【06-02】中国の成長を促進する科学技術(下)~イノベーション政策とその背景~

2006年12月20日

岡山純子(中国総合研究センター アソシエイト・フェロー)

 2006年、中国の研究開発投資額は購買力平価換算値(注1)で日本を抜き、米国に次いで世界第2位となった(2006年12月4日にOECDが発表した推計値)。この背景には、前号で紹介した通り、中国政府が永年「科教興国(科学技術と教育で国を興すの意)」のスローガンのもと、科学技術を重視した政策を展開してきたことがある。

  このような中国の科学技術・イノベーション政策について前回に引き続き紹介する。

写真1

中国の科学技術発展をとりまく様々な課題

研究開発の地域間格差

 中国では北京、上海をはじめとする東部の沿岸地域が急激に発展しているのに対し、西部の内陸は経済成長の速度が相対的に緩やかである。このため、地域間の経済格差が拡大しており、2005年の一人当たり総生産額を地域別に見ると、最も多い上海市が51474元/人(約77.2万円)、最も少ない貴州省が5052元/人(約7.58万円)と約10倍の格差がある(中国統計年鑑のデータに基づく)。

  研究開発でもこの格差は如実にあらわれており、各地域の研究開発投資額の多い地区は2004年の実績で北京市の317億元(約4755億円)を筆頭に沿岸部に集中している。また、研究開発投資の最も少ない地区は内陸に位置するチベット自治区の3633万元(約5.5億円)となっている

 このような地域間格差拡大への対策として、中央政府は「西電東送(西部で発電した電気を東に送る)」や「西気東輸(中国を横断するガスパイプライン敷設。西のガス(=気)を東に送る)」といった西部大開発のビッグプロジェクトを推進すると同時に、様々な科学技術プロジェクトや大学建設が内陸部にもいきわたるよう配慮している。

技術の海外への依存

 2005年における中国の技術導入(注2)に係る契約の総額は中国商務部の発表によると190.5億ドルであり、その内技術費は118.3億ドルであった。中国では同年の研究開発投資総額が2450億元≒296億ドル(1ドル=8.28元で換算)であったこと等と考えあわせると、中国の科学技術は依然として海外からの導入割合が高いといえよう。なお、技術導入相手国は表1に示す通り、ドイツ、日本、アメリカが中心となっている。

表1

応用研究への偏り

 R&D支出を基礎、応用、発展の研究タイプ別にみると、圧倒的に発展研究が多いことがわかる。中国では短期的な研究成果を追求する傾向が強い中、いかにして基礎研究を奨励するかが重要な課題の一つにあげられている。

図1

環境・エネルギー問題

 中国は急激な発展を遂げる中、図2に示す通りエネルギー消費量の増加している。また、環境汚染問題が深刻化していることは周知の通りである。中国政府も、「過度にエネルギー及び資源の消費に依存した成長や環境汚染問題は重大な課題」(中国国家中長期科学技術発展計画綱要より)と捉えている。

図4

イノベーション能力の強化を目指して・・・

未来に向けて~科学的発展観と自主イノベーション

 中国政府は経済最優先の開発に伴う環境汚染の深刻化、沿岸部と内陸部との経済格差の拡大への反省から、最近では「科学的発展観」という概念が打ち出された。これは、科学技術を核とした経済成長に加え、環境やマクロ経済バランス等についても科学的思考で検討・調整していくことを意味しており、持続可能な発展を目指した社会構築を志向している。

  また、これまでの外資に依存した技術導入から独自の研究開発を志向する「自主イノベーション」を掲げている。

  このような考えは、2006年2月に国務院より発表された中国の今後15年間の科学技術を展望する計画である国家中長期科学技術発展計画網要(2006―2020年)や2006年3月に全人代より発表された第十一次五カ年計画(2006―2010年)に色濃く反映されている。

今後15年、中国が重点的に取り組む研究課題

 国家中長期科学技術発展計画網要では、R&D投資の対GDP比率を2010年に2.0%、2020年には2.5%以上とすること等を目標に掲げつつ、比較的短期間に突破できると考えられる技術から、世界最先端の基礎研究まで、次の様な研究分野・課題を具体的に提示している。

重点領域 比較的短期間に技術突破できる可能性のある項目を優先課題に設定

●重点領域(11分野、68項目)
(1)エネルギー (2)水資源と鉱山資源 (3)環境 (4)農業
(5)製造業 (6)交通輸送業 (7)情報産業とサービス業 (8)人口と健康
(9)都市化と都市の発展 (10)公共安全 (11)国防

 

重大特定プロジェクト 戦略製品、基盤技術、工学に係る国家戦略の空白領域を埋めることを目指す

●重大特定プロジェクト(16件のプロジェクト)
(1)コア電子部品 (2)ハイエンド汎用チップと基本ソフト
(3)超大規模集積回路製造技術 (4)NC工作機械及び基盤製造技術
(5)大型油田・ガス田及び炭層ガス開発
(6)大型先進加圧水型炉及び高温ガス冷却炉原子力発電所
(7)水汚染の抑制・管理 (8)遺伝子組み換え生物新品種の育成
(9)重要新薬の開発 (10)エイズ、ウィルス性肝炎等の伝染病予防・治療
(11)大型航空機 (12)高解像度地球観測システム
(13)有人宇宙飛行と月面探査飛行計画 (他3項目は非公開)

 

先端技術 次世代のハイテク産業の基礎となる技術

●先端技術(8分野、27項目)
(1)バイオ (2)IT (3)新材料技術 (4)先進製造技術
(5)先進エネルギー技術 (6)海洋技術 (7)レーザー技術 (8)宇宙技術

 

重大科学研究計画(基礎研究) 中国の国際競争力を顕著に高める世界トップレベル技術

●重大科学研究計画(基礎研究)(4項目)
(1)たんぱく質 (2)量子抑制 (3)ナノ技術 (4)発育と生殖

 

 これら研究課題を俯瞰すると、短・中・長期を展望した極めて熟考されたラインナップであると感心させられる。今後中国がどのようにこれらの技術課題に取り組み、突破していくのか、注目していきたい。

(注1) 基準時点の為替相場に各国の物価指数を考慮した値。例えば、2004年の人民元はIMFレートでは1元=13.07円であったが、購買力平価換算では1元=69.55円となる。
(注2) 「外国技術導入」の定義:外国との間において、工業所有権(特許・実用新案・意匠・商標)、ノウハウに関する権利の譲渡、実施権・使用権の設定や技術指導により技術を導入した場合をさす。(NISTEP Report 68より)

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