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【16-010】中国における外資100%の企業に対しICPライセンスを付与した第1号案件―新通達と実務上の影響

2016年 7月 1日

伊藤 ひなた(Ito Hinata)

 中国弁護士、アクトチャイナ(株)代表取締役社長。北京大学卒。長年、日本及び中国を拠点として、日本企業の中国進出・事業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、労務紛争などの業務を取り扱っている。2 011年に中国ビジネス法務を専門とするアクトチャイナ(株)を設立し、現在に至る(会社ウェブサイト http://www.actchina.co.jp)。

1.外国出資比率が100%の外商投資企業に対しICPライセンスを付与した第1号案件

 2016年5月、オンラインデータ処理及び取引処理業務(経営類eコマース)に係る増値電信業務経営許可証(Internet Content Providerライセンス、以下「ICPライセンス」という。)が、初めて、外国出資比率が100%の外商投資企業に対して発行された事例が公表され、いわゆる第1号案件として注目を集めている。第1号案件になった企業は、湖南省に本社を置き、小売業を営む、日本企業が100%出資している外商投資企業であり(以下、この第1号案件となった外商投資企業を「H社」とする。)、同社が取得したICPライセンスはオンラインデータ処理及び取引処理業務(経営類eコマース)に関するものである。

 H社の公式ウェブサイトによれば、H社は、伝統的な百貨店小売業務を主力業務とする企業であり、ICPライセンスを取得する前に、H社は既に自社のウェブサイトを利用して自社製品の販売を行っている(なお、ICPライセンスがない状態でも、当局へ届出を済ませておけば自社のウェブサイトを利用して自社製品を宣伝し販売することは可能である。)。H社は、ICPライセンスを取得したことにより、更に他社のためにネット販売のプラットフォームを提供することができるようになり、今後、中国国内における業務を更に拡大していくことが期待できる。

 従来、H社のような外国出資比率が100%の外商投資企業に対しては、ICPライセンスの発行は行わないこととされていた。しかし、2015年6月19日、中国工業情報化部が「オンラインデータ処理及び取引処理業務(経営類eコマース)外国出資比率制限に関する通知」(工信部通[2015]196号)(以下「新通達」という。)を公表したことにより、かかる要件は緩和されている。本稿においては、H社の事例を踏まえ、新通達による、ICPライセンスに関する要件が緩和されたことについて紹介したい。

2.増値電信業務経営許可証(ICPライセンス)に関する新通達について

 中国に進出している日系企業のうち、自社のウェブサイトを利用して自社製品を宣伝し販売する企業は複数ある。このような企業が、自社製品の宣伝・販売(前述のとおり、自社製品の宣伝・販売の場合は届出のみで足るものとされている。)を超えて、自社のウェブサイトを幅広い目的で利用するためには、当該企業は、中国工業情報化部又はその支部からICPライセンスを取得しなければならないこととされている(「外商投資電信企業管理規定」第11条以下)。例えば、企業が、日本における楽天市場やAmazon.co.jpのように、ウェブサイトを他社が宣伝・販売を行うプラットフォームとして提供するためには、ICPライセンスのうち、オンラインデータ処理及び取引処理業務に係るライセンス(経営類eコマース)の取得が必要となる。

 従前より、中国では、ICPライセンスを取得することができる企業は、中国国内資本企業又は外国出資比率が50%以内に留まる外商投資企業に限定されており、外国出資比率が100%の外商投資企業はICPライセンスを取得することができなかった(「外商投資電信企業管理規定」第6条)。しかしながら、新通達により、上述のオンラインデータ処理及び取引処理業務に係るライセンスについては、上述の外国出資比率の制限を緩和し、外国出資比率が100%の外商投資企業も、当該ライセンスを取得することができるようになった。

 なお、上海自由貿易試験区では、同試験区においてのみ適用される特別法が多数あり、同試験区における外商投資企業に対する規制は、他の地域に比べると緩和されたものとなっており、ICPライセンスを付与する外資比率制限の要件も緩和されている。上海市通信監理局は、上記1.で紹介した第1号案件に先立ち、2015年には、「中国(上海)自由貿易試験区外商投資経営増値電信業務試点管理弁法」(工信部通[2014]130号通知)及び196号通知に基づき、上海自由貿易試験区に所在する外国出資比率が100%の外商投資企業2社に対し、オンラインデータ処理及び取引処理業務に係るICPライセンスを授与している。

3.今後の展望

 上記1.で紹介した第1号案件以降、外国出資比率が100%を占める外商投資企業を含む多数の外商投資企業が、新通達に基づきICPライセンスを取得することになることが予想されており、外商投資企業の参入により、中国のeコマース市場における競争が激化することが見込まれている。

 その一方で、ICPライセンスに関する従前の実務を踏まえれば、中国工業情報化部が、ICPライセンスを付与する企業数に上限を設ける可能性も否定することができない。ICPライセンスに関しては、申請から取得までに比較的時間を要することで知られているため、仮に、外国出資比率が100%を占める外商投資企業がICPライセンスを取得することを検討している場合、可能な限り早く申請手続を進めるよう検討するべきである。なお、日本企業にとっては、従前のように、中国企業と合弁企業を設立するスキームを採ったり、要件が比較的緩和されている上海自由貿易区において申請を行うことも選択肢として考えられる。

以上

伊藤ひなた氏 記事バックナンバー


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