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【13-026】中国での従業員の解雇について

2013年10月21日

PROFILE

柳 陽(Liu Yang)

 中国弁護士。現在、長島・大野・常松法律事務所所属。北京大学・慶應義塾大学法学修士。日本企業の対中投資と貿易、M&A(合併と買収)、知的財産、労務等、対中ビジネスに関する法務全般を取り扱う。講 演、執筆も多数。

質問

 当社は、日本国内で健康食品を製造・販売している会社ですが、中国の経済発展に伴い当社が100%出資する現地法人を設立し、中国国内での販路拡大を考えています。そこで、現地法人で勤務する従業員を直接採用する場合、中国の労働契約法等の観点で、例えば、会社都合で解雇等したいのに実質的にできなくなるようなリスクがあれば教えて下さい。

回答

 貴社現地法人が中国で直接従業員を雇用する場合、貴社現地法人は、労働契約上の使用者となるため、中国の労働契約法(以下、「同法」といいます。)及びその他の関連法令に定められる使用者の責任・義務(労働安全・保護義務、社会保険料等の納付義務、労働契約の書面による締結義務など)を負うことになります。その中でもご質問の解雇権については、基本的に、日本と同じく中国でも解雇事由が法律により制限されており、使用者都合による恣意的な解雇は、解雇権の濫用として無効とされる可能性があります。しかし他方では、日本と異なり使用者による解雇はそれほど難しくないという実務運用もなされています。中国法上解雇が認められる事由は以下のとおりです。

1.使用者による労働契約の即時解除

 同法第39条によれば、労働者が次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合、使用者は、労働契約を解除することができると規定されています。

  1. 試用期間において採用条件に不適格であることが証明された場合
  2. 使用者の規則制度に著しく違反した場合
  3. 重大な職務怠慢、私利のための不正行為があり、使用者に重大な損害を与えた場合
  4. 労働者が同時に他の使用者と労働関係を確立し、当該使用者の業務上の任務の完成に重大な影響を与え、又は使用者から是正を求められたがこれを拒否した場合
  5. 同法第26条第1項第1号に規定する事由(注:詐欺、脅迫等の手段により労働契約を締結させたこと)により労働契約が無効となった場合
  6. 法に従い刑事責任を追及された場合

 ご留意いただきたいのは、同条第1号の採用条件に不適格である事由及び第2号の使用者の規則制度に著しく違反したと認められる事由を、できるだけ就業規則とその他社内規定に具体化しておくことが望ましいということです。それらを具体化した上で周知することは、解雇事由の労働者への不意打ちを防ぎ、使用者による解雇の正当性を主張する際にも有利に働くものと思われます。

2.使用者による労働契約の予告解除

 また、同法第40条によれば、使用者は、次に掲げる事由のいずれかに該当し、かつ30日前までに労働者本人に書面形式で通知するか又は労働者に賃金の1カ月分を多く支払った上で、労働契約を解除することができると規定されています。

  1. 労働者が病を患い、又は労災以外で負傷し、規定の医療期間の満了後も元の業務に従事できず、使用者が別に手配した業務にも従事することができない場合
  2. 労働者が業務に不適任であり、研修又は勤務部署の調整を経ても依然として業務に不適任である場合
  3. 労働契約の締結時に拠り所とした客観的状況に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能になり、使用者と労働者との間で協議を経ても労働契約内容の変更について合意に達することができない場合

 同条①~③の各解除事由については、単に労働者が現在の業務に適任しないといった事情があれば直ちに解除が認められる訳ではなく、使用者が当該労働者を業務に順応させるための改善措置を実施しなければならないことにご留意ください。

3.解雇の実務

 前述した第39条及び第40条の法定解雇事由に該当せずに使用者が労働契約を解除したい場合には、労働者との合意解除(同法第36条)か整理解雇(同法第41条)に依らざるを得ないため、使用者による解雇は法により制限されているといえるでしょう。しかし、同法第39条及び第40条は、日本の解雇権濫用法理と比べると日本ほど厳しく運用が制限されているということはなく、実務上使用者が上記のいずれかの理由により労働契約を解除することも少なくないようです。但し、実際には解雇に関連した労務紛争が多いことは日本と同様ですので運用は慎重に行う必要があります。

 また、中国はキャリアアップ社会と言われており、労働者はやや流動的で定着率が日本ほど高くないのが実態です。このような背景の下では日本のように終身雇用を前提として従業員と期間の定めのない労働契約を締結するケースは少なく、雇用期間を例えば1年や2年などと定めるほうがむしろ一般的です。このように、日本とは異なり、固定労働契約が一般に広く認められていますので、解雇の制限リスクを考慮にいれるのであれば、固定労働契約を上手く利用することが考えられます。さらに、労働者との合意による労働契約の解除の場合でも、労働者は、後述する経済補償金で決着がつきさえすれば、合意解除に応じる可能性も高いと言われています。もっとも、同法は第14条第2項によると、10年以上勤続している従業員や、固定期間労働契約を3回目に更新する際など一定の場合に期間を固定しない労働契約の締結義務が使用者側に生じますので、この点は注意しておく必要があります。

 なお、労働者が労災で負傷したなどの場合は使用者による解雇が不可とされていますので、ご留意ください。

3.経済補償金の支払義務

 解雇を含め労働契約が解除される場合、一定の事由に該当すれば使用者は労働者に対して経済補償金を支払わなければなりません(逆に日本のような退職金を支払う例はほとんどありません。)。経済補償金の支払義務が生じる場合は以下のとおりです(同法第46条)。

  1. 労働者が同法第38条(注:労働報酬を全額で支払われないことや約定に従った労働保護又は労働条件を提供されないことなど)の規定に従い労働契約を解除した場合
  2. 使用者が労働者に対して労働契約の合意解除を申し出、かつ労働者との協議により労働契約の解除に合意した場合
  3. 同法第40条(注:使用者による労働契約の予告解除)に従い労働契約を解除した場合
  4. 使用者が同法第41条1項の規定(注:整理解雇)に従い労働契約を解除した場合
  5. 使用者が労働契約に約定する条件を維持し又は引き上げて労働契約を更新したが、労働者が更新に同意しない場合を除き、労働契約の期間の満了により固定期間労働契約を終了した場合
  6. 使用者の破産宣告、営業許可証の取り消し、途中解散等により労働契約を終了した場合

 経済補償の額は、労働者の当該使用者における勤務年数満1年につき1ヶ月分の賃金という基準で計算され、年数は最高で12年を超えないと規定されています。労働契約の期間に拘わらず、同条に該当すれば、経済補償金を支払わなければならず会社側に一定の経済的負担が生じますが、逆に言いますと、日本と異なり、経済補償金を支払えば比較的容易に労働関係を終了させることができる制度になっているといってもよいように思います。

 以上のとおり、使用者による解雇権は一定程度制限されてはいるものの、固定労働契約の締結や労働者との合意解除の活用により、比較的柔軟に労働契約を終了させることは可能と思われます。


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