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【14-021】中国企業の信用調査と新しい情報公示制度

2014年 9月12日

屠 錦寧

屠 錦寧(Tu Jinning)

 中国律師(中国弁護士)。1978年生まれ。アンダーソン・毛利・友常法律事務所所属。京都大学大学院法学博士。一般企業法務のほか、外国企業の対中直接投資、M&A(企業の合併・買収)、知 的財産、中国国内企業の海外での株式上場など中国業務全般を扱う。中国ビジネスに関する著述・講演も。

はじめに

 取引相手の中国企業の情報を確認する場合、どのようにすればよいか?

 これまでは、「営業許可書」のコピーの交付を相手方に求める方法や、調査会社や弁護士等の業者に依頼して、工商行政管理局(会社登記機関)において相手方の企業登記情報一覧表を取り寄せ、登記するために使用された基礎資料を閲覧謄写する方法がよく行われていた。

 今年からは、中国企業が企業信用情報公示システム(全国企業信用信息公示系統、下図)にてオンラインで自らの情報を公示することによって、企業の信用に関わる多くの情報は相手方や業者に依頼しなくても、インターネットを通じて容易に入手できるようになった。

Ⅰ 新しい情報公示制度

 今年2月、中国の国務院が「登録資本登記制度改革方案」を公布し、工商局による企業に対する年度検査を廃止した。その代わり、企業が自らの責任で所定の情報を社会に公示する、いわゆる企業信用情報公示システムが構築された。この改革を具体化するためのものとして、8月に「企業情報公示暫行条例」とその下位規定である「企業公示情報抜取検査暫行弁法」、「企業経営異常名簿管理暫行弁法」および「工商行政管理行政処罰情報公示暫行規定」(以下「情報公示条例等」と併称する。)が続々と公布され、情報公示条例等が今年10月1日より施行される予定である。

 企業情報の公示には、定期的に行う年度報告の公示(以下「年度報告公示」)と不定期的に行う特定事項の公示(以下「即時公示」)がある。企業は年度報告公示によって、毎年6月30日までに前年度の基本状況、即時公示によって一定の事項が発生してから20営業日以内に当該事項を公示するよう義務づけられている。

Ⅱ 公示の内容

1.年度報告の公示

 年度報告公示の対象項目は、次のとおりである。

(1)連絡先住所、郵便番号、連絡電話、Email等の情報
(2)開業、廃業、清算等の存続状態に関する情報
(3)対外出資による企業の設立、持分購入の情報
(4)株主(発起人)が引き受け、払い込んだ資本金額、出資日、出資方法等の情報
(5)持分譲渡等の持分変更に関する情報
(6)会社のURL、ネットビジネスを行う場合はネットショップの名称、リンク等の情報。

 上記(1)ないし(6)の情報は、誰でも企業信用情報公示システムを通じて確認することができる。これに対して、従業員数、総資産額、総負債額、対外保証・担保状況、所有者権益、売上高、営業利益、総利益、純利益、税金総額といった項目については、企業は工商局に報告しなければならないが、一般の人に公示しないことを選択することができる。

2.即時公示

 企業が、発生してから20営業日以内に公示しなければならないとされている事項は、次のとおりである。

(1)資本の引受け、払込金額、出資日、出資方法等の情報
(2)有限責任会社の株主による持分譲渡等の持分変更の情報
(3)行政許可の取得、変更、更新の情報
(4)知的財産権の質権設定登記情報
(5)受けた行政処罰の情報
(6)その他の法により公示とされる情報

Ⅲ 公示規定違反の効果

 工商局はすべての企業を対象に年度検査を行わなくなるかわりに、一部の企業を抜き打ち検査する。企業が情報公示条例に定める期限通りに年度報告の公示又は即時公示を怠る、公示された内容が事実に反する、又は公示された住所に2回投函しても届かず、連絡がとれないこと(以下「情報公示条例等の違反」という。)が検査によって判明した場合は、当該企業はブラックリストに載せられ、かつその旨を企業信用情報公示システムにて公示されることになる。

 ブラックリストには「経営異常名簿」と「重大違法名簿」の2種類がある。情報公示条例等の違反があったときは、まず経営異常名簿に載せられる。企業が上記違法行為を改善した場合、経営異常名簿から自社の名称を消すよう工商局に申請することができる。工商局は当該申請を受け、改善が確認できたら取消決定を行うものとされる。これに対して、3年経っても改善されない場合は重大違法名簿に載せられることになる。重大違法名簿に載った企業の代表者は、3年以内は他の企業の代表者になることができない。企業が重大違法名簿から外してもらうには、5年間違法記録がないことが要件とされている。

Ⅳ 従前との比較

1.企業情報取得の簡便化

 かつては、中国企業であればどの企業でも持つ「営業許可証」で、企業の基本情報を確認する手法がよく取られていた。営業許可書は、設立時に工商行政管理局から交付を受けたものであり、そこに企業名称、所在地、代表者、登録資本、企業類型、経営範囲、登録番号、経営期限、設立年月日等の項目が記載されている。その後、これらの記載項目に変更があった場合は新しい営業許可証を発行される。年度検査に合格した場合は、営業許可証に合格印が捺印される。

 最新の情報を記載しているものかどうかは、営業許可書のコピーのみでは判明できないので、相手企業の最新の情報を確認するためには、やはり工商行政管理局で確認する必要がある。

 工商行政管理局でも、一般人が閲覧できる情報は制限されているが、弁護士の場合は閲覧できる情報がより多くあった。例えば、年度検査報告書、合弁契約、定款、株主会・董事会決議文書、役員の一覧表(それぞれの経歴、身分証明書のコピー)、技術・商標ライセンス契約書等がこれにあたる。ただし、弁護士がこれらの情報を閲覧するために、裁判所・仲裁機関より発行される立件通知書の提示を要件とされる場合もある。

 上記に対して、現在ではインターネットがあれば、企業信用情報公示システムを通じて、だれでも、どこからでも、無料で手軽に、全てではないが多くの重要情報項目について最新の状態を確認できることは、大きな進歩であると言える。

2.行政処罰情報の公示による監督

 工商行政管理局による行政処罰情報の公示も、注目に値するポイントである。

 工商行政管理局は企業の管理全般を管轄する行政機関として、企業の設立、存続、変更、抹消のみならず、商標の登録および管理、不正競争行為に関する検査および監督も行っている。無許可経営や競争法違反等によって行政処分が行われた場合、かかる行政処罰決定書と処罰の概要も企業信用情報公示システムで公示される。

 処罰の概要には、主に処罰対象企業の基本状況、違法行為の類型、処罰の内容、処罰決定を行った機関等が含まれる。概要や決定書を公示する際には、商業秘密にかかわる内容や個人情報(住所、連絡方法、身分証明書番号、口座情報等)は原則として削除される。なお、企業信用情報公示システムでの行政処罰の情報は公示してから5年経つと公示されなくなるものの、記録として残る。

Ⅴ むすびにかえて

 上記のとおり、企業情報公示制度の構築によって相手企業の情報の入手及び確認が従前よりしやすくなった。しかし、対象企業の選択によって公示されていない情報(従業員数、総資産額、総負債額、対外保証・担保状況等)、それに会社の定款(合弁契約)等公示の対象外の情報に関しては、工商行政管理局が従前どおり閲覧謄写に応じるかどうかは、現時点では明らかではない。

 一方、情報を公示した企業は、ブラックリストに載せられないよう公示手続を法に沿って行うよう心掛けるほか、非公開会社であっても不祥事(行政処罰)の公示が義務付けられているため、コンプライアンスを徹底する必要性が従前より高まってきた。


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