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【12-006】中国行政法Q&A(その1)

周 作彩(流通経済大学法学部教授)  2012年 7月 4日

周 作彩

周 作彩(しゅう さくさい):流通経済大学法学部教授

1962年、中国江西省に生まれる。
1984年、北京大学卒業。1992年、一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得満期退学。一橋大学法学部講師、山形大学人文学部助教授などを経て2005年から流通経済大学法学部教授(現職)。専攻は行政法。
主な著作として、『岩波現代中国事典』(岩波書店、1999年)(「行政法」「行政訴訟法」「国家賠償法」「行政区画」など20数項目を担当)、「法の支配と行政訴訟制度改革」原田尚彦先生古稀記念『法治国家と行政訴訟』(有斐閣、2004年)83頁、「改正行政事件訴訟法と抗告訴訟の可能性」高橋滋・只野雅人編『東アジアにおける公法の過去、現在、そして未来』(国際書院、2012年)107頁など。

 中国では、建国当初から強大な行政権が存在し、行政組織を定めた法令や、行政が社会・経済を管理するための法令は多数存在したが、行政権の行使を規制し、あるいは行政権による侵害に対する救済手段を定めた法令はほとんど皆無であった。

 行政法が一つの部門法として認知され、これに関する立法および研究・教育が重要視されるようになったのは、1980年代に入ってからのことである。とりわけ、1989年に行政訴訟法が制定公布されたのを皮切りに、国家賠償法(1994年)、行政処罰法(1996年)、立法法(2000年)、行政許可法(2003年)、公務員法(2005年)など行政法制に関する基本的な法律が相次いで制定公布されてきた(カッコ内はいずれも公布年。以下、同じ)。

 さまざまな問題を抱えながらも、行政の組織、活動およびその統制に関する法すなわち行政法がある程度体系的に形成されつつあることは間違いない。そこで、本稿では、中国行政法の基本的な事項について、Q&A形式で解説することにしたい。

1 行政の仕組み

中国の行政区域は、どうなっていますか?

 

 中国は、原則として単一の中央集権制を採用し、広大な国土を大小様々な行政区域に分け、それぞれの区域に一定の国家機関を設けて統治を行っている。

 行政区画の種類は、まず大きく普通行政区と特別行政区に分けられる。1997年と1999年に、それぞれイギリスとポルトガルから返還された香港とマカオは、特別行政区として設置され、「一国二制度」の下に高度な自治権が認められている。これに対し、普通行政区は、いわゆる民族自治区を含め、包括的な統治団体としての地方自治は認められていない。

図1

 普通行政区の最も基本的な形態は、省・自治区・直轄市——県・自治県・県級市・市轄区——郷・民族郷・鎮の3層構造である。また、自治州が設けられている民族自治地方および地級市(地区クラスの市)が設けられている区域では、省・自治区——自治州・地級市——県・自治県・県級市——郷・鎮・民族郷の4層構造となる。

 以上の行政区域は、国家権力機関(人民代表大会)および人民政府が置かれる区域であり、一つの行政レベルを構成する。これに対し、上級政府の出先機関のみが置かれ、一つの行政レベルを構成しない区域もある。

 この種のものとしては、省と県の間に設けられている地区、県と郷の間に設けられている県轄区および市轄区に設けられている街道がある。

 現在、省レベルの行政区画は、22省(台湾を含まない)、5自治区(内モンゴル、新疆ウイグル、広西チワン族、寧夏回族、チベット)、4直轄市(北京、上海、天津、重慶)、2特別行政区(香港、マカオ)である。

中央政府と地方政府は、どのような関係にありますか?

 

 中国では、地方自治が認められず、中央と地方の関係は、「中央の統一的指導の下に地方の自主性および積極性を十分に発揮させるとの原則」に従って処理される(憲法3条4項)。

 いわゆる民族自治区域においては、「自治権」の行使が認められている(憲法4条3項)が、その「自治権」は日本の地方公共団体のように一定の自治事務について国から独立した統治団体としての自治ではなく、普通の地方に比べ、一部に特例または優遇が認められているにすぎない。たとえば、民族自治地方は、当該地方における民族の政治的、経済的および文化的特徴に応じて「自治条例」・「単行条例」を制定できる(憲法116条)だけでなく、「条例」において民族の実状に合わせて法律や行政法規を修正適用するための規定[変通規定]を設けることができるのである(民族区域自治法20条、立法法66条2項)。

 民族自治区域以外の地方においては、憲法、法律および行政法規(日本の政令に相当)に反しない限りにおいて地方性法規(日本の条例に相当)を制定できる(憲法100条)。

 他方、中国は国土が広大なため、法律で全国一律の規律を設けることが困難であるうえ、法律の整備が遅れていることもあり、地方性法規や地方性規則が機能する範囲は、日本に比べてはるかに大きいことも事実である。

 地方政府の所掌事務および権限を画する確固たる基準があるわけではなく、中央と地方の関係は、中央の指導と地方の自主性・積極性との微妙なバランスの上に成り立っているのである。そのため、中央の指導が強化されて絶対的中央集権の顔を見せることもあれば、地方の積極性が重んじられ、地方が独立王国のごとく振る舞う場合もある。

各級政府の組織構成について教えて下さい。

 

 中央人民政府すなわち国務院は、全国人民代表大会(日本の国会に相当)の執行機関であり、国家の最高行政機関である。国務院は、総理、副総理(若干名)、国務委員(若干名)、各部長、各委員会主任、会計検査長、秘書長から構成される。

 国務院の組織は、数回にわたる機構改革を経て、現在の27部・委員会体制に至っている。なお、部・委員会のほか、直属機構として中国税関総署、国家税務総局、国家工商行政管理総局、国家統計局などを設けており、直属の非営利事業部門として新華通信社、中国社会科学院、中国気象局などをもっている。

 各レベルの行政区域には、それぞれ人民代表大会と人民政府が設置されている。地方人民政府は、同レベルの人民代表大会によって選出され、これに責任を負うとともに、一地方の国家行政機関として1級上の政府の指導にも服し、二重の従属関係に置かれている。

 また、地方政府の組織構成は、国務院の部・委員会に対応して、省レベルでは庁が、県レベルでは局が、郷レベルでは科が設けられ、それぞれ縦割りの指導にも服することになっている。

行政訴訟などを提起する場合、だれを相手に提訴すればよいのですか?

 

 日本では、行政主体と行政機関は厳格に区別され、行政主体は、自己の名と責任において行政を行い、行政上の権利義務を担うことのできる団体(法人)であり、国・地方公共団体が代表的な行政主体であるとされる。

 行政機関は、行政主体のためにその手足となって実際に行政活動を行う人、ないしその組織体をいう。行政機関は、行政活動を行うための権限を有するが、それによって生じた行政上の権利義務を負うことができず、権利義務の帰属先は、あくまでも行政主体であると説かれる。

 これに対し、中国では、各行政機関が行政主体とされている。中国の行政機関には法人格が認められ、独立して権利義務の主体となることができる。民法通則(1986年)によれば、法人とは、民事上の権利能力および行為能力を有し、独立して民事上の権利を享有し、義務を負うことのできる組織をいい(36条)、企業法人、非営利事業体[事業単位]法人、社会団体法人のほか、独立の経費を有する国家機関も法人格を有する(50条1項)とされている。

 したがって、行政機関は、行政訴訟において被告適格を有するだけでなく、国家賠償訴訟や民事訴訟においても当事者資格を有する。例えば、国家賠償法(2010年改正)7条によれば、行政機関およびその職員が行政権を行使して市民、法人およびその他の組織の合法的権利利益を侵害し、それによって損害を与えたときは、当該行政機関が賠償義務機関となるとされている。

 ある行政機関が法人格を有するかどうか、言い換えれば行政主体たりうるかどうかは、予算配分において独立の経費を有するかどうかによって決まる。一般的には、郷・鎮人民政府、街道弁事処、県レベル以上の人民政府およびその部局が法人格を有する。

共産党と行政の関係はどうなっていますか?

 

 共産党の指導は、四つの基本原則の一つとして憲法に定められており(「序言」第7段落)、行政活動も当然、共産党の指導と無縁ではありえない。しかも、その指導は、自らの政策を立法や予算に反映させることを通じて行われるだけでなく、行政組織の人事権の掌握や個々の行政活動に対する直接的な介入といった形で行われている。

 そのために、各行政レベルにおいて党委員会が設置され、委員会内には行政の部局に対応した組織が設けられ、さらには各行政機関内部にも「党組」と呼ばれる指導グループが設置されるなど、党の指導を保障するさまざまな仕組みが作られている。

 1987年の第13回党大会の政治体制改革の方針に従って一度は「党政分離」(党と行政との組織的分離、行政に対する党の直接関与の抑制)の改革が進められたが、1989年の天安門事件をきっかけに、改革は頓挫したまま今日に至っている。


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