文化の交差点
トップ  > コラム&リポート 文化の交差点 >  File No.18-09

【18-09】ある中国人女性の子供の教育に対する見方----「父母の子を愛するや、則ち之が為に計ること深遠なり」

2018年11月14日

李暁亮

李暁亮(LI Xiaoliang):淄博職業学院図書館職員

中国山東省淄博市生まれ
1999年9月--2003年6月 山東理工大学文学院 学士
2003年7月--2008年8月 淄博職業学院音楽出演系 助手
2008年9月-- 淄博職業学院図書館 講師

 8年前に一人目の子供が生まれてから、初めて親になった私たち夫婦は、てんてこ舞いになりながらも、一番良いものを子供にあげたいと必死に頑張ってきた。そして、健康であってほしい、無事であってほしい、聡明であってほしい、有用な大人になってほしいと、子供にいろんな願いを寄せるようになった。一方で、私たちの与えている愛が、子供のためになっているのかと心配になることもある。ある物語で、カワセミのお母さんが、卵を守るために巣を高い木の上に作った。卵が孵化すると、子供のカワセミが「木が揺れて高い所がこわい」と言うため、カワセミのお母さんは巣を木の下のほうに移した。その後、子供のカワセミは羽が生えてくると、泣きながら「もっと低い所に移動しないと、もう飛ぶ練習はしない」とせがむため、カワセミのお母さんは、子供が悲しむことは何もしたくないと、巣を地面の草の中に移した。そして、子供のカワセミは結局キツネにいとも簡単にさらわれてしまう......[1]

 中国には「父母の子を愛するや、則ち之が為に計ること深遠なり(親は子供を本当に思うなら、長い目を持って教育しなければならない)[2]」という有名な言葉がある。では、どのように子供に愛を示せば、長い目を持って育てていることになるのだろう?

 親である私たちの生活態度、物事の処理の仕方、価値観などは、子供にとって善悪の判断の基準になり、成長している過程で、思想や性格に知らず知らずのうちに影響を与える。そのため、私たちは家庭において、言葉だけでなく自らの行いで子供に教育を行い、生活の中で子供が礼儀やマナーを学ぶことができるよう特に気を付けている。例えば、子供が道を歩いている時には、ゴミをポイ捨てしてはならないと教えるようにしている。すると、子供は広場で遊んでいる時、他の子供が捨てたゴミを拾って、ゴミ箱に捨てるようになった。拾って捨てているのはおやつの袋や紙くずなどで、私たちが教えていることが少しずつ子供の心に刻まれていたのだ。今に至るまで、子供は外で遊ぶ時、子供は私が準備したビニール袋にゴミを入れている。子供なら誰でも、バスごっこをして、「○○系統に乗ってくださってありがとうございます。前のドアから乗って、後ろのドアから降りてください。料金は運賃箱に入れてください」と車内放送を真似したことがあるだろう。私の子供にも、バスに乗るときはいつもちゃんと列に並んで、前のドアから乗るように教えている。ある雨の日のことだ。子供を抱っこしてバスに乗ろうとしたものの、バスは出発してしまった。それでも、運転手が親切に止まってくれて、後ろのドアを開けて乗れるようにしてくれた。ところが、うちの子供は絶対に後ろからは乗らず、前からしか乗らないと言い張り、運転手を戸惑わせてしまった。その他、道を渡るときは信号を守るように、横断歩道を渡るようにと教えており、子供もそれに従ってくれている。私が急いでいる時に「近道」をしようとすると、それを見た子供から指摘されて、返す言葉もなく、恥ずかしい思いになるということもある。子供に教えていることを、親がまず率先してしなければならないということだ。親の言動は、子供の言動の鏡となるのだ。

 次に、家庭での教育において、節約意識や自立能力を子供が培えるよう助けている。「徳有る者は皆倹より来たる也(徳のある者はいずれも倹約して来ている)[3]」、「倹以て名を立て侈以て自ら敗る(倹約は名声を残し、贅沢は失敗を招く)[4]」と言われている。現代では、豊かな生活を送ることができることに加えて、親が甘やかしすぎるため、多くの子供が生活のたいへんな部分を知らず、何かを大切にしたり、感謝したりすることをも知らない。私は、子供に生活の中で実際にいろいろと経験させ、自分のことは自分でできるようにさせている。例えば、スーパーに買い物に行く時には一緒に連れて行き、お金がいくら手元にあり、必要な物を買った後いくら残ったかを伝えている。そして、少しずつ必要な物をリストにして、それを子供に探してもらい、最後に一緒に精算するようにしている。そうすることで、子供もお金に対する第一歩となる概念ができる。その他にも、食事を作る時に、台所で子供に、落花生を洗ったり、卵を割ったり、ジャガイモを切ったり、キュウリの千切りを(スライサーで)削ったりなどの手伝いをしてもらっている。今では、目玉焼きを作ったり、パンを焼いたり、トマトを炒めたり、餃子やワンタン、アンパンを作ったりと、簡単な料理ができるようになった。子供なのにそんなことができるなんてと、驚く人もいるかもしれない。実際には子供は何もできないのではなく、大人が子供に苦労をさせるのを嫌がっているだけなのだ。大人が「苦労」と思っていることは、実際には子供にとっては楽しい「ゲーム」で、フレッシュな体験であることも多く、子供が「ゲーム」をしながら成長できるようにしてあげたほうが賢明ではないだろうか。子供は「ゲーム」をしている過程で、何かを「大切」にすることも学ぶものだ。例えば、子供は自分が床を掃除すると、誰かが床を汚した時には、「僕がせっかく掃除したのに」と怒るものだ。その姿はとてもかわいい。

 子供はいつか必ず親から離れるもので、その前に、子供が自分で自分のことはできるように育ててあげたほうがいい。家事を手伝ってもらうことで、子供が自立できるようサポートするほか、家庭に対する責任感を持つように助けることもできる。私たち夫婦は、子供が3歳の時から、いろんな所に一緒に旅行へ行き、視野を広げると同時に、自立能力を培えるよう、助けている。旅行カバンに必要な物を入れて準備をする私の姿を見て育ち、今では出かける前になると、子供は自分でパスポートや切符、生活用品などを準備するようになっている。そして、外に出かけた時は、私は道に迷ったふりをして、子供にホテルまで連れて帰ってもらうようにしているため、子供は道をよく覚えるようになっている。特に、東京で生活しているこの1年、複雑な地下鉄網であるにもかかわらず、どれに乗るのが一番良く、どこで何に乗り換える必要があるかなどは、夫のスマホよりも早く教えてくれる。これは、子供が将来社会に出て独り立ちするためには、とても大事なことだと思う。なぜなら、子供は自立能力がなければ、仕事や生活の中で、責任を持って何かをする能力もないからだ。

 さらに、読書の習慣を身につけるようにも助けている。読書をすると、道理をわきまえ、正しいこと、良いこと、美しいことを見極めることができるようになる。私は子供と一緒に6年読書を継続することができている。子供は生かじりのこともあるものの、知識欲や漢字に対する意欲が妨げられることはない。まだ、字が読めない時、子供は本の字を真似して、絵のようにそれを書き、字が読めるようになると、もっときれいに字が書けるようになった。にぎやかに本を読んでいた子供が、静かに落ち着いて読書を楽しむようになるというのは、本当に喜ばしいことだ。子供が読書好きであれば、親は勉強のことは心配する必要はなく、目じりが下がる思いだ。

 最後に、子供の選択を尊重するようにしている。これは実際にはとても難しい。なぜなら、親というのは、自分の思いを子供に押し付けてしまいがちで、「これが子供にとって一番いい」、「子供が遠回りしないですむように」と思いがちだからだ。それは、自分の思い通りの形に育てる「盆栽」のようであって、「大きな木」ではない。親は細かな所まで子供を型にはめがちで、私もそのような間違いをしたことがある。私は子供と、先にAをしてからBをするか、先にBをしてからAをするかで、よくケンカをする。子供に、「お母さんはなぜいつも僕に、お母さんのやり方でさせるの?」と聞かれることがあり、ハッとさせられる。そのため、子供に対して、自分の考えがないと文句をいいながら、自分の言うことをきくようにと求めることがないようにしなければならない。私は子供が少しの挫折を経験したり、苦労をすることになったとしても、自分の考えにこだわったり、自分の考え、感情、願いを押し付けたりしないようにしたいと思っている。そのようにして初めて、子供を一人の人間として見ることができる。しかし、子供自身も、自分で決めたことは、自分で最後まで責任を持たなければならないということを覚えていなければならない。失敗してもいいし、道に迷ってもいいので、子供には、自分で決めたことは我慢して最後までやる遂げることを覚えてほしい。

「親は子供を本当に思うなら、長い目を持って教育しなければならない」。各家庭によって、教育方針や考えは異なるものの、その目的、行きつくところは同じだと、私は思う。子供に優秀な大人になってほしいと思うなら、まず自分が優秀な大人にならなければならない。子供に意義ある生活を送ってほしいなら、まず親が意義ある生活を送らなければならない。子供は親の背中を見て、静かに育っているのだ。

 全ての子供たちが自分らしく生きることができることを願っている。


[1] 馮夢竜編著『古今譚概』「翠鳥移巣」(編集部注)

[2] 劉向『戦国策』巻第二十一 趙四 二百七十七「趙太后新用事」(編集部注)

[3] 司馬光「訓倹示康」(編集部注)

[4] 同上(編集部注)