【17-15】中国における常滑焼朱泥急須

2017年 7月11日

朱新林

朱新林(ZHU Xinlin):山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

中國山東省聊城市生まれ。
2003.09—2006.06 山東大学文史哲研究院 修士
2007.09—2010.09 浙江大学古籍研究所 博士
2009.09—2010.09 早稻田大学大学院文学研究科 特別研究員
2010.11—2013.03 浙江大学哲学学部 補助研究員
2011.11—2013.03 浙江大学ポストドクター聯誼会 副理事長
2013.03—2014.08 山東大学(威海)文化伝播学院 講師
2014.09—現在 山東大学(威海)文化伝播学院 副教授

 ここ数年、中国人の間では、常滑焼(とこなめやき)、特に赤褐色の朱泥急須の人気が、日に日に高まっている。中国人の多くが朱泥焼を代表とする常滑焼を好む主な理由は、急須の形や彫刻のテーマが中国人の美的センスとマッチしているからだ。

 常滑焼は愛知県常滑市を中心とし、その周辺を含む知多半島内で生産されている炻器(陶磁器の一種)を指す。初期の常滑焼は、現在のような朱泥急須を特色としてはいなかった。1858年までは、主に日用雑器の製作に重きが置かれ、当時はまだ実用品としての品質レベルでしかなく、目立った特徴もシンプルさだけだった。1750年ごろ、尾張藩主の命により茶器や酒器の生産が始まるものの、本当の意味で朱泥急須が作られるようになったのは1858年ごろ以降となる。そして、その頃から「朱泥」が常滑焼の代名詞となり、その典型的な特徴となった。

 この地の産業を大々的に拡大させるために、常滑焼業界の作り手が国の法律に基づきとこなめ焼協同組合を立ち上げ、常滑焼の知的財産権を守るために、商標登録も行っている。ブランド・ロゴには横書きバージョンと縦書きバージョンがある。

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常滑焼のブランド・ロゴ

出典:http://www.tokonameyaki.or.jp/Contents/rekishi03.aspx

 それだけでなく、常滑焼の朱泥急須の製造技法をさらに継承していくために、職人の中には人間国宝、無形文化財保持者に認定されている者も少なくない。例を挙げると、3代山田常山氏(故人、人間国宝)、山田元山氏(号「元三」、常滑市無形文化財)、渡邉敬氏(号「敬深」、常滑市無形文化財)、吉川房夫氏(号「壺堂」、常滑市無形文化財)、清水源二氏(号「北条」、常滑市無形文化財)、前川賢吾氏(号「賢山窯」、常滑市無形文化財)などで、いずれも常滑焼において代表的な技法を伝承しているだけでなく、それぞれ独特の作風を持ち、自身の確固としたスタイルを築いている。

 常滑焼は、中国江蘇省宜興市の作陶の伝統を継承しており、急須を作る職人と彫刻を施す職人に分かれている。また用途で分類した場合は、実用品と鑑賞品の主に2種類に分けることができる。前者は陶器の実用的な機能を追求しているのに対して、後者は、鑑賞的価値を追求している。さらに、鑑賞品の急須の絵の画題は主に2種類に分けられる。一つは自然の風景で、中国の山水画を画題にしたものと、曲水の宴、東海道五十三次、近江八景、富士山四景など、日本の風景を画題にしたものがある。もう一つは人物や動物を画題にしたもので、七福神シリーズや歌舞伎十八番シリーズ、干支急須シリーズなどがある。また、美人東海道五十三次といったようにその2つの画題を組み合わせた作品もある。特筆すべきは、上記の画題が日本人の宗教や信仰と無関係ではない点だ。それら画題を通して、日本の人と世界、人と環境がうまく共存するという考え方や日本人特有の宗教観が表現されている。

 現在、中国大陸部と台湾で最も人気があるのは吉川雪堂と吉川壺堂が一緒に作っている急須だ。ただ、中国では、常滑焼の人気が高まっていく中で、認識のずれが生じ、二人が一緒に作った作品を盲目的に追求し、二人の技法がどのように発展、進化してきたかといった点については見過ごされてきた。吉川雪堂が急須製作を担当し、吉川壺堂が彫刻を担当するようになった、歴史的分岐点をよく理解していないのが、その根本原因だろう。そのため、この問題をはっきりさせておくことは、とても重要なことといえる。その理由は他でもなく、ある人の技法の発展に目を向ける場合には、必然的にその人の歴史的分岐点などを全体的に知っておかなければ、その作品を全面的に把握したり、深く理解したりすることはできないからだ。

 この問題について語るためには、まず、カギとなる二人に言及しなければならない。一人目は、初代雪堂、つまり吉川義雪で、急須製作を得意としていた。もう一人は初代沢田昭邨で、彫刻を得意としていた。初代雪堂には二人の息子、吉川房夫と吉川文男がおり、二人が今の壺堂と雪堂だ。初代雪堂は、弟子2人を育てた。一人は自分の息子である吉川文男、現在の二代雪堂で、もう一人は二代沢田昭邨だ。礼法では、父親が健在の時は、父親の堂号を使うことができない。そのため、二代雪堂が初期に製作した急須には、「小雪堂」という名前が入っている。そして、初代雪堂が亡くなってから、吉川文男は正式に「雪堂」という名前を入れるようになった。

 もう一人の初代沢田昭邨も2人の弟子を育てた。一人は吉川房夫(壺堂)で、もう一人は白道だ。初代昭邨は主に松や自然の風景を彫刻するのが得意だった。しかし、自分の伸びしろはもうないと考えた彼は、吉川房夫(壺堂)に、中国の山水画を彫刻することができれば、大きな進歩になると、高い要求を課した。吉川房夫にとって、大きな挑戦となったことに疑いの余地はない。幸い、吉川房夫(壺堂)は、師匠から課された要求をクリアすることができ、山水画を画材にした雕刻の面ではぬきんでた存在となり、「日本一の加飾師」と呼ばれるようになった。

 常滑焼は、急須を作る職人と彫刻を施す職人が分かれていることは先ほど言及した。当初、壺堂は二代昭邨とコンビを組み、雪堂とは組んでおらず、二代昭邨とのコンビを解消してから、雪堂と正式にコンビを組んだ。

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歌舞伎十八番の一つ(二代昭邨作、壺堂彫。筆者コレクション) / 彩雕山水図(二代昭邨作、壺堂彫。友人のコレクション)

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二代昭邨曜変冬牡丹(陸健のコレクション) / 素雕山水図(二代昭邨作、壺堂彫。友人のコレクション)

 近年、雪堂と壺堂がコンビを組むことはなくなった。しかし、コレクションという観点から見ると、壺堂と二代昭邨が一緒に作った作品が、壺堂と雪堂が一緒に作った作品に劣ることはなく、時間の点から見ると、壺堂と二代昭邨が一緒に作った作品のほうがコレクションの価値がある。壺堂と二代昭邨がコンビを解消してから、二代昭邨は白道とコンビを組みようになった。現在、流通している白道の作品は少ない。白道は花や鳥を彫刻するのが得意で、初代昭邨の技法を新しい境地へと発展させている。

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仕女汲水(二代昭邨作、白道彫。筆者コレクション) / 幽情山水花鳥(二代昭邨作、白道彫。筆者コレクション)

 二代雪堂と壺堂がコンビを組んでから、二人は最高のコンビとなり、それぞれの長所が最大限引き出され、新たな高みへと到達した。これも、多くの人が雪堂と壺堂が一緒に作った作品を好む根本的な理由だ。

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大黒天恵比寿(雪堂作、壺堂彫。筆者コレクション) / 金閣寺鹿苑寺(雪堂作、壺堂彫。筆者コレクション)

 壺堂と雪堂がコンビを組むようになった経緯はすでに上述したが、筆者個人は、各時期の二人の作品を集め、それらを比較して、それぞれの作品を全面的に理解する必要があると考えている。コレクションという観点から見ると、壺堂と二代昭邨が一緒に作った急須のほうが、文化財的価値があり、コレクションする価値があると思う。一方、審美性という観点から見ると、壺堂と雪堂が一緒に作った急須のほうが鑑賞的価値があり、日本人特有の文化的感覚がそこにあると思う。もし、二人が工芸に携わるうえでの歴史的分岐点をはっきり知っていなければ、局部的な現象に目を奪われて大局・本質を見極めることができないだろう。これは、現在、雪堂と壺堂が一緒に作った作品を好む、中国と日本の人々が特に注意すべき点だ。


 参考)とこなめ焼協同組合HP:http://www.tokonameyaki.or.jp/Contents/Default.aspx


日中大学フェア&フォーラムウェブサイト

 

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