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【07-12】中国におけるハイテク産業開発の一端を垣間見る~「長江デルタ(上海・蘇州・江陰)視察団」に参加して(上)~

佐藤 暢(JST産学連携事業本部 地域事業推進部)  2007年8月20日

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はじめに 〜本視察団の背景等〜

 コラボ産学官(理事長:梶谷誠・信州大学監事)は、産業界、教育研究機関、国及び地方自治体が、そのシーズとニーズのマッチングと活用を計ることにより、 わが国の経済活動の発展に資するとともに、産学官それぞれの本来の活性化と社会貢献に寄与することを目的として平成16年に設立した会員組織(法人、個 人)であるが、さまざまな機会を通じた日中交流にも積極的に取り組んでいる。とくに、コラボ産学官等の主催による中国視察ツアーとしては、平成17年5月 (深セン市虚擬大学視察団)および平成18年7月(北京中関村サイエンスパーク視察団)に続き、今回の「長江デルタ(上海・蘇州・江陰)視察団」(以下、 「本視察」という)は、第3回目の実施となる。

 筆者が所属しているJST地域事業推進部では、産学官の連携によりわが国の地域におけるイノベーションを総合的に創出する支援事業を推進しており、今回、 本視察に参加する機会をいただいたので、今後の地域事業推進さらには国際的な産学官連携の観点から、その一部を報告させていただく。なお、本視察については、JSTからは鈴木雅博主査(産学連携推進部(当時))も参加しており、別途「産学官連携ジャーナル」にレポートが掲載される予定とのことである。併せ てご参照されたい。

長江デルタ地帯についての簡単な紹介

 本視察で 訪問した長江デルタ地帯は、現在の中国で最も発展がめざましく、中国の経済成長を牽引する最重要地域のひとつであることは、本誌読者の皆様もよくご存じの とおりであろう。とくに上海市は、2006年、中国で初めてGDPが1兆元(15兆円強)を突破するなど、もはや中国だけでなく、グローバルな観点からも 最もホットな国際都市の一つであるといえよう。

蘇州市は、2500年の歴史を持ち、古来より「地上の楽園」と称えられ、現在では拙政園など9つの庭園等がユネスコの世界文化遺産に登録されている歴史 文化・国際観光都市であるが、近年では積極的な外資誘致により、ハイテク産業を主体とする新興工業都市、中国における近代製造業の基地の一つとして発展を 続けている。

 江陰市は、1970年代後半以降の改革開放政策において、いち早くアクションを起こした中小都市の一つであり、とくに市の華西村(中国では「華西鎮」) は村営企業(同「郷鎮企業」)の工業化の推進等により、現在は「天下第一村」「中国首富村」として、国内・海外からの注目を集めている。

 本視察は、これら諸地域の関係機関・施設を視察・訪問し、現地関係者との意見交換や情報交流等を通じ、躍動する中国経済の熱い今を現地で実感し、今後の学術交流やビジネス交流に資することを目的として企画されたものである。

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本視察における主な視察・訪問先など

 本視察の日程および主な視察・訪問先は次の通りである。

7月18日(水)

  • 視察団顔合わせ、事前レク、移動(成田→上海)
  • 浦東新区陸家嘴金融貿易区
  • 現地交流会

7月19日(木)

  • 上海都市建設企画展覧館
  • 上海張江ハイテク産業開発ゾーン
  • 上海洋山国際深水港
  • 上海臨港新城

7月20日(金)

  • 上海松江大学城
  • 移動(上海→蘇州)
  • 蘇州ハイテク産業開発ゾーン
  • 蘇州環境保護工業園
  • 蘇州サイエンスタウン(科技城)
  • 移動(蘇州→江陰)

7月21日(土)

  • 「天下第一村」華西村
  • 江陰経済開発区
  • 江陰ハイテク創業パーク(高新技術創業園)
  • 江陰臨港新城
  • 江陰市政府等との交流会

7月22日(日)

  • 移動(江陰→上海、上海→成田)、帰国、解散

  以下では、ハイテクゾーンや製造・物流基地など、各地域の産業開発や産業振興拠点の構築や運営にスポットを当て、いくつかの機関・施設等をピックアップし て紹介させていただきたい。ちなみに、今回の訪問地に限らず、中国ハイテク産業の現状や動向について、より効果的に理解するにあたっては、その全体的な概 要を俯瞰的に把握することが非常に有益かつ重要と思われるが、本誌特別寄稿「中国における高成長が続くハイテク産業の現状及び動向」(張輝・株式会社技術 経営創研社長)、あるいは、「中国におけるハイテク・スタートアップス調査研究報告書」(2007年3月、独立行政法人産業技術総合研究所)などが参考に なるものと思われる。適宜ご参照されたい。

上海~グローバル経済の牽引者として、その勢いはますます拡大~

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 上海の概況について、多くを語る必要はないだろう。中国最大の商業・金融・工業都市であり、一人当たりGDPは香港以外では国内最高水準であ る。現在の中国の経済成長等を背景に、将来的に上海がニューヨークや東京、ロンドンとともに世界経済を牽引する重要な位置を占めるだろうといわれているこ となどはご存じのとおりである。

 ここでは、国家級ハイテク産業開発ゾーンの一つであり「北に北京の中関村があり、南に上海の張江がある」ともいわれる上海張江ハイテク産業開発ゾーンと、アジア最大の物流拠点を目指す上海羊山国際深水港および上海臨港新城について紹介したい。

上海張江ハイテク産業開発ゾーン

上海張江ハイテク産業開発ゾーン(上海張 江高新技術産業開発区)は、浦東新区に属し、陸家嘴金融貿易区の東南側に位置する。1990年代初めに創立された国家級ハイテク産業開発ゾーンの一つであ り、半導体、ソフトウェア、バイオ・製薬の三大産業分野を柱に位置づけている。2006年には周辺の漕河涇経済開発区や上海大学科技園等を含む、より広域 で大規模なハイテク産業開発ゾーンとして名称変更されるなど、上海市経済成長の新たな牽引役としても期待されている。2006年末時点で4862社の内外 企業が拠点を持ち、資生堂、松下、キリンビール、味の素、三共、ソニーなど日本の代表的な企業も進出している。

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 本視察ではハイテクゾーン内の上海浦東ソフトウェアパーク(軟件園)を中心に、その現状や動向等を伺った。ここは西安や大連と同じく国家ソフトウェア産 業基地(国家軟件産業基地)と国家ソフトウェアアウトソーシング基地(国家軟件出口基地)の双方の役割を担っており(3つの都市でその規模や位置づけ等は 異なるが)、2006年末の売上は約104億元(約1600億円)、輸出総額は約1.5億ドル(約180億円)を達成したとのことである。

上海羊山国際深水港および上海臨港新城

 上海における貨物取扱量は、 2006年においてシンガポールを抜き世界一となった。コンテナ取扱量も、シンガポール、香港に次ぐ第3位であるが、上海羊山国際深水港は、現状の上海港 のコンテナ取扱量の限界を打破するべく、2006年12月10日に正式開港した。現在進行中の第2期工事も本年末には完成すると見込まれている。この港は 上海市中心部から70km離れた小羊山島を埋め立てて建設された海上港であるが、港と陸側を結ぶ総延長32.5km、往復6車線の東海大橋は、1日 8000台のトラックが稼働可能というから圧倒される。さらに驚いたのは、小羊山島は上海市の隣、浙江省の土地であるという事実である。ますます拡大する 上海は留まるところを知らない。

ソフトサービス面では、中国本土発の保税港として国務院からの優遇政策を受けており、港湾・保税区・輸出加工区の機能を一体化したエリアとして整備を進めている。

東海大橋の起点部に建設中の上海臨港新城は、敷地面積300平方キロに80万人都市を造る計画とのことで、上海市においては浦東開発に次ぐ戦略的な開発プロジェクトとして重要視されているとのことであった。

 このほか、陸家嘴金融貿易区(浦東新区)、上海松江大学城(松江区)、上海都市建設企画展覧館(市中心)などを視察・訪問した。筆者も上海を訪れるのは 初めてではなく、そのせいか、たとえば浦東の金融貿易区についても、その圧倒的な存在感に対して、かつて受けたカルチャーショックのような強烈な印象は、 今は感じられない。しかしそれは、上海の威容が薄らいだことを意味するものでは全くない。むしろ、拡大しつづける上海をますます実感し、ただただ呆然とする、といった表現が適切であるかもしれない。 

 ひところ「80年代は深セン、90年代は上海、では次の主役は?」といった議論も一部で聞かれたが、どうしてどうして、勢いは衰えるどころか留まるところ を知らないようでもある。とくに浦東国際空港から金融貿易区そして張江ハイテク産業開発ゾーンにかけての一帯は、この先の経済開発/産業開発に向けた計画 用地やインフラが、さらに整備されつつあることが判別でき、浦東新区の発展成長は当面揺るがないであろうことは筆者にも容易に想像された。

余計な一言を添えるとすれば、率直な印象として、上海は「グローバルビジネスの戦場」という表現がふさわしいようにも感じられた。つまり、世界市場への 展開に向けた戦略的位置づけはますます重要度を帯びてくるであろうが、中国市場へ向けた、いわばローカル戦略的な拠点としては、むしろ着目はもっと内陸 へ・・・。さすがに言い過ぎであろうか。これはあくまでも筆者の印象・感想に過ぎず、分を超えたコメントをするべき立場にないことは承知しているところで あるが、皆様のお考えは如何であろうか。

なお、上海都市建設企画展覧館では、フロア一杯に広がる大上海のジオラマが圧巻であった。展示館という限られた空間の中で、拡大し続ける上海を見事に表現している。市の中心部にありアクセスも容易なので、上海に行く機会があれば一見をおすすめしたい。

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 次号では、上海に続いて視察・訪問した、「世界9大新興科技都市」の一つでもある蘇州について、報告させていただく。