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【16-005】中国刑法修正案(9)における贈収賄・汚職犯罪の改正内容

2016年 4月 4日

柳 陽(Liu Yang):中国弁護士

略歴

現在、長島・大野・常松法律事務所所属。北京大学・慶應義塾大学法学修士。日本企業の対中投資と貿易、M&A(合併と買収)、知的財産、労務等、対中ビジネスに関する法務全般を取り扱う。講演、執筆も多数。 

 2015年8月29日、中国の立法機関である全国人民代表大会常務委員会は、中国刑法修正案(9)を可決し、同法は同年11月1日より施行された(以下「本改正法」という)。

 本改正法は全52条からなり、個人情報保護に関する罪の適用対象を拡大した点や、死刑が適用される犯罪の数が減少した点等、数多くの改正を行っている。その中でも、特に贈収賄・汚職犯罪の分野において大きな改正が行われている。

 すなわち、本改正法のうち贈収賄・汚職犯罪に関しては、(1)国の職員の近親族又は当該職員と密接な関係にあるその他の者に対して贈賄する罪を新設したこと、(2)適用される刑罰について、従来の刑罰の他に、罰金刑を追加したこと、(3)贈賄した者が刑罰を免れる要件を厳格化したこと、(4)汚職犯罪の訴追に係る量刑基準について、従来は、具体的な金額に対応して訴追に係る量刑基準が定められていたが、これを改め、汚職金額が「比較的大きい」、「大きい」、「特に大きい」といった判断裁量のある量刑基準に変更したこと等の改正がなされた。

 以下、本改正法における贈収賄・汚職犯罪の改正内容を、新旧刑法の条文を比較する形で紹介することとする。

新旧刑法条文の比較
旧刑法 本改正法
第164条(国の職員でない者に対する贈賄罪)
不正な利益を取得するため、会社、企業又はその他の単位の職員に財物を与え、その金額が比較的大きい者は、3年以下の有期懲役又は拘役に処する。金額が巨額である場合には、3年以上10年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。
…(以下略)
不正な利益を取得するため、会社、企業又はその他の単位の職員に財物を与え、その金額が比較的大きい者は、3年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科する。金額が巨額である場合には、3年以上10年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。
…(以下略)
第383条(汚職罪の処罰)
汚職罪を犯した者は、情状の軽重に応じて、夫々次の各号に掲げる規定により処罰する。
  1. 個人の汚職金額が10万元以上である場合には、10年以上の有期懲役又は無期懲役に処するものとし、財産没収を併科することができる。情状が特に重い場合には、死刑に処し、財産没収を併科する。
  2. 個人の汚職金額が5万元以上10万元未満である場合には、5年以上の有期懲役に処するものとし、財産没収を併科することができる。情状が特に重い場合には、無期懲役に処し、財産没収を併科する。
  3. 個人の汚職金額が5000元以上5万元未満である場合には、1年以上7年以下の有期懲役に処する。情状が特に重い場合には、7年以上10年以下の有期懲役に処する。個人の汚職金額が5000元以上1万元未満であり、罪を犯した後に改悛の態度があり、積極的に盗品等を返還した場合には、処罰を軽減し、又は刑事処罰を免除することができ、その所在単位又は上級主管機関が行政処分をする。
  4. 個人の汚職金額が5000元未満であり、情状が比較的重い場合には、2年以下の有期懲役又は拘役に処する。情状が比較的軽い場合には、その所在単位又は上級主管機関が事情を考慮して行政処分をする。
多数回に亘り汚職し処理を経ていない場合には、累計汚職金額に従い処罰する。
汚職罪を犯した者は、情状の軽重に応じて、夫々次の各号に掲げる規定により処罰する。
  1. 汚職金額が比較的大きい又は情状が比較的重い場合には、3年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科する。
  2. 汚職金額が巨額であり又は情状が重い場合には、3年以上10年以下の有期懲役に処し、罰金又は財産没収を併科する。
  3. 汚職金額が特に巨額であり又はその情状が特に重い場合には、10年以上の有期懲役又は無期懲役に処し、罰金又は財産没収を併科する。金額が特に巨額であり、かつ、国及び人民の利益に特に重大な損失を被らせた場合には、無期懲役又は死刑に処し、財産没収を併科する。
多数回に亘り汚職し処理を経ていない場合には、累計汚職金額に従い処罰する。 第1項の罪を犯し、公訴提起前に自己の罪状を正直に供述し、真摯に罪を悔悟し、犯罪に用いられた財物を積極的に返却し、損害結果の発生を減少させ、第1号に定められた情状がある場合には、軽い量刑基準に従い処罰し、処罰を減軽し又は免除することができる。第2号、第3号に定められた情状がある場合には、軽い量刑基準に従い処罰することができる。 第1項の罪を犯し、第3号に定められた情状があり執行猶予付き死刑判決を処された場合には、人民法院は犯罪情状等の状況を踏まえ、執行猶予付き死刑判決から二年の期間満了後に法に従い無期懲役に減刑された後、終身監禁にした上で、併せて、減刑、保釈してはならない旨を決定することができる。
第390条(贈賄罪の処罰)
贈賄罪を犯した者は、5年以下の有期懲役又は拘役に処する。贈賄により不正な利益をはかり、情状が重い場合、又は国の利益に重大な損害を被らせた場合には、5年以上10年以下の有期懲役に処する。情状が特に重い場合には、10年以上の有期懲役又は無期懲役に処するものとし、財産没収を併科することができる。
贈賄者が、訴追前に自ら贈賄行為を自白した場合には、処罰を減軽し、又は処罰を免除することができる。
贈賄罪を犯した者は、5年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科する。贈賄により不正な利益をはかり、情状が重い場合、又は国の利益に重大な損害を被らせた場合には、5年以上10年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。情状が特に重い場合、又は国の利益に特に重大な損害を被らせた場合には、10年以上の有期懲役又は無期懲役に処するものとし、罰金又は財産没収を併科する
贈賄者が、訴追前に自ら贈賄行為を自白した場合には、軽い量刑基準に従い処罰し、又は処罰を減軽することができる。そのうちの犯罪が比較的軽い場合、重大案件の検挙に対し重要な役割を果たした場合、又は重大な功績を上げた場合には、処罰を減軽し、又は処罰を免除することができる。
第391条の1(新設)
  「不正な利益をはかるために、国の職員の近親族若しくはその職員と密接な関係にあるその他の者、又は離職した国の職員若しくはその近親族及び密接な関係にあるその他の者に贈賄した場合には、3年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科する。情状が重い場合、又は国の利益に重大な損害を被らせた場合には、3年以上7年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。情状が特に重い場合、又は国の利益に特に重大な損害を被らせた場合には、7年以上10年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。
単位が前項の罪を犯した場合には、単位に罰金を科し、かつその直接に責任を負う主管者及びその他の直接責任者に3年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科する。」
第391条(単位に対する贈賄罪)
不正な利益をはかるために、国家機関、国有の会社、企業、事業単位、人民団体に財物を供与した者、又は経済取引において国の規定に違反し、各種名義のリベート若しくは手数料を供与した者は、3年以下の有期懲役又は拘役に処する。
…(以下略)
不正な利益をはかるために、国家機関、国有の会社、企業、事業単位、人民団体に財物を供与した者、又は経済取引において国の規定に違反し、各種名義のリベート若しくは手数料を供与した者は、3年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科する
…(以下略)
第392条(斡旋贈収賄罪)  
国の職員に対して賄賂を斡旋し、情状が重い者は、3年以下の有期懲役又は拘役に処する。
…(以下略)
国の職員に対して賄賂を斡旋し、情状が重い者は、3年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科する。
…(以下略)
第393条(単位贈賄罪)  
単位が不正な利益を得るために贈賄し、又は国の規定に違反し、国の職員に対してリベート若しくは手数料を供与し、情状が重い場合には、単位に罰金を科し、かつその直接に責任を負う主管者及びその他の直接責任者に5年以下の有期懲役又は拘役に処する。…(以下略) 単位が不正な利益を得るために贈賄し、又は国の規定に違反し、国の職員に対してリベート若しくは手数料を供与し、情状が重い場合には、単位に罰金を科し、かつその直接に責任を負う主管者及びその他の直接責任者に5年以下の有期懲役又は拘役に処し、罰金を併科する。…(以下略)

 現在の習近平政権下では、贈賄罪・汚職罪に対する取締りを強化しており、本改正法も係る方針に則したものと理解することができる。すなわち、本改正法のうち、国の職員の近親族又は当該職員と密接な関係にあるその他の者に対して贈賄する罪を新設したこと(前記(1)、贈賄した者が刑罰を免れる要件を厳格化したこと(前記(3)、汚職犯罪の訴追に係る量刑基準を判断裁量のある量刑基準に変更したこと(前記(4)は、当局の裁量を拡大するものといえ、適用される刑罰に罰金刑が追加されたこと(前記(2)についても、罰金がどの程度の金額になるかが見通せない以上、企業等に対し懲罰的に多額の罰金が科されることに繋がる可能性も否定できない。本改正法施行後の実務には、引き続き注意が必要である。

以上


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