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【12-008】貨物貿易の外貨決済照合制度の改革について

屠 錦寧(中国律師)  2012年 7月 25日

 中国では、貨物の輸出入と代金の受取・支払の一致が必要であるとされている。そのため、以前から、通関貨物の価額と代金の決済額とを照合する手続が一件ごとに実施されてきた(中国語:核銷。以下、「外貨照合消込」という)。

 このような外貨照合消込制度は、手続そのものが煩雑であり、企業にも実務上、大きな負担をかけるため、規制が緩和されつつあった。具体的には、提出書類の簡略化、手続システムのIT化がなされたうえ、輸入代金の支払照合消込手続は、2010年5月より一部地域で改革が行われ、2010年10月20日付で公布された「輸入代金支払照合制度改革に関する問題についての通達」により、2 010年12月1日から中国全土で廃止されることとなった。

 これに対して、輸出代金回収照合消込制度も、2011年より一部地域での改革を経て、2012年6月27日付で公布された「貨物貿易外貨管理制度の改革に関する公告」により、2 012年8月1日から中国全土で廃止されることとなった。

1.従来の照合方式

 従来の貿易外貨の管理は、輸出代金の回収照合消込手続について、輸出企業は、図1の流れで手続を行う、とされていた。

 すなわち、①輸出企業は、外貨管理局に申請し、輸出代金回収照合書の用紙を受領する。

 ②輸出通関の際に、照合書を通関申告書とともに税関に提出する。税関は、照合書と通関申告書の記載が一致しているかどうかを確認したうえ、通関手続を行い、通関後に、検査済み印を押印した照合書を輸出企業に返却する。

 ③輸出代金を回収した場合、銀行は、受け取る外貨の人民元転または輸出企業の外貨預金口座への入金を取り扱った後、輸出企業に輸出代金回収照合用通知書を交付する。

 ④輸出企業は、代金の予定回収日から30日以内に外貨管理局に対して輸出代金の回収照合報告を行う。外貨管理局は、関係資料およびデータの真実性・一致性を審査し、関係資料が完備しており、データに誤りがない場合照合済みとする。

 ⑤照合消込手続の完了を前提に、輸出企業が税務局にて輸出増値税の還付手続を行う。

図1 輸出代金の回収照合消込手続の大まかな流れ

図1

 輸入代金の支払照合消込手続について、輸入企業は通常、銀行で対外支払を行い、輸入通関後、外貨管理局で、対外支払と貨物到着との照合消込手続を行う。

 貨物到着後決済の場合、銀行が貨物到着後に輸入代金の対外支払を実行すると同時に、輸入企業が輸入代金対外支払申告および貨物到着確認報告を行い、外貨管理局は、審査確認を通じて輸入代金支払照合手続を完了することとなっていた。

 従来の外貨照合消込制度では、通関記録に基づいて代金の受取・支払を行うことが原則とされていたため、決済条件に、代金の前払い・前受け・延払い・延受けのいずれかが含まれていた場合、下記の表1のような例外処理が必要であった。

 また、通関実績と外貨の受払額には、±5000米ドルの誤差しか認められず、それを超過すると、差額発生についての状況説明書面や原因に応じた確認書類を提出し、外貨管理局の許可を取得することが必要であった。

表1 特殊な決済に関する従来の手続※輸出代金の回収予定日が船積み後180日を超える場合、外貨管理局で別途ユーザンス外貨回収の届出を行う必要もある。この届出を行わなければ、税務機関から増値税の還付を受けられない。
  決済が通関前になる場合 決済が通関後90日を超過する場合
輸出代金の前受け 輸入代金の前払い 輸出代金の延受け 輸入代金の延払い
登記の要否 前受金登記要 前払金登記要 ユーザンス登記要※ ユーザンス登記要
登記限度額 直近12カ月の輸出外貨受領額の30% 直近12カ月の輸入外貨支払額の30% 上限なし 直近12カ月の輸入外貨支払額の30%

2.改革後の照合方式

 貿易外貨決済の改革後に、外貨管理局による照合は、貨物輸出入一件ごとの検査より、定期的総量検査という方式に改められた。外貨管理局は、「貨物貿易外貨監測システム」(以下、「システム」という)に記録される企業の直近12カ月の貿易貨物の通関と外貨決済のデータを月ごとに検査し、企業の物流と現金の流れの全体的なマッチ状況および貿易ファイナンスや中継貿易などの個別業務の状況を評価した結果、異常または違法の疑いがある企業を特別監督の対象にしたり、かかる企業に対して立入検査を実施したりすることができる。

 上記改革を受けて、輸出企業が輸出増値税の還付手続をする際には、従来税務局への提出が必要とされていた消込済み照合書を提出する必要がなくなり、税務局は、企業の輸出代金回収記録および貿易管理上の分類(三で述べる)を参考にして、増値税還付の審査・決定を行う。

 改革後、前受け・前払い・延受け・延払いは、外貨決済と貨物通関の一致性に影響するものであったため、一定の期限を超えるものについては、システムを通じて外貨管理局に報告することが義務づけられている。 

 そのほか、90日を超えるL/C、海外取立などの輸入貿易ファイナンスおよび外貨の受取・支出の間隔が90日を超える中継貿易等についても、システムでの報告が必要とされている。

 また、名義人の不一致、その他通関と決済のミスマッチを生じさせる事由があった場合には、貿易企業が外貨管理局に関連状況を報告することができる。外貨管理局は総量検査を行う際に、企業によるこれらの報告のデータもあわせて確認することになる。

3.貿易企業の分類管理

 改革後に、企業分類を前提とした新たな輸入決済管理も実施されるようになった。貿易企業は、総量検査および立入検査の結果に基づいて、A、B、Cという三種類に分けられる。

 分類の基準について、A類企業は、外貨決済が外貨管理局の検査を経て正常と分かった企業である。貿易企業が、外貨管理局での報告・登記義務を履行せず、立入検査に応じず、もしくは立入検査で外貨決済と通関との不一致について合理的に説明できない等の事由のいずれかに該当した場合、B類企業に分類されることがある。

 外貨管理規定の重大違反で処罰され、または立入検査を妨害し、もしくは拒否した場合等の事由があった場合、C類企業に分類されることがある。外貨管理規定の遵守状況に基づいて、A・B・C類企業間の転化(昇級・降級)もある。

 外貨決済管理上、A類企業に比べて、B・C類企業は、表2の通り、より厳格な手続が要請され、決済方式についても、業務的により厳しい制限を受ける。

表2 B・C類企業の貿易決済管理上の特別義務
  B類企業 C類企業
決済方式の制限 ①90日を超える延払いを行ってはならず;外貨の受取が90日を超える条項のある輸出契約を締結してはならない。
②受取日と支払日の間隔が90日を超える中継貿易の外貨決済を行ってはならない。
③外貨管理局が定めるその他の措置。
※B類企業としての分類監督管理期間(1年)中に指標が良くなり、かつ規定違反行為が発生していない企業は、B類企業に分類された日から6カ月経過後、外貨管理局での登記により上記①と②の業務を行うことができる。
①90日を超える信用状、海外取立などの輸入貿易ファイナンス業務を行ってはならず;90日を超える延払い・取立を行ってはならず;外貨の受取が90日を超える条項のある輸出契約を締結してはならない。
②中継貿易の外貨決済を行ってはならない。
③外貨資金集中受取・支払が行われるグループの構成員企業である場合、外貨資金の集中受取・支払業務を継続してはならず、外貨資金集中受取・支払が行われるグループの主要取扱企業である場合、グループ全体で外貨資金の集中受取・支払業務が停止される。
④外貨管理局が定めるその他の措置。
手続的要請 ①外貨管理局が決める決済可能な額度を超えた貿易決済について外貨管理局で事前に登記を行う。
②同じ契約に基づく中継貿易の受取金額が支払金額の120%を超えた貿易外貨決済について外貨管理局で事前に登記を行う。
①すべての決済について外貨管理局で事前登記を行う。

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屠 錦寧

屠 錦寧(Tu Jinning)

 中国律師(中国弁護士)。1978年生まれ。アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。京都大学大学院法学博士。一般企業法務のほか、外国企業の対中直接投資、M&A(企業の合併・買収)、知的財産、中国国内企業の海外での株式上場など中国業務全般を扱う。中国ビジネスに関する著述・講演も。

【付記】

 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。