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【12-001】現代中国法総論

尹 秀鍾(中国律師(弁護士))  2012年 4月 25日

 現代中国法とは、中華人民共和国(以下「中国」という)の政治、経済、文化、社会生活における各種関係を調整する法規範の総称である。

法整備の状況

 1949年10月1日の中国成立後、特に1970年代末からの改革開放政策の導入以来、法整備は着実に進められてきた。その結果、現在では「2010年に中国の特色を持つ社会主義の法律体系を確立する」という目標はほぼ達成された、と評価されている。

法体系

 現代中国の法体系は、憲法(憲法関連法律法規を含む)、行政法、民商法、刑法、経済法、社会法及び訴訟・非訴訟手続法の7部門から構成され、また、法律、行政法規及び地方性法規・自治条例・単行条例並びに行政規則(以下「規則」という)といった異なるレベルの法規範から構成される。

規則には、国務院の各部、委員会などによって制定された規則(中国語で「部門規章」という)と、省レベル[1]の地方人民政府及び国務院が批准した比較的大きな市[2]の人民政府によって制定された規則(中国語で「地方政府規章」という)が含まれる。

本稿では、法律、行政法規、地方性法規・自治条例・単行条例及び規則をあわせて中国法律法規と総称する。

憲法

 憲法は、国家の基本的な政治制度や原理を定める最も根本的な法律であり、最高法規性を有する。一切の法律、行政法規、地方性法規、自治条例及び単行条例、規則は憲法に抵触してはならない、とされている(立法法78条)。

法律

 法律は、全国人民代表大会(以下「全人代」という)及びその常務委員会が、国家立法権を行使して制定した法規範である(立法法7条1項)。全人代は、刑事、民事、国家機構並びにその他の基本的法律を制定及び改正する権限を有する(同条2項)。全人代常務委員会は、全人代が制定すべき法律を除くその他の法律を制定及び改正し、全人代の閉会期間において全人代が制定した法律に対する部分的補充及び改正を行う権限を有する(同条3項)。

 法律の効力は、行政法規、地方性法規並びに規則に優越する(立法法79条1項)。

行政法規

 行政法規は、国務院が、憲法及び法律に基づいて制定した法規範である(憲法89条、立法法56条1項)。行政法規は、①法律の規定を執行するために行政法規の制定が必要となる事項、及び②憲法89条が規定する国務院行政管理職権事項について規定することができ(立法法56条2項)、法律制定事項(立法法8条参照)に関する法律が制定されていない場合、国務院は全人代及びその常務委員会による授権決定に基づいて先に行政法規を制定することも可能である(立法法56条3項、同法9条)。

 行政法規の効力は、地方性法規及び規則に優越する(立法法79条2項)。

地方性法規、自治条例及び単行条例

 省、自治区、直轄市及び比較的大きな市の人民代表大会及びその常務委員会は、当該行政区域の具体的な状況及び実際の必要に応じて、憲法、法律並びに行政法規に抵触しないという前提の下で、地方性法規を制定することができる(立法法63条1項、2項)。比較的大きな市の人民代表大会及びその常務委員会が制定した地方性法規については、省、自治区の人民代表大会常務委員会に報告して許可を得た後で施行することができる(同2項)。なお、経済特区の所在地である省及び市の人民代表大会及びその常務委員会は、全国人民代表大会による授権決定に基づき、法規を制定して経済特区の範囲内で実施する(立法法65条)。法律制定事項を除くその他の事項について国家が法律又は行政法規を制定していない場合、省、自治区、直轄市並びに比較的大きな市は、当該地方の具体的な状況及び実際の必要に応じて先に地方性法規を制定することができる(立法法64条2項)。

 民族自治地域の人民代表大会(*常務委員会には制定権限がない)は、当該地域の民族の政治、経済及び文化の特色に従って自治条例及び単行条例を制定する権限を有する。自治条例及び単行条例は、上級人民代表大会常務委員会に報告して許可を得た後に効力を生じる(立法法66条1項)。自治条例及び単行条例は、当該地域の民族の特色に従って法律及び行政法規の規定に対する変則規定を制定することができるが、法律及び行政法規の基本原則に違反してはならず、憲法及び民族区域自治法の規定並びにその他の関連する法律、及び行政法規が民族自治地域のために制定した規定に対して、変則規定を制定することはできない(同2項)。 

 地方性法規の効力は、当該レベル及び下級レベルの地方政府の規則に優越する(立法法80条1項)。

規則

 国務院の各部、委員会、中国人民銀行(中央銀行)、審計署及び行政管理職能を有する直属機構[3]は、法律、行政法規などに基づき、当該部門の権限の範囲内で規則を制定することができる(憲法90条2項、< < 立法法71条1項)。

 省レベルの地方人民政府及び比較的大きな市の人民政府は、法律、行政法規及び当該省レベルの地方性法規に基づいて規則を制定することができる(立法法73条1項)。

 部門の規則間及び部門規則と地方政府規則は同等の効力を有し、それずれの権限の範囲内で施行する(立法法82条)。省、自治区人民政府が制定した規則の効力は、当該行政区域内の比較的大きな市の人民政府が制定した規則に優越する(立法法80条2項)。

法律法規の関係

 中国法律法規の優劣関係は、下の図の通りである。

図1

*1 地方性法規には、自治条例及び単行条例並びに経済特区法規が含まれる。
*2 比較的大きな市は、直轄市の行政区域内には設置されない。

 地方性法規と部門規則の間で同一事項に対する規定が一致せず、適用関係が確定できない場合は、国務院が意見を提出するものとし、地方性法規を適用すべきであると国務院が認めるときは、当該地方において地方性法規の規定を適用する旨決定しなければならず、部門規則を適用すべきであると国務院が認めるときは、全人代常務委員会の裁定を求めなければならない(立法法86条1項2号)。なお、部門規則同士、又は部門規則と地方政府規則との間で同一事項に対する規定が一致しない場合は、国務院が裁定を行う(同3号)。

最高人民法院の司法解釈及び判例

 最高人民法院には、裁判過程での具体的な法律の適用問題について、司法解釈を行う権限が認められており(人民法院組織法32条、最高人民法院の司法解釈業務に関する規定2条)、その司法解釈は、法的効力を有する(同規定5条)。なお中国では、人民法院の出した判例は、原則として拘束力を持たず、また、これまで判例の研究はそれほど重視されてこなかった経緯がある。従って、判例より、最高人民法院がどのように法律を解釈するかが重要であり、最高人民法院の司法解釈は実務上、きわめて重要な役割を果たしている。

小括

 中国はピラミッド構造の中央集権型国家であり、中国の法体系も同様に、憲法を頂点としたピラミッド型の構造となっている。これらの法規範は、それを制定した組織のレベルに応じて区別されている。なお、中国の法整備は急ピッチで進められているため、新しい法令の制定や改正を常に把握し、見落とさないよう注意することが重要である。(以上)


[1]現代中国の法体系は、台湾、香港及び澳門(マカオ)の法体系を除く観点から、本稿における省レベルの地方人民政府とは、台湾省を除く22省と5自治区、4直轄市のことをいう。

[2]立法法63条4項によれば、同法でいう比較的大きな市とは通常、省、自治区人民政府の所在地である27市(各省人民政府の所在地である22市及び各自治区人民政府の所在地である5市)及び経済特区の所在地である4市(広東省深圳市、広東省汕頭[スワトウ]市、福建省厦門[アモイ]市及び広東省珠海市)、並びに国務院が批准した比較的大きな18市(遼寧省大連市、吉林省吉林市、山東省青島市、浙江省寧波市、江蘇省蘇州市など)の計49市を指す。

[3]海関(税関)総署、国家税務総局、国家工商行政管理総局、国家質量監督検験検疫(検査検疫)総局などの機構をいう。

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尹 秀鍾

尹 秀鍾(Yin Xiuzhong)

1974年生まれ。中国律師(弁護士)。慶應義塾大学大学院法学研究科民事法学専攻博士課程修了(法学博士)。慶應義塾大学法学部非常勤講師(中国法、2010-12年)。主要論文に、「中国型コーポレート・ガバナンスと独立取締役制度」(山本為三郎編『企業法の法理』慶應義塾大学出版会、2012年3月)、『公司法概論』(中国語版共訳、法律出版社、2011年11月)、「中国会社法2005年大改正の前と後」(JCAジャーナル56巻7号、日本商事仲裁協会、2009年7月)などがある。
 


【付記】
 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。