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【12-011】外商投資企業の資本金に関する外貨規制

屠 錦寧(中国律師)  2012年 8月 22日

 中国では、外資による中国の不動産や株式などの市場への参入が厳格な管理や制限を受けている。そのため、海外の投機的資金がこれらの規制を回避しようと、通常の外商投資企業の資本金を装うことは実務上、しばしばみられるところである。中国政府は、金融市場の安定確保を図るため、外商投資企業の資本金の使用、特に外貨資本金の人民元への換金(以下「元転」という。)への監督管理を強化する傾向がある。

1.元転により取得した人民元の用途制限

 外商投資企業は、外貨資本金の元転により取得した人民元について、許認可された経営範囲内で使用するとされている[1] 。不動産の開発・経営や中国での持分投資などを除く一般事業に従事する外商投資企業は、元転により取得した人民元をもって、①自社用以外の中国不動産を購入し、またはその購入に係る関連費用を支払うこと、②直接人民元A株に投資すること、③国内企業の持分投資を行うこと、④銀行を介して他の企業に貸し付け、他社からの借入(第三者立替金を含む。)・他社に転貸した銀行ローンを返済することは、いずれも認められていない[2]

図1

 外商投資企業は、経営範囲内で保証金を支払う場面があるが、資本金口座から各種の保証金を支払う際に、保証先が所在地の外貨管理局で開設した「保証金専用外貨口座」に外貨のまま振り込むこととなる。保証金を払うための資本金の元転や保証先の保証金専用外貨口座内の資金の元転は、いずれも認められていない[3] 。工場やオフィスを借りる場合の前払金・手付金などが保証金に該当するかどうかについて、銀行実務では、かかる金員が一定の条件の下で支払側に戻されるという契約内容であれば、名義を問わず保証金として取り扱うと解釈されることもある。

2.元転時の提出書類

 外商投資企業は、経営範囲内で支払のニーズが発生する都度、銀行に対して資本金の元転処理を申請することになる。その際に、次の書類を銀行に提出する必要がある。

番号 書類名 説明
外貨登記ICカード
支払依頼書 外商投資企業が銀行宛に発行する資本金の元転・対外支払の依頼書のこと。当該書類には、元転金額、支払金額、受取人の名称、振込先の銀行名・口座番号および資金用途を明記。
資金用途証明書 商業契約または受取人が発行した請求書を含む。請求書には、契約の主要条件、金額、受取人の名称、振込先口座番号および資金用途を明記。
出資払込検査報告 会計士事務所が発行する直近のもの。
前回の元転資金の支払証憑・使用状況明細・領収書などの証憑(原本[4] 前回の元転資金の使用明細は、外商投資企業が銀行宛に発行する資本金の実際の支払についての説明書類のこと。当該書類には、前回の元転金額、実際に支払った金額、受取人の名称、振込先の銀行名・口座番号および資金用途を明記。
領収書の真偽確認書類 税務部門のオンライン確認システムで真偽の確認ができる場合は、オンライン真偽確認結果の印刷書面;オンラインで確認できない場合は、税務部門が個別に発行する真偽鑑別証明を提出することが必要。
銀行が必要とするその他の補充資料

 銀行は、資金用途の合法性、真実性、資料間の一致性を確認する観点から、外商投資企業が提出した元転申請書類を審査・照合する。資料間の不一致や矛盾がないと判断した場合は、係る元転・対外支払処理を行う。その後、銀行は、資本金の元転状況について外貨管理局に届け出ることになる。実務では、資本金元転の資金用途にかかる証明書類の提出が困難な場面もある。その場合、銀行は、企業の申請書類、企業による支払の真実性などに関する誓約書および銀行の意見書をまとめたうえ、外貨管理局に事前届出を行い、後者からの届出受領通知を取得した後に元転処理を行うとされている。

3.手元準備金の例外的な扱い

 外商投資企業は、日常的な小額の経費(以下「手元準備金」という)のために資本金の元転を行うことができる。手元準備金の元転は、資金用途証明書、前回の元転資金の支払証憑・使用状況明細・領収書などの証憑、領収書の真偽確認書類の提出が免除される[5]

 受取人への支払は、通常、元転当日(外商投資企業の資本金口座と人民元口座が同じ銀行で開設されている場合)またはその2日以内に(資本金口座と人民元口座が異なる銀行で開設されている場合)行う必要がある。これに対して、手元準備金は当該規制を受けず、元転により取得した人民元を外商投資企業の人民元口座に留保することができる。

 外商投資企業は、上記例外を利用して、外貨資本金を手元準備金という名義で小額ずつ元転し、その後に経営範囲以外の目的で利用することが実務上少なくない。国家外貨管理総局はこれを防ぐために、手元準備金の元転について、1回につき5万米ドル相当額以下、月に10万米ドル相当額以内という制限を設けた[6]

4.元転・支払後の返品・取引の取消・インボイスの廃棄

 実務では、資本金元転の用途制限および書類管理を回避するために、資本金の元転・支払後に返品や取引の取消を行い、取引相手から取り戻した人民元を他の用途に利用することもある。これを阻止するために、国家外貨管理局は、企業が上記の状況が発生してから5営業日以内に、元転を行った銀行に報告し、元転銀行が所在地の外貨管理局に月ベースで報告すると定めている[7]

5.元転規制違反の法的リスク

 外商投資企業が虚偽の領収書をもって元転し、または元転により取得した人民元の用途を勝手に変更したなどの場合、外貨管理局より行政処罰(警告、違法所得の没収、過料)を課せられ、情状が重大な場合は刑事罰まで処される可能性がある。そのほか、外貨管理局では、資本金元転規定違反のブラックリスト制度も確立されており、リストアップされた企業は、その後の資本金元転がより重点的に外貨管理局の検査を受けることになる。

6.人民元直接投資が「抜け道」になるか

 中国では、海外で保有する人民元による対中直接投資(以下「人民元直接投資」という。)が、2011年末に正式解禁となった。人民元直接投資の場合、外国出資者から出資金を人民元で投資先の資本金口座に振り込むため、投資先では元転手続を行う必要はなく、その使用について外貨管理局の許認可を取得する必要もない。しかし、中国の銀行は海外人民元資本金の使用について、真実性・合法性の審査を行い、用途が制限されると認められた場合は、人民元資金の引き出し・対外支払ができない。

 海外人民元資本金の用途制限については、国家の関係部門が許可した経営範囲内に使用するとし、①有価証券および金融派生商品への投資、②委託貸付、③資産運用商品、④自社用以外の不動産または⑤中国国内の再投資に使用してはならない、とされている[8]。この制限は、外貨資本金の用途制限と大きく違うものではない。海外人民元資本金の引き出し、または対外支払にあたり、どのような資料を銀行に提出するのかについては、明文の規定が公布されていない。実務では、銀行に個別確認する必要があるが、銀行が外貨資本金の元転を参照して、必要書類を求める可能性も十分ある。以上のことから、人民元直接投資を利用して外貨資本金の元転規制を回避することは難しいと思われる。


[1] 国家外貨管理局が2008年8月29日に公布した「外商投資企業の外貨資本金の支払元転管理に係る業務オペレーションの問題の改善に関する通知」(以下「2008年142号令」という。)の第三条

[2] 2008年142号令の第三条、国家外貨管理局が2011年11月9日に公布した「一部の資本項目外貨業務管理に係る問題の更なる明確化および規範化に関する通知」(以下「2011年45号令」という。)の第一条

[3] 2011年45号令の第一条(四)

[4] 2008年142号令の第四条では、前回の元転資金の使用について、領収書などの証憑のコピーを提出すれば足りるが、国家外貨管理局が2011年7月18日に公布した「外商投資企業の外貨資本金の支払元転管理に係る業務オペレーションの問題の改善に関する補充通知」(以下「2011年88号令」という。)の第一条では、係る証憑のコピーではなく、原本を提出する必要があるとされている。

[5] 2008年142号令第四条2項

[6] 2011年88号令第十一条

[7] 2011年88号令第五条

[8] 中国人民銀行による外商直接投資人民元決済業務操作細則の明確化に関する通知(銀発[2012]165号)第十六条

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PROFILE
屠 錦寧

屠 錦寧(Tu Jinning)

 中国律師(中国弁護士)。1978年生まれ。アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。京都大学大学院法学博士。一般企業法務のほか、外国企業の対中直接投資、M&A(企業の合併・買収)、知的財産、中国国内企業の海外での株式上場など中国業務全般を扱う。中国ビジネスに関する著述・講演も。

 

 


【付記】

 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。

 

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