【07-11】仝小林教授が語る「中医学の病気診察、治療の真髄」

仝 小林(中医科学院広安門医院副院長)  2007年8月20日

 中国医学は健康と病気に対する認識、診察方法と病気治療に対する理念において独特の点を備え、現代西洋医学とは明らかに異なる。これこそがその最も重要 な核心部分であり、先進的な医学思想を含み、中国医学による診察の優位性を集中的に具現している。仝小林教授はそれを次のように概括した。

大系統 :全方位から世話をし、時間と空間を明らかにする

個体化 :中国医学による病気治療の最高の状態

未病治療 :僅かな兆しからその本質を判断し、患いを未然に防ぐ

表象観察 :中国医学による病気診察の独特な方法

バランス調節 :中国医学による病気治療の最終目的

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大系統:全方位から世話をし、時間と空間を明らかにする

 大系統の医学思想は空間の関連性を強調している。1人の病人が患っている幾つかの疾病を結び付け、それらの間の相互の関連を探し出す。次に疾病をその人自 身の問題としてとらえ、病と人(遺伝、性格、心理、生活習慣等)の相互の関連を見る。その後、環境の問題としてとらえ、人と自然環境、社会環境、家庭環 境、仕事環境、経済環境、教育環境等の相互の関連を見る。一方、大系統の医学は時間の連続性も強調している。即ち、疾病にはその形成過程と進行過程があ り、疾病の現時点での状態を診断すると同時に、疾病の過去を理解し、疾病の未来を推測しなければならない。

 例えば、肥満の人の場合、我々は「前を見たり後ろを見たり」して、病気になった人の20年前と20年後を考えるべきである。肥満は糖尿病、血脂障害、脂肪 肝、高血圧、痛風、心臓・脳血管疾患等の疾病の共通の土壌である。その上、20年前に形成された肥満であれ、20年後の肥満であれ、それによって引き起こ された多くの疾患はいずれも一朝一夕でなく、長い過程を辿ってきたのである。中国医学は時間と空間の中で病人の状況を全方位から考慮し、世話をすることを 強調している。

個体化:中国医学による病気治療の最高の状態

 個体化の医学思想とは、疾病の共通性に関心を寄せると同時に、同じ疾病の個体差異性を一層強調することを指している。

 治療面で「身の丈に合わせた服の裁断」を強調することは壺を押さえたものだ。

 人間本位の個性化治療を強調している。

 例えば、一部の糖尿病患者は飲食、運動、薬物等の治療をしても血糖値が依然として下がらなかった。我々は臨床の過程で、これは患者によって血糖抑制不能 ファクターが異なっており、不眠による場合、夜間頻尿による場合、便秘による場合、月経不順による場合などがあることに気付いた。中国医学の治療では「錠 前を開けるのはそれに合う1つの鍵だけである」ことを特に重視し、それぞれの患者の状況に応じて個体化治療を採用している。

未病治療:僅かな兆しからその本質を判断し、患いを未然に防ぐ要

 未病治療の医学思想とは、疾病がまだ形成されていない段階(未病)では即ち関与措置を講じ、疾病が既に形成された段階ではその一層の変化と進行を防止することである。

例えば、我々は肥満2型糖尿病の予防・治療は前倒しして、関与と治療を早めに行うことを提唱している。糖尿病が見つかったその日から絡脈治療薬物を使用 し、運行障害、停滞、閉塞のそれぞれの度合いに基づき、血液の運行を促し、鬱血等の停滞部位を取り除き、絡脈を通じさせる各治療方法を個別に採用する。中 国医学の未病治療思想を応用すれば、糖尿病患者の病状の進行を効果的に抑え、合併症の出現を予防し又は遅らせることができる。

表象観察:中国医学による病気診察の独特な方法

 中国医学による病気診察の主な方法は「表象観察」である。例を挙げよう。例えば、北京市の環状2号道路沿いの木々はその樹皮・樹幹に皺が多く、葉 には埃が多く、非常に乾燥しており、まるで裏表のある人のようだ。これは騒音、埃、水不足、日照不足の状態下に長い間置かれたためである。一方、普陀山の 樹木は環状2号道路と全く異なっている。普陀山の木々は全体として青々と茂り、すくすくと成長している感じを与える。環状2号道路沿いの樹木は、辛い思い をし、気が晴れない人を連想させ、普陀山の樹木は優雅で、楽しい気分の人を連想させる。世事の洞察はいずれも学問であり、自然・人文は1つの理(ことわ り)也である。枝と葉の伸び具合はどうか、樹幹の生長具合はどうか等の樹木の表象を観察すれば、その状況を察することができる。同じように、病人の顔かた ちや体付き等の具体的な表象を細かく観察することを通じ、その人の状態を察することができる。

 「表象観察」は又、疾病の内在的変化に伴う外在的表象の中から、診断の情報を得ることを指す。それは瓜栽培農民が瓜の選別をするようなものだ。経 験のある瓜栽培農民は瓜の良し悪しを見るのに包丁で切り開く必要がなく、瓜の形、色を見て、手で重さを量り、叩いてその音を聞きさえすれば、良い瓜を選び 出すことができる。優れた医者も又、各レベルから深く掘り下げた観察を行い、理解し、各角度から見た質の高い全面的な情報を得て、それを疾病の診断に用い るのである。

バランス調節:中国医学による病気治療の最終目的

 中国医学は健康とはバランスがとれていることだと考える。バランスは心と体のバランスを含む。バランス調節能力は健康度を推し量る尺度であり、こ れには心理的な負担能力、社会に対する適応能力、自然環境に対する適応能力等が含まれる。その反対に、疾病とはバランスを失うことであり、その潜在性状態 を「未病」と呼び、顕在性状態を「既病」と呼ぶ。しかし、衰えと老い自体は疾病ではなく、衰えとは減退、減衰、緩慢であり、老いとは老化、老齢である。人 が衰えと老いに向かうのは避けられず、体と心がバランスのとれた状態にありさえすれば、こうした自然の衰えと老いは健康的なものである。

 中国医学の治療の最終目的はバランスが失われた状態を是正することであり、即ち各種の治療方法を用い、人体自身のバランス調節能力と修復能力を引 き出し、強化する。「バランスを期する」ことは中国医学による疾病予防・治療の出発点であり、立脚点である。このため、人体のバランス調節を手助けするの に用いられる物質又は手段はいずれも「薬」と呼ぶことができ、それは体内の薬と体外の薬を含む。人体自身に修復とバランス調節の能力及び物質が存在してお り、これらは「体内の薬」と呼ばれる。中国医学はまさに若干のバイアスを有する植物、動物、鉱物等の「体外の薬」を利用して、人体の「体内大薬」を引き出 し、それによって人体の偏った状態を是正し、治療目的を達成するのである。

 中国医学による病気診察の優位性は臨床過程においてもはっきりと示された。例えば、私は91〜94年に日本で診察を行った。そこの病人は様々な病 気で漢方医の診察を受けにきた。難病とされる症例はほとんど全ての診療科で見受けられた。網膜色素変性症でさえも鍼灸による治療が多数行われた。これは中 国医学による治療の幅広さを証明するものだ。また、2003年にはSARSが猛威を振るった。私は臨床実践の中で、病人の臨床症状を全方位からきめ細かく 観察することを通じ、疾病の病状変化・進行法則をまとめ上げ、「肺毒疫」の観点と「邪伏気絡」の学説を率先して打ち出した。そして以上の原理に基づき、中 医薬(中国漢方医薬)しか用いない方法でSARS患者11例を治療し、全員が健康を回復した。中医薬だけでSARSを治療し、これに成功したことは国内外 に注目され、世界保健機関(WHO)はこの治療案に関する研究を進めるとともに、同案をWHO編集の「中国医学と西洋医学の結合による重い急性呼吸症候群 の治療臨床実験」に収録した。その意義は中医薬も手強い相手と闘えることを世界にはっきりと示したことにある。

 以上述べた点を総合すれば、中医薬学の重要な医学思想、健康と病気に対する独特の認識、病気診察の方法、病気治療の理念及び良好な治療効果は将来 の医学発展モデルに対して重要な啓発を与え、現代医学に新たな知識を溶け込ませることになろう。その先進的な予防保健体系、診断を下しにくい病気に対する 治療及び多くの慢性疾患に対する養生の有効性は世界の人々の健康のために多大な貢献をするに違いない。

仝小林

仝小林(トン・ショウリン):
中医科学院広安門医院 副院長

略歴

 1982年長春中医学院中医本科卒業後に、皖南医学院に進学し1985年修士を取得した。
1988年に南京中医薬大学に進学して博士号を取得した。その後、中日友好医院中医糖尿病科主任医師を経て、2005年から中医科学院広安門医院副院長となった。
国家中医薬管理局内分泌重点学科のリーダーとなった。中華中医薬学会糖尿病分会主任委員、中華中医薬学会博士学術研究分会主任委員などを務め、北京大学医学部教授となった。
そのほかにも北京中医薬大学教授、博士課程指導教官、国家食品・薬品監督局新薬審議会委員なども務め、中国の漢方医学の権威となっている。
これまでに、
中華中医薬学会難病診療とともに研究優秀賞
中日友好医院中西医学結合SARS臨床研究二等賞
中日友好医院"胃腸通"新薬開発一等賞
国家出版署SARS中医学診療と研究特別賞
中華中医薬学会SARS撲滅特別貢献賞
科技部全国SARS予防治療優秀科学技術活動家賞
中華中医薬学会肥満II型糖尿病前期、早期基礎理論・応用研究一等賞
など数々の受賞歴がある。

仝小林(中医科学院広安門医院副院長)の略歴


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