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【14-009】中国倒産実体法の新司法解釈による展開(その1)

2014年 3月 7日

屠 錦寧

屠 錦寧(Tu Jinning)

 中国律師(中国弁護士)。1978年生まれ。アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。京都大学大学院法学博士。一般企業法務のほか、外国企業の対中直接投資、M&A(企業の合併・買収)、知 的財産、中国国内企業の海外での株式上場など中国業務全般を扱う。中国ビジネスに関する著述・講演も。

 現行の企業破産法は、2006年8月第11期中国全人代常務委員会第23回会議で可決したものである。2007年6月1日より施行されてから既に6年半以上が経った今でも、同 法の活用がなかなか進んでいないと言わざるをえない [1] 。その理由は、倒産自体が企業のブランドイメージに悪影響を与えること、倒産手続が煩雑で、多大な時間と費用が必要であることが挙げられる。また、法整備が不十分であるため、結 末を予測することが困難であることもよくいわれる 。 [2]

 これを受けて、法施行以来、最高人民法院は章ごとに司法解釈を制定し、順次に公表する傾向が見られる [3] 。この度、企業破産法第4章「債務者財産」(本稿では「倒産財団 [4] 」という。)について、「『中華人民共和国企業破産法』を適用する若干問題に関する規定(二)』(以下「司法解釈」という。)が2013年9月5日付けで公表された。

 企業破産法第4章には、倒産財団のみならず、否認権、取戻権、相殺権等に関する実体規定 [5] も置かれている。企業破産法の規定はわずか11箇条にすぎず、内容もかなり簡略であるため、これらの規定に基づいて倒産事件を解決することは困難である。司法解釈は、倒産財団の整理の基準・実 現手段等について詳細な規定を設けることよって、倒産手続の円滑な進行及び債権者の権利保護並びに公平なる配当を図ろうとしている。

 本稿では、倒産財団等の実体規定について企業破産法の規定を簡単に紹介した上、司法解釈による展開及び実務への影響をみておきたい。

I 倒産財団に属する財産の範囲

1.総説

 倒産財団は、倒産手続の申立てが受理されることにより、債権者の満足に充てられるべき財産の集合をいう。倒産財団の外延について、企業破産法は固定主義ではなく、膨張主義を採用している。すなわち、倒 産手続申立受理当時に債務者に属する全ての財産のみならず、その後に債務者が得た財産も倒産財団に含まれる(企業破産法30条)。ここでいう財産には、現金、建物、生産機械等といった有形資産のみならず、債権、持 分、特許や商標等の知的財産権、用益物権等の無形資産も含まれる(司法解釈1条)。また、倒産財団に属するためには、①倒産債務者が当該財産を法により有し、②金銭的に評価でき、及 び③法により譲渡することができる、という3つの要件を満たす必要がある(司法解釈1条)。したがって、倒産債務者が占有している他人の財産は、その自身が所有するものではないため、上記①の要件を満たせず、倒 産財団には属しない。また、割当土地使用権のような譲渡できない財産は、上記③の要件を満たさないため、倒産財団に属しない [6] (司法解釈2条)。

2.担保財産の取扱い

 倒産債務者が担保権を設定した特定の財産が倒産財団に属するかについては、企業破産法では明らかではない。この点、司法解釈は、担保権の対象財産も、倒産財団に属するものであると明記した( 司法解釈3条1項)。ただし、担保権者が担保財産について優先弁済受領権(企業破産法109条)を有する。

 担保権者による担保権の行使について、企業破産法では更生手続において担保権の行使が制限されており、担 保物の損害や価値の減少により権利が害されるおそれがあった場合のみ人民法院の同意を得た上で担保権を行使できる(企業破産法75条)。これに対して、破産手続の場合は、明文の規定はないものの、破 産手続で担保権者による権利行使を同様に制限する理由は特にないと解される。この点、司法解釈でも特に触れられていない。

 倒産手続の種類を問わず、管財人は債務の弁済や代替的担保の提供によって担保財産について担保権を消滅させ、又は担保財産を換価して担保権者の優先弁済受領権を満足させる際には、債 権者の利益に重大な影響を有する財産処分行為 [7] に該当するため、管財人から債権者委員会(未設立のときは人民法院)に報告する必要がある(企業破産法69条、司法解釈25条)。

 担保権者による権利行使又は管財人による担保権の消滅・担保財産の換価が行われ、担保権者に弁済を行った残余価値は、通常の倒産財団と同様、債権者全員への弁済の原資となる(司法解釈3条2項)。 

3.共同所有関係の処理

 中国物権法では、共同所有について2つの形態を定めている。すなわち、「持分に応じて所有権を有する」形態と「共同で所有権を有する」形態である。前者は持分共有、後者は共同共有と呼ばれる。共 同所有関係者の一人が倒産したときは、倒産債務者の有する持分(持分共有の場合)、共有する財産権(共同共有の場合)、又は分割によって取得した財産は全て倒産財団に帰属する(司法解釈4条)。

 共同所有関係の解消について、倒産ではない平常時には、次の原則に基づいて行われる。すなわち、共同所有者の間で分割をしない旨の合意があったときは、重大な理由がない限り分割できない。こ のような合意が存在せず、又は明確でないときは、持分共有者は随時に分割を申し立てることができ、共同共有者は共有の根拠が失い又は重大な分割必要である理由があった場合のみ分割を請求できる(物権法99条)。手 続の開始による財産の共同所有関係への影響については、破産手続と再建型手続が異なる。

 上記に対して、共同所有関係者が倒産した場合、破産手続では、破産宣告が共有財産を分割する法定事由となる(司法解釈4条)。これは、倒産債務者の財産が全て債権者に対する弁済に当てられるため、整 理する必要があるからであろう。一方、再建型倒産(更生、和議)手続では、管財人が手続のために必要と認める場合のみ、人民法院の同意を得て分割を行うことができる。この場合、物 権法99条の定めに基づいて分割を行う(司法解釈4条2項)。言い換えれば、再建型手続の開始は、共同所有者間の分割しないことに関する合意には対抗できない。管財人はいずれの場合でも分割を主張できるが、倒 産債務者以外の共同所有者による分割請求権については下表のとおり整理することができる。

 いずれにせよ、分割によって他の共有者に損害を与えたときは、賠償しなければならない。その場合には、倒産財団が当該賠償の責任財産となり、他の共有者が共益債務として弁済を受けることができる( 司法解釈4条3項)。

その2につづく


[1] 最高人民法院の統計によると、企業破産法施行後には、全国法院による倒産案件の受理数が法施行前により少なく、かつ下がり続けている。2 006年は4253件、2007年は3819件、2008年は3139件、2009年は3129件、2010年は2366件があった。

[2] 王欣新「思考を変え、立法を整備、法により倒産事件を受理せよ(上)」(北大法宝というウェブサイト上の記事・2012年)、劉新宇『 中国進出企業再編・撤退の実務』(商事法務・2012年)P232以下参照。

[3] 2007年4月には企業破産法第3章「管財人」についてその選任と報酬、2011年9月には同法第2章「申立と受理」の 要件等についてそれぞれ司法解釈が公表された。中国では急速な法整備を行ってきた中で、立法機関は負担が過重なため、時には法律に原則的な規定をおいただけで、詳 細な規定までカバーしきれない結果にならざるを得ない場合がある。また、立法が実務の展開に追いつかないこともあることから、立法機関、行政機関、司 法機関が法律の解釈を制定することによって立法の不足を埋め合わせるのが極一般的な状況である。司法機関の解釈は、法律の施行細則に相当するものとして参照され、暫 定的な立法の役割を果たしている重要な法規範である。

[4]企業破産法において、第10章は破産(中国語:破産清算)手続、第8章は更生(中国語:重整)手続、第9章は和議(中国語:和解」)手 続をそれぞれ規定しているところ、第4章の債務者の財産は、破産財団だけでなく、更生手続下の更生会社の財産と和議手続下の債務者企業の財産をも含む。

[5]企業破産法には、ほかにも倒産(破産)債権の種類、倒産費用及び共益債務、破産債権の弁済順位等実体法規定を置いている。

[6] 無償で割り当てられた土地使用権は、破産財団等に属せず、かかる人民政府がこれを回収することができるとされている( 最高人民法院2003年4月16日付「倒産企業国有割当土地使用権を破産財団等に帰属させるべきか等の問題に関する回答」)。

[7] 企業破産法69条では、管財人が債権者委員会(未設置の場合、人民法院)に報告義務を負う財産処分行為として、不動産の処分、借入、担保設定、権 利放棄、担保物の取戻し等を列挙している。


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