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【13-010】中国におけるPE課税(上)

2013年 6月17日

中島 あずさ

中島 あずさ:西村あさひ法律事務所・弁護士
(北京事務所首席代表)

1996年早稲田大学商学部卒業
2002年弁護士登録
2006年明治学院大学法科大学院非常勤講師(アジア法)


松井 博昭

松井 博昭:西村あさひ法律事務所・弁護士

2006年早稲田大学法学部卒業
2008年早稲田大学法科大学院修了
2009年弁護士会登録

 近年、中国税務当局の非居住企業に対する課税対応が強化され、その一環として、日本などの親会社が中国の子会社に対して出向者を送り出した場合に、その活動又は存在が親会社のPEとして認定されて課税される事案が増加している。また、かかるPEの認定基準に関する新たな公告(国家税務総局公告2013年第19号)が2013年6月1日に施行され、関心を集めている。そこで、本稿においては、中国におけるPE課税に関する議論について、簡単に解説したい(なお、本稿では、税務当局からPEが存在すると認定されることを「PE認定」、PE認定の結果課税されることを「PE課税」とそれぞれ略称することとする)。

1.PE課税とは

 PE(Permanent Establishment:恒久的施設)とは、支店、工場その他事業を行う一定の場所などを指す課税上の概念である。PEの有無は、外国法人の所得について源泉地国で課税されるか否かの基準とされており、源泉地国でPE認定を受ければ、外国法人であっても一定の所得に対して源泉地国で課税を受ける可能性がある。

 ここで留意すべきは、諸外国の国内税法及び他国と締結する租税条約では、物理的な施設が源泉地国に存在しない場合であっても、長期的な役務提供関係が存在する場合には、PE認定がなされる可能性があるという点である。中国の税法及び日中租税協定の下においても、出向者の派遣などの形で中国国内で長期的に役務提供を行っていることで、中国税務当局からPE認定がなされる可能性がある(3.及び4.で詳述する)。

2.中国国内でPE認定を受けた場合の課税関係

 それでは、仮に中国国内でPE認定を受けた場合、日本企業や日本人の出向者等に対して、中国においていかなる課税関係が生じ得るのか。

(1) 日本企業に対する企業所得税課税

 中国の企業所得税法(以下「法」という。)上、日本企業は基本的に非居住企業に該当するところ(法2条3項)、非居住企業が中国国内にPEを有する場合、当該PEに係る中国国内源泉所得及びPEと関連性を有する中国国外の所得を課税所得として、25%の企業所得税が課されることとなる(法3条2項、4条1項)。

 企業所得税の運用上、非居住企業は、原則として、中国の関連法規に従った帳簿を設置し、適正な根拠に基づき記帳を行った上で企業所得税を申告納付することとされているが(非居住企業所得税査定徴収管理規則(以下「規則」という。)3条)、非居住企業の中には、帳簿の設置や記帳に不備のあるものも存在する。

 このような会計帳簿に不備があり、課税所得額を正確に計算して申告することができない非居住企業については、中国税務当局によって所得の推定計算が行われ企業所得税を課されることとされている(推定利益課税方式。規則4条)。実務上は、多くの場合、推定利益課税方式により課税が行われている。

 推定利益課税方式における所得の推定計算では、収入総額等を基に「みなし利益率」を乗じて課税所得を算定する (規則4条(1)ないし(3))。「みなし利益率」は、例えば管理サービス業務に従事する場合では30~50%、請負工事やコンサルティング業務では15~30%とされるなど、業種ごとにみなし利益率が設定されている(規則5条1項(1)ないし(3))。

(2) 日本人出向者等に対する個人所得税課税

 日中租税協定15条2項は、①日本の居住者が中国に滞在する期間が1月1日から12月31日までの暦年において合計183日を超えないこと、②滞在中の報酬が中国国外の雇用者等から支払われること、及び③その報酬が、その雇用者等が中国国内に有するPEが負担するものでないこと、という三要件全てを満たす場合に、個人所得税の納税義務を免除している。

 しかし、中国国内でPE認定を受け、かつ、推定利益課税方式が適用される場合、PEが出向者等の人件費を負担している(即ち、上記③の要件を満たさない)こととされ、このような場合、出向者等の中国滞在期間が暦年において合計183日を超えなくとも、当該出向者等に対し、個人所得税が課されることとなる。

 以上より、日本企業又は日本人の出向者等に対して上記のようなPE課税がなされるか否かは、中国においてPE認定がなされるか否かによることとなる。本稿では、非居住企業について課税上問題になることが多い、いわゆる「コンサルタントPE」を中心に、いかなる場合にPEに該当するかという点について検討することとする。

3.中国におけるPE認定に関する留意点(1)-日中租税協定の規定するPE

 日中租税協定5条は、PEについて「事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所」(上記は日本文に依るが、中文を直訳すると、「企業が全部又は一部の事業を行う固定場所」となる。)とする定義規定(1項)やいわゆる代理人PEに関する規定(6項、7項)のほか、コンサルタントPEについて以下の規定を置いている。

 一方の締約国の企業が他方の締約国内において使用人その他の職員・・・を通じてコンサルタントの役務を提供する場合には、・・・このような活動が単一の工事又は複数の関連工事について12箇月の間に合計6箇月を超える期間行われるときに限り、当該企業は、当該他方の締約国内に「恒久的施設」を有するものとされる。(5条5項)

 かかる規定を解釈するに当たっては、以下の2点に注意する必要がある。

 (i)まず、上記規定のうち和文で「工事」とされている箇所は、英文では“project(プロジェクト)”とされているという点である。日中租税協定上、協定に係る解釈に相違がある場合には、英語の正文が優先することとされており、実際に、「工事」という語義にとらわれず「プロジェクト」に関連する役務提供を基準として、コンサルタントPEに当たるか否かが判断されているように思われる(この観点から、以下「プロジェクト」という用語を用いる)。

 (ii)次に、上記規定の期間計算において、単一のプロジェクトだけを基準とする場合のほか、複数の関連プロジェクトを基準として、役務提供が「12箇月の間に合計6箇月を超える」か否かを判断されることがあるという点である。この6箇月は、暦年内に合計して6箇月あるかどうかではなく、任意の12箇月の間に6箇月以上の期間が含まれるかどうかによって判断される(外国企業が中国国内において労務活動を提供するPE認定及び利益帰属問題に関する国家税務総局の回答(2006年7月19日・国税函[2006]694号)参照。)。従って、個々のプロジェクトのみでは上記の期間に満たない場合であっても、関連プロジェクトとされる範囲次第では、全体としてコンサルタントPEとして認定される可能性が高まることとなる。

 かかる条約や法の規定を踏まえて、通達において、更に具体的な基準が提示されている。次回は、通達の挙げる具体的な基準について触れた上で、どのような点に注意すべきかを解説したい。


【付記】

論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。


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