親政を行うことができた。士人もまた同じで、加冠して成年となった条件の下で初めて官職を受けることができた。『后漢書・周防伝』には、「防年十六,仕郡小吏。世祖巡狩汝南,召掾史試経,防尤能誦読,拝為守丞。防以未冠,謁去」[7]との記載があり、冠礼を行っていなかった周防が任命を受けられなかったことがわかる。古代における加冠による成年はこのように、参政の重要な条件であった。

冠礼の日本における現地化

 成人儀礼は現在の中国社会においてはすでに衰退している。成人儀礼を再形成することは、若者に対してだけでなく、社会全体に対して積極的な現実的意義を持っている。若者の社会と家庭に対する責任感を高めることができるだけでなく、中華民族の伝統文化の伝承にも良い影響を与える。中国の伝統における冠礼は日本に伝わった後、貴族に受け入れられ、日本の特色を持った「元服」の儀式として現地化していった。中国古代の冠礼と同様、日本の元服も、明らかな階級性を持っている。一般的には、官位が三位以上の貴族(公家)だけが、冠を戴いて冠礼を行う資格を持った。その他の貴族は、烏帽子だけで儀式を行った。普通の平民は、額の上の髪を剃り、さかやき(月代)の形に髪を整えるという方式が用いられた。

 現代日本の成人式は戦後にできたもので、1946年に教育者の高橋庄次郎が埼玉県蕨市で組織した「青年祭」に由来する。古代の冠礼の煩瑣な儀礼と比べると、現代日本の成人式はかなり簡潔なものである。日本政府は、成人式を一月の第二月曜日に行うことと規定し、満20歳となった若い男女がこの日、伝統の衣類に身を包んで地元の公民館や神社に赴き、政府の組織する祝典に参加する。祝典の内容には主に、目上の人のあいさつ、若者の誓い、文化・娯楽の公演などで、友人を招いて参加することもできる。日本の現代の成人式は、中国における成人儀礼の再形成と復興のために非常に参考となるものである。石川県七尾市が組織した成人式は、全国の成人式大賞に選ばれた。主催者は、地元の特色ある文化というテーマを受け継ぐと同時に、若者の好きな歌やダンスを成人式に取り込み、生き生きとした活発な形式で若者の支持を受けた。現代の成人式は、中身のない道徳教育ばかりのものであってはならず、時代の発展の潮流に従い、若者の思想・観念に合ったものでなければならない。

 古代の冠礼は、個人の成人の儀式であったというよりむしろ、宗族にとっての大事であった。現代においても同様で、成人式は全社会の共通の祝典でなければならない。中国政府は、法定の形式で「成人節」を定め、特殊な祝日として設定することによって、成人となる年齢の人々への社会の注目を高め、若者の徳育に対する社会全体の重視の度合いを高める必要がある。


[1] 尹力奇「成人礼的来源、類型和意義」『中央民族学院学報』1986年第3期, pp.40-43.

[2] 王文錦(2001年9月)『礼記訳解』中華書局, p.398.

[3] 鐘文烝(2009年5月)『春秋榖梁経伝補注』中華書局, p.398.

[4] 阮元(2009年)『十三経注疎』中華書局, p.2066.

[5] 王文錦(2001年9月)『礼記訳解』中華書局, p.910.

[6] 盧元駿(1979年4月)『説苑今注今訳』台湾商務印書館, p.673.

[7] 範曄(1965年5月)『後漢書』中華書局, p.2559.


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