【07-04】農業科学技術普及基地~櫻桃溝村訪問記~

2007年6月20日  天野 年崇(JST北京事務所副所長)

 北京市科学技術協会の招待で、このほど各国の駐中国大使館官吏等を対象とした科学技術実地視察会に始めて参加した。この視察会は2003年秋に始まり、こ れまでに北京市内の崇文区等の地域社会や北京経済技術開発区、石景山区のデジタルレクレーション産業のモデル地区等を見学したという。北京市としては、市 の活気及び創意に富んだ活動を効果的に海外に発信することこそ、この会の目的であろう。

 今回は北京西部に位置する門頭溝区にある櫻桃溝村(Village of Cherry)を訪れた。北京市の紹介によると、門頭溝区は科学技術・文化水準が高く、観光資源に富み、第 11次5ヵ年計画にそって、同区は文化やエコロジー、観光の分野を重視して発展しているそうだ。そして櫻桃溝村は、国の観光農業モデル地区として、また北京市の農業科学技術普及基地として、北京市における「 新農村」建設の手本となっている。

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 中国の施策において、科学技術普及は重要なテーマである。一般市民に対する科学知識の普及促進や、学生の科学技術に対する知識・理解の増進等の取り組みは、日本における科学技術理解増進施策と類似する。た だし、科学技術分野における投資に対する説明責任という側面はなく、国力向上に向けた必須の施策と位置付けられているようだ。従って、為政者や行政担当者も「科学技術普及」の対象であり、科 学的思考に基づく政策立案・実施が求められる。そして、農業における科技普及では、その目的は科学技術的手法の学習・導入を通じて農家の収入を向上させることにある。今回訪れた「新農村」の 櫻桃溝村はその意味で優等生であろう。

  櫻桃溝村の紹介によると、村の果樹園は、1993年には面積20ha、生産量数十kgであったが、現在はそれぞれ1,000ha,6万kgまでに拡大した。さくらんぼの品種も、村で商標登録した主力品「 妙櫻」をはじめ60種以上と、この間に20倍以上に増加したという。聞けば無農薬の自然栽培で、誘引捕虫器等の利用により害虫の駆除・予防をしているそうだ。今や村は、単なる農園にとどまらず、さ くらんぼ狩り等も楽しめる、科学技術教育の場も兼ねた複合「リゾート村」だ。

  櫻桃溝村の視察では農家の住宅にも案内され、その暮らしぶりをつぶさにみることができた。北京市内からは数十kmも離れた山中としては頗る立派な住居が並び、至 る所に太陽光発電のパネルが設置されている。私が訪ねた農家のご主人は年収10万元(約160万円)、住居は約30万元で購入したそうだ。部屋には25インチ以上のテレビがあり、彼らは衛星放送を楽しんでいる。平 均的農家を訪れたことはないので比較はできないものの、中国の農家としては極めて裕福であることは間違いない。

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  農家の視察を終えて、視察団一行はさくらんぼ狩りを楽しんだ。さくらんぼの品質は酸味も少なく意外に良かった。そういえば、自身、さくらんぼをこれほどたくさん食べられるのは何年振りだろう。

  それにしても如何にしてさくらんぼ栽培における技術革新を成し遂げたのか。果樹の中でもさくらんぼは難しい。無論、農家の弛まぬ努力あっての成功なのだろうが、科学技術普及の基地として、気 象の影響を受けやすいこの作目を如何に育て上げたか等の具体的な「13年に亘る努力」は窺い知ることはできなかった。中国政府としてはこの成功事例を単に称賛し、宣伝するだけではなく、得 られたノウハウ等を如何に国内で共有化し、敷衍するかも重要な課題であろう。

 今回の櫻桃溝村視察を通して、中国の科学技術分野への投資という経済施策の一部を垣間見たように思う。政府や有識者は、大学や研究機関に対して科学技術普及への実践的取り組みを盛んに促している。こ れは国民の創意と工夫を刺激するための人的資源開発施策であり、教育や人材育成、科学技術の着実な向上が期待されよう。特に農業分野については、「和諧社会」の構築、「三農問題」の解決に向けて緊要であり、農 業科学技術への積極的な投資が求められているように思われる。

 視察を終えて、視察団一向はお土産にかご一杯のさくらんぼをいただいた。実に2kgはあろうか。私が北京に赴任して1ヵ月半、何よりも自身にとって初めての海外生活であり、未 だ公私とも閉口させられることが少なくない。駐在員の仕事は予想以上に大変である。ただ、今日はお土産までもらって幸運だった。我ながら単純である。


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