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【15-004】中国における外国投資法の改正

2015年 2月 4日  尹秀鍾(Yin xiuzhong):中国律師、法学博士、廣東深秀律師事務所(深圳)

 2015年1月19日、中国商務部は、「中華人民共和国外国投資法(草案意見募集稿)」(以下「意見募集稿」)を公布し、パブリックコメントの募集を開始し、同時に『「中華人民共和国外国投資法(草案意見募集稿)」に関する説明』(以下「意見募集稿説明」)を公布した。本稿では外国投資法の改正背景や主旨、及び改正内容について検討することにしたい。

Ⅰ 中国における企業法体系と外国投資関連法の立法・改正経緯

 中国における企業法の体系は、いわゆる「所有制基準」に基づく立法モデルを採用し、かかる所有制に基づく企業類型に即して、内容の異なる法律(単行法)を制定しており、これが現在もなお存続している。

 中国でいう所有制とは、大きく分けて公有制と私有制に分けられるが、公有制はさらに全人民所有制(国有制)と集団所有制に分けられる。公有制企業としては、国有企業と集団企業があり、私有制企業としては私営企業がある。このほか、外商投資企業の存在が認められているが、外商投資企業もその投資類型に基づいて合弁、合作及び独資企業等に分類される。

 所有制基準に基づく代表的な立法例としては、「全人民所有制工業企業法」、「郷村集団所有制企業条例」、「城鎮集団所有制企業条例」、「私営企業暫定条例」のほか、「中外合資経営(合弁)企業法」、「中外合作経営企業法」及び「外資(外商独資)企業法」等が挙げられる。

 上記の各種企業法と会社法との適用関係は以下のとおりである。

 会社法上の会社形態に未だ転換していない各種企業については、それぞれの企業類型に即した法律が適用され、これらの企業が会社法上の会社形態に転換した場合は、会社法が適用される。但し、会社法と外国投資関連法(いわゆる「三資企業」に関する外商投資企業法のほか、外商投資株式会社や外商投資パートナーシップ企業に関する法律法規を含む。以下、「三資企業」に関する外商投資企業法を「外資三法」という。)との適用関係で、外国投資関連法に別段の定めがある場合は、その規定に従う。すなわち、「一般法と特別法の原則(特別法は一般法に優先して適用される)」である。

 外資三法の立法は、中国における企業法の立法作業再開の第一歩であった。これは、1956年からおよそ23年間にわたって停滞していた企業法の立法作業が外資三法の制定を契機に再開されたことを意味するものであった。このように、企業法立法の初期から、外資三法は中国における企業法立法において独立した内容を構成していた。

 外資三法は1979年以降の経済改革の初期に制定され、その後、中国のWTOへの加盟のために、2000年及び2001年に改正が行われた。一般法となる会社法は1994年から施行され、それがまた2005年10月に大幅に改正されたため、本来優先適用されるべき特別法(外資三法)が、「前法と後法の原則(後法が前法に優先して適用される)」により劣後されるべき前法に当たるといった事態が生じ、実務上、混乱が生じた。これについては、国家工商行政管理総局等国務院の各部門から一連の解釈通知が公布され、調整の役割を果たしている。

 上記のように、会社法と外資三法との調整が立法上の重要な課題として現存していたため、特に2005年の会社法改正以来、外資三法の改正に関する議論が活発化してきた。2013年12月9日、中国商務部から「三資企業」に関する外商投資企業法の改正案に関する意見募集通知が発表されており、同月には、全国人大常務委員会が会社法改正を再度行い、会社設立の敷居を下げ、投資者の負担を軽減し、会社参入の利便を図っている。また、中国商務部は、「第十二期全国人大常務委員会立法計画」及び「国務院2014年度立法作業計画」に基づいて、外資三法の改正作業を開始した。これらの背景や経緯が、今回公布された「中華人民共和国外国投資法(草案意見募集稿)」に繋がったものといえる。

Ⅱ 外国投資法(草案意見募集稿)の主旨

 中国商務部のスポークスマンの話によれば、改革開放政策実行の初期に制定した外資三法は、中国の外資利用に関する基本法として、改革開放政策を実行する上で大変重要な役割を果たしてきた。しかしながら、現行の外資三法は今般の国内外の経済情勢変化に伴い、以下の理由により「全面的に改革を推し進め、さらに開放を拡大する」といった政策のニーズに既に応えられなくなってきているということである。

一、外資三法で確立した逐一許認可管理制度は、開放型経済新体制のニーズに既に応えられなくなって来ており、市場の活性化と政府機能の転換に不利である。
二、外資三法における企業組織の形態、経営活動などに関する規定は、会社法など関連法律の規定との間で重複や矛盾が存在している。
三、外資によるM&A、国家安全審査などの重要な制度については、外国投資に関する基本法においてこれらの制度を取り入れ、さらに完備する必要がある。

 従って、外資三法を一つに合併し、一部の統一した「外国投資法」を制定・公布することで、中国の経済体制改革をさらに推し進め、対外開放の更なる拡大、外国投資の促進及び外資管理の規範化を図るそうだ。

 意見募集稿説明によれば、「外国投資法」の起草作業の中で、以下の四つの原則を堅持している。

一、「外国投資法」を、外国投資の統一的な管理及び促進を図る基本的な法律として位置づけ、企業の組織形態を規制対象とするやり方を廃棄すること。
二、外商投資における現行の逐一許認可制度を廃止し、参入前内国民待遇とネガティブリスト(負面清単)による外資管理モデルを採用し、外資への制限的措置を大幅に減らし、外資参入を緩和し、報告制度を強化すること。
三、三十年余りの外資管理経験を踏まえて、外資によるM&A、国家安全審査などの重要な制度については、「外国投資法」においてこれらの制度を定め、さらに完備すること。
四、事前の許認可制を重視するやり方から、公共サービスを提供し、事後的な監督管理(事中事後監管)を強化するやり方に変更し、行政許認可事項を大幅に廃止すると同時に、外国投資の促進と保護及び監督検査などの制度を完備すること。

Ⅲ 外国投資法(草案意見募集稿)の主な内容

 意見募集稿は計11章、170条からなり、総則、外国投資者と外国投資、参入管理、国家安全審査、情報報告、投資促進、投資保護、苦情調整処理(投訴協調処理)、監督検査、法律責任及び附則から構成される。主な内容は以下のとおりである。

1 外国投資者と外国投資の定義

 外国投資者については、登録地基準により外国投資者を定義すると同時に、「実質的支配」基準をも取り入れた。すなわち、外国投資者の支配を受ける中国国内企業を外国投資者とみなすほか、外国投資者が中国投資者による支配を受ける場合は、当該外国投資者による中国国内での投資を中国投資者による投資とみなすことを可能としている。

 外国投資とは、外国投資者が直接または間接的に行う投資活動を指すとされ、それには中国国内企業の設立のほか、M&A、中長期融資、自然資源調査・開発又はインフラ施設の建設・運営に関する特許権や不動産権利の取得、契約、信託などの方法により中国国内企業を支配すること、又は中国国内企業の権益(ここでいう権益とは、中国国内企業の持分、株式、財産の持分、議決権又はこれに類似する権益のことをいう。)を保有することが含まれる。

2 参入管理制度

 意見募集稿は、外資三法で確立された逐一許認可制度を廃止し、「参入前内国民待遇+ネガティブリスト管理」にふさわしい外資参入管理制度を導入している。外国投資主管当局は外国投資特別管理措置目録(外国投資を禁止又は制限する分野において特別管理措置目録に基づく管理を実施する)で列記した分野内の投資についてのみ参入許可を適用し、審査対象は契約や定款ではなく、外国投資者及びその投資行為であるとした。外国投資者は、特別管理措置目録で列記した分野外の投資に関しては、外国投資参入許可を申請する必要がない。但し、外国投資者は中国国内で投資する場合、特別管理措置目録内外を区分することなく、報告義務を履行する必要がある。

3 国家安全審査制度

 意見募集稿は、外国投資が国家安全にもたらす、又はもたらし得る危害を防止するために、「国家安全審査」という章を設けた。国務院が2011年2月に公布した「外国投資者による国内企業買収に対する安全審査制度の確立に関する通知」を踏まえ、かつ他国の関連制度を十分に参照した上で、国家安全審査制度を意見募集稿に取り入れたとのことである。

 意見募集稿は、国家安全審査の審査要素、審査手続を詳細に定め、国家安全面の危険を消去するために取るべき措置などの内容を明確にしており、また、国家安全審査決定については行政不服審査と行政訴訟を提起してはならないとする。

4 情報報告制度

 外国投資の状況と外国投資企業の運営状況を適時、正確かつ全面的に把握するために、意見募集稿は外国投資情報報告制度を定めている。外国投資者又は外国投資企業はその投資経営行為について、特別管理措置目録で列記した分野の内外を区分することなく、外国投資主管当局に対し情報報告義務を履行しなければならないとされる。意見募集稿は報告の3パターンを明確にし、これには外国投資事項報告、外国投資事項変更報告及び定期報告が含まれる。報告内容は真実で、正しく、完全なもので、虚偽記載、ミスリードのある陳述、重大な遺漏があってはならないことが義務づけられている。

5 投資促進制度と投資保護制度

 意見募集稿は、より優れた投資促進体制を確立し、外資利用の質と水準を引き上げるために、投資促進政策、投資促進機構、特殊経済区域など、投資促進作業に関する規定を設けている。また、徴収、徴用、国家賠償、知的財産権保護などの規定を設けて外国投資者及びその投資の保護体制を一段と強化している。

6 苦情調整処理制度

 意見募集稿は苦情調整処理制度を定め、外国投資苦情調整処理機構に対し、外国投資者、外国投資企業と行政機関との間の投資紛争に関する調整及び処理機能を与えている。同制度は行政不服審査や行政訴訟などの紛争解決方法を排除しているわけではなく、行政機関との間の投資紛争解決手段を創設した点で評価できる。

7 監督検査制度と法律責任

 市場参入を拡大、行政許認可事項を減らして事後的な監督管理を強化することは、政府機能の転換における最大のポイントとされる。そこで、意見募集稿は監督検査の開始、検査方法、検査内容と検査結果などの内容について詳細に定めている。また、外国投資者の信用記録システムの確立を通じて、外国投資者、外国投資企業の自律意識を高めようとしている。

 なお、意見募集稿は同法を違反した場合に負うべき行政法律責任と刑事法律責任を定めている。

8 VIEスキーム(協議控制)の処理

 意見募集稿は、外国投資企業がVIEスキームによって中国国内企業の支配権を取得することについて、これを規制対象としている。ここでいうVIEスキームは、かつて外国資本の進出が禁止又は制限されている中国の産業分野への投資手段として、かかる規制回避のために使用されていたストラクチャーのことであるが、外国投資法が施行された後は、関連規制を回避するための投資スキームを用いることは許されないことになる。

 外国投資法が施行される前に既存しているVIEスキームによる外国投資が、同法が施行された後も外国投資を禁止・制限する分野に該当する場合の処理方法について、意見募集稿説明は現段階で以下に掲げる観点があるとし、今回の意見募集を踏まえて最終的な処理意見を出すとしている。

一、VIEスキームを用いた外国投資企業が、それが中国投資者による実質的な支配を受けていると国務院の外国投資主管当局に申告した場合、当該スキームによる支配メカニズムをそのまま残して、経営活動を継続して展開することが許されるべきである。
二、VIEスキームを用いた外国投資企業は、国務院の外国投資主管当局に対し、それが中国投資者による実質的な支配を受けていると認定するよう申請しなければならない。外国投資企業が中国投資者による実質的な支配を受けていると国務院の外国投資主管当局が認定した場合に限り、当該スキームによる支配メカニズムをそのまま残して、経営活動を継続して展開することが許されるべきである。
三、VIEスキームを用いた外国投資企業は、国務院の外国投資主管当局に対し、参入許可を申請しなければならない。国務院の外国投資主管当局は関連部門と合同で外国投資企業の実質的支配者などの要素を総合的に考慮した上で決定を下すべきである。

Ⅳ おわりに

 意見募集稿は、逐一許認可制度を廃止して、特別管理措置目録による新たな許可制度を構築し、大部分の投資分野において外資が参入しやすい体制を整備した点で評価すべきである。また、外国投資法の制定により、外国投資関連法と会社法との適用関係が簡明になり、外国投資を規制する法律環境がより透明性を備えたものとなった点にも大きな意義がある。しかしながら、会社法、外国投資法などの基本法との関係で、外商投資企業に関する数多い部門規則(国務院の各部門が制定・公布した法規)等の整理・統合作業が重要な課題として残っているのも事実である。

 1978年以降、中国が改革開放という名の近代化政策を決定してから、既に40年近く経っており、中国の外資利用は新たな局面に突入した。この意味で、意見募集稿は依然として国家経済政策にコミットした「経済促進法」としての基本的性格を有しているといえよう。上記のように、外資参入規制を緩和することにより外国企業の新規参入を増やすことが意見募集稿の一つの主旨ではあるが、中国政府にとってもう一つの狙いは、より効率性と透明性を備えた中国市場で力をつけた中国企業の海外進出を後押しすることであろう。