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【13-011】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅲ)

2013年 6月19日

金 振

金 振(JIN Zhen):公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員

 1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京 都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。

3.大気汚染防止法の仕組み

 日本の大気汚染防止法が1968年から施行されたのに対し、中国の大気汚染防止法の制定は19年後の1987年であった。両者を比較した場合、共通点もあるが、規制の対象や手法、執 行プロセス等の点において様々な相違点がある。

(1) 規制対象としての地方政府

 日本の大気汚染防止法上の規制は、主に、工場または事業所に設置された施設(ボイラ、ガス発生炉、溶解炉など)に対し排出規制を適用し、事業者に措置義務を課すことによって行われ、措 置義務違反の場合は罰則(懲役、罰金、過料)を設けることによって制度の実効性を確保している。

 中国の大気汚染防止法の場合、事業者に対する措置義務を課し、罰則を適用する形で規制を行なっている点においては、日本の大気汚染防止法と共通しているが、事業者だけではなく、地 方政府も規制の対象となっているところが特徴的である。

 中国大気汚染防止法3条2項は、「各レベルの地方人民政府(地方政府)は、それぞれの行政区域における大気質に対し責任を負い、関連計画を策定し、措置を講ずることによって、係 る行政区域の大気質が国または地方人民政府が規定する基準に達するようにしなければならない」と定めている。しかし、この条文だけだと、こ れは地方政府の一般的かつ抽象的な責務についての規定に過ぎないとする反論があるかも知れない。確かに、大気汚染防止法上、地方政府に関する具体的な措置義務や罰則に関する規定は見当たらない。地 方政府も規制対象であるという点について説明するためには、中国の汚染物質削減目標達成制度について理解する必要がある。

(2) 中国の大気汚染物質総量削減目標達成責任制度

 中国では、法的拘束力のある国家発展5カ年計画において強制力のある大気汚染物質総量削減目標を定め、省級政府レベルの目標に細分し、その実現を義務付ける汚染物質削減目標達成責任制度を導入している。 

 本制度の仕組みはこうである。まず、国が「国民経済および社会発展に関する第12次5ヵ年計画(2011年~2012年)」(以下、第12次5ヵ年計画)において、2015年まで、N OxおよびSO2の排出総量をそれぞれ、2010年比8%、10%を削減する総量目標を掲げる。つぎに、表1に見るように、国家環境保護部が、2つの排出規制目標を31の省級政府目標(以下、地域目標)と 1つの軍事業団目標に再配分する案を策定し、それが国務院の承認を得た後、国務院通達にて公布されることによって、省級政府の地域目標は正式に決定される。国から配分された地域目標の決定を受け、3 1の省級政府は、さらにそれを所管区域における下級地方政府に再配分する(以下、地区目標)。各地方政府は、国および省級政府から配分された総量削減目標を所管区域内における事業者ごとに割振ることが求められ、企 業とともに地域目標の達成について連帯責任を負う(典拠:「国务院关于印发“十二五”节能减排综合性工作方案的通知」国発〔2011〕26号)。

表1

 5ヵ年計画期間に合わせ、地域目標、地区目標は、5等分された年間目標の形で地方政府に割振られ(以下、年度目標)、一年ごとにその達成状況が評価される。

(3) 目標達成できなかった場合の不利益措置

 総量目標が達成できなかった場合、地方政府には、以下のような不利益措置が発動されている。

 まず、地方政府責任者 [1] および政府機関の政策担当者 [2] (以下、政府主要責任者)の人事評価における不利益措置が挙げられる。地方政府の年度目標の達成状況と年度人事評価制度はリンクされており、目標達成できなかった場合の政府主要責任者は、「問責制度」お よび「一票否決」の仕組みによって責任が追求される。「問責制度」は、目標達成できなかった場合の政府主要責任者の政治的責任を問う制度であり、場合によっては免職措置が取られる場合もある。「一票否決」制 度とは,政府および所管部署の責任者の他の評価総合点が高くても年度目標達成に関する項目が不合格であれば、人事評価(昇進)の前提となる年末表彰や名誉・称 号認定(個人および団体)を受ける資格が剥奪される制度をいう(政府企業の責任者にも適用される)。

 つぎに、国からの事実上の不利益措置が挙げられる。成績の悪い地域においては、所管区域内に立地する投資事業の事業計画確認申請 や環境評価申請(環境評価法16条)の受付・認可が止められる措置 (中央政府が許認可権者となる申請に限る) が発動される。そのほかにも、国から地方政府に与えた環境関連の称号・認定の取消措置が講じられる (典拠:「重点区域大气污染防治”十二五”规划」国函〔2012〕1 46号)。


[1] 省長・副省長、市長・副市長、区長・副区長、県長・副県長、郷長・副 長が含まれる(中国地方人民代表大会および地方人民政府に関する組織法54条)。

[2] 省級政府レベルや市、県レベルの地方政府における発展開発員会や環境部署の政策担当者がこれに当たる。



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